第56話 大陸分断エリア化作戦s
「寿命…ですか?」
「馬鹿げている、そんなに待っていられる訳がないだろう。」
鬼達をを止める方法は、寿命まで待つというものだ。
しかし、今もこうして犠牲者は出ている。
準備を待つ時間などある訳がない。
しかし、ベージュが二人を止める。
「そういう事は、次の紙を見てから言ってくれ。」
「次だと?」
ベージュに促されるまま、ガルシアが紙を捲る。
そこには、幾つかの数字が書かれていた。
そして、今までと同じ筆跡の文字も書かれている。
「鬼達の力は強大だ。しかし、それだけであのような破壊力が出せるとは思えない。では、何故あのような力が出せているのか。その原因は、体にかかっているリミッターが外れているからと予測する。」
「リミッター。生き物が、限界を超えて動かないように体を制御するもの。ですね。」
説明を付け加えるアルハイク。
ほとんどの生き物は、限界を超えた力を出し続ければ肉体が傷ついてしまうもの。
そうならないように、その力を無意識に抑える機能が備わっている。
それが、リミッターだ。
「原因はさだかではない。だが、常にリミッターが外れているとすれば、あの破壊力にも頷ける。」
大地をごと砕いてしまうような、圧倒的な破壊力。
それらは、常に限界を超えた力を出している事により生まれたもの。
そう考えれば、その鬼達の異常な力にも納得は出来る。
「しかし、そのような力をなんの代償もなく出せているとは思えない。必ず、何かしらの犠牲を払っているのは間違いないだろう。…それが寿命という訳か。」
「でしょうね。私も同じ意見です。」
問題があるから、それを制する働きがあるのだ。
それを無視すれば、何かしらの問題が起きるのは当然の事だ。
それが寿命という事だろう。
「あくまで私の推測だが、残り十数年の所から、残り半分近くには減っているだろうと考える。しかし、それを待つ余裕はない。…だから困っているんだがな。」
結局は、時間の問題である。
今すぐに解決したいのに、数年後の話をされても困るだけだ。
疑問を残しつつも最後の文字を読む。
「ここからが本題だ。しかし、ここからは一つの提案に過ぎない。採用するかしないかは任せるつもりだ。それでも良いのなら、次の紙にいって欲しい…か。ここまで来て引き下がる訳にもいくまい。」
ここまで知って、何もしないとはいかないだろう。
覚悟を決めたガルシアは、紙を捲って次の紙を見る。
そこには、幾つかの風景の写真が貼られていた。
「これから記すのは、私が考える鬼を止める方法だ。奴らは巣があったから暴れなかったという話を覚えているだろうか。ならば話は簡単だ。奴らに巣を与えればいいだけだ。…だと?」
「巣をですか?」
今まで小さいエリアの中で暴れなかったのは、自分の巣があったから。
ならば、新たに巣を与えれば解決するという話だ。
しかし、それには一つ問題がある。
「だが、仮にそうしても、同じ事が繰り返されるだけ。だから、エリアよりも広い場所を用意する必要がある。…なるほどな。」
「それなら、接触の可能性も減りますからね。納得です。」
エリアが崩壊するまでに至ったのは、戦いが頻発し大地が持たなくなったからだ。
その原因は、狭いゆえに鬼同士の接触が増えたから。
ならば、広い場所を用意すれば解決するという事だ。
「そこで私が提唱するのは、大陸の一部を切り離しエリアに指定し監視するというものだ。大陸ほどの大きさなら争いも減るだろう。」
接触が減るような広い場所。
つまり、大陸そのものの事だ。
その一部でも、相当な広さがあるだろう。
「そうなると、下の写真は鬼達が巣にしていた環境のものだな。しかし、場所については書いてはいないようだが。」
貼られているのは、エリアにいた時の巣の写真だ。
その横に、具体的な特徴が書かれてあるがそれだけだ。
何処の場所かの指定はない。
すると、紙の下の方に文字が書かれているのを見つける。
「ここにもあったか。…本当なら最後までやりたい所だが時間がない。後の事は託そうと思う。そもそも、この作戦を採用してくれる場合だが…か。」
ここに記されているのは、書いた本人の一意見でしかない。
なので、これを強制するつもりはない。
しかし、採用するとして新たな問題が生まれる。
「仮に採用するとして、決めるのは間に合うものか。」
「幾つか思い浮かぶ場所はありますが、決めるとなると時間がかかります。」
広いゆえに、幾つか候補はある。
ただ、それらをまとめて監視するとなると条件もまた変わってくる。
そうなると、検証が必要になるだろう。
「大陸の一部をエリアにするという考えに異論はない。だが、時間が無さすぎる。」
「そこで、次の紙だ。捲ってくれ。」
「まだあるのか?」
ベージュに促されるままに、次の紙を見てみる。
そこには、大陸の一部の絵が描かれていた。
更に、先程とは違う筆跡の文字が書かれている。
「大陸のエリア化作戦。…これは?」
「うちのギルドで考えたものだ。地理に詳しい奴らなら沢山いるからな。」
つまり、商業ギルドの人間だ。
商業ギルドは、大陸のあちこちを行き来する。
ならば、地形について詳しいのは当然だ。
「俺達でリストを作ったものを、あんたらのギルドの人間に絞って貰った。そんで、一つの場所に決めたって訳だ。」
商業ギルドが出来るのは、それらしい場所を提示するだけだ。
それを実際に監視できるかは、ハンターギルドに頼るしかない。
「用意がいいな。して、その場所は?」
「四。四の地区だ。」
「四だと? 思ったより王都に近いな。」
王都があるのは三の地区。
つまり、王都の真下にあたる。
そんな場所をエリアにしようというのだ。
「仕方ねぇだろ。他の案の場所は既に沈んじまってたんだからな。」
「うぐ。ならば、何も言えないか。すまない。」
「いや。こっちも早く答えを出せてたらよかった。すまねぇな。」
鬼に追われ、時間が無い中で考えた事だ。
候補が浮かんだと同時に沈んでいったのだから無理もない。
しかし、こうして作戦がまとまる事が出来たのは事実だ。
「まぁ、良い考えだと思う。だが、その方法でも自走船が必要になる。そうだろ?」
鬼達がそのまま巣に向かうとは限らない。
その為に、誘導する必要がある。
だから、自走船が必要なのだ。
しかし、燃料がないという問題がある。
「あぁ、分かってるさ。だから、用意しておいた。」
「何を?」
「ほら、丁度こっちに来てるだろ。」
ベージュが後ろを振り向く。
そして、ガルシアもまたそちらを見る。
すると、そこから一隻の自走船が来ているのが見える。
その横には、ジェネルを乗せた小竜が並走している。
「持って来たわよ!」
「おぉ、ありがとよ!」
ベージュが手を振ると、ジェネルが手を振り返す。
それから、小竜と自走船がベージュの横に止まる。
「話し合いはどう?」
「一通りしたところだ。後は、決断待ちだな。」
「そうなのね。じゃあ、良いタイミングだった訳ね。」
そう言いながら、ジェネルが小竜から降りる。
すると、ガルシアがそこに近づく。
「これは、どういう事なんだ?」
「決まってんだろ。欲しかったんだろ? 燃料がよ。」
そう言って、ベージュが自走船の横を叩く。
どうやら、この中に燃料があるようだ。
「燃料? 集めてきてくれたのか?」
「うちのギルドがな。報酬は作戦の成功だそうだ。」
作戦の内容は、すでに商業ギルドに伝わっている。
なので、作戦の為に事前に集めておいたのだ。
それを、いつでも使えるように自走船で運んでいたのだ。
「さて、どうする? 決めるか決めないかはあんた次第。悩んでる時間はねぇぞ?」
こうしている間にも、鬼達はこちらに来ているだろう。
悩めば悩むほど、作戦の成功の確率は減っていく。
「ふっ、決まっているだろう。ストローク、皆を集めてくれ。」
「はい。急いで集めますよ。」
ここまでお膳立てされて、否定する必要は無いだろう。
ストロークがハンター達を呼びにいく。
それを見送ったベージュが、焼けた地面に視線を移す。
「ちゃんと届けたぜ、ポット。そして、ハイグルさん。」
その目線の先には、すでにいない者達が浮かぶ。
届けたのはファイルだけではない。
ファイルの為に命を落とした者達の思いもまた一緒に届いたのだ。
それからすぐに、一同が集められ作戦の説明がされる。
「作戦は以上だ。ハンターのみんなには、鬼の討伐の中止と共に避難民への救出を言い渡す。異論はないか?」
鬼を討伐する必要はない。
しかし、大陸のエリア化に伴い避難民の救出は必要不可欠だ。
その事に、ハンターからの異論はない。
「俺達は良いぜ。」
「決まりだな。避難民は、六の地区のギルドが支援する海沿いの道と、五の地区のギルドが支援する真ん中の道の二つを通っている。そこの支援に向かってもらう。」
「了解したぜ。おう、お前ら。まずは班分けだ行くぞ!」
ハンター達が自走船へと向かう。
これから向かう場所に班分けされるだろう。
そして、それを見送り残った者達で集まる。
「問題はここからだな。」
「あぁ。」
「一つは俺が乗る。」
ギルド長が名乗り出る。
一つとは、鬼達を誘導する自走船の事だ。
「もう一つだが。」
「それなら、二つは俺達が乗るぜ。」
「えぇ。」
名乗り出たのは、ベージュとジェネルだ。
隣にいるユグリスもまた頷いている。
事前に話し合っていたようだ。
しかし、ガルシアが首を横に振る。
「駄目だ。あんたはハンターギルドではない。巻き込む訳にはいかない。分かっているのか?この事がどういう事か。」
「作戦を作った内の一人だぜ? 知ってるに決まってる。命を捨てる覚悟ぐらい出来てるさ。」
ベージュは、作戦を作るのに関わっている。
鬼達を誘導する事。
それが、命を犠牲にして行うものぐらい知らない訳がない。
「いや、行かせてくれ。顔馴染みは全員死んじまった。それなのに、俺はどういう訳かここまで生き残っちまった。だから、あいつらと同じ場所に行かせてくれ。」
いつも一緒にいた部下達は一人もいない。
残ったのは一人だけ。
それなのに、自分一人が生き残ったままなのが嫌なのだ。
「…出来るのか?」
「運ぶのは俺の専売特許だぜ? ちゃんと、届けてやらぁ。」
自信満々にベージュが答える。
同じ責任者同士、分かるものがあるのだろう。
それ以上、止めるような事はしない。
「では、もう一つは私が乗ろうか。」
「おい、あんた。」
次に名乗り出たのはルーベンシャだ。
楽しそうに笑っている。
「言っただろう? お前さんを一人で行かせんと。一緒に派手に散ろうではないか。」
「派手なのは変わらないんだな。でも、操縦は出来るのか?」
「出来ん。でも、何とかなるじゃろ。」
「おい。」
元とはいえ、国王として過ごしていたのだ。
自走船に乗る経験なんてあるわけがない。
すると、ストロークが名乗り出る。
「では、私がおともします。」
「いや。ストロークは、アルハイクと共に避難民を誘導しながらそこの嬢ちゃんを無事に帰してあげてほしい。爺さんには、俺が教えるよ。」
「お手柔らかにのう。」
楽しそうに笑い続けるルーベンシャ。
これから死にに行くのにも関わらずだ。
しかし、これで鬼を誘導する者達が決まった。
「俺達は、鬼達が現れ次第動き出す。それまでに、準備を済ませておくように。」
その者達は、ガルシアの言葉に頷いた。
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