第12話 違和感

「まずそもそも教員からすれば、リステリ君の執事は不気味で仕方ない。供述からしても不安要素が大きい」

「でも私は彼に……」

「リステリ。君の考えより学園としては不気味で危険と判断している。ワシは違うが決して好ましくは思われない。それだけは肝に銘じるといい」


 理事長の言葉を聞き、ユウナさんは反論の声も出さなかった。

 横にいるユウナさんを見ると、複雑そうな表情で涙を浮かべていた。今にでも綺麗な顔が、グシャグシャになりそうだ。


「……ったら、だったら認めさればいいんだろう?」

「は……? 君自分が言っている事が分かっているのか?」

「ええ分かっていますよ。不気味? 危険? 大いに結構。ボクはユウナ=リステリに忠誠を誓った身。お嬢様の為にもボクを認めさせてやる!」


 唐突な静寂が訪れる。

 横から物凄く視線を感じる。目の前の理事長も横にいるユウナさんも黙っていた。

 少し経つと理事長の硬い表情が、緩んでいき次には。


「アッハハハハ! 面白い。君いいね最高! ワシそういうの好き」

「じゃあ?」

「元々入学が決定事項だったんだよね。注意事項で言ったつもりだった。でもいい意気込みを言って貰った、期待しているよクロ」


 理事長は笑みを浮かべているが、目は一切笑っておらず、目の奥では何かを企んでいる。

 大口を叩いたからには、この学園で最強しかない。これは自分の為でもありユウナさんの格を守る。

 それから理事長から、簡単な学園の説明をされた。話している時もやたらと刀剣袋を気にしていた。

 何か気付いているなと思ったが、あえて触れないようにしていた。

 学園のルールも何個が合った。

 まずこの学園──魔法院ソロモンは魔法を習い立派な魔法師になる。それをもっとうにしている。

 学園の内容自体は、ヒュウドルとは対して変わりない。

 問題があるとすれば学園のルール。

 このルールのせいでユウナさんが、怪我して帰ってくるのも納得が出来る。それに執事長が言った最強の意味。全てに点と点が繋がり納得できる。

 一つは家系とか関係なしにその人物の実力で、クラス分けをされている。

 入学の時の試験の結果で、黒虎、青雀、赤玄、黄龍、白麟に分けられている。

 ユウナさんは白麟に所属している。

 白麟はこの学園の一番の底辺。

 二つ目実力が低い者は、高い者の命令には逆えない。

 このルールによってユウナさんは虐められていると、考えられる。


「説明はこのくらいかな。あ、そうだ上級生には気を付けてね」

「は、はい」


 ボクらは会釈して理事長室から出る。

 さっきからユウナさんは体を震わしている。それには気付いているが、触れようとはしない。

 螺旋階段の前に行くと、背後から気配を感じた。

 直後、ユウナさんの体が異様に前に出て、階段に飛び込みそうになった。


「えっ?」


 ユウナさんの言葉にならない声だけが、聞こえ、腕を伸ばしユウナさんの体を抱える。すると舌打ちする音が響く。

 今、完全にユウナさんを突き落とそうとした。舌打ちを聞こえたから確信犯。

 取り敢えずユウナさんを引き上げよう。

 落ちないように腕にギュッと、しがみついている。

 引き上げ尻目に背後を見る、と赤髪の同じ制服を着た少年が、こちらを物凄い形相で睨んでくる。

 同じ学園の生徒ぽいな──小声だが信じられない発言が聞こえた。


「余計な事しやがって、後少しでリステリを消せれたのに」


 さてとこの場合、ボクは一体どうすれば正解だ? ユウナさんと一緒に穏便に離れるか。それとも背後にいる生徒を叩き潰すかの二択。

 背後の少年はため息を吐き、堂々とこちらに向かって言う。

 その言葉はあまりにも信じられない。思わず後ろを振り向く。

 ボクは思わずヒュウガの事を思い出す。そのくらいに不快で溜まりない言葉。


「おい邪魔するなよ執事。そこのゴミを消すんだから退け!」

「はぁー、ボクの視界には貴方がいうゴミはいませんが?」

「てめぇ煽ってるのか? この俺様を!」

「煽る以前にも貴方を知りませんが?」

「ちっ。俺様はソロモンの三年。ドルグアだ」


 ドルグア? 何処かで聞いたな。あ思い出した。最強と謳っている「底辺家系で有名なドルグア」

「おい! 貴様」

 目の前の少年は怒りを露わにしている。意味が分からなかったが、横からど突かれる。

 そこで理解した。声に出してしまった事に、言い繕うと思ったが逆にこれは好機と感じた。

 このままこいつを煽れば性格的に、殴り掛かるが魔法を使ってくるだろう。そうすればさっきの二択の後者が適用される。

 元々二択では後者の方だ。逆に都合がいいな。


「ゴミはいませんが自称最強の底辺家系はいますねー」

「いい度胸だガキ! ぶっ殺す」


 殺すね。その言葉を今まで何度も浴びせられてきた。そして殺されかけた事もある。

 だけど目の前の生徒には、一つの恐怖も感じない。

 それはボクが強くなったのか、こいつが弱いだけ。

 どっちらでもいい。こっちは主人をバカにされて腸が煮えかりそうだ。


「お嬢様少し失礼します」


 ユウナさんを離し距離を少しずつ詰め寄る。


「やるならばやろうよ。叩き潰してやる」


 赤髪の生徒は拳を繰り出す。カウンターで殴打をしようと構えた。その時、ボクらの間に杖が入る。お互い静止をする。

 いや正確には体が一切動かない。

 全く信じられない程に動けん。それはあちらも同じ。一つ違うとしたら表情がずっと荒ぶってる。どうやら顔だけは動かせるみたいだ。

 相手の方を見ると、色々と呆れてやる気を失せる。


「まさか早々と問題を起こそうとするか」


 苦笑気味な声音と共に理事長が現れる。赤髪の生徒の表情が一変とする。

 さっき程の勢いはなく、表情だけでも分かる。怯えている。血の気が引いてる様子。

 理事長はボクらを見比べるようにして、指を鳴らした。すると体は動いた。

 杖が勝手に動き、理事長の手に収まる。どうやらさっきの硬直は理事長の魔法。

 体が動けるようになってから赤髪の生徒は、体を震わし腰を抜かした。

 これは完全なる恐怖。

 理事長は何かを言おうとしていたが、口を閉じ考えている様子。


「いい事思い付いた。ドルグア君は黄龍だったよね?」


 黄龍、ユウナさんの白麟より一つ上。対して偉い訳ではない。

 所詮はドルグアか。まぁバカにしてるけど勝てるか分からない。

 もし完全にやるとなったら、死ぬ気で勝つだけ。


「そこの執事の恰好を少年はね、リステリの執事であり新しい新入生さ」

「こいつが落ちこぼれの執事?」

「あ!?」


 ユウナさんが悪く言われ、思わず反射的に答えてしまった。

 理事長も赤髪の生徒も黙ってしまった。


「えっとー、話しを戻すね。クラス分けをまだ決定をしてなかったんだけどね。ドルグアとの模擬次第でクラス分けを決める」

「え?」


 ボクは何一つ理解をできていない。

 一人だけ何も分かっていない。


「お、俺にメリットが……」

「そうだね。じゃあドルグア君が勝てば昇格。負ければ降格。そしてクロ──君が勝てばリステリを昇格させよう」


 理事長の何気にないその一言。それは二人の人物の人生を左右する物にもなり得る。それなのに簡単に面白く言っている。言葉の主はこれを一つの実験か、娯楽としか思っていない。

 唐突な静寂が訪れる。難しい話しではない。もしボクが同じ立場ならば黙る。

 ユウナさんも赤髪──ドルグアは唖然としていた。理事長の方にゆっくりと目を向ける。と笑みを浮かべていた。

 そんなに人の人生が掛かってしまう事を言って、楽しいかよ。きっと楽しいという。

 容易く言っている所が想像付く。

 ドルグアは家系だけで考えれば、最弱の部類。魔力がないボクでも互角に戦えると言われてきた。ヒュウガでのドルグアは低い扱い。

 稀に家系の歴史とか関係なしに、天才といわれる人材もでている。一概に勝てるとは言い切れないのかもしれない。


「もし……ボクが負ければお嬢様はどうなるんですか?」

「自信がないのか?」

「ただの確認です」


 理事長のあの言葉をきいてから、一つの疑問がボクの頭の中を彷徨さまよっていた。

 もしボクが負ければユウナさんはどうなる? 今はもう底辺レベルのクラスにいる。これ以上の降格はない。だとしたら一体どうなる? そんな疑問を理事長は軽快に言った。


「決まっているだろ? 昇格はない。魔法師にはなれない」


 その一言を聞き、顔が引き攣ってしまう。ボクのそんな表情を見てなのか、理事長は満面な笑みを浮かべている。

 似ているな──ボクは大嫌いな男にそっくりだ。人の事も人の人生も何も思っていない所。

 ヒュウガの現当主に似ている。

 魔法師になれない、それはこの世界の腫れ物になる事を指す。

 ボクらが生きている世界は、魔法が全てだ。その中で魔法師は必須だ。それになれないって事は、死を宣告されているのと一緒だ。

 しかもそれがリステリの人間となると、尚更問題だ。

 この勝負はユウナさんの人生を、背負うのとほぼ一緒だ。絶対に負けられない。負けてはダメな問題だ。物凄い重圧に重荷。それを今学園のトップから課された。

 執事長の学園で最強になれが、可愛く思えてきた。

 まぁどっち道、ボクには選択肢なんかない。ただこれは仕事だ。主人の邪魔になる物を排除する。


「どうした黙って? やらずに逃げて主人を底辺クラスにさせるか?」

「そういうの理事長が言ってはダメなのでは? 逃げる? ハッ、笑わせないで下さい。目の前の奴を叩き潰してやる」

「くっくくあっははは。面白い。ではその勝負はいつやる?」

「ボクはいつでも構わないです」

「俺は二時間後に魔技場マギで闘いたいです」

「魔技場かいいだろう。それでは二時間後に集合とする」


 そこで解散となった。ドルグアも理事長も消えていた。残るのはボクとユウナさんだけだった。理事長と話している間。ユウナさんの顔は見れなかった。正確には見ようとしていなかった。

 怖かったからだ、自分の主人がどんな顔をして、どう思っているのかを理解するのが怖い。

 そんなボクの気持ちとは裏腹に、袖を引っ張られる。誰か確認するまでもない。そこで初めて、ボクはユウナさんに視線を向ける。

 そこには、いつも元気で笑顔のユウナさんはいない。笑ってはいるだけど目が真っ赤だ。泣いた後なのだろ。

 ユウナの泣く声もすすり声も聞こえなかった。静かに声を押し殺して泣いた。


「ごめんね情けない主人で、クロ君を決して信じてない訳ではない……それでも」

「それ以上は大丈夫です。理解しています」


 ユウナさんの言葉を遮るように、ボクは言葉を重ねた。ユウナさんの目からポロポロと雫が流れている。頬につたり地面に滴れる。


「えっ?」


 ユウナさんの情けない声が周囲に響いた。


「なんで抱き締めてくれるの? しなくていいんだよ」

「するなとは言われてません。それにこれはボクがしたくなかっただけです」


 普通従者が主人に許可なし、または命令外で抱擁するのは禁句だろう。

 だけど、今はこうでもしないと、目の前にいる可憐で凛々しい少女が、消えてしまうような気がした。

 再び静寂は訪れるがユウナさんから、音が聞こえる。これは胸の鼓動音だろう。

 スゥッとユウナさんを解放すると、少し寂しそうな表情が見えた気がする。

 気のせいって思っとこ、取り敢えずここから離れた方がいい。

「二人共集まったな」


 二時間っていうのは長いようで短い。

 あっという間に時間は経ち、学園が管理している魔技場に来ている。一見ただの闘技場。違うとすれば魔力での結界が張られているかの違い。

 理事長に真ん中にまで集められ。ドルグアと対面している。

 余裕そうにしている。その様子に妙に胸騒ぎがする。肉体の本能が何かを企んでいると、危険信号を出している。

 そんなのは一切どうでもいい。


「……ルールは以上の通りだ。ここにて昇格戦を開催する」


 理事長の言葉が終わると同時に、オォッと歓声の声が聞こえる。

 視界には色んな人たちがいる。全員が生徒と教員だろう。

 その中に勿論ユウナさんもいる。大事そうに刀剣袋を抱えている。

 まさか魔道具の使用禁止とは、思わなかった。まぁあれを使えといわれても困るけど。


「始め!」


 理事長は合図をすると、宙に浮き空高くまで行く。

 おぉ凄いなと感心していると、火球が飛んできた。火球はボクを通り過ぎ、地面に着弾する。

 わざと地面に向かって撃った。その行動に何の意味がある? 挑発? それとも単純に舐められているだけ。

 ドルグアはニヤニヤと笑みを浮かべている。

 この程度の火球ならば対処はできる。だが、やはり妙な胸騒ぎがして仕方ない。言葉に表すとすれば違和感

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