第4話
明と洋子が一緒になって、早くも三ヶ月が過ぎ、二人が共に仕事を終えて帰宅し、夕食を取りながらテレビを見ていると、連続放火犯のニュースが流れてきた。
「毎晩、暑い日が続いています。今日で二週間連続の熱帯夜です。この街では、毎週金曜日放火魔による民家への無差別放火が1ヶ月連続で発生しており、警察は、躍起になって、放火魔を捜索しております」
と。すると、明の目が光った。明は
(今日は、金曜日やから明日は休みやし、少々の夜更かしは大丈夫)
明の目の色が変わったのを、認めた洋子は
「明君、行く気?」
「はい、ここからそんなに遠い街じゃないし。今日も、放火魔が現れそうな気がするんです」
「じゃあ私は、テレビでニュースを見ながら明君に、携帯を掛けるわ」
「はい、じゃあ」
と、明は老人からもらった薬を、呪い代わりに飲んで、出掛けようとすると、洋子が
「ちょつと待って。これ」
「何ですか」
「御守り」
「あっ、ありがとう」
明は、洋子からもらった御守りを、胸ポケットにしまい、右手にヘルメットを持って、出掛けた。時刻はすでに23時を廻っている。
明はまず、前回放火された現場の位置を確認した後
(そんなに離れた所では、次の放火はないやろ)
と、推理をしながらカブを走らせていると、時刻はすでに0時を廻っている。
(まだ、こんな時刻では放火魔は火をつけんやろ。けど物色はしてると思う。何処に放火するかを)
明は、あらかじめ放火魔のこれまでの行動と習性を調べている。普通、放火の動機は、怨恨、恨み、激しい怒りが原因となるが、現代型の放火は、住んでいるひとへの恨みではなく、社会全体への不満を晴らすだめだと。そして放火魔は、必ず現場に戻ってくると。
街は、夜が更けると共に、歩いているひとも少なくなる。初めて、明が捕らえたひったくり犯のように、無意識のうちにそれらしき人物を探している。しかし、明の視界に入る人たちは、酔っ払いばかりだ。やがて、時間の経過と共に歩いているひともいなくなり、しばらくカブを走らせていると、自転車をゆっくり走らせている人物と、すれ違った。深夜なのに、黒の目出し帽を被って、ライトも点けていない。
(こいつ、怪しい)
明は、目出し帽を被った男から離れた所でカブを止めて、男の後ろを付けることにした。いつその男が自転車を力一杯漕ぐかわからないので、カブのエンジンをかけたままで、押していく。
(カブを押してんのって、しんどいわ。腕から力が抜けていく)
明は、汗ビッショリだ。たまに立ち止まって、ヘルメットを脱いで汗を拭かないとフルフェイスのヘルメットが曇って、前が見えなくなってしまう。
一方、自転車の男は、相変わらず辺りをキョロキョロしている。
(これは絶対、放火魔や)
すると自転車は、急に速度を上げた。
(あっ)
と、明は急いでヘッドライトを消したカブに股がって自転車を追いかけた。アクセルを握る手が、汗で滑りそうだ。
(やっぱり、益々怪しい。絶対に見失わんぞ)
男は、脇道を熟知しているかのように、自転車を走らせてゆく。
(絶対、この近くに住んでる奴や。あまりにも道を知り過ぎてる。見失なわんようにせな。もうすぐやるぞ)
カブを走らせていても、フルフェイスのヘルメットでは、顔の汗は引きはせず。
(暑い。汗が目に入って、目がしみる。今、何時やろ)
明が時計を見ると、時刻は3時02分。
(あー、前の放火の時と同じくらいの時刻や。そろそろやるぞ。絶対、見失ったらあかん)
明は、五感に意識を集中した。
(空手で、組手をするときの意識や。集中、集中)
夜空をふと見ると、三日月が美しい。すると男が突然、自転車を止めた。そしてポケットからライターを取り出したので
(放火?)
と思ったら、男は胸ポケットからタバコを取り出して吸出した。
(えっ、タバコ)
明は、ガクッと。
その男の視線の先には、ガラス越しに写るシルエットの影。どうやら風呂場の女性のようだ。
(ひょっとしたら、こいつは覗きやったんか、残念)
明は、しばらくどうするか悩んだけれど、
(ここは我慢)
男は、タバコを吸ってふーっと一息吐いた後、また自転車を漕ぎ出した。そこで明は、洋子から言われた言葉を思い出して
「放火魔は、現場を押さえること。スマホで撮ったらいいわ。絶対に空手の技は使っては駄目。わかる?」
「・・」
「明君は、警察官じゃないんだからね。空手なんか技を使ったりしたら、暴行容疑で明君が捕まってしまうからね」
と。
明はそこで、警察に
「覗きがいますよ」
とスマホで一報を。
すぐその後、洋子から携帯が。電話にでると
「明君。放火魔は、捕まったわよ」
「えー、残念。了解、すぐ帰ります」
洋子の元へ帰りながら、明は
(あいつはただの覗きやったんかな?とにかく尾行は疲れるわ)
帰宅すると、洋子が寝ずに待っていてくれて
「お疲れ様、ハイ」
と言って、よく冷えた缶ビールを明に。汗まみれの手が、かじかむくらいに冷たい。
「ありがとう」
缶を開けて、ゴクッとビールを口にした明は
「旨い」
と、洋子に笑顔を向けると
「今日は残念だったわね」
明は、放火魔を捕まえられない悔しさもあったが
「いやぁ、覗きをしていたのがいたので、とりあえず警察には電話をしました。けど、自分の行為が少しても防犯に役立ってるとしたら、それはそれでいいのかなと」
「そうね。よしよし」
と、洋子は明の頭を撫でて
「お疲れ様でした。ご褒美に、私をプレゼントするわ」
と、洋子が明を見つめながら、ソファーに横になると、明は気付かなかったが、パジャマの下は、'スッポンポン。明は、目をパチクリしながら
「うーん、何よりのご褒美です」
明は、ソファーにいる洋子にもたれかかり、二人は激しくもつれ合った。
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