第2話

明が、洋子をタクシーの運転手に手づだってもらって、肩に担いでエレベーターに乗り、5階の明の部屋へ向かうあいだ、洋子は大人しく、明の肩に頭をもたれたまま。時刻は23時を廻っている。明は、エレベーターの中で洋子が倒れないように片手を脇に置いて支えているが

(重いけど、女性の身体って、柔らかい)

明の背中に、洋子のオッパイが。そこには、無防備の女性の身体が。

部屋に入って明のベッドに寝かせると、洋子が

「ここは、何処」

「大下明の家ですよ。おまえの家に泊めろと、言ったじゃないですか」

「えっ、これはいけない」

と、言いながらも洋子は、その場から離れぞうとせず、その気配をみせもしない。しかも泥酔状態のようで、明のベッドの上で大の字になってしまっている。

(さあ、どうしよう。とりあえず、靴下を脱がせて)

と明は思ったが、洋子はパンティストッキングなので、どうしょうかと躊躇していると、洋子は、さも自分の家でもあるかのように、どんどん着ているものを脱ぎ出した。

(えっ)

と、呆気にとらわれている明を無視するかのように。

そして、ブラジャーとパンティだけの姿になると、洋子は明の布団に潜り込んでしまった。

(僕、まだ洋子さんと約束した生尻、見せてもらってないんですけど)

無防備で寝ている洋子を見て

(今なら、洋子さんを食べれるけど)

と、明は思う。けど、ここで洋子の承諾を受けずに食べてしまうことは

(せっかく防犯パトロールをして、犯罪者を取り締まる仕事をしてるのに、ここで洋子さんを食べてしまったら、いくら洋子さん本人がいいと言ったとしても、酔ってたと言われたら元の木阿弥になってしまう)

明は、下着姿の洋子を見ながら、生唾を飲み込んで

(しゃあないわ。ベッドを占領されてしまったし)

と、グッとこらえて、ホットカーペットの上に寝ることに。


明くる日、明は慣れないホットカーペットの上で、もう5時には、目を覚ましてしまった。仕事は、土曜日なので休みなんだが。

(いやぁ、やっぱりベッドでないと床は硬いわ)

隣りの部屋で、洋子が熟睡中なのを確認してから、明は朝食を作ることに。

(昨日、準備してなかったから)

と、せっせと味噌汁とご飯に、洋子のためにハムエッグもプラスして、時刻は6時半。

明の茶碗は一人前しかないので、明はマグカップに味噌汁を、皿にご飯を乗せて。隣りの部屋で、まだ寝ている洋子に

「おはようございます。洋子さん、朝食できましたよ」

「うーん」

「洋子さん、おはようございます」

その声に、明のベッドで目覚めた洋子は、自分がブラジャーとパンティだけなのに気付いて、挨拶抜きで急いで毛布を身体に巻き付けながら

「おまえ、私を犯しただろ」

「えっ」

明は、目をパチクリさせて

「何を言ってるんですか。自分から勝手に脱いで寝たくせに」

「えー」

「えーじゃないですよ。僕に洋子さんの生尻を見せてくれると言っていながら、見せてくれずに、さっさと寝たくせに」

洋子は、しばらく考えてから、やっとわかったらしく、笑顔になって

「ごめん」

「わかってくれたならいいんです。そこにある僕のジャージを着て下さい」

「うん」

「朝食出来てますよ。僕の自慢の朝食です」

ジャージに着替えて、湯気のたったご飯と味噌汁を見て、洋子は

「へぇ、美味しそう」

「食べて下さい」

「うん、頂きます」

洋子が味噌汁を飲んでいる姿を、明はじっと見ていると

「美味しい」

と、洋子が明を見て微笑んだ。すると明は素直に

(嬉しい)

明は、自炊をしてはいるが、他人に食べてもらったことがなかったので、素直に喜びが。

けれど

「これって、インスタント?」

との洋子の一言に、明はガクッとなって

「えー、僕が作ったんですよ。早起きして」

「すごーい。これから毎朝、大下君が作ってくれるのね。私、引っ越してこようかな?」

「いいですよ」

(洋子さんは、失恋の痛みはもう癒えたのかな)

「うーん、考えとく」

と言った後で

「ね、私って魅力ないのかな」

「何故ですか」

「ブラジャーとパンティだけの女が、すぐそばに寝てたのに、何もしないなんて。ひょっとしたら大下君って、女に興味ないの」

箸を持ったままで、語っている洋子に

「ありますよ。勿論」

「じゃあ、何で私とエッチしなかったのよ」

(ややこしい女やな。さっきは、私を犯しただろって、怒ってたくせに)

「我慢したんですよ。我慢」

「まぁいいわ。味噌汁がぬるくなるから、食べる」

と言って、洋子は黙々と食べ出した。明も食事をしながら

(ややこしいとこが難点やけど、洋子さんと、いつもこんなふうに暮らせたら、幸せやろうなぁ。けど洋子さんと暮らせたとしたら、夜の防犯パトロールは出来るんやろか。危険やから、絶対にやめろと言われるに決まってる。そこが問題や)

と、思案顔の明を見て、洋子が

「何、考えてるの」

「いやぁ、これからの将来をどうしようかなと」

「そんな事、なるようにしかならないのよ。それより、私をここに置いてくれるの、くれないの」

「それも思案中でして」

「大下君って、結構悩んだりするのね。もっとスパッと決めるひとかと思ってた」

「実は僕って、優柔不断なんですよ」

「じゃあ、こうしましょ。私を今から食べちゃえばハッキリするでしょ」

「それも悩んでるんですよね。さっきから洋子さんの胸元が、気になってしかたないんですよ」

洋子は、あわてて胸元を両手で押さえてみると、ジャージのチャックが、半分ほどしか上がっていず、ブラジャーが明に見えていたのだ。

「じゃあ、勝手にすれば。私、ご飯食べたら帰る」

しばらく二人は黙々と食事をした後

「ごちそうさま」

と言って立ち上がった洋子に明が

「ま、待って下さい。ひとつ聞いていいですか」

「なに」

「男のひととは、キッパリ別れたんですか」

「別れたわよ。だから昨日、あんなに呑んだんじゃない」

「それじゃあ、僕と一緒になるのに条件が二つありまして」

「えっ、まさか前の女とは別れないとか?」

「違います。違います」

と、明は両手を顔の前で激しく振ってみせて

「実は、僕は空手をやってまして」

「えっ」

と、洋子は明の身体を上から下まで見た上で

「最近、習い出したの?」

「子供の頃からで、空手の先生をしてます」

「うそ。そんな事、今まで全然言わなかったじゃない」

「えぇ、会社のひとは誰も知りません」

「それで」

「空手を習うのを、継続させて欲しいのと」

「えっ、まだあるの」

「はい。実は、ここからが問題なんですが」

「社長の女と付き合ってるとか」

明は、ため息をついて

「なんで、そんな話しになるんかな。ちょっと女の話しは置いといてですね」

「うん」

「実は僕、真夜中の防犯パトロールをしていて」

「どんな?」

「つい先日、ひったくりの犯人が捕まったの、知ってます?洋子さんと呑みに行った日にあったニュース」

「あー、朝のニュースで見たわ。真夜中に110番があって、警察官が駆け付けたら犯人が二人、電気コードで縛られてたというの」

「それなんです」

「それって」

「僕が捕まえたんです」

洋子は、アハハと笑ってから

「冗談は、顔だけにしてよ」

「だから冗談じゃないですって」

洋子は、明をじっと見て

「ほんとう?」

「はい」

「だからあの日、仕事中に居眠りしたの」

「あれは、ちょつと話せば長くなるんですが、大まかのところはそんな感じです」

「・・・」

「ですから、真夜中の防犯パトロールをするのを、これからも許してくれるのなら、一緒になってもいいのかなと」

「けど、防犯パトロールって、とても危険なんでしょ」

「勿論です」

「何故、そんな事しようと思ったの」

「サンダーバードって知ってます?」

「あー、大阪から金沢まで行く特急電車ね」

「じゃなくて、ひとを助ける物語の」

「知ってる、知ってる。人形が演じるやつね」

「あれを子供の時に見て、ひとを助ける仕事に就きたいと思ったんですけど、警察官も消防士も落ちてしまって。それで洋子さんの会社に入ったんですけど、またひとを助ける仕事がしたくなって」

「よく話してくれたわね。けど、他人から見ると美談だけど、自分の彼氏となると他人事ではないから」

(洋子さんが、自分のことを、彼氏と言ってくれた。嬉しい)

「ちょっと考えさせて」

と、洋子は帰っていった。その後ろ姿を見ながら明は

(やっぱり防犯パトロールか、洋子さんか、と天秤に掛けて、洋子さんを取ったほうが良かったんとちゃうかな)

と、叉も明の優柔不断が、顔をのぞかせてしまった。






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