託された者達
第60話 思いは託され、未来へ繋ぐ
あれから数日後。
鬼に関する事件は、大陸没戦と呼ばれ大陸に広がる。
更に、海を超えて他の全ての大陸へと広がっていく。
その惨劇の事件を知らない者は、もはや誰もいないだろう。
ギルドハンター本部。
ストロークにアルハイクが報告する。
「生き残った者から被害を聞き取っている。」
「助かったのは、ほんの僅かか。」
「知り合いの村の住人が一人もいないとの報告もあります。被害は相当なものかと。」
村そのものといった規模のものが犠牲になったとの事だ。
それがいくつもあったと考えると、もはや相当なものではすまないだろう。
「それともうひとつ。被害者の受け入れを他の大陸が受け入れてくれました。」
「それは良かった。早く鬼から離れたいと思うものも多いだろうから。」
避難民達は、あれだけの経験をしたのだ。
その原因がいる場所にいたくないと思うのは当然だろう。
それらの受け入れとして、他の大陸が応えたようだ。
「本当なら、ギルド長の私が担当しなくてはいけないんですけどね。」
「仕方ないですよ。エリア鬼の監視という重要な役目があるんですか。」
鬼を隔離した場所をエリアと指定し監視する。
そこの長に、ストロークが就任する。
なので、ハンターギルドの仕事をこなす事が出来ないのだ。
「でも、あなたも娘の事があるでしょう? そんな時に、全てを押し付けるというのは申し訳ないです。」
「なんとかしますよ。ストロークさんはギルド長としての仕事に専念して下さい。」
「そうですか。では、任せますね。いや、任せるぞ。うーん、慣れませんね。」
ギルド長として、威厳のある振る舞いをするが慣れないようだ。
照れくさそうにするストロークを見てアルハイクが笑う。
「ふふっ、良いじゃないですか? あってると思いますよ。」
「そうですか? …そうか? やっぱり駄目だなぁ。」
「まぁ、その内、慣れると思いますよ。」
「そうだと良いんですけ…が。」
慣れない様子が口調に出るようだ。
慣れ親しんだ言い方を変えるのは、大変になるだろう。
時間をかけていくしかない。
「だけど、娘さんが塞ぎ込んでるならあの話も無理そうですかね?」
「いいえ、大丈夫ですよ。適任に任せましたので。」
「適任?」
「えぇ。だから、心配は必要ありません。あぁ見えて、うちの娘は強いですからね。」
自信満々に答えるアルハイク。
心配をしなくてもいいと伝えるように。
そして、自分の娘へと想いを馳せる。
そのレベリアラは、自宅の自室にいた。
全身が隠れるように丸まり布団を被っている。
(邪魔だっ、どけっ! 邪魔するなら殺すっ!)
(あははっ、あれ、何まで刺して。ま、いっか! あははははは。)
(止めてっ! パパっ!)
(殺してる。家族を殺してるううぅぅぅ。楽しいなあああぁぁぁっ!)
争う避難民達。
笑いながら、泣きながら、大事な人と殺し合う。
その中からこちらへと手を伸ばす者がいる。
(待ってくれぇぇぇぇっ。)
助けを求めているが、それらから遠ざかっていく。
そこへと、レベリアラが手を伸ばす。
だが、手を伸ばす避難民をは巨大なものに踏み潰されてしまう。
(あっ・・・あ・・・。)
「ああああああああああああああああああっ!」
レベリアラは、手を伸ばしたまま起き上がる。
髪はボサボサ、目にはくまが出来ており、頬が痩せ細っている。
その目には、生気がない。
「はぁ、はぁ。」
肩で息をしている。
疲れている訳ではない。
しかし、息苦しい。
「………。」
そして、うつむいたまま静止する。
脳裏に浮かぶのは、あの時の光景。
あの日からずっとこうなのだ。
眠りも出来ないし、ご飯も喉を通らない。
そして、あの時の光景を浮かべて大きな声で叫ぶ。
これの繰り返し。
あの惨劇が、目に、心に、深く刻まれているのだ。
その時、部屋の扉が叩かれる。
「レベ? いますよね?」
扉の向こうからトーパの声がする。
どうやら、扉の向こうにいるようだ。
返事を待たずに、扉にもたれるトーパ。
「報告があって来ました。実は先程、アルカルンの学校に受かったと知らせがありました。」
優しく語りかけるように話すトーパ。
返事はない。
でも、いることは知っている。
なので、構わず続ける。
「貴方が応援してくれたおかげです。ありがとうございます。それだけは、どうしても言いたくて。」
受かったのは、レベリアラのお陰でもある。
だからこうして伝えたかったのだが…。
それでも、レベリアラの反応はない。
目閉じたトーパは、仕方ないとばかりに息を吐く。
「実はですね、もう一つ用件がありまして。貴方にお届けものがあるんです。貴方の同士を名乗る方からだそうです。と言っても、会ってくれないでしょうから、ここに置いときますね。」
手に持っていた物を、廊下に置くトーパ。
そして、部屋の扉を見る。
正確には、その奥にいる人物へと。
「レベ、私は先に進みます。私には叶えたい夢があるので。」
トーパには、トーパのするべき事がある。
立ち止まる友を残してでもするべき事が。
「だから…さようなら。」
そう言い残し、トーパは去る。
残る友を残して、夢へと進む。
「トーパ?」
そして、それを聞いたレベリアラが布団をはねのける。
残される焦燥感から、無意識にベッドから飛び降りる。
「トーパ!」
勢いよくベッドから降りると、倒れ込むように扉を開け飛び出した。
しかし、もうそこにトーパはいない。
「…。」
丁度、曲がった所だろうか。
その曲がり角を見つめるレベリアラ。
追いかけたとして、何をすればいいか分からないのだ。
仕方なく部屋に戻ろうとすると、下にあるものに気づく。
「?」
そこにあったのは、上に二枚の封筒が乗った薄汚れたファイル。
それと、盆の上に乗ったパン。
しゃがんだレベリアラは、封筒とファイルを手に取る。
「…。」
何も書かれていない二枚の封筒。
手前にあるのを開けると、中から折り畳まれた紙が出てくる。
その紙を開くと、そこには綺麗な字で文字が書かれていた。
その最初の一文に、レベリアラが目を通す。
『私はストローク。先日、ハンターギルドの長に着いた者だ。』
どうやら、ストロークからの手紙のようだ。
『急な手紙で驚いた事だろう。君の現状は聞いている。同じ痛みを知っている者として、その気持ちは分かる。辛かったよな。苦しかったよな。私も同じだ。』
ストロークもまた、一連の騒動の傷がある。
だから、レベリアラの気持ちが分かるのだ。
『でも、それ以上に悔しいんだ。何も出来ずに生き残った自分が悔しくてたまらない。君もそうだろうか。もし同じ気持ちなら、もう一枚の封筒を開けてくれ。』
ストロークは、辛い気持ちより悔しさの方が勝ったのだ。
では、レベリアラはどうだろうか。
何度も甦る、あの時の光景。
本当に、辛さだけで見ているものだろうか。
(私は…。)
皆を助けたかったから、手を伸ばし続けた。
なのに、助けられなかった。
今でもあの光景を見るのは、後悔をしているからだろう。
何も出来なかった自分に。
(そう、私もだ。)
自分だって悔しいのだ。
ストロークと同じだ。
それに気づいたレベリアラは、もう一枚の封筒を開ける。
そこには、一枚の紙があった。
そこに書かれていたものは…。
「アルカルン、特別入学許可証。えっ。」
何度見返しても、そう書かれている。
その下には、レベリアラの名前が書かれてある。
「私が? どうして?」
そこには、アルカルンの印も押されている。
正真正銘、レベリアラの入学を許可する証明書だ。
どういう事かを確かるべく、ストロークの手紙へと戻る。
『我々は、鬼を隔離した場所をエリアと特定し監視している。そのお陰で、鬼達は大人しく過ごしている。小競り合いが度々起きている。そして、それに煽られた元々あったエリアから飛び出したモンスターがこちらへと襲いに来る毎日だ。』
大陸が崩壊する程のものはないが、争い自体はあるようだ。
しかも、争いだけではすまない。
五の地区のエリアにいたモンスターが、争いから逃げるように動いているらしい。
『それどころか、鬼がこちらに来る可能性もあるだろう。それらを止めるには、知識が必要だ。だが、そんなものは戦うことしか出来ない我々には存在しない。』
戦う力だけでは、どうにもならない事だ。
専門の知識が無ければ、対処のしようがない。
『そこで私は、君の事を思い出した。あの時、鬼へと唯一抵抗できたのは君だけだ。その知識を貸してほしい。でも、君はまだ若い。必要な学びも多いだろう。』
あの時、鬼達を止めたのはレベリアラだけ。
誰よりも、鬼を止める知識は豊富だろう。
それでも、本格的な知識に関しては素人なのだ。
『だから私は、学園都市であるアルカルンへと君の入学を願い出た。最初は断られたが、君の功績を説明したら受け入れて貰えたよ。本来はありえないけど例外だって。』
レベリアラでは、年齢が足りない。
入学するのに必要な試験も受けていない。
それでも、入学に足り得る人物と判断されたのだ。
『封筒と共に、ファイルを渡してあるはずだ。それは、我々が託されたもの。そして、未来へと繋ぐ為のものだ。それを、君に託そうと思う。』
薄汚れたファイルを見るレベリアラ。
表には、血が乾いたような文字が書かれている。
事件が発生した地から、ここまで届けられた例のファイルだ。
『しかし、これは強制ではない。君が嫌だと言うなら、素直に諦めるつもりだ。でも、もし私と同じ気持ちを持っているなら、共に戦って欲しい。同じ痛みを知る者として。』
ストロークは、レベリアラの事を子供と見ない。
同じ経験をし、同じ気持ちを知る同士。
肩を並べるに相応しい者として見ているのだ。
『共に戦おう。同士よ。』
文章の最後に、その一言が記されていた。
それを見たレベリアラの目に生気が戻ってくる。
そして、空腹がレベリアラを襲う。
すかさず、盆の上のパンを取りかじりつく。
すると、激しい辛さが舌を襲う。
「ぐっ。何これ、からし?」
パンに挟まれている野菜の間に大量のからしが塗られてあるのが見える。
そして、その端に一枚の畳まれた紙が挟まれているのが見える。
それを取り出して見てみると…。
『一緒に頑張りましょう。』
そう一言だけ書かれていた。
見慣れたトーパの文字だ。
「あんのやろう。」
トーパには全てお見通しのようだ。
その悔しさから、残りのパンを一気に食べる。
「くうーーーーーっ。足りないっ!」
からしの痛みに耐えつつも、もう一つのパンを食べる。
すると、更なる痛みに襲われる。
しかし、こんなのじゃあお腹は満たされない。
そう思うと、レベリアラが駆け出した。
「お母様! お腹すいたわ! 何か作って!」
屋敷にレベリアラの声が響き渡る。
その声は、外に出たトーパにも届く。
「それで良いんですよ。貴方はいつだって挑戦するのが大好きな子なんですから。」
そう言いながら、トーパは微笑みながら屋敷から立ち去る。
それからレベリアラは、アルカルンへと入学した。
共に学ぶものと知識を身に着けていく。
そうして月日は流れる。
レベリアラが入学してから二年後、とある施設に一台の竜車が着く。
「ギルド長! 新人が到着しました!」
「よし! 番号順に並べ!」
ギルド長の指示で、新人達が並んでいく。
そして、順に名前が呼ばれていく。
呼ばれた新人が返事を返す。
そうして、ギルド長が最後の人物の前に出る。
「レベリアラ!」
「はい!」
そこにいたのは、ギルドハンターの職員の制服を着たレベリアラ。
今までの新人通りに返事を返す。
それを見たギルド長の口元が綻ぶ。
「よく来てくれたな。同士よ。」
こうして、エリア鬼の支援施設の一員となったのだった。
レベリアラの主な担当は、施設に張る罠の製作だ。
罠で襲い来るモンスターを止めたり、暴れそうになる鬼を止めたりと貢献していく。
そうした事により、施設の指揮の補佐を任せられるようにまで成長する。
そうして、鬼が寿命で死ぬまで戦い続けるのだった。
それから三年後の事だ。
『鬼を倒す事にしたから。』
「は?」
『じゃあ、よろしく。レベリアラ。』
「ちょっ。え?」
一方的に伝えてきて通話が切れる。
通話の相手は、アルカルンで知り合った相手だ。
それを聞いたレベリアラが、受話器を握りしめる。
「一! 方! 通! 行! 説明をしろーーーーーーっ!」
レベリアラの怒号が施設に響き渡る。
そこにいたものが、驚いてレベリアラを見る。
そして、ギルド長が様子を見に来る。
「ど、ど、どうしたんだ? レベリアラ。」
「知り合いぶっ飛ばしてくわ。ちょっと休暇を貰うわね。」
「え、ええっ。」
事情を聞くために、レベリアラがアルカルンへと戻っていく。
更に、そこから王都へと向かい事情を聞く。
本来は、寿命が尽きるまで見守るはずだった。
しかし、そうも言ってはいられない理由が出来てしまう。
レベリアラが戻って来たのは、それから数日後。
「こちら監視リーダー。エリア鬼の様子は?」
『問題なし。いつでもどうぞ。』
「分かったわ。私が留守の間よろしくね。」
『了解。』
通信機を切るレベリアラ。
そして、横にある竜車の通信機に繋げる。
すると、その通信機から声が返ってくる。
『こちら竜車。感度良好。』
「こっちも良好よ。通信機に問題は無し。」
通信機の調子を確かめているようだ。
音質を確認して電波の状況を確かめる。
「準備は良いかしら?」
『問題なしよ。合図はそちらに任せるわ。』
「分かったわ。じゃあ、出撃よ。」
竜車が動き出す。
その横の自走船も動き出す。
その後ろに、複数の小型の船が着いてくる。
そうして、エリア鬼へと入っていく。
エリア鬼が生まれて五年後、とあるハンターチームによって鬼は討たれた。
その話は、別の物語にて。
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