第15話 魔帝

 あの模擬が終わってから、ボクはユウナさんに質問責めを喰らっている。

 最初は体の心配だけだったが、だんだんとヒートアップしていき、ボクの闘いでの摩訶不思議な力について聞いてくる。

 あの時は何も考えれず、力を使えたが今となれば、自分でも全く分かっていない。

 何故あの時魔法を使えたのか。

 一番の問題は勝手に収束した、ポケットの中に入っている本。

 急に大きくなったり収束するし、意味が分からない。


「ねぇ聞いてるの!?」

「えっあ、すみません」


 話しを聞いてなかった為、ユウナさんが怒り出した。しかも眼前まで近付いて来た。

 顔が近い。

 余裕で勝ちますと、言ったのにボロボロになって勝った。

 合わせる顔が全くない。

 少し後ろに下がって距離を取る。

 するとユウナさんの顔がシュンとなる。

 これはこれで申し訳ないぞ!?


「あのここって何処ですか?」

「え? 医療室」


 医療室といわれあぁーとなる。

 なんせ壁も床も真っ白で、よく分からない装置がたくさんある。

 それに色んな魔力が部屋に充満している。

 今ボクらは何故医療室にいる? よーく思い出せぇ。

 模擬が終わってからユウナさんに会った。

 そこまでは記憶がある。それ以降は一切ない。

 頭を回せ思考を巡らせろ。

 ユウナさんと出会い、刀剣袋を手渡された後、ボクはその場に倒れ込んだ。

 魔技場にいたローブの人たちが、ここまで運んでくれて今に至る。

 慣れない事をしたせいか、頭が冴えないし回らない。

 ユウナさんがいぶかしむように、顔を覗いてくる。

 気が済んだのか覗くのやめて、唐突に上を向いた。

 一体どうしたんだろう? と思っていると、淡々と語った。


「君は私と全く違うんだねー、私と違って物凄く強い。それに凄まじい魔法」

「ユウナさん何が言いたいんですか?」

「嬉しくもあり悔しい。同じと思っていたんだけどな」


 ボクは今の状況。そしてユウナさんの言葉に理解ができなかった。

 いや違う、理解をしようとしていない。

 したくない、これ以上ユウナさんから聞きたくない。

 手を伸ばし、顔に触れると水滴が手に流れる。

 水滴? 今何処から流れた? ゆっくりゆっくりと顔を見る。

 目尻に涙を溜めたユウナさんの表情。

 なんで今泣いている? 誰が泣かせた? ボクか。

 ボクしかいない。一体何の為に闘った? 泣かせる為に闘った訳ではない。

 どうすればいい? 分からない。

 ユウナさんを、嗚咽混じりながら語っている。語るのをやめない。


「君も落ちこぼれの下から去るんでしょ? だって君には素質がある。私と比べ物にならない程に、立派な魔法師になれる」


 今までに言われた事ない言葉。それに欲しかった言葉を言ってくれる。

 でも今ではない。断言できる、ボクが今望んだ言葉ではない。

 もっと堂々と誇って欲しかった。

 自分のように喜んで欲しい、ボクはただの駒に過ぎない。

 だけどきっとユウナさんは理解をしない。

 それが彼女の優しさでもある。

 ボクはこのまま恩人である彼女を、見捨てて何処かに消えるのか? ……違うだろ。

 否定をしろ、全力で否定し気持ちを伝えろ。


「ふざけんな! なんでボクが去らないといけない!」

「えっクロ君?」

「誰かに離れろとでも言われましたか? それならばボクが話しにいきます」

「ま、待って……」

「ボクは貴女に忠誠を誓った身、離れるとかないんですよ!」

「でも君には素質が?」

「素質? そんなのはどうでもいい! ボクは貴女を守れるだけの力があればいい。立派な魔法師にもなる気ない。この学園に入学したのも貴女の為だ」


 はぁはぁとボクは息を切らしながら、ユウナさんに感情をぶつけた。

 そこで初めて気付いた。自分の体が震えている。

 パーンと手が払われる。

 直後、ボクの胸元に拳が飛んできた。

 ユウナさんを見ると、涙目だが怒っている表情だった。

 ユウナさんの拳から、魔力の乱れを感じ取れた。

 魔法を使えるようになって、魔力の属性も流れも見える。


「そんな事を言わないでよ、君は私と一緒に居ってはダメ」

「それならば言わせて貰います。お断りです。命令にも従いません」

「どうして?」

「ボクがユウナさんと一緒にいたい、ただそれだけです」

「変なのー、だったら命令していい?」

「頼みではなく命令すか、変なのでなければいいですよ」


 変な命令ならば絶対に聞かない。

 ユウナさんの魔力は未だに乱れているが、さっきと違い穏やかな笑顔になっている。

 これはこれでよかったのか? いやこれでいい。

 ボクはユウナさんの笑顔を見たかったんだ。


「私と一緒も魔法師になって」

「一緒にですか?」


 ユウナさんからの命令。

 それは想像もできない、思わぬ命令に腑抜けた返しをしてしまった。

 ユウナさんはもっと笑顔になった。


「うん。私は実績ないから無理かもだけどね」


 実績、ソロモンは多分実力主義。

 クラス分けにも魔法師に関わるだろう。

 ユウナさんは今落ちこぼれ、と言われ実績がない状態。

 だとするならばボクが出す答えは。


「だったらボクがユウナさんの実績になります。貴女の右腕になります」

「期待しているね」


 期待か……今ここの言葉凌ぎかもしれない。普通に期待をしてくれているだけ。

 どっちにしろ分からない。

 右腕として活躍すればいい。

 コンコンと部屋に音が響く。

 音の方向を見ると、少し場違い感を出している理事長が立っていた。

 ユウナさんの裏返った声もまた響いた。


「り、理事長!? 何処から見てたんですか?」

「君が泣き出した所から」

「それほぼ最初からじゃないですか!」


 ユウナさんは理事長に抗議している。

 ボクは傍観しながら自然と口角が上がった。

 こんな慌てふめるユウナさんは、非常に面白い。

 普段の凛々しい姿……最近は違うな、最近はただの年頃の少女。

 ん? 魔力の乱れが正しくなっている。

 理事長と話している内に、ユウナさんの魔力の乱れが正常になっている。


「で何の用ですか?」

「無粋な事を、担当直入に言うぞ」


 理事長の空気が変わる、それと同時にこの場の空気が重くなる。

 医療室の魔力の荒ぶっている。

 理事長の空気だけで、この場の魔力が大分荒ぶるか。

 これだけで推測できる事は、魔力量が段違い。


「まずはドルグアについてはすまない。こっちの監督ミスだ」


 監督ミス、本当にそうなのか? ドルグアという人間に、問題がある気がする。

 彼奴は自尊心の塊その物。

 ドルグアが魔道具を使った時の発言。

「あの野郎これ不良品じゃねえか」

 魔技場での闘いも二時間後と、提案したのはドルグア。

 二時間の間に魔道具を用意できるな。

 協力者がいるのか?


「どうかしたか?」

「いえ特には」


 協力者がいると脳内には過ったが、一々報告する事でもない。

 それにユウナさんを、虐めている一人ならば、居ても不思議ではない。


「それでボクに何か言いたい事あるんですよね?」

「あぁ、まずは勝利おめでとう。リステリの昇格と君のクラス分けは待ってくれ」


 濁した言い方な気がする。

 気のせいか? だんだんと理事長の表情が曇る。

 気持ち悪いくらい綺麗に、流れている魔力に一瞬乱れが生じた。


「迷い中ですか?」

「いや違う。正確的には色々と抗議中だ」

「何かクロ君に問題があるんですか?」

「クロには何もないが、色々と問題だらけだ。まずリステリから貰った資料と違う」


 資料? あれ話しだけじゃないの? まぁいいや。


「不気味で危険ですか?」

「ッ!! あ、そうだ、君は実に危険で不気味だ」


 だから抗議中か、啖呵を切って言った身からすれば、別に悪い事ではない。

 不気味でも危険でもいい、ユウナさんの実績の為にも認めさせる。

 この学園にボクの存在を……こんな事を思うんだな。

 まだ人間身は残っている。

 自分に少し驚きながらも安心感を抱く。


「クロ、君は魔法が使えるのか?」


 一体この言葉を何度聞いた事か。

 そしてボクはいつも同じ回答をした。

 だけど今回は違う! ボクの答えは……。


「使えますよ」

「そうか、君は何処出身なんだ?」


 意気揚々と誇らしくボクは言った。

 だけど、それを覆すような一言。何処出身。

 理事長ならば、ボクがヒュウガの生家をバレるかもしれない。

 もしバレるならば理事長だけでいいが、今ここでユウナさんにはバレたくない。

 ボクはもうヒュウガではない。


「言いたくないです」

「そうか君はヒュウガの生まれではないか?」


 胸がドクンと打つ、鼓動が速くなる。

 今の言葉は確信的な発言ではない、だけど何かしらの根拠がある。

 そう捉えるしかない、それが一体何か分からない。

 怖い、怖い、怖い、体が悲鳴を上げるのが分かる。

 胸が心臓がキュッと締められる感覚。

 誰か助けて、何度も願った言葉。

 でもきっと誰も助けてはくれない、ボクは口にだして助けを求めない。

 求めてはダメだと理解している。

 次の瞬間、手に暖かさと少しの重さが乗る、それと同時に強く握られた。

 ユウナさんがボクの手を握ってきた。

 一体何故握られているか分からない。

 だけど安心感が生まれる。


「クロ君はヒュウガじゃありません。あんなゴミな! ヒュウガじゃないです!」

「ゴミって、リステリとヒュウガは似た者同士だろ?」

「確かにそうですけど! 私は大嫌いなんです!」


 うん、ユウナさんの言葉で冷静になれた。

 リグの時も感じていたが、ユウナさんはヒュウガを嫌っている。

 何か恨みがあるのかなって、思うレベルだ。

 それを聞く勇気もない。

 絶対にボクヒュウガでバレたくない。

 バレた瞬間、絶対嫌われて捨てられる。


「どうして理事長は、あのゴミの名前を出したんですか?」


 理事長はこめかみを抑える。

 流石にユウナさん言い過ぎだなと思う。


「クロの力だよ、あの時ワシは一定の可能性を見出した」

「可能性ですか?」

「リステリならば気付いてるだろ?」

「魔帝ですか?」


 その単語には聞き覚えがある。

 執事長がくれた魔道具、魔帝に愛された武器。

 そのくらいしかボクは、魔帝の情報を知らない。

 一体その魔帝がどうしたんだろう?


「クロ君が魔帝の力を秘めているんですか?」

「確定ではない。ただの可能性だ、もしそうならば帝国は黙っていない」


 帝国──別名魔法国ユーグリア。

 今ボクらがいる大陸の頂点、それが古代最古の魔法国ユーグリア。

 大陸によって様々な国はある、それでもユーグリアはどの国にも優れている。

 それにはヒュウガやリステリが、大きく関わっている。

 この二つの家系がユーグリアを、今も優れており最強といわせる由縁。

 だけどそこに魔帝が何故関わる? 


「何も理解していないって感じだな」

「えっクロ君? 魔帝について何も知らない?」

「はいすみませんが」


 横でユウナさんは呆れた表情をしている。

 呆れながらボクに魔帝に、ついて説明をしてくれた。

 魔帝、ユーグリアに実在したと、いわれている伝説の魔法師。

 彼の一つ一つの魔法と魔力は、一つの国を簡単に滅ぼせる程。

 ヒュウガとリステリが共通し、最強の家系と言われているのは、この魔帝が関係している。

 ヒュウガとリステリは魔帝の子孫。

 代々と固有の魔法と魔力を継承されていたが、ある時を境にお互いの家系は、仲違いを起こし時代と、共に魔帝の名は闇に消え去っていた。

 この説明、物凄く引っ掛かる。

 何故闇に消え去ったのならば、理事長は知っている? それにユウナさんは当たり前の知っている。


「どうして二人は魔帝について詳しいんですか?」

「リステリ家はね、魔帝を敬い信仰しているから、闇に消えても知っている」

「クロ、君は帝国に学園は何個あるか知っているか?」

「二つ?」

「そうだ、一つはここ魔法院学園ソロモン。もう一つはヒュウドル、ソロモンは魔帝が創った学園。理事長になるとね、魔帝の資料を所有できる」


 なるほど二人が魔帝について、知っている理由は分かった。

 それでも分からないのが、ボクと魔帝の関係性。



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