第18話 風紀員
手を差し伸ばされた、その手を掴み握手する。
この人が風紀員長? 思っていたのと違う。あの説明からだともう少し、厳つい人かと思った。
その真逆で綺麗で華奢な体。それでも握手して感じる事。
まるで岩みたいに重たく、魔力の質が違う。
風紀員長はニコッと笑みを浮かべ、ボクの手を離した。と思えば一回転し、出入り口の扉を指差した。
「いつまでもこの場所にいる訳にはいかないし、わっちたちの部屋に行こう!」
「えっ?」
ちょっと待て!? わっちたちの部屋って何? それよりユウナさんどうするの? 風紀員長はボクの腕を引っ張る。
この人見た目より、力が強い!? このままだと無理矢理連れていかれる。
あんましたくはないが、致し方ない! 右上半身に魔力を注ぐ。
パチンと音と共に、風紀員長の腕が弾かれる。
風紀員長は特に驚いた様子はない。だけど、口を酸っぱくしたような顔で見てくる。
やめて欲しい……まじで怖い! 距離を縮めてくる。
あっ、これ完全に怒らせたかもしれない!?
「ねぇねぇどういう要件かな?」
声音は優しいのに圧力がある。多分怒らせた。
風紀員長の実力は分からない。
それでもボクには、執事としての役目がある。
「お嬢様は一体どうするんですか?」
「ユウナ……? あっ、ごめん。ユウナも一緒に行こう!」
今この人、素直に謝ったよね!? 完全にユウナさんの事忘れてたやん。
ユウナさんの方を見ると、苦笑いをしていた。
ユウナさんの事を名前呼びしているから、多分親しい関係性なのだろう。
本当この人は凄い人だ。風紀員長は咳払いをし、改めて部屋に向かう事になった。
少し見慣れた螺旋階段を上り、理事長室より上の通路まで上る。
通路が見えるが、他の所と違い、全体的に薄暗く奥が見えない。
風紀員長は我が物顔で進む。その反対にユウナさんとボクは、警戒しながら歩を進める。
ここだけ何で薄暗いんだ? 変な研究でもしているのかと思ってしまう程。
怪しくて仕方ない通路だ。
「ユウナって本当気が強いよね~」
「いきなり何ですか?」
「え? あのフォストの婚約を啖呵切って断るのが」
「嫌な物は嫌何です」
ご最もです、この人一体ボクたちを何処まで連れて行く気だ? もし危なそうだったら帰ろう。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ!」
風紀員長は後ろを振り返りながらいう。
緊張じゃなくてどちらかっていうと、怪しくて怖いんだよ。
風紀員長はこちら向きで歩いている。
後ろに目がついてるのかって、言いたい程に体がブレる事がなく進んでいる。
だが急に止まった。一つの部屋の前に止まった。
「ここがわっちたちの部屋さ」
風紀員長は扉を開ける、すると自然と中が見える。
刃物を持った黒衣のローブが、複数人居った。
静かにボクは扉を閉めた。
よし帰ろうと思って、ユウナさんの腕を掴むが、襟元を引っ張られ首が絞まる。
グゥッと苦しんでいると、風紀員長が不適な笑みで言う。
「何処に行こうとしているのかな?」
「だったら言わせて貰うけど! あんな危ない場所入れるかよ!」
「入って貰わなければ困るよ。ここが風紀員室だから」
風紀員長の言葉に絶句をする。
そんなボクの様子を見て、風紀員長は笑い出した。
「あははは! 君案外いい顔するね」
「クロ君。この人と一緒になるとは災難だね」
「おっと? ユウナそれはどういう意味だい?」
「自分が一番理解しているんじゃないの?」
ボクを挟んでユウナさんと、風紀員長が言い争いをし始めた。
頼む誰か助けてくれ、ボクを掴んでいる後ろの人怖いから、解放して欲しい。
「学園の恐怖の権化。地獄の風紀員の大王」
「あのさぁ本当の事言わないでくれる?」
今、よく分からない単語が飛び回っていた。恐怖の権化? それに地獄の風紀員? ちょっと待て? ボクは一体何に配属されたのだ。
「さっきから部屋の前でうるせぇ! 入るならば入れ!」
「あっはい」
急に勢いよく扉が開かれ、無愛想な男が怒鳴った。その言葉は正しく、ボクらは返事をし入った。
中に入るといかにも怪しげな、黒衣のローブが何人もいる。
部屋は思った以上に狭く、大きい正方形の机が真ん中にある。
部屋は通路と同様に薄暗い。
そして何より、異質といえる程の魔力が充満している。
あの闘い以降、魔力に敏感になっている為、気分が悪くなりそうだ。
風紀員長は黒衣のローブの中心に立つ。
「さぁ新しい仲間の歓迎をしよう」
「賛成です! ですがリステリ貴様は消えろ!」
さっき扉を開けた男が、ユウナさんを溜め息を吐いた。
「なぁ新人! リステリに帰って欲しいよな?」
「…………」
「何首を傾げているんだよ? そこのてめぇだよてめぇ! お前に聞いてるんだからな」
「あぁ、お嬢様よりてめぇが消えろ」
ユウナさんを邪険に扱おうとしたから、苛立ちを隠せずに本音を言ってしまった。
男はフードを取り、怒り心頭の様子だ。
こちらに真っ直ぐ向かってくる。
眼前の距離まで近付いて来られた。
「おいディードやめろ」
「うるせぇ! 舐めた口を聞きやがったから教育してやるんだよ!」
男が拳を振り上げたのと同時に、横の壁に男が突き刺さった。
風紀員長が手を男に向けていた。今のは風紀員長の攻撃なのだろう。
「クロ君。あんま悪く思ってやらないでくれ。そいつはちょっと不器用なんだ」
「別にどっちでもいいすよ。お嬢様を悪く言わない限り」
「ああそれで勿論いい」
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