第3話
明は、洋子が帰ってしまった後、することもなくボーッと一日過ごしていた。部屋には洋子の残り香が。
(せっかく洋子さんが、酔ってたとはいえ、僕の家に来てくれたのに)
後悔しきりである。
(あーぁ、どうして僕はこうなんやろ)
と、頭をかきむしっていると、突然、マンションのエントランスのドアホーンが鳴って
(あれー、僕とこに来る客なんていないはずやのに)
と、明がモニターに出てみると、そこには沢山のビニール袋を持った洋子の姿が。
「えっ」
と、明は目をパチクリしながら
「・・・」
「ワ・タ・シ」
「はい」
明の声が、裏返っている。明は
(どうしたんですか)
と言おうとした言葉を飲み込んだ。
(もう何も言うことはない)
明は
「お帰り」
と言うと、洋子が
「ただいま」
と。そして明は、エレベーターのフロアまで走って洋子を迎えに行って、エレベーターを上がってきた洋子の、両手にあった荷物を持つと、洋子が
「ありがとう。もう私の家、片付けて来ちゃった。あと数回は行かなけりゃダメだけど」
「うん」
明は、何も言えない。
(洋子さん、帰ってきてくれたんだ。感動)
「今日の晩ご飯どうする?焼き肉買ってきたけど。ビールある?」
「は、はい。ビールだけは。けど、箸もコップも皿も全部、一人分しかないんです」
「買ってきたわよ」
と、洋子はビニール袋から、順番にテーブルの上に並べながら
「色は、私の好みで買っちゃったけど」
テーブルの上には、茶碗からガラスコップから箸からと、次から次へと出るわ出るわ。
(重かったんやろうな)
「重かったでしょ」
「ほんと重かった。けど、楽しかったわ。大下君と私、どんな色が似合うかなと、色々考えてると、楽しくって」
「どんな色が似合います?」
「見ての通りよ。私の独断と偏見で、ピンクにしたわ」
白のテーブルなのに、白色が見えない程テーブルの上は、ピンクの花が咲いたようだ。「帰って来てくれたってことは、防犯パトロールに行ってもいいということですか?」
「行ってもいいけど、週に一回で、私が行ってもいいと思う犯罪だけよ。大下君の身体が心配だから」
「はい」
「けど、夜中に防犯パトロールに行って、寝なくて大丈夫なの」
「それがですね。偶然、そこの商店街のそばで、チンピラから殴られている老人を助けたら、その薬をくれて」
洋子の前にテレビの下の戸棚から薬を出して
「その薬って?」
「寝なくても大丈夫な薬だと言って、その助けた老人から頂いたんですけど」
「その薬を飲んだのに、会社で寝ちゃったの」
「そうなんです。飲んだ時は、効いてると思ったんですけど」
「そんなの、気のせいよ」
「そうかもしれません」
「捨てちゃえば'」
「けど、せっかくの老人の好意なんで」
「じゃあ、私がその事は考えとくわ。それより、私と大下君の初夜よ。呑も呑も」
「そうですね。」
洋子に初夜と言われただけで、明の息子が頭をもたげる。
「着替えてくるわ。隣りで着替えていい」
「はい、勿論です」
「じゃあ」
と、洋子はビニール袋を持って隣りの部屋へ。待っているあいだ、明は手持ちぶさたであるが
(そうや、洋子さんが新しく買って来てくれた茶碗や箸を洗っとこ 。気分転換になるし)
と、明がキッチンで洗い物をしていると
「じゃあん」
と洋子が、ピンクのパジャマ姿で現れた。「ねぇ見て。このパジャマ、大下君とペアよ。大下君は、緑色」
「あっ、ありがとうございます。けど、洋子さんがその格好で目の前にいたら、落ち着かないなぁ」
「私を食べたくなったら、いつでも食べたらいいじゃない。それとも、今から食べる?」
「わー、食べます、食べます」
「うん、じゃあ私をベッドに連れてって」
と洋子が手を出すと、明は洋子と手を繋いで、ベッドのある隣りの部屋へ洋子をエスコートし、そして二人はベッドイン。
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