第19話 風紀員の仕事

 風紀員長はユウナさんに理解がある。他の風紀員は違うもかもしれない。

 現に突き刺さっている男は、ユウナを邪険に扱った。

 もし風紀員長が手を出してなかったら、ボクが攻撃をしていた。


「さてさて改めて歓迎するよクロ! ようこそ風紀員に!」


 風紀員長は両手を広げ、歓迎をしてくれた。他の人たちはどうなんだろう? 黒衣のローブを纏ったままだから分からない。

 風紀員は他の生徒と違い、制服を着てないが何か意味があるのか。


「あのなんで制服じゃなく、黒衣のローブ何ですか?」

「説明をしてなかったね。これは風紀員の正装さ」


 黒衣のローブが正装ってのも、また不思議な事だ。

 基本この学園は白を基調とした制服。

 それとはまるで真逆のように、風紀員は黒衣のローブ。

 ローブは魔法師としての証でもある。ソロモンでは教員以外は風紀員しか、ローブを着てない。


「どうしたの? わっちに見惚れているの?」

「いやそれはないので安心して下さい」


 風紀員長の思わぬ言葉に、思っていた以上に冷たく反応してしまった。

 風紀員長は肩を落とし、目で分かるくらいにがっかりしていた。

 そこまでがっかりするか? 見惚れそうな見た目はしている。

 それでも一概には中性、見惚れているとは言い切りたくない。

 もし女性だとしてもなんか嫌だ。なんか、うんムカつくから嫌だ。

 そんな単純明解な気持ちが、今少なくともボクを動かしている。


「こんな美少女に見惚れないなんて」

「えっ!? 女性何ですか!」

「失礼だなこれでも学園が誇る美少女だよ!」


 風紀員長が胸を張り、誇らしく言った。

 部屋には沈黙が続き、空気が凍ったような感覚。背中がヒューっと冷たい感覚に何故か襲われた。

 まるで本当に空気が凍っているようだ。

 何か話しを変えた方がいい、それでも話題が全く思い付かない。

 助けを求めるように、横にいるユウナさんを見る。

 ユウナさんは目を逸らした。あっ、これは完全に見捨てられた。

 一体どうすればいい? 風紀員長の興味がある事……まず、そもそも今日初めて合ったから分からん。

 あぁもう流れに任せる! 直に風紀員長は拗ね始めた。

 すると他の風紀員たちは、フードを外し、風紀員長を隅に追いやった。

 ピンク髪の女性がボクらに近付く。咳払いをしてから話しかけてきた。


「えっと家のボスがごめんね。何度も言う見たいだけど、君を歓迎するよ!」


 これで何度目か、分からないくらい歓迎をされた。

 ピンク髪の女性は風紀員長の方に、時々を目を向けていた。

 さっき自分らで追いやったのに、気にするのか、あれでも一応風紀員のボス。


「実力は十分高いんだけどね、人間性がまだ」


 ピンク髪の人は半笑いをしながら、風紀員長を少し小馬鹿にしていた。

 その発言にユウナさんはクスクスと、笑っていた。横にいるから笑い声が普通に聞こえる。

 ピンク髪の女性は半笑いのままだった。

 実力高いのは分かっている、ボクも少しだけ目にした。

 それでもまだ色々と未知数な所はある、風紀員長は確かに強い。

 けれど他の強い人、特有の強者感もオーラもない。

 それなのに強い、理事長の言葉を借りるならば不気味。


「あっそうだ、クロは風紀員の仕事を知っている?」

「いえ知りません。何ならば今日初めて風紀員があるのを知りました」


 ピンク髪の人の動きが止まり、動き出したかと思えばこめかみを抑え、深々と溜め息を吐いた。

 それを聞いて風紀員長の体が、ビクッとした。

 ほぉーう、立場上風紀員長の方が偉いが、実際はピンク髪の女性の方が上らしい。

 実力は高くても人間性では、風紀員長は弱いからピンク髪の人が、実質のボスといえるだろう。


「本当ごめんね! 理事長も家のボスもポンコツだからさ」


 今この人、何の迷いもなく、自分のボスと理事長をポンコツと言った。

 風紀員長は隅で固まりながら、こちらを凝視する、いや普通に怖いって! こっちをそんなに見ないで欲しい。

 ピンク髪の女性は踵を返し、風紀員長の下に向かい、すぐに奥へ進んでいた。

 まじでこの空間は一体何なんだ? 意味不明過ぎる。

 少ししてからローブを持って、ピンク髪の女性がこちらに来た。

 ローブを手渡してきた、黒衣ではなく、黒と赤が混合したローブ。

 他の風紀員の人たちと違うローブ。

 ボクは迷いながらローブを受け取る。


「それじゃあ羽織ってみて」


 執事服の上からと思いながら、ボクは赤と黒の混合されたローブを羽織る。

 特段、何か変わっている訳でもなく、魔力が込められているに過ぎない。

 次に剣を渡された、普通のロングソードだった。

 ボクは剣を渡された事に困惑し、それでも受け取った。

 剣を持つと鉄の重量が手に乗っかる。

 魔道具とかではなく、普通のロングソード。他の風紀員は誰も持ってない。


「どう? そのローブは?」

「どうって言われても何も感じないす。それより何故ロングソード?」


 別に騎士になるつもりはないんだけどな。

 ロングソードは全世界共通で、騎士が所有している。

 魔法師が普通の武器を持つ事はない。

 まだ魔道具ならば分かる、でも今ボクはロングソードを渡された。魔力もない鉄の塊。

 ボクの様子を見て、ピンク髪の女性はぶつぶつと何かを言っている。

 言い終わったかと思えば、拗ねている風紀員長が来た。

 ピンク髪の女性は露骨に嫌そうな顔をした。


「そのロングソードは君だから渡した」

「クロ、君は近接戦が得意。今の現状では多分肉弾戦が一番」


 それに関しては全く否定ができない。

 今は多少の魔法を使えるとはいえ、未だに肉弾戦に頼ろうとはしている。


「君の魔道具、それは剣状の物だ、それを使いこなすには剣に慣れる必要がある」

「それでロングソードですか」

「その通り」


 この人たちは一体どこまで知っているんだ? 風紀員長の指摘は的を得ている。

 これからあの魔道具を使うならば、剣に慣れておいた方がいい。

 それでもよくこんな物、用意できたな。少し関心をしてしまう、剣状の魔道具は複数あると聞いた。

 それに対してロングソードは、一番効率のいい練習具になる。


「次にそのローブは特にない。最後に風紀員の仕事を説明をする」


 やっと今回の本題が出てきた。

 さっきまでの拗ねている様子と違い、真面目に風紀員長は話し始めた。

 風紀員の仕事には大きく分けて二つある。

 一つはこの学園の秩序、正確には昇格戦での不正や、学園の不穏分子を消し去る。

 この学園ではクラスが高い程に偉い、その為、ユウナさんみたいに虐められる人が多い。そういう人を守るのも役目。

 もう一つはこの学園のトップである事。学園の交流会とかもあり、学園対抗戦で勝てる程の実力を持つ。

 それが二つ目の仕事であり役目。

 簡潔にいえば、学園を守りながら最強でいろって所だろ。


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