第26話 新たな試み

 風紀員長の号令から数分で、他の風紀員が集まる。

 理事長は集まるなり、何かを唱え始めた。

 決して聞き取れない言葉、普通の魔法の詠唱とは何か違う。

 理事長と風紀員を覆うように、円の結界が生まれる。

 ボクらは円の外にいる、何故か風紀員長も円の外にいる。

 ボクとユウナさんは隣合わせに座らせている。


「なんで貴女もここにいるんですか」

「なんか酷くない? 君のその本について教えようと思ってるんだけど」


 そういえば風紀員長は、何か知っている様子だった。

 ここは素直に話しを、聞いといた方が得だろう。


「何か知っているんですか?」

「知っているも何もそれ、リステリに封印されていた代物だよ。どうやって入手した?」


 封印? えっ? 確かに鎖に巻かれているから納得はできる。

 しかしこの本、ボクが見つけた時って、客室の机にポンッと置いて合った。

 特に執事長もユウナさんも言って来なかった。

 ユウナさんはポカーンとしている、その様子にボクも風紀員長も驚いた。


「ちょっと待て!? なんでユウナが不思議そうにしているんだよ!」

「え? 私始めて聞いたし見た。封印されている物があるなんて」


 風紀員長は深く溜め息を吐き、頭を抑え、しゃがみ込む。呻き声を発しており少し怖い。

 少しすると急に立ち上がる。ボクらに指を差し怒鳴る。


「今から言う事! しっかり聞いてなさい!」


 風紀員長は興奮気味に言う。ボクとユウナさんは返事をしなかった。

 どちらかっていうと、ボクは無になっていた。


「その黒い本は通称魔法師殺し。その魔導書を手に持った物は全員。魔導書の魔力に蝕まれ死に至る。あの魔帝でさえ扱えきれなかった」

「魔帝でも!? なんでそんな代物が家に……?」

「魔帝は本を禁書扱いにし、ある名前を付けて封印をした」

「……──ヴァニタス」

「!! 正解だ。ヴァニタス。その名前を付けて封印した。よく知っていたね」


 別に知っていた訳ではない。ただあの時、黒い本に触れた時ビジョンが流れた。それと同時に一つの名前が頭に流れてきた。

 ヴァニタスと、聞いた事もない筈なのに妙に体に馴染む。


「リステリには魔帝を伝承すると同時に、禁書も封印した。地下の禁断書庫に封印されていた筈──これを本家のお前が、知らないのは問題だぞ」


 確かに風紀員長の話しを聞いていると、ユウナさんが知ってないと可笑しい。

 その事実にユウナさんは顔を伏せる。

 少し可哀想と思ったが、これも次期当主の為だ、ボクはじっと風紀員長を見る。


「今君がそれを何処で手に入れたのかは聞かない。今から大事な会議が始まる」


 そう言い残すと、風紀員長はの円の中に入ってく。

 今現状、ボクとユウナさんしかいない。正確には円の中にはいる。

 気まずい空気が流れ始めている、さっきまで風紀員長がいた。

 少しは場の空気が緩和されたが、今ボクらは隣同士。

 喋る事もなく、重たい空気と時が流れる。

 スゥー、空気が重た過ぎる。何か話した方がいい! でも話題性が全く思い付かない。

 頭を悩ませていると、ユウナさんが口を開く。


「ごめんね私のせいで。君の手を汚させてしまって」

「気にしてないです。ユウナさんを守れましたから」


 少し嘘を吐いた、ユウナさんを守れた事に対しては本当。でも、魔人を殺した事を気にしてないのは嘘。

 未だにボクは気に掛けている、魔剣で刺した時の感覚、血の臭いを覚えている。

 もしこの場にユウナさんがいなかったら、ボクはきっと嘔吐をしているだろう。

 そのくらい吐き気が凄い、胸くそが悪い。

 ボクは本来、戦いには向いてないのかもしれない。

 戦争とかが起き、もしボクが戦う事になってもきっと人を殺せない。

 そもそも殺生があまり好きではない。


「クロ君が助けに来てくれた時、安心した。それと同時に恐怖も生まれた」

「恐怖? どうしてですか?」


 ボクの言葉にユウナさんは、優しい笑みを浮かべた。でも何処か悲しさを思わせる表情。

 すると、ユウナさんはボクの手を握り、綺麗な水色の瞳が真剣そうに見てくる。

 まるで透き通る水のように綺麗な目。


「君を失うような気がした。まだ出会ってそんなに日は経ってない! でも私は君を失いたくない」


 か細い声で言われる、その中でもしっかりと強い意志を感じ取れる。声音に力強さがある。

 ユウナさんの握る力が強くなった。

        

         ◇


 ……魔人襲撃から一日が経った。

 一夜の間に学園中には噂が広まっていた。

 赤玄のクラスは少しの間、移動する事になった。魔人襲撃でほぼ半壊になっていた。

 それにつけ加えるように、ボクとの戦闘で全壊した。

 今、修理中という話し、小耳に挟んだ事がある。理事長が風紀員長に責任を押し付け、修理をさせていると。


「よし昨日に続き、ここに集まって貰ってすまない」


 ボクたち──学園の生徒全員が、昨日集まっていた広い空間にいる。

 壇上には理事長が立っている。


「ここに集まって貰ったのは一つ。皆の耳に入ってると思うが、魔人が襲撃してきた」


 その言葉にザワザワとし始めた。


「それを我が学園が誇る、風紀員たちが撃退をしてくれた。感謝をすると同時に、我々は決めた」


 決めた? 何を? あの時、風紀員たちと喋ってた内容の事。

 それならば話しの辻褄が合う。一体何を話していたかボクは知らない。


「学園は新たな試みとして、学園恒例の魔導戦マナローグギアを学年、クラス関係なしとし開催する。期間についてはまた知らせる」

「あっそうだ付け足すね」


 理事長が言い終わり、壇上から降りると、次は風紀員長が上がり語った。


「今まで風紀員とか、前年度の覇者は参加しなかったけど今年は参加するよ」


 風紀員長は淡々と言い終わると、壇上から降りそそくさと消えていった。

 他の生徒は驚愕の嵐で結構うるさい。

 あの人、言いたい事だけ言って消えたなと、思いつつ、噂に合った修理が実は本当なのではとも思い始めた。

 騒がしい生徒を教員と、風紀員が静まらせ、それぞれのクラスに帰らせた。

 さぁてさぁてこれから一体どうなる物か。


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