第57話 認定証
空は暗くなり初めている。
二日目の夜に差し掛かろうとしているようだ。
そんな中、ガルシアの指示で職員が自走船に燃料を積んでいる。
「四台は必要だから残して置くように。」
「了解です。」
四台の自走船は、鬼達の誘導に使うので残しておく必要がある。
なので、それ以外の自走船へとハンター達が集まってくる。
それらを主導しているハンターに、ガルシアが話しかける。
「頼んだぞ。一人でも多く救ってやってくれ。」
「当然だ。それぐらいしか出来ないのが申し訳ないけどな。」
「それで充分さ。」
握手を交わした後、ハンターの男が仲間への指揮へと戻る。
それを確認したストロークが、ガルシアに報告する。
「一通り済みました。」
「あぁ。後は、お前の出番だ。しっかりと誘導してくれよ?」
「はい。」
現場で避難民を守るのは、ハンターとその職員の仕事。
それらを指揮するのは、ストロークの仕事だ。
「アルハイクはどうしてる?」
「娘さんにつかせてますよ。心配でしょうからね。」
「そうだな。それがいい。」
レベリアラは、先程から塞ぎ込んでいる。
父親であるアルハイクが必要と判断したのだろう。
それもあって、ストロークが一人で事に当たっているのだ
「では、私も出発の準備に取りかかりますね。」
「いや、その前にしておかなくてはならない事がある。」
「しておかなくてはならない事ですか?」
自走船へと向かうストロークをガルシアが止める。
どうやら、大事な話があるようだ。
そう言うと、振り向いたストロークへと丸められた紙を渡す。
「これは?」
「見れば分かる。」
「はぁ。」
ガルシアの言葉通り、丸められた紙を開いてそれを見る。
そこには、広い紙の真ん中に手書きで小さく何かが書かれている。
「ストローク。右のものをギルド長に認定する。これって。」
「書いてあるとおりだ。」
ギルド長への認定証。
つまり、次期ギルド長にストロークを認定するものだ。
「決定事項ですか?」
「そうだ。拒否権は無いぞ?」
「でしょうね。」
それを聞いたストロークは呆れる。
渡した時点で、すでに決まっているようなものだ。
ほぼ命令に近いだろう。
「勝手ですね。相変わらず。」
「おいおい、普通は喜ぶものだろう?」
「押し付けられる身になって下さいよ。まったく。」
これからは、ギルドの再建といった後始末が待っている。
要するに、それらのものを全てストロークに押し付けるという事だ。
だが、呆れるストロークを見てガルシアが笑う。
「はっはっはっ。お前さんを信頼しての事だ。やってくれるって信じている。」
「本当に勝手なんですから。」
そう呆れつつも、ストロークは笑っている。
ギルド長とギルドマスター。
付き合いは、二人が一番長いだろう。
だから、嘘偽りがない言葉だと分かっているのだ。
「…行っちゃうんですね。ギルド長。」
「まあな。奴等を止める最後の機会だ。逃すような事はしないさ。」
散々苦しめられた鬼達を止められる最後の機会だ。
しかし、それはこちらの命と引き換えにして行うもの。
そのような事を、他の職員に任せる訳にはいかない。
「お別れ…ですね。」
「あぁ。お別れだな。」
それだけ言うと、二人は黙り込んでしまう。
そして、お互いの顔を黙って見続ける。
その目は、なんだか悲しそうだ。
「すまないとは…思っている。」
沈黙を破ったのは、ガルシアだ。
申し訳なさそうに言い淀む。
「でも、こうするしかないんだ。」
ガルシア自身も分かっているのだ。
全てを押し付けてしまう無責任さを。
「俺は…。」
「希望を願う心に不可能はない。ですよね?」
言葉を遮るように、ストロークが呟く。
それは、ガルシアの口癖だ。
「大丈夫ですよ。あなたの教えは、全てここにあります。」
そう言って、自身の胸に拳を当てる。
仕事に励むガルシアの姿。
誰よりも近くで、その姿を見てきたのだ。
「ちゃんと伝わってますよ。だから、安心して任せて下さい。」
だから、大丈夫だと。
やって見せると。
そうガルシアに伝える。
「それよりも、心配なのは貴方の方です。張り切りすぎて、空回りしないで下さいね?」
他人の事よりも、自分の心配をしろとの事だ。
作戦に失敗しては、意味が無くなるのだから。
それを聞いたガルシアが吹き出す。
「ふっ、ははっ。俺を誰だと思っている。モンスターの扱いなら誰よりも心得ているさ。」
「本当ですか? そうやって乗り気な時は、いつだって空回るんですから。」
「言いよるな。それで上手くいった事だってあるだろう。」
「「ふっ、あははははははっ。」」
今度は二人して笑い合う。
そうして、楽しそうに昔の事を思い出す。
共に過ごしたあの時を。
だからこそ分かるのだ。
信頼しているのはお互いだと。
「ハンターギルドの事は任せたぞ?」
「えぇ、大丈夫ですよ。だって…」
「「希望を願う心に不可能はない。」」
「だからな。」「だからですね。」
二人の顔には、もう悲しさはない。
未来を作るのは希望。
それさえある限りずっと続く。
だからもう、大丈夫なのだ。
「では、そろそろ爺さんのとこにいかなきゃな。」
「えぇ。では、最後の仕上げといきましょうか。」
そう言って、二人は別れる。
振りかえる事はない。
「あんたは、最高の上司だよ。」
心の中でそう呟くストローク。
伝える気はない。
そもそも、その必要はないだろう。
そのまま二人は、自分の持ち場へと戻っていく。
それからしばらくして、それぞれの準備が終わる。
いつでも乗り込めるように、自走船へと各自別れていく。
その前に、ガルシアとルーベンシャが立つ。
「これが最後の戦いだ。これを逃すと、今度こそ我々の敗北だ。気を引き締めてかかってくれ。それと、ストローク。これを。」
ストロークを呼んだガルシアは、ファイルを手渡す。
それは、ベージュによって持ち運ばれた例のファイルだ。
「今までのに加えて、新たに集めた情報も入っている。無事、持ち帰ってくれ。」
「了解、必ず持ち帰ります。」
ストロークがファイルを手渡す。
新たな情報とは、ガルシア達が経験した戦いの情報だ。
今までになかった情報を、職員に書かせて集めたものだ。
「では、私からも言わせて貰おうか。」
ファイルを手渡している間に、ルーベンシャが前に出る。
「お主達は一人ではない。国が続く限り我々は一つだ。いつだって共にいるのだよ。王家の家族も、全ての国民もな。お前達の後ろには、我らが国がある。」
国がある限り、その関係者は一つの存在なのだ。
命が散ろうとも関係ない。
それが、王国というものだ。
「だから、忘れないでほしい。君達は一人じゃないと。共に歩む者達がいることを。その為にも、共にこの国を守ろうじゃないか。」
「「「おーーーーーっ!」」」
その場に歓声が上がる。
職員もハンターも、一つとなって声を上げる。
気持ちが一つに繋がる。
「良いこと言うじゃないか。」
「ふっ。元とはいえ国王だからな。それっぽい事を言っても許されるだろう?」
からかうガルシアに、ルーベンシャが笑って答える。
しかし、それで気持ちが一つになったのだから言った意味はあるのだろう。
そう気持ちを通わせている時だった。
ずしーーーーーーーん。
今はまだ小さいが、大地が崩れる音が聞こえてくる。
その原因は、言わずとも分かるだろう。
「来たか。そろそろ準備に入ってくれ!」
ガルシアの指示で、一同が自走船へと乗り込んでいく。
その際、ルーベンシャがレベリアラの場所へと向かう。
「調子はどうだい?」
「…。」
レベリアラに語りかけるも俯いたままだ。
そのレベリアラの頭を、ルーベンシャが優しく撫でる。
「その悲しさは、誰かを思いやれる優しさからきているものだ。大事にするんだよ?」
「…はい。」
目を擦り涙を拭うレベリアラ。
そして、ルーベンシャの笑顔につられて小さく笑う。
「ふっ。やはり、レベリアラ嬢は笑顔が似合う。では、今度こそお別れだ。」
「はい。…さようなら。」
「うむ、さようならだ。」
今度こそ、本当のお別れになるだろう。
最後の別れを済ます二人。
そして、レベリアラから手を離すと横に立つアルハイクを見る。
「しっかり守ってやるんだぞ?」
「勿論です。さようなら。」
「さようならだ。」
アルハイクの言葉に、満足そうに頷くルーベンシャ。
そして、ガルシアの場所へと戻っていく。
そうしている間にも、全員が自走船に乗り込んでいく。
「準備は出来たな? では、出発!」
大地が崩れる音は、まだしている。
鬼達は、すぐそこまで来ているようだ。
ガルシアの最後の指示に、自走船が最後の戦いへと向かう。
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