第14話 反撃開始

「く、クロ君!!」


 ユウナさんの声が耳いや脳に響く。このまま容易く死んでしまうのか? それでいいのか? こんな奴に負けたまま。

 言い訳がない。

 脳裏に執事長との会話。ユウナさんとの軽く交わした雑談を思い出していた。

 まるで走馬灯を見ているようだ。負けたくない! 最強でいたい。ユウナさんの傍に居て守り続けたい。

『だったら力を解放すればいい』

 だ、誰だ? 一体誰の声だ? これも走馬灯の声か。

『汝の力を解放せよ』

 ……走馬灯での声じゃない、これは今ボクに語り掛けている。それにこの声何処かで聞いた。一体どこだっけ? 考えても分からないな。

 それに声がガザガサで分からない。

 力を解放せよ解放せよって、ボクは魔力のない無能。隠し持った力なんかない。

『ならば我が解放してやろう』

 誰なんだよお前は? ボクの問いに返ってくる言葉はなかった。

 体に力がみなぎってくる。思考が巡る。声が脳内に響き渡る。ユウナさんが悲しんでいる。いい加減に起きないとな。


「えっ? クロ君の魔道具が反応している」

「ドルグア=ユース。お前を拘束する……!?」

「なんでお前生きてるんだよ!」

「あー腹が痛い」


 ボクは走馬灯から現実に戻され、ドルグアの方を見ると、白と黒の混合したローブを着ている人物が二、三にいる。

 見る感じ、ドルグアを拘束しようとしているって所か。まぁその本人はボクが生きてる事に驚愕している。

 本当っ失礼な話しだ。

 腹部に多少の痛みは残っているが、傷は塞がっている、血も大して出ていないが服に穴が空いてる。

 腕を回したりして体を簡単に動かす、腹部の痛み以外に異常はない。

 一つ挙げるとすれば魔力が体に巡っている。

 今までに感じた事がない感覚。違うな部分的には今までも感じていた。

 良い例を挙げるとすればリグに執事長。この二人の戦闘の時だろう。

 気分もいいし、体の調子が信じられない程いい。自分自身に関心を持っていた時、右のポケットから高濃度の魔力を感じる。

 取り出すと鎖で巻かれている黒い本。

 それにドルグアが異常に反応した。


「こいつも魔道具と同等の物を持っているじゃねぇか」

「ドルグア往生際が悪いぞ」

「待て! クロ、君は無事なのか?」


 ローブの人物がドルグアに接近し、拘束の準備していたが理事長に待ったを掛けられる。そしてボクに対して体の調子を問う。


「ええ、この闘いをやるよりも調子がいいですよ」

「そうか。ならば一つ聞こう。この場をどう思う? ドルグアはルールを破り、君を殺そうとした。このまま拘束しても」

「ご冗談を、このまま終わるとか。ボクの怒りが収まらないですよ」


 ユウナさんを遠回し、部分的に侮辱をしてしまった。このまま終わる訳にはいかない。


「君たち下がってよし、それでは今度こそルールに載っての昇格戦」

「は? 冗談だろ? 魔道具ありでいいだろ!」

「ドルグア口を慎め!」

「実際そうだろ? 目の前の主人は魔道具頼りの落ちこぼれ! ポンコツ! リステリの出来損ないじゃないか」

「良いんじゃないすか? 魔道具ありで。その代わり殺す気でいくからな」


 ボクの言葉を聞いてドルグアたちは黙る。それに観客席も静かになる。

 ただ一つ、右手にある黒い本だけが鎖を破ろうと動いている。

 ガタンと音がすると共に、黒い本は片手間に収まる。

 次の瞬間、ビリッと肉体にで電流が走る。決して痛い訳ではない。

 逆に力を湧く、独りでに本が動く。

 まるで何かに反応しているようだ。ボクの体も自然と動く。ある一点の場所に視線を向ける。

 そこにはユウナさんがおり、刀剣袋もまた独りがてに動いている。

 黒い本とあの魔道具は共鳴している。

 自分の力を解放し倒せ言っている、ドルグアの方に体を向ける。

 少し口角を上げ笑ってみた。するとドルグアは右手にある魔道具。それで容赦なく突き刺そうとしてきた。


「なっ!? 何故刃が通らない!」


 ドルグアは面を喰らった表情で、今目の前に起きている事を理解できていない。

 魔道具はボクの眼前で止まる。

 防いだ訳でも魔力も使っていない。

 ただ勝手に止まっている。だけど表現するとすれば何かに阻まれている。


「そういえば肉体に魔法が覆っているだけ? それってこうか?」


 軽く拳を握りゆっくりと出す、ドルグアに当たった。

 次の刹那、ドルグアは吹き飛び、観客の人間が気付く頃には、柱の壁に埋まっていた。

 ただ軽く当てただけなのに、一瞬であんな所に飛ぶ。ただの試しでやってみた物。

 自分でも驚きを隠せていない。ドルグアの表現は正しく、今現在においてはボクの体は魔法が覆っている。

 魔力と魔法がっていった方が正しいのかもしれない。


「くっそがァァァ! 炎火グレン


 壁の向こう側からドルグアの雄叫びが、聞こえると同時に火、炎の球体が真っ直ぐ向かってくる。

 昔のボクならば慌てていたな。今は妙に冷静でいれる。 あぁ気分がいい。感覚的にいうとリグを倒した時と一緒。


火球ファイヤーボール


 ドルグアが放った炎の球体に比べ、ボクは見慣れている火球を放つ。

 今ボク魔法を放ってた。嬉しい筈なのに今は極も当然と思えている。

 お互いの魔法が衝突し爆散する。周囲には火の粉が広がる。

 火の粉はだんだんと大きくなり、火の柱と変貌する。


火柱ファイヤー


 ボクは火の柱で新たな詠唱をする。火の柱を媒体にし新たな魔法を放つ。

 火の柱から無数の火の粉がドルグアを襲い燃やす。


「あっあぁ、あっつい!! 誰か助けろ!」


 ドルグアは悲鳴を上げながら、悶え苦しんでいるのだろ、壁からあまり出て来ないから分からない。

 左手をドルグアの方向に向けると。


「そこまで! 勝負あり」


 と、理事長の勝負終了の合図が入る。

 どこからともなく、水が現れ、ドルグアの方面に流れていた。

 火の柱も水に流されジュッと音をたて消えた。

 これで勝負は終わりかと、不完全燃焼感に襲われていた。

 その時、理事長はボクの目の前に現れる。

 音も気配もなく現れたな。もしかして今からこの人やるのか? 


「これで勝負は終わりだ。後はワシたちに任せ、君は帰っていいよ」

「うっす」


 お言葉に甘えて、後は理事長たちに任せる事にした。

 踵を返し、入り口に向かっていると、観客から拍手の歓声が合った。

 足を止め、観客席に向かって一礼をする。

 この時まだ気付いてなかったが、右手に合った黒い本はいつの間にか、ポケットの中に入ってた。

         ◇

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