第27話 宣戦布告

 ポンッと肩に手を置かれる、ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには風紀員長が立っている。


「やぁやぁクロ、これから大変になるから覚悟してな」


 いきなり脅しを掛けてきた。これまでの間も大変だった。

 それなのにまだこれ以上、大変な事が起きるとか泣ける。

 だとしても受け入れるしかない、ユウナさんの実績の為にも、ボクが動かないといけない。

 理事長が言ってた、新たな試みの魔導戦はよく分からない。

 ただ、それはきっと大事な事なのは何となく分かる。


「それでも少しは余裕ができるだろう」

「どういう事ですか?」


 風紀員長の言葉の意味が、分からなかった為、問うと、分かりやすく教えてくれた。


「簡単にいうと、今は魔導戦の間の準備期間。我々風紀員も出るし、わっちも勿論出る」

「それ勝負にならないでしょ?」


 冗談混じりの軽口を叩くと、風紀員長は少し、考える素振りをしてから、次に不適な笑みを浮かべる。

 急に背筋が凍るような感覚が襲ってくる。

 自然とボクは身構える。突拍子もない発言が来ると予感ができたから。

 予感は見事に当たる。


「クロ、君がいる。期待しているよ」


 肩をバンバンと叩かれる。痛い、軽く肩をさすると、大袈裟だなと風紀員長は言う。

 何処だだよと思いながらも、風紀員長との戦闘を想像する。

 結果としてはボクのボロ負け、たかが想像だけでもこの人は強い。

 まだ実力が分からず、未知数、だからこそ勝てる気がしない。


「まぁ冗談はさて置き、君には期待している。せいぜい準優勝くらいはしてね~」

「優勝する気満々すか」

「まぁね、わっち前年度覇者だからさ」


 この時のボクは言葉の重さを、まだ分かっていなかった。

 後々知る事になる、風紀員長──アルトリアという魔法師の実力。

 風紀員長は颯爽と何処かに消えていく。

 さてボクはどうした物か、準備期間と言われてもピンっとこない。

 誰かに聞くのが得策、風紀員長は去っていたし、ユウナさんは何処にいるか分からない。

 うーん、どうした物か、頭を悩ませていると、突如に閃く。


「あっそうだ、あのピンク髪の女性に聞けばいい!」


 よし決まったし即行動。

 トコトコっと足音がする、一人ではなく複数人。

 その足音は明らかに、こちらへ近付いてくる。

 それが分かった為、ボクはその場に踏み止まる。

 足音の方に体を向ける、すると、見覚えがある男が一人いる。

 両横には手下のような二人がいる、白を基調とした制服を着こなしている。


「こんな所で何をしているんだい? 新米風紀員」


 一々かんに触る言い方だ。

 両横の手下はクスクスと笑っていた。

 こいつら一体何しに来た? ボクは少し周りを見渡すと。

 今、この広い空間にはボクらしかいない。

 風紀員たちも生徒、教員すらいない。

 この今の状態をわざわざ狙っていたのか? 流石は策士だなフォスト。


「お前らこそ何をしている? 早くクラスに戻ったらどうだい?」

「てめぇ誰に口を聞いてる!」

「我々は黒虎だぞ!」


 このくらいで威張るとか、黒虎も底がしれているな。

 一々こいつらに構う必要もない、横を通り過ぎろうとした。

 急に押された、危うく転びかける所だった。

 何がしたいこいつ? と、押した方を見るとニヤニヤしていた。


「何がしたい? 喧嘩でもする気?」

「いいねぇ! やろうぜ」


 ボクの一言に乗るように、拳を一閃してきた。

 上体を反らし躱す、すぐさまに横に移動し、左拳で一閃する。

 ボクを押した男の腹に突き刺さる。

 男は腹を抑え、悶絶し倒れる。


「さっきに手を出したのはそっちだからな」

「流石は強いね魔人殺しの執事」


 フォストの何気ない一言、ボクは自然と拳を強く握っていた。

 魔人が襲撃した噂が、流れていたのは知っていた。

 だけど、ボクが魔人を殺した事は知っている人間は少ない筈。

 何処でこいつ知った? そして今、何故この話題を出す? 一種の宣戦布告とも感じ取れる。

 フォストはボクの眼前にまで近寄り、胸に軽くトンッと叩く。


「魔導戦に出るんだろう? せいぜい頑張れよ。落ちこぼれの執事!」


 ハハッ、ボクの事を悪く言うならば、まだしも、ユウナさんの事を悪く言いやがった。

 流石にもう我慢の限界だ。

 ボクは殴る態勢を取ると、横に居た手下が近付いて来る。

 自分のボスを守ろうってか、その意気はいい物だ。

 でも今はうざったい! ボクは右手を伸ばし、手下の方に手を向ける。

 右腕に魔力を込め、無詠唱で火球を出す。

 火球は容赦なく、男を燃やす、男は叫びながらその場に倒れ込む。

 炎は消える様子はなく、ひたすらに燃えている。


「次は僕が相手だな!」


 フォストとボクはお互い睨み合う。

 少しづづ、距離を取る、無造作に魔法を出すのも一つの手。

 だが相手はあのフォスト、一手や二手先を考えるだろう。

 考えなしに魔法を放つのは得策ではない。

 どうにしかして、フォストに先手を打たせる。

 雷魔法は滅多に拝む事ができない、その為、どんな範囲で威力か分からない。

 対策をしようもない、だから敢えて、先手を打たせる。

 明らか様に隙を作ってはいけない、フォストの噂が本当であれば、少しの事で勘付く。

 ボクたちがいる所は無駄に広い空間だ、折角だ! この広さをフルに活用させて貰う。


「そんな距離を離すなよ!」


 痺れを切らしたのか、フォストは手を振り、魔法を放つ。

 全く魔法は見えない、それでも魔力の流れで放った事が分かる。

 弾く事は難しい! それでも魔力の流れ、軌道を少しだけ把握した。

 体勢を低くし、空間を走り回る。決して集中攻撃はさせない!


「チッ! ちょこまっかと!!」


 だんだんとフォストの魔法が雑になっていく、それと同時に轟音が鳴り響く。

 当たったら一溜りもないだろう。

 魔法は床に直撃し、煙が生まれた、ボクは煙に紛れ込み、背後に立つ。

 これで終わりだ。腕を振り上げ、殴打一閃しようとした時、ボクとフォストの間に、一つの剣が入り込む。


「はいそこまで、こんな所で大暴れしやがってバカ物が!」


 声をする方を見ると、呆れ顔をした風紀員長がいる。

 まずいな、いつからか分からないが見られていた。


「この勝負はわっちが貰う。付けたいならば魔導戦で戦いな!」

「おいくそ執事! 魔導戦で決着を着ける。最後に勝つのはこの僕だ!」


 フォストはそう言い切ると、颯爽と帰っていく。

 完全なる宣戦布告をされてしまった。

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