第24話 不穏な影
「ねぇアルトリア」
「なんだリリィ?」
考え事をしている時、風紀員の仲間であり幼馴染のリリィに話しかけられた。
何を言いたいのか、その少し悲しそうな表情で分かる。
リリィとは長い付き合いの為、表情だけで大体考えている事が理解できる。
「あんまりクロの事虐めちゃダメだよ?」
「あ? あぁ、そういえばリリィはクロみたいな子がタイプだもんね」
「いや、え、別にタイプじゃないよ?」
リリィは分かりやすく動揺をした。
相変わらずこいつ分かりやすい、だからこそ扱いやすい。
「クロはほらあれじゃん。なんか守ってあげたくなるってか、小動物みたいじゃん」
「それに美少年ってか」
わっちの言葉にリリィは食い気味に、首を縦に振る。
その姿を見て、わっちは少し引いてしまった。
人のタイプにとやかく言う趣味はないが、リリィはたまに暴走気味になるから怖い。
クロは確かに顔立ちは整っているし、愛されキャラだろう。
だとしても守ってあげたい小動物。それだけは断固として違う。
あれは獰猛の大型犬だ、自分でも言うのもあれだが、わっちはソロモンではトップクラス。
それでもクロは、自分の意志を貫き通す程の精神力。その原動力はユウナ。
彼はユウナに忠誠を誓っていと同時に、心酔をしている。
「……そろそろワタシたちも現場に向かう?」
「あぁそうだな。クロがいるとはいえ、魔剣持ちの魔人はきついだろうねー」
クロのポテンシャルは高い、魔人を倒せるとは思う。それでも彼はまだ覚醒をしてない。
よくて引き分け、悪くて悪戦苦闘といった所。
まぁそれは現場を見てのお楽しみにしよう。
「それにしても汚いね。この部屋」
リリィは呆れながら部屋を見て言う。それにわっちは苦笑いをする。
確かに部屋は汚い。
薄暗い部屋の中に、魔道具が散らかっている。魔道具から魔力も充満する。
この部屋から出て、赤玄に行くのは非常に面倒くさい。
「リリィおいで、最短距離で向かうよ!」
リリィは近付き、わっちの腕の中に収まる。
するとわっちの鼻腔に、柑橘系のいい匂いが通る。
リリィは本当に女子力があるんだなぁ、わっちと違って、これでも一応女子なのに、クロに男と思われたのは未だに許せない。
「それじゃあ行くからね」
わっちは出窓を開け、リリィを抱えて飛び出す。それと同時に全身に魔力を込める。
無詠唱で魔法を唱える、わっちの足下にに風が生まれる。
風によって体が宙に浮き、上に運び出される。
そんな時、轟音やら、激しい物音が上からする。
どうやら激しくやっているみたいだ。
少し急ぐか、リリィを抱えている腕とは、反対の手を下に向ける。
わっちの体は加速し、あっという間に半壊している建物まで登った。
「やっとついた?」
「あぁ……ついたな」
リリィは下を向いている為、今の現状を分かっていない。
わっちは現場を見て驚きを隠せていない。
クロが魔剣を手にし、魔人の胸を突き刺し殺している。
ユウナは泣き、クロに抱き付いている。
この光景はあまりにも残酷過ぎる。
◇
「……様失礼します」
「一体何の用だ?」
「ご報告に参りました。ソロモンに放した魔人が討伐されました」
その言葉を聞き、手に持っていたグラスを握り潰してしまう。
暗い部屋の中、今は俺と知らせにきた部下しかいない。
部下は俺を見るなり怯えている。
「どうしたそんなに震えて?」
椅子から立ち上がり、部下を見下ろすと、分かりやすく体を震わせている。
どうやらこいつも潮時だな。
「お前、もういらない」
部下の頭を掴む、次の瞬間、暗闇の部屋に一つの光が灯される。
赤い色が灯されると共に、二人の人物がこっちに近付いてくる。
一人は筋骨隆々で半裸の変態。その変態が鎖で、拘束されている緑髪の少年を連れてくる。
「例の人物を連れてきましたよ」
「……まぁいいだろう。そいつを儀式の魔に連れて行け」
「我が主の仰せのままに」
半裸の変態は緑髪の少年を連れて行った。緑髪の少年は激しく抵抗したが、その抵抗は虚しく、無意味に過ぎない。
俺は部下の頭から手を離す。
「次はないと思え」
「御意!」
次の手を考えないといけない。
ソロモンの連中は思った以上に厄介だ。
あの出来損ない魔人。俺の剣を持っていて易々と討伐された? 必然的に魔剣が向こうに渡ったと考えよう。
あの魔剣が渡ってもそこまでの害はない。
あれを使いこなせる奴は早々いない。
問題は何処の誰に魔人が討たれたかだ。
アルトリアに討たれたならばまだいい、もし他の違う、誰かに討たれた場合。真っ先に消さないといけない。
「おい出来損ないの魔人を討った奴を調べろ」
「り、了解いたしました」
◇
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