銃奏

刻堂元記

第1話

 怪しげな雰囲気を醸し出す夜の街。そこでは今日も、騒音を掻き消すような大きな音が鳴り響く。それは狂音に違いなかった。大地を揺らし、街を黙らせる殺意の銃声。それが2度ほど連続で聞こえたとき、楽しげな夜は、もうひとつの顔を見せた。


 犯罪の街。それがこの街の裏の顔だった。日中に感じたような、明るく陽気な街の姿はそこにはない。弱々しく光る街灯や、揺れてはためくスカートが、夜の危険さを物語っている。


 耳を塞ぎたくなるようなサイレン音が、どこかから近づき、またどこかに向かっていく。パトカーの向かう先は、他でもないとある場所。銃弾が放たれ、当たった先から血が吹き出したであろうあの現場。そこには何が落ちているのだろう。透明な袋に入った白い粉かもしれないし、火をつけるためのライターかもしれない。だが、たった2発で強い存在感を示した拳銃だけはないに違いない。誰が持ち去ったのか。それは考えるまでもなかった。


 一体、どれだけの血があの銃で流れたのかは誰も知りえない。事実として、銃の持ち主はよく変わる。逃走しては次へ、殺されては次と、何か理由があるたびに、持ち主が遷移され、その度ごとに銃を握った相手は声を出す。銃特有の金属の匂いと、こびりついて消えない血の匂いが、嫌な場面を想像させるらしい。何も、そんなことまで頭を働かせなくてもいいのに。そうした理性は遮断され、過去の出来事に過ぎない残酷な事実を、知らず知らずのうちに捏造するんだから、言ったところで止められない。


 それでも、夜の街に取り憑かれた存在は皆、銃声を耳にした。1発目の銃声が街の平和を脅かし、その余韻が消える前に、さらなる銃声が夜を駆け抜ける。それは、重なり合うように鼓膜を振動させる、まさに死の銃奏。だからこそ、その音からは遠ざかるという暗黙のルールを、街が長年かけて作り上げた。


 だが、誰もが逃げたわけではない。一部は、死の銃奏に惹かれて、好奇心の赴くまま近づこうとした。しかし、銃声が奏でるメロディーは、聞かせるためのモノではない。したがって、銃声が作る音楽は突如として、その終わりを告げた。恐怖する街。静まった街。その街が平和の再来を確信することで、街はいつもの活気を少しずつ、取り戻していった。


 何が起こっていたのだろうか。それすら忘れてしまうほどの喧騒は、夜が深くなるにつれ盛り上がっていく街と、自然に調和していく。だとしても街が、鳴り響いた狂音のリズムを忘れることはない。それが銃声である限り、死を伴う記憶として街のどこかで残り続けることは、必然的な流れとなり得る。

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