第7話

洋子が、休みの日に部屋を掃除していると、ブルースリーの『燃えよドラゴン』や、

『ドラゴンへの道』のDVDが沢山。

(明君は、これらのDVDを観て、空手に憧れたのかな。けど、ブルースリーのブームからは、年齢が若すぎると思うけど)

寝そべってテレビを見ている明に、洋子が

「ねえ、明君」

明は、テレビのリモコンの音量を消音にして半身を起こして

「何ですか」

洋子は、ブルースリーのDVDを手に持って

「ブルースリーに憧れて、明君は空手を始めたの」

「親が、いじめられっ子にならないようにと、空手道場へ連れて行ってくれたんです。

その時は、先に兄貴が習ってて。僕も最初、見学してたんですが、格好いいなぁと思って、そこで習い始めたんです」

「じゃあ、このDVDは?」

「それは、たまたま本屋で見掛けて買ったんです」

DVDを手に持ったまま洋子が

「そう。ねぇ、やっぱり毎週の防犯パトロールは、続けるつもり?」

明は、起き直して洋子に

「やっぱり洋子さんは、嫌なんですか」

「パトロールを明君がする事に、抵抗あるのは正直な話しよ。やっぱり明君のことが大切だし。明君に万一のことがあったりしたら私、生きてゆけなくなるもん」

「けど、まだ入籍してないから大丈夫ですよ」

洋子は、急に怒りだして

「何でこと言うの。まだ私のこと、わかってくれてないのね」

洋子が前掛け姿のまま外へ出てゆこうとするのを、明は玄関ドアの前で両手を広げて身体を張って洋子を止めて

「冗談です。冗談です。ほんとうにすいません」

ほんとうに平謝りで、明は洋子に何度も頭を下げた。

「明君は、まだ私のこと、わかってもらえてないみたいね」

「そんな事ないです。試してみたんです。洋子さんのことを」

「試すって。明君、言葉を選んでしゃべらないと、えらいことになるわよ。いくら正義感が強くって、ひとを助けたとしても言葉の暴力ってこともあるんだから」

「ほんとうなんです。真実です。僕の洋子さんに対する気持ちは」

「試すって、私に言っておいて、どういうことなの」

「洋子さんの心の中に、まだ以前付き合っていたひとがいないかと、試してみたんす。そして心底、洋子さんが怒ったのを見て、もう未練はないんだと思いました。すいませんでした」

明が、目をパチクリしてしゃべってる姿を見て

「わかったわ。けど、もうこれまでにしてね。でないと私、明君のこと、信じられなくなるから」

「はい、もう二度と言いません。絶対に。それだけ僕が、洋子さんを愛していることをわかってください。今、この瞬間も自分がすごく幸せな時間を過ごせていることが有難いと思っているんです。僕が寝そべってテレビを見ている、その横で洋子さんが前掛けをして部屋の掃除をしてくれている。こんな事、信じられないことなんです」

「わかったわ」

その夜、明と洋子はダブルベッドで、お互い背を向けたまま寝ていたが、何度も寝返りを打つ明の手を、洋子が握って

「明君、寝れないんでしょ。こっち向いて」

「はい」

明は、目をパチクリしながら洋子を見ると、洋子の方からキスをしてきて

「明君。明日、空手でしょ」

「はい」

「私も練習に連れてって」

「えっ」

明は、それこそ目をパチクリさせると、洋子が

「もっと明君のこと、知りたいの」

「洋子さんもされるんですか。空手を」

「体験くらい、してもいいでょ。明君がどんな練習してるか知りたいし、それに師範という方にも挨拶したいし」

明は、しばらく考えてから

「わかりました。空手道着は、僕のを貸しますよ。そして洋子さんは、僕が教えます」



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