第58話 誘導作戦開始
救出班と誘導班に別れる。
四台の自走船と、その間に小竜。
鬼達が暴れる六の地区を目指す。
「戻って来たな。ん? あれは?」
その際、自走船が避難民を乗せた荷台を引くのが複数見える。
しかも、荷台の後ろには荷台を繋げて引っ張っている。
「なるほどな。自走船の力ならまとめて引けるという事か。」
「えぇ、商業ギルドの入れ知恵よっ。」
「まあな。引くものはともかく、荷台なら山ほどあるからよっ。気に入ってくれて何よりだぜ。」
ベージュとジェネルによると、商業ギルドの案のようだ。
自走船の力は、小竜や馬よりも遥かに上だ。
一台の自走船なら、余った複数の荷台を残さず全て引けるという事だ。
その光景に感心していると、新たに地面が崩れる音がする。
「暴れてるな。ここまで暴れてまだ暴れ足りないか。」
ギルド長が音のする方を見る。
遠くても聞こえるほどの音だ。
相当暴れているのが分かる。
「いいか? 俺達の役目は誘導だ。とにかく、避難民の下へはいかせるな。」
「了解だ。小回りが必要な時は任せてくれ。」
小竜の上からユグリスが答える。
ユグリスが小竜に乗っているのは、自走船では足りない機動性を補う為だ。
動きな機敏な鬼達とやりあうには必要となる。
「爺さん、運転の方はどうだ? 本番になって出来ないのは勘弁だぞ?」
「問題ない。ようは、奴等の周りをうろちょろすれば良い訳だろう? 任せたまえ。」
自信満々にルーベンシャが答える。
初めての運転でも、難なくこなせているようだ。
これなら、鬼達の誘導も問題はないだろう。
「よし。では、このまま突っ込むぞ!」
準備は完璧だ。
一同は、鬼達へと進んでいく。
しかし、そこは地獄だった。
狂った人間が鬼へと向かい、そのまま吹き飛ばされる。
それらの人間が雨のように降り注ぐ。
その一部が、自走船へと降り注ぐ。
「と、止まれっ!」
それを見た自走船が止まる。
そのお陰で回避する。
目の前に、落ちてくる。
「どうする!」
「引き離すしかないだろう!」
「でも、もうこいつらは助からねぇぞ!」
「それでも守るのが俺達だ!」
どのような状況だろうが関係はない。
人がモンスターに襲われていたら助ける。
ただそれだけだ。
ギルド長が自走船を発進させる。
「どうなっても知らねぇぞ?」
他の自走船もまたそれを追いかける。
そして、迂回するように鬼達へと接近する。
「ははっ。こいつに何を言っても言っても無駄だ?」
「えぇ、一度決めたら最後までこなすと聞いてるわ。流石ね。」
ルーベンシャの言葉を、ジェネルが補完する。
同じハンターギルド同士、ギルド長の事は知れ渡っているのだろう。
それを聞いたガルシアが笑う。
「投げ出すのは嫌いなだけさっ。」
ガルシアが自走船の速度を上げる。
そんな話をしている間にも、鬼達の背後へ回り込む。
「さぁ、始めようか。頼んだぞっ!」
「分かったっ!」
避難民を襲う鬼達へと、ユグリスが袋を投げる。
飛んだ袋は空中で燃え上がり、鬼達の間へと落ちる。
すると、そこから油が燃える臭いが広がる。
広がった臭いは鬼達へと届くと、臭いの下を見る。
「反応あり。やはり、気にしてしまうようだな。」
その臭いの事を、完全に苦手なものと覚えたようだ。
そんな鬼達へと、更にユグリスが袋を投げる。
すると、鬼達が自走船に気づく。
「こっちを見たな。さぁ、始まりだ。」
自走船が動くと、鬼達が追ってくる。
一瞬で距離を詰められる。
それから自走船が必死に逃げる。
「随分と嫌われてるなっ。」
「散々、邪魔してやったからなっ。無理もないっ。」
幾度と、鬼達と戦ってきたのだ。
敵と認識されても無理はないだろう。
「でも、そのお陰で引き付けられている。」
「あぁ、無駄では無かったな。っと、来るぞ!」
敵視されているからこそ、引き付けられるのだ。
鬼達が跳びかかってくるのに、ルーベンシャが気づく。
自走船へと鬼が落ちてくる。
「これを待っていたっ! 展開せよ!」
ガルシアの指示で、自走船が四方に避ける。
すると、そこに飛び込んだ鬼達が衝突する。
「決まったっ!」
衝突した鬼達が争い出す。
こうなるように誘導したのだ。
しかし、それでは終わらない。
「させるかっ。」
争えば、また地面が崩れてしまう。
それを止めるべく、ベージュの乗る自走船が草食鬼竜へと突っ込む。
すると、争いを止めて自走船を見るが…。
「見ている場合かっ?」
目を離した隙に、鬼がしらの拳が襲いかかる。
それを受けた草食鬼竜が、鬼がしらに突っ込む。
それにあわせて、鬼がしらが拳を振り上げるが…。
「そこよっ!」
ジェネルが乗る自走船が鬼がしらへと突っ込む。
そして、そのまま前へと倒れた鬼がしらに草食鬼竜の突進が直撃する。
吹き飛んだ鬼がしらは、遅れてきた水鬼竜の上へと落ちる。
それを水鬼竜が払うと、突っ込んできた鬼鳥竜を掴んだ鬼がしらが叩き込み返す。
こうして、鬼達の戦いが再開されるが…。
「させないと言っている!」
争う鬼へと、自走船が突っ込んで邪魔をする。
それに対処しようとする鬼に、他の鬼が攻撃する。
そうして始まった鬼同士の戦いを、また自走船が止める。
「深入りをするなよ! 邪魔をするだけだ!」
「分かってるさ。」
あくまで、軽く小突いて戦いを邪魔するだけだ。
小突いた後は、すぐに離れて鬼達から逃れる。
それの繰り返し。
これこそが、ガルシア達の狙いだ。
「おらおらこっちだ!」
再び小突いて邪魔をする。
それに対処しようにも、他の鬼に邪魔をされてしまう。
そのせいで、本気で動く事が出来ないのだ。
「鬼を止められるのは鬼だけ。あの嬢ちゃんが教えてくれた事だっ。最大限に利用させてもらう!」
鬼への有効な手を持つのは鬼だけ。
レベリアラの罠から学んだ事だ。
それを活かしての、今回の作戦なのだ。
「もう一度!」
鬼達を争わせないし、こちらを襲わせはしない。
それを繰り返していると、鬼がしらが高く跳び上がった。
「退避!」
「分かってらあっ!」
何度目かの跳躍だ。
予測できない訳がない。
全速力で、中心地点から脱出する。
その直後、鬼がしらが落下する。
「ぐうっ」
激しい衝撃が辺りに広がる。
そして、大地に花が咲くように地面が浮かび上がる。
しかし、巻き込まれたのは鬼だけだ。
「無事か!」
「問題ねぇ!!」
少し揺れたものの、自走船に影響はない。
無事回避できたと言っても良いだろう。
ただ、大地の方は違うようだ。
ずしーーーーーーーん。
先程の攻撃で、地面がひび割れていく。
更に、ひび割れた場所へと地面が沈んでいく。
それから逃れるように、自走船と小竜が移動する。
「ねぇ、崩れるの早くないかしらっ?」
「あぁ。一撃の威力じゃねぇぞっ。」
ジェネルとベージュが崩れる地面を見る。
たったの一撃の筈だ。
それで崩れるほど、柔らかな地面ではない筈だ。
しかし、その理由は考えるまでもない。
「一撃ではない。散々暴れてくれたのだ。がたが来ててもおかしくはない。」
ガルシアの言葉通り、鬼の攻撃は幾度として行われている。
その度に、大地全体にダメージが広がっているのだ。
もはや、些細な一撃でも崩れてしまっても不思議ではない。
その事実に、ルーベンシャが目を細める。
「作戦には、広い場所が必要なのではないのか?」
「そうだ。だから、これ以上暴れさせるてはならんのだが。」
作戦の前提に、広い場所が必要なのである。
これ以上の崩壊は、作戦に影響があるだろう。
だからと言って、止まる相手ではない。
吹き飛んだ鬼達が立ち上がっていく。
「考えている暇は無いわよ!」
「仕方あるまい。少し早いが次へと移行する! 引き付けながら上へ向かうぞ!」
「「「「了解!」」」」
このまま戦っても、更なる崩壊を生むだけだ。
ガルシアの指示で、崩れる地面から逃れるように走り出す。
そして、同じく鬼達も動き出す。
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