第11話

金曜日、急に洋子が

「もう、防犯パトロールするの、止めたら?」

「洋子さんが、妊娠したら止めます」

「ほんとう?」

「ほんとうです。けど、生まれてきた子が大きくなったらまた、防犯パトロールを始めるかもしれまん」

「その頃には、明君はもう中年よ」

「その時になってから考えるし、もうその頃になると、防犯パトロールをしていたこと自体、忘れてしまってるかもしれません」

「そうなることを、願ってるわ」

家の時計は、まもなく1時だ。

「じゃあ、今日も防犯パトロールに行くの」

「はい」

「眠くないの」

「老人からもらった薬が、まだありますよ。少なくなってきたけど」

「あれは、気休めだって」

「眠くなれば、戻ってきます」

「絶対よ。無理だけはしないでね」

「はい」

「ついでに、明君のヘルメットの『A』の、マーク、止めたら」

「これは、僕のトレードマークなんで」

「そう」

明は、玄関に見送りに来てくれた洋子の頬にキスをして『A』のマークの付いたフルフェイスのヘルメットを被り、出ていった。洋子が振り向いて掛け時計を見ると、時刻はすでに1時を廻っていた。その時、洋子の手鏡が、テーブルから落下して割れてしまい、それを手に取った洋子の顔がこわばってしまった。

「明君」


ひったくりで、警察に逮捕された二人は、刑務所から出ても、明に恨みを抱いていた。けれど真人間に戻る気などさらさらなく、再犯を考え、ターゲットを狙う前に、二人で自動販売機の前で缶コーヒーを飲んでいた。

そこへ、飛んで火に入る夏の虫だ。偶然にも明の乗ったカブが二人の前を通り過ぎたのだ。明のフルフェイスのヘルメットには『A』という文字が。刑務所に入れられた側からすれば、自分たちの犯罪をないがしろにして、絶対に忘れることの出来ないマークである。ひとりが

「あいつと違うか?」

「あいつって?」

「俺らを、警察に突きだした奴や」

「何故、わかった」

「フルフェイスのヘルメットに『A』と書いてあった。あのマークは忘れられん。腹をどつかれながら見てたんや。あの『A』というマークは、今まで見たことないんで、ものすごく目に焼き付いていたんや」

「よし」

「あいつの後を付けるぞ。いつものナイフ持ってるか」

「あぁ。で、どうする」

「ぶっ殺す」

「よし」

二人は、缶コーヒーを放り投げ、単車に乗り込み、すぐにカブを追い掛け、あっという間に追い付いて、明の乗ったカブの前に単車で割って入ると、明は急ブレーキを掛け、何が何だかわからず、目をパチクリ。

単車を運転していた男が

「おい」

と言ったがまだ明は、何が起こったかわかっていない。、そして単車の後ろ男の

「おい」

と言う声に振り向くと男の後ろは無防備だ。

その瞬間、明は後ろの男にナイフで脇腹を刺され

「えっ」

と、刺した男に振り返ったが。その箇所からはものすごい鮮血が。

「ざまを見ろ」

と、二人が単車で走り去るのを見送ったまま、明は刺された脇腹を両手で押さえ

「よ、洋子さん」

と。





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やたら正義感を振り廻す男 赤根好古 @akane_yoshihuru

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