第20話 クロ対風紀員

 言葉だけならば一見簡単に思える。

 だが、ここは実力主義の学園ソロモン。

 そう簡単に最強ではいる事は難しい。特にボクみたいな才能がない人間は。

 元々最強を志す為にこの学園に入った、だから今の状況は実に理に適っている。

 取り敢えず風紀員の仕事は分かった。

 いつまでボクらはここにいるんだろ? そろそろ解放して欲しい物だ。


「それじゃあ今からわっちと戦うか!」

「は?」


 いきなり意味不明な事を言われると、風紀員長は肩を大きく回し、いつでも戦える様子だった。

 いやいや待て待て!? いきなり戦うって何!? 次の刹那、鋭い殴打がボクの頬を掠める。

 えっ? 今何が起きた? 頬がジンジンとする、それに何かが滴れる感覚。

 恐る恐る頬に触ると、血が流れていた。

 今この人、間髪を入れずに殴打をしてきた。

 風紀員長はニヤニヤと不敵に笑っている。

 ピンク髪の女性は手を合わせて、謝っている。

 風紀員長は体を小刻みに揺らしている。

 軌道の見えない拳が飛ぶ、咄嗟にロングソードをだし防ぐ。

 ボクの体は少し宙に浮き、気付い時には天井を見上げていた。

 どうやら風紀員長の拳で吹っ飛んだようだ。その証拠に扉が壊れている。


「クロ君!」

「いいねぇ! 咄嗟に行動をする危機察知能力」


 それはお世辞か? 軌道が見えず、小さなコンパクトだった。それでも凄まじい威力。

 そろそろ起き上がらないと、っ! 風紀員長が上におり大きく鉄槌を落としてくる。

 ボクは後ろに一回転し躱す、風紀員長の鉄槌が、床に衝突すると同時に轟音が響く。

 あんなの喰らったら一溜りもない。

 くっそ! ボクはロングソードを両手で強く握る。

 その場で強く床を蹴り、下段から上空に斬り上げるよう振る。


「遅っそい!」


 腹部に鋭い蹴りが入る、一瞬だが息ができなくなった。

 風紀員長は間髪も入れず、ラッシュを叩き込んでくる。

 ロングソードを構え、ラッシュをガードする。

 このままずっと攻撃されても埒が明かない。

 どうにか隙を作って、一撃をお見舞いする。

 ラッシュの間、銀髪の髪が靡く、その時、魔力の軌道が見えた。

 風紀員長はラッシュをしている間、右手から魔力が帯ていた。

 右だけ大きく振り被った、ここだ! ボクは床に、スレスレなくらい体勢を低くし、ロングソードを振り抜く。

 風紀員長の顔に当たるギリギリで止めた。


「そこまで! 勝負有り!」


 ピンク髪の女性の号令が入り、勝負はそこで終了した。

 ボクはホッとしたからか、その場に尻もちをつく、何とか使えた。


「よく頑張ったね」

「どこがですか? 風紀員長、大分力を抜いてたでしょ?」

「あれバレちゃった?」


 白々しい、風紀員長の実力はまだ分からない。もし本当にボクを倒すつもりならば、魔法を使えばいい。

 風紀員長は一度も魔法を使わず、ボクの土俵である肉弾戦をしてきた。

 それにしてもロングソード重い! よく騎士はこんなの振り回せるな。

 できればもう使いたくない。


拡張結界エレクトア


 ピンク髪の女性は詠唱をした。

 ボクらがいる部屋が急に広がり、魔力が全面に広がっている。

 壁に突き刺さっていた男がこっちに来た。

 他の風紀員と何か喋っているようだ。


「こんな狭い場所で普通戦いますかね?」

「ごめんねリリィ、体がうずうずしちゃってね。それに部屋拡張してくれたじゃん」

「どうせまだ戦うんでしょ?」


 今不穏な言葉が聞こえた、まだ戦う。

 これ以上、戦うのはちょっと嫌だな。

 まぁそんな希望、絶対に通らない事くらい、もう実感している。

 やれる所までやってやる! ロングソードにもたれながら立つ。

 風紀員長は相変わらずニヤニヤしている。

 横のピンク髪の女性は手に何かを持っていた。


「それじゃあ始めようか! 新人歓迎会よ!」


 ただの新人虐めだろと思いながらも、受けて立つ事にした。

 新人歓迎会の名目の戦いが始まった。

 風紀員長から軽く説明を受け、勝敗は負けを認めるか、止められるかで勝負が決まる。

 今回は何故か特別にボクはロングソード。そして他の風紀員は魔道具使用。

 さっき風紀員長はボクと戦った為、審判になっている。

 この学園では魔道具はあんまり好まれてはいない筈。

 あの時ドルグアはそんな言い回しをしていた。

 でも彼奴、普通に魔道具使ってたなぁと思いながら、ロングソードを構える。

 ボクの対面には、ユウナさんを貶した男がいる。


「魔道具・グロス」


 男は両手に、丸いリング状の魔道具を持っている。刃は無数に生えていた。

 風紀員長の合図と共に投げてきた。

 円を描くような軌道で飛んでくる。

 ボクは腰を落とし、低い体勢でロングソードを構える。

 リング状の魔道具が、眼前に近付くまで引き寄せ、叩き落とす。

 簡単に魔道具は地面に落ちた、男の手持ちはなくなり、考えなしに突撃をしてくる。

 男にギリギリ届かない距離で、ロングソードを薙ぎ払う。

 すると風圧が生まれ、男はその場に倒れ勝負が着いた。

 ……それからボクは他の風紀員と戦い、新人歓迎会は終わりを迎えた。

 地面には様々な魔道具が散らばっている。それと一緒に風紀員もほぼ全員が倒れている。


「まさか全員を倒すとはな」

「はははっ、わたしまじでやらなくてよかった」

「リリィは後処理だねー。それにしてもユウナ。とんだ逸材を見つけたね」

「うん。彼はこれから先、もっと強くなる」


 風紀員長とユウナさんは何か話しているようだ。それにしても腕が鉛のように重い。

 ロングソードを考えなしに振ったせいか。使いこなせたとはまだ言い切れない。

 それでも多少は身に付いただろ。

 これからは色々と大変になるな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る