第22話 魔人襲来

「その顔になっても可笑しくはないね」

「クロ、君に残って貰ったのはこれが理由。これは我々風紀員の間で取扱う」

「どうしてそんな重要な事をボクに?」


 風紀員長は何処からか白い本を出す。本を開き、見せてくる。

 その内容に思わず生唾を飲み込む。


「こんなのを見せてボクにどうしろと?」

「後々にはこの学園を出て貰う」

「……それは無理だ」


 ボクの言葉に風紀員長の目が鋭くなり、低い声で言われる。


「ダメだ、これは命令だ」

「あんたの命令を聞く義理はない。ボクはお嬢様以外の命令は聞かない」


 言い終わり様に席を立つと、ボクの体は動かない。

 まるで何かに縛られているようだ。

 風紀員長は手をかざしている、どうやら魔法で体の身動きができない。

 この程度の魔法ならば、簡単に解く事ができる。

 でも、それは今ここで風紀員長と、敵対すると同義だろう。

 ここで風紀員長とやるのは、死に行くのと一緒だ。


「座りたまえ。話しはまだ終わってない」

「えっとクロ、取り敢えず座って」


 ピンク髪の女性は気まずそうに、ボクを見ている。

 はぁー、従うように座る。


「君はこの学園にはいない方がいい。それはユウナの為にもだ」

「ボクが魔帝の可能性だから?」

「あぁそうだ。もしその可能性が確信に変わった場合、君はお尋ね物だ」


 魔帝、魔帝ってそんなに大事か? ボクは魔帝ではない。

 ただのクロだ、それを学園のトップクラスに、騒がれている。

 本当に色々と腹立たしい。尚更この人たちの言う事を聞きたくない。

 ──時間は経ち、ボクらは未だに対面をしている。

 ボクと風紀員長はだんだん、お互いを睨むように凝視している。

 時々、ピンク髪の女性が声を掛けてくれたが、もう掛けてくる事がない。

 何ならば、何処か遠い所を見つめている。

 もう特にお互い話す事はない筈、それでも何かしらの意地で、離れようとはしない。

 ピンク髪の女性には、申し訳がないと思っている。

 ピッピッという音が部屋に響く。


『こちら赤玄クラス付近。問題発生!』


 風紀員長の表情が険しくなり、低い声のトーンで喋る。


「一体何が合った?」

『魔剣持った魔人が出現! 至急応援を頼む』


 そこで音──声が途切れた。風紀員長は立ち上がり、歩を進めた。

 ボクはいつの間にか、風紀員長たちよりさっきに部屋を出ていた。

 体が勝手に動く、あの声がもし本当ならば、ユウナさんが危ない! ボクは急いで向かう。

 次の瞬間、ボクの耳元に甲高い声が響く。『止まれ!!』耳がキーンとした為、その場に立ち止まる。


『赤玄の場所、分からないのに飛び出すな!』


 最初この声が誰か分からなかった。けれど、この少し高い声、ピンク髪の女性だと分かった。


『ワタシの指示通りに動いて!』

「うっす」


 ピンク髪の女性の指示通りに動く、螺旋階段までいき、上に登り続ける。

 すると、大きな赤い旗がある所が見え、そこには人集りができていた。

 ここかユウナさんの新しいクラスであり、問題の場所。

 魔人、御伽話おとぎばなしや、魔導書で聞く、架空の生物。

 姿、形は個体によって異なるが、基本は人間と同じ姿。そこに翼と角を生やした生物。諸説はあるが魔力の塊ともいわれている。

 でも、それの全てが御伽話での話。実在するという前例は一回もない。

 もし本当に魔人ならば、ボクは命を賭けないといけないかもしれない。

 ふぅーと息を吐き、極力、音と気配を消し、周囲に紛れ込む。


「くっそこいつ強いぞ!」

「リステリお前はそこにいろ!」


 風紀員二人がユウナさんを守るように、角を生やした赤髪の男と対面している。

 黒に近い褐色の肌に、真っ赤な双眸。

 そして何より、白を基調としたソロモンの制服を着ていた。

 風紀員と魔人の近くにあえる部屋は、ほぼ崩壊状態、風紀員もボロボロだった。

 他の見物人になっている人たちは、何故か動こうとはしない。

 普通だったらこっちまで被害はある、だけど風紀員の二人が食い止めている。

 これだけでかなりの実力を、持っているのが分かる。

 それを圧倒している魔人と思わしき物、それはもっと強いのだろう。

 魔人は腕を捻り、赤い魔力の塊、それを放出した。

 風紀員の二人は構え、迎撃の態勢を取った。


「なんちゅう魔力の濃さだ!」

「オレの魔法で相殺してやる」


 魔法に自信がある奴ならば、目の前にある物を相殺しようとする。

 ボクが同じ立場ならばそうする。

 だけどそれじゃあダメだ! あれは適当に魔法で刺激したら、膨れ上がり爆発する。

 複雑に魔力が流れている、このままだとここ周囲が吹っ飛ぶ。

 一体どうすればいい? 言葉で伝えるように先に魔法が放たれる。

 だったら! ボクは上にロングソードを投げる。

 風紀員の二人は上を思わず見る、その隙にボクは二人の前に立つ。


「く、クロ君」


 ユウナさんのかそ細い声が聞こえる。きっと後ろで、ユウナさんは泣きそうになってるのだろう。

 今すぐ片付けますと、言いたい所だが、実際に目の前にすると、思っていたより複雑だ。

 一か八か魔道具を使うか、リスクは高い。

 考えている内にロングソードは落ち、地面に突き刺さる。

 それと同時に魔力の塊が、ボクの皮一枚ギリギリまでくる。

 ッ!! ──赤い魔力の塊が真っ二つに斬れ爆散した。

 それはボクらの周囲ではなく、魔人に当たった。

 魔人は大きく咆哮をした! どうやら自分が放った攻撃が、痛かったようだ。

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