大陸没戦 一エリア鬼の誕生一

第54話 大乱闘

「邪魔はさせないわっ。」

　ハンター達の努力に水を差すような事はしない。

　そのまま一直線に、鬼がしらを追いかける。

　すると、直ぐに鬼がしらの背中に近づいてくる。

「遅い。ゴムが邪魔をしているのね。」

　鬼がしらが走る度に、足のゴムがからまっている。

　そのせいで、上手く走れないようだ。

　離れた距離が、あっという間に縮まる。

「これならっ！」

　そのまま、自走船が鬼がしらを追い抜き前に出る。

　それと同時に、液体の方の矢を鬼がしらの足に向けて撃つ。

　それを受けた鬼がしらは、激しく転倒する。

「そこっ。」

　倒れた鬼がしらに向かって、液体の入った矢を撃つ。

　それは、先程の発火性の液体が入った矢だ。

　その矢は、弧を描いて鬼がしらへと直撃する。

「もっとよ！」

　嫌がるように暴れる鬼がしらへと、矢を飛ばし続ける。

　そして、先端に火を付けた矢を放つ。

　その矢が鬼がしらへと直撃すると、その体に付いた液体に燃え広がる。

ウガアアアアアアアアアッ！

　炎に包まれる鬼がしら。

　しかし、少し怯むだけで対したダメージはない。

「やっぱり、外からのダメージは効かないっ。」

　鬼がしらが立ち上がり体を振る。

　すると、体の炎が消えていく。

「くっ、無理だと言うの？」

「そんな事はないぜ！」

　鬼がしらに、ダメージを与える事は出来ない。

　しかし、時間を稼ぐことは出来た。

　その間に追い付いたハンター達が、鬼がしらへと飛びかかる。

「足止めごくろうさん！」

「後は任せろ！」

　ハンター達が攻撃を仕掛ける。

　鬼がしらの攻撃を避けてから斬りかかる。

　しかし、弾かれた後に吹き飛ばされる。

「任せろって、効いてないじゃない。」

　ハンター達の攻撃は効いていない。

　それでも、武器を振り続ける。

　振れる限り振り続けるのだ。　

「見てるだけじゃ駄目。考えろ、考えろ、何が出来る。」

　見るからに、明らかに劣勢だ。

　見ているだけではいられない。

　歯を食いしばり、考えるレベリアラ。

「液体をかけた時に暴れた。火が怖いのか。いえ、ダメージはない事は奴も知っている筈。」

　液体をかけた時、明らかに嫌がった。

　炎が来るから暴れたと考えるのが普通だが、それによるダメージはない。　

「なら、原因は一つ。でも、もし違ったら…。」

　その原因は分かっている。

　だが、確証がない。

　その状況で動いて失敗したら取り返しがつかないだろう。

　だからといって、迷っている時間もない。

「そっちに鬼が向かったぞーーー！」

「なっ。」

　他の鬼もまた、こちらに向かっている。

　このままだと、鬼同士で戦闘に入ってしまう。

「迷ってる時間はないか…。ええい、やってやるわ！」

　駆け出したレベリアラは、積まれた罠置き場からカバンを掴む。

　そして、中の物を地面にばらまき始めたが…。

ウガアアアアアッ。

　鬼がしらが地面を叩いた振動が響く。

　その影響で、鞄を落としてしまう。

「しまった！」

　鞄はそのまま自走船の外へと放り出されてしまう。

　だが、落ちた鞄は下にいた何者かに受け止められる。

「手伝うぜ！」

　そこには、小竜に乗ったベージュ達がいた。

　どうやら追いかけてきたようだ。

「で、どうする？　これの中をばらまけば良いのか？」

「えぇ。その中に罠を起動させるための爆発物の予備が入ってるわ。それをなるべく広くばらまいて頂戴。」

　鞄の中にあるのは、先程の落とし穴に使う爆発物だ。

　もし足りなかった時に継ぎ足せるよう、予備のものを積んでいたのだ。

　その一部を、ジェネルとポットに配っていく。

「なるほど。じゃあ、かなりの量が必要ね。」

「そうだな…って、そんな物騒なもん落とすなよっ！」

　文句を言いつつも、鞄の中を配るベージュ。

　ポット、ジェネルの二人へと手渡される。

　それを見ながら、ユグリスが武器を取る。

「では、俺は鬼が来ないように見張っておく。」

「頼んだぜ。そんじゃ作戦開始だ。いくぞ！」

「へい！」「えぇ！」

　筒状の物をばらまいていくベージュ達。

　その上から、レベリアラが液体の瓶が付いた矢を撃っていく。

「何してんだ？」

「必要な事よ。いいから急いで！」

　取り合えず、言われた通りに爆発物が入った筒を撒いていく。

　鬼が進む方を塞ぐように、それが散らばっていく。

　その上から被さるように、液体が撒かれていく。

「本当に上手く行くのか？　これ。」

「さぁな。だが、今は信じるしかねぇ。」

　行動に疑問を持つポットをなだめるベージュ。

　鬼達の事は、彼らが一番知っている。

　なので、こんな事をして鬼達を止められるとは思えないのだ。

　そんな時、激しくぶつかる音が聞こえてくる。

「おい！　鬼が揃いやがったぞ！」

「くっ。まだ足りないってのにっ。」

　レベリアラが鬼達を睨み付ける。

　はらうだけの量をまだ撒けてはいない。

　そんな中、鬼達の戦いが始まる。

「この先を壊されると避難民の通る道が消えてしまう！　何としてでも止めろぉ！」

　合流したハンター達を引き連れながらギルド長が叫ぶ。

　戦いの場は、避難民達が逃げる先にある。

　ここを壊れると、避難民が逃げる道もろとも沈んでしまうのだ。

　それを止めるべく、ハンター達が鬼達の戦いに混ざる。　

「おい、どうするよっ。」

「仕方ないわねっ。鬼の近くのを先に爆発させるわ。」

　鬼達に越されては、作戦が失敗になってしまう。

　待っている余裕はない。

　間に合わなくても、行動に移すしかない。

　早速、筒のある方へ鬼がしらが近づく。

「今よ！」

　火種が付いた矢を、鬼がしらの前にある筒へと放つ。

　すると、そこから激しい爆発が起きる。

　それを見た鬼がしらは、その場に止まり後ずさる。

「な、なんだあっ！」

　急な出来事に戸惑うハンター達。

　あの鬼がしらが警戒しているのだ。

　しかも、怯えるように離れていく。

「爆発に怯えているのか？」

「今さらこんなのに怯えるたまかよ。」

「だが、止まったのは事実。畳み掛けるぞ！」

　ハンター達では、何が起こったのか知りようがない。

　しかし、鬼がしらが止まったのは事実。

　それだけで充分だ。

　その隙に、鬼がしらにハンター達が押し寄せる。

　その光景を不思議そうに見るベージュ。

「一体何が起きたんだ？」

「匂いよ。」

「匂い？」

「そう。具体的には薬品のね。」

　矢の瓶に入った液体の匂いだ。

　その匂いに、鬼がしらが反応しているようだ。

　それこそがレベリアラの狙い。

「焼いて気化した薬品の匂いを爆発で撒き散らしているのよ。」

「その匂いにびびってるって事か。」

「そうよ。あれだけ食らわせたら、流石に爆発の原因に気づくでしょう。体を焼かれたのが相当堪えたようね。」

　爆発を何度も受けた事により、薬品の匂いがすると爆発すると気づいたのだ。

　それにより、薬品の匂いに敏感になってしまっているようだ。

　それを利用した作戦に感心するジェネル。

「よく考えたものね。」

「まぁ、殆ど賭けだったけどね。上手くいって良かったわ。」

「賭けって…、無茶をするお嬢ちゃんね。」

「無茶をしないと勝てない相手でしょ？」

「確かにそうね。」

　そもそも相手の存在が無茶苦茶な存在だ。

　それと互角に戦うには、こちらも無茶をする事が必要なのだ。

　効果を実感したレベリアラは、新たな矢を取り出す。

「効くと分かれば話は別よ。作戦変更、散らばせて撒いて頂戴！」

「任せろ！」

　効果があるならやるしかない。

　先程とは違い、撒いた場所とは離れた所に新しく撒いていく。

　そこに、レベリアラが薬品を撒き散らす。

　すると、今度は草食鬼竜が近づいてくるのにユグリスが気づく。

「鬼が来ているぞ！」

「了解よ！」

　草食鬼竜の接近に気づいたレベリアラが、火種の付いた矢を飛ばす。

　それにより、筒が爆発し薬品の匂いを散らばせる。

　すると、草食鬼竜が離れていく。

「他の鬼にも効果あり！　続けて！」

　鬼達とハンター達の戦いは、次第に大陸の内側へと移っていく。

　その鬼の接近をユグリスが気づく。

　すると、その前方にある筒をレベリアラが爆発させる。

　それを繰り返し、近づく鬼を押し戻していく。

「次はそこ！」

「おう！」

　レベリアラの指示でポットが筒を撒く。

　そこに、レベリアラが薬品を撒く。

　こうして、鬼が逃げる場所を奪っていく。

　その間にも、鬼とハンター達が戦う。

「こいつら、動きが遅くなってんぞ。」

「どうしたっ、びびって動けねぇのか？」

　薬品の匂いを警戒してか、鬼達の動きも鈍くなる。

　そこに、ハンター達が容赦なく攻める。

　それでも、鬼達の攻撃は重いままだ。

　容赦なく地面を砕いていく。

「ここも崩れ始めたかっ。」

「構わねぇよっ。こちとら一緒に沈む気で挑んでんだっ！」

「その通りっ、死ぬなら一緒になあっ！」

　怯える鬼達に比べて、ハンター達の闘志は増していく。

　元より、ハンター達は死ぬ気で挑んでいるのだ。

　恐怖を抱く相手なんかに遅れを取るわけがない。

　地面が崩れるのも気にせずに、鬼達へと飛びかかる。

　そこから逃げようとする鬼は、レベリアラが止める。

「させないわっ！」

　ハンター達と鬼達の大乱闘。

　どっちも引かずに責め合い続ける。

　その時だった。

「うわあああああっ。」

　どこからか、悲鳴が聞こえてきた。

「なんだっ！？」

　気づいたベージュが振り向いた。

　そこには、大勢の避難民がいた。

「避難民！」

「どうしてここにっ。」

　避難民達からは、離れた場所に来た筈だ。

　しかし、実際は目の前にいる。

　しかも、それだけではない。

「あれは、コングの群れかっ。」

「見て！　襲われてるわ！」

　避難民達をコングの群れが襲っている。

　それにより、避難民達がバラけながら逃げている。

　中には戦っているものもいるが、一部はこちらに来ているようだ。

　そして、それを見た鬼がしらが動く。

「あっ、鬼がしらが！」

　コングに抵抗する避難民へと鬼がしらが向かう。

　自分の子供が襲われていると勘違いしたようだ。

「やばい！　避難民に向かってるぞ！」

「止めろ！　奴を行かせるな！」

　気づいたギルド長が叫ぶ。

　しかし、追いつけないハンター達ではどうする事も出来ない。

　代わりにレベリアラが動く。

「させないわ！」

　鬼がしらの前方の筒を爆発させる。

　すると、その爆発を直に受けた鬼がしらが転倒する。

「やった！」

「やるじゃねぇか！」

　鬼がしらを止めて喜ぶレベリアラとベージュ。

　転んだ事で進行が止まったのだ。

　すると、更に火種の矢を設置する。

「もう一発よ！　食らいなさい！」

　ついでとばかりに、鬼がしらの近くの筒に向かって放つ。

　近くで爆発を起こして、鬼がしらを押し戻す気だが…。

クエアアアアアッ！

　鬼がしらに向かって鬼鳥竜が襲う。

　その時の風で、矢があらぬ方へと飛んでいく。

　倒れた隙を狙ったのだろう。

　それでも、鬼がしらが払いのける。

ウガアアアアアッ！

　更に、鬼がしらが突っ込んで鬼鳥竜を吹き飛ばす。

　そのまま、鬼鳥竜は筒のある方向へと吹き飛んだ。

　払いのけた鬼がしらは、再び避難民へと向かうが…。

「させないって言ってるでしょ！」

　起き上がった鬼鳥竜が飛んだと同時に、レベリアラが下の筒を爆発させる。

　その勢いで、鬼鳥竜が鬼がしらへと突っ込む。

「今度こそ！」

　鬼がしらは、丁度筒の真上へと落っこちた。

　それを爆発させようとするが…。

「もう矢がありません！」

「なっ。」

　先程の矢が最後の一本だったようだ。

　これでは火はつけられない。

　その時、ポットが小竜に指示を出す。

「矢ならあるじゃねぇか！」

　それは、先程外れた一本だ。

　だが、そこに向かって払いのけられた鬼鳥竜が宙に浮く。

　それを見たポットが叫ぶ。

「させねぇ！」

　小竜から降りると、飛び込むように火種がついた矢を掴むポット。

　それと同時に、ポットの上に鬼鳥竜が落ちる。

「ぐあっ！」

　ポットの下半身が鬼鳥竜に潰されてしまう。

　鬼鳥竜の下からは、赤い液体が流れ出る。

「ポット！　無事か！」

「今行くぞ！」

「ぐっ、来んなっ！」

　駆け寄ろうとしたベージュとユグリスにポットが叫ぶ。

　それにより、二人が小竜を止める。

「火をつけりゃあ良いんだろ？」

「おい、ポット、まさか。」

　潰されていない上半身を起こしたポットが矢を掲げる。

　そのまま投げるつもりのようだ。

　それを見たレベリアラが叫ぶ。

「やめなさい！　ただじゃすまないわよ！」

「分かってらぁ！　でも、やるなら今しかねぇ！」

　足止めが無くなった事により、他の二匹もこっちに来ている。

　そのまま割れて鬼が逃げれば、全てがおしまいだ。

「ポット！」

「お前に殺された部下の分だっ。食らいな！」

　そう言いながら、ポットが近くの液体に矢を投げる。

　直後、炎が燃え広がり筒へと点火する。

　その炎は、さらに広がり他の液体と筒へと点火する。

ずどーーーーーーん！

　激しい爆発音が、戦場に響き渡る。

　更に、ポットが持つ筒へと引火する。

　そこから大きな爆発が起こる。

　その勢いで、鬼鳥竜とポットを吹き飛ばす。

「ポットーーーーーッ！」

　その姿は、一瞬の内に爆炎に飲み込まれてしまう。

　そして、その爆炎は大地を広がり空へと昇る。

「なんだっ。」

　空へと昇る黒煙と炎。

　その威力による衝撃が、追いかけて来たハンター達を吹き飛ばす。。

　すると、爆発から鬼鳥竜が飛び出す。

「あれを食らって無事なのかよ！」

「おい、鬼が逃げるぞ！」

　それを追いかけるように他の鬼達も散らばって逃げていく。

　その内の鬼がしらの後ろを、群れが追いかける。

　だが、逃げるのは避難民がいる方とは逆の方向だ。

　その先にあるのは、六の地区。

「六の地区だ！　戻ってくぞ！」

「追え！　追うんだ！」

「無理です。自走船の燃料がもうありません！」

「なっ、くそっ。」

　自走船の燃料が限界を迎えつつある。

　なので、追いかけても途中で止まってしまうだろう。

　自力で行こうにも、鬼の速度には敵わない。

「ここまでしても無理なのか。くそっ。」

　悔しさに地面に膝をつくガルシア。

　その先で、鬼達の姿が小さくなっていく。