第13話 卑怯者

「さぁどうした?」


 両手を広げ、まるで掛かってこいと、挑発。

 余裕の笑みを浮かべている。実に不愉快で不気味だ。

 この挑発を乗るべきか? 拳を握り締め、距離を縮め拳を軽く出す。

 拳はドルグアの顔面に見事直撃する。薄笑いをし反撃をしてこない。

 やはり何か可笑しい。物理攻撃とはいえ、当たれば多少の痛みはある。全く感じないと、言わんばかりに薄笑いを浮かべている。

 本当にボクの攻撃は効いてるのか? 少し不安になってきた。バックステップをし距離を取る。

 さぁてどう出ればいい? もし物理攻撃が効かないのであれば、勝ち目はほぼゼロ。そして負けてユウナさんの人生は転落。


「どうしたその程度か?」


 ドルグアの挑発がやたらと響く。

 少し深呼吸をし、さっき同様に距離を詰める。

 攻撃のモーションに移ろうとした時、複数の火球が飛んでき被弾する。


「ッ!!」


 顔と体に直撃した。熱い、皮膚が焼けるような感覚。でもな執事長の火球はこれの比じゃねぇ! 一瞬止まっていた攻撃。体を捻らせ勢いを付ける。

 拳を再び繰り出し、顔面を捉える。スゥッとドルグアが火球を、準備しているのが見えた。もう既に勢いのある拳を振り抜き、倒れ込むようにドルグアにぶつかった。

 すると火球が空を切り爆散する。


「チッ!!」


 と、分かるように大きいな舌打ちが、聞こえた。次の刹那、背中に鋭い痛みがが走った。ドルグアが背中へ肘を叩き込んだ。

 ドルグアはニヤリと笑う。ボクが苦しんでいる姿を見て、喜んでいるのだろ? 何か勘違いしているぞ? ここからはボクの得意分野だ。

 ガシッとドルグアの首根っこを掴み、立ち上がると同時に、ドルグアを引きずって走る。


「離せぇ! ぶっころ......」


 苦しいんだろ? でも離さないぞ! ドッドッと地面が抉れる音が響き渡る。地面は土と砂でできている。その為簡単に抉れるし壊れる。

 一つ難点を上げるとすれば砂煙が出る。そこだけは致し方ない。

 ボクの視界に観客席の柱となる壁が映る。ボールを転がすイメージで、ドルグアを投げる。

 勢いが付き、地面にバウンドし一回転しながら壁に激突した。

 次の瞬間、観客から悲鳴の言葉と、ボクに対するヤジが入る。


「おい彼奴! 全然魔法を使わないぞ」

「この模擬意味あるのか?」


 ヤジの中にはこの闘いの意味を、問う奴も出てきた。ドーンと轟音が鳴り響く。音をする方に視線を向ける。と空に雷の渦が舞っていた。


「静粛にしろ。ワシのやり方に文句があるのか?」


 理事長は観客を静かにさせた。これは注意、いや正確には脅しだ。俺が決めた事、それに文句は誰にもさせないと。まるで暴君だ。 そんな事を考えていたら、顔面が血塗れのドルグアが視界に映った。どうやら理事長が観客に注意している間に、壁から出てきたようだ。

 ドルグアは飄々としている。

 ダメージを負っているのに、余裕の表情は変わらない。

 そこで一つ疑問が出てくる、何故壁に激突したのに、顔面血塗れで済んでいるのだ? 見た所顔以外に外傷はない。

 ボクの殴打も一切効いてなかった。それに殴った時、身のないカスカスの袋を殴ってる感覚だった。

 まるで威力を押し殺しているような。


「痛てぇぇな。物理攻撃半減しているのにバカくそ痛いなァ!」


 どうやらボクの想定は当たっていた。威力を半減されていた。その為、ダメージは効いてなかった。それには納得がいく。だがここで問題が発生。何故物理攻撃限定で半減をした? 使だってある。

 一体何故だ? まるで最初から魔法を使えないのを知っていたみたいだ。

 そんな事をドルグアは知る由がない。本当にそうか? 最初に感じた違和感。これも実は関係しているのでは? 


「お前見た目の割に力があるな。肉体を覆っているようだ」

「褒め言葉として受けとっておくよ」

「可愛げのない奴め!」


 ドルグアは地面を蹴り、突進してくる。

 ドルグアが向かって来る間。背筋が凍るような感覚。このまま攻撃を喰らってはいけない。

 体が──本能が叫んでいる。それに従うようにドルグアの突進を、ギリギリで躱しながら攻撃をする。

 次の瞬間、ボクの右腕は痺れる。それは全身にまで痺れが回り、硬直した。

 理解が追いつかなかった。自分の身に何を起きているのか。


「やっと効いたのかよ、あの野郎これ不良品だろ」

「何を言って……!?」


 ボクはドルグアの言葉の意味を、理解が出来ずにいる。ドルグアの右手を凝視する。そこには合ってはならない物がある。


「魔道具か」

「おっ! 大当たり! これは魔道具。名前何だったけ」


 魔道具の名前を忘れたのか、こめかみに手を置いて考えている。ハッと顔を上げた。その顔は無邪気で考えがスッキリしたという感じ。それと同時に理事長からの怒声を浴びる。


「ドルグア貴様、何をしているのだ!!」


 表情からも滲み出る程に怒気を纏っている。それに対しドルグアは平然としていた。ボクと最初に合って──喧嘩になりかけた時、理事長が止めに入った。

 その時は分かり易く怯えていた。それなのに今は飄々と平然でいる。


「何をって模擬ですよ? 昇格する為の」

「昇格する為にはルールを破るのか?」

「ええ、破りますとも、魔法師になればルールとか不必要」

「ワシのやり方に文句があるのか?」

「あるに決まっているだろ! ボクは最強の家系ドルグア出身だぞ! 黄龍ではなく黒虎のトップの男だ」

「どこまでも勘違い甚だしい奴。ボクに物理半減している奴が、黒虎? 流石底辺家系だな!」

「なんだと!」


 ドルグアの顔に血管が浮き出てくる。理事長との会話の時間。その間で痺れは解け、体は動かせれる。だけどこれはチャンスだ。

 ドルグアに悟られてはいけない。


「結局ルール破っての魔道具頼り野郎が」


 挑発、煽りのつもりで言った。それなのにドルグアは腹を抱え大笑いをした。その行動に唖然とする。


「お前知らないのか? リステリは魔道具頼りの落ちこぼれだぞ!」


 その言葉を聞いて、ボクの全身から血の気が引いてるのが分かる。つまり今、ボクはユウナさんを侮辱したのと同じ……。


「いいねその顔! そしてそのまま死ね!」


 ドルグアは魔道具でボクの腹を貫いた。

 意識が朦朧とする。口の中に血が溜まる。血を吐き出し、ドルグアを睨む。ドルグアは妖艶な笑みを浮かべている。

 ユウナさんに忠誠を誓い、守る為にこの学園に入学した。それなのにボクが真っ先に貶し、裏切ったも同然。

 執事失格だ。これからどうすればいい? 頭が回らない。上手く思考を巡らせれない。後少しで意識が途切れそうだ……。

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