第53話 人と鬼の死闘

「こんなチャンスはもうないぞ! かかれ!」


 ガルシアの指示で、ハンター達が鬼達へ攻撃を加える。

 それに対して、鬼達はもつれあって反撃が出来ない。

 動こうとすると、引っ張られて転けてしまう。

 それでも、反撃をしようとする鬼の顔に矢が直撃する。


「させないって言ってるじゃない。」


 レベリアラが撃った矢だ。

 それを受けた鬼は、顔をしかめて目を閉じる。

 そして、苦しそうに顔を振る。

 その間にも、ハンターが攻撃を与えていく。


「今回は邪魔するものもいねぇ。遠慮なく戦えるぜ。」


「おう。こいつらに集中出来ればこっちのもんだ。」


 周りには、邪魔になる避難民がいない。

 これで思う存分戦えるはずだ。

 ハンター達による一方的な攻撃が続く。

 その間にも、レベリアラの自走船がアルハイクの自走船へ近づく。


「お父様!」


「レベリアラ!」


 自走船同士が並ぶと、レベリアラがアルハイクの自走船へと飛び移る。

 そのレベリアラの腕には、矢の束が抱えられている。


「レベリアラ! どうしてここにっ…。」


「はいこれ。」


「え? ええっ?」


 何か言おうとした父を無視して、矢の束を押し付けるレベリアラ。

 どうやら、話を聞く気は全くないようだ。

 話を遮られ困惑するアルハイクは、呆気に取られながらも受け取る。


「え、えっと。さっきの燃える奴か?」


「いいえ。その中の物を浴びると弾けて目に染みるわ。それで、奴らの動きが止めれるはずよ。」


 矢の先端に付いている瓶の中には、液体と違い粉状の物が入っていた。

 この粉によって、相手の目に刺激を与える事が出来るのであろう。


「時間が無かったから、それだけしか用意出来なかったわ。慎重に使いなさい。」


「あ、あぁ。」


 時間が無かったので、数を用意する事が出来なかったのだ。

 なので、無駄に使う事は許されない。


「じゃあね、お父様。よろしくね。」


「お、おい。」


 それだけ言って、レベリアラが自信の自走船へと戻っていく。

 レベリアラが乗り込むと、直ぐに自走船が戦場へと向かう。


「おしとやかだった俺の娘はどこに?」


「えぇと…ドンマイです。」


 普段とは違う娘の姿に固まるアルハイク。

 そんなアルハークの肩に、ストロークが手を置いて励ます。

 そんなレベリアラは、鬼に向かって矢を撃つ。

 それにより、抵抗する鬼達の動きを止める。


「いいぞ、嬢ちゃん! 嬢ちゃんのサポートに合わせろ!」


 ギルド長が叫んで鬼へと突っ込む。

 それに続くハンター達。

 鬼達への攻撃が再開される。


「仕方ない。俺達も続くぞ!」


 アルハーク達もまた、矢を装填して鬼達へと向かう。

 そして、レベリアラと同じように鬼の顔へと矢を撃つ。

 こうして動けない鬼達へ攻撃が続く。


「おらっ、自慢の腕はどうした!」


 鬼がしらの腕は、顔を押さえているため振ることが出来ない。

 その為、近づくハンター達に対処が出来ない。

 その隙に近づいたハンターから、開いた胴体へと斬っていく。


「おらっ、焼かれて苦しんだって事は傷があるはずだ! 体液が流れてない場所を斬れ!」


 炎で苦しんだのなら草食鬼竜自身の体液でも苦しむ筈だ。

 だが、見たところ苦しむ様子はない。

 つまり、体液が流れていない場所に痛みを通す箇所があるという事だ。

 そこが弱点と見抜いて、ハンター達が斬っていく。


「ブレスはさっき吐いたばっかだよなぁっ。じゃあ、しばらくは撃てねぇんだろ?」


 水鬼竜がブレスを吐くにも、水を体内で作る必要がある。

 ブレスとブレスの間に時間が空くことを見抜いていたようだ。

 ならば恐れる物は無いと、容赦なくハンター達が斬っていく。


「こいつ、引っ張られてるぞ! 今のうちに叩いちまおうぜ!」


 唯一、鬼鳥竜だけが無抵抗に引っ張られている。

 羽ばたこうにも、直ぐに地面に落とされる。

 その隙を狙って、ハンター達が斬っていく。


「いいぞ! このまま続けろ!」


 無抵抗な鬼達と、自由に攻撃が出来るハンター達。

 一方的な攻撃に、ハンター達の士気も上がる。

 だが、そうしている内にゴムが弾ける音が戦場に響く。


「順調、順調っ! ん?」


 その音に、斬ろうとした武器が止まる。

 すると、同じ音が何度も続く。

 その直後、一際大きな音が聞こえる。


「おい、まさか。」


 続くゴムの音。

 その音の原因は、確かめるまでもない。

 それを聞いたレベリアラが叫ぶ。


「逃げて!」


 そう叫んだ直後、鬼がしらが前に吹き飛んだ。

 ゴムが千切れて解放されたのだ。

 その鬼がしらは、ハンター達の上へと倒れ込む。


「うわあっ。」


 なんとか横に回避する。

 しかし、その間にもゴムの音が続く。

 その度に、他の鬼が解放されていく。


「鬼が解放されたぞーーー!」


「なっ!」


 次々と吹き飛んでいく鬼達。

 そして、立ち上がっていく。

 次の瞬間だった…。


ずどーーーーん。


 鬼達による一撃がハンター達を吹き飛ばす。

 まるで、鬱憤を腫らすかのような強烈な一撃。


「「「に、逃げろーーー!」」」


 ハンター達が逃げていく。

 そこに迫る、土や煙といった物で出来た大きな壁。

 それらの物が、逃げるハンター達にのしかかる。

 更には、地面にヒビが入って割れていく。


「嘘…でしょ。」


 あんなに優位な状況が、鬼が解放されただけでひっくり返された。

 この光景を初めて見たレベリアラは、ただ目を見開くしか出来ない。

 ただ、そうじゃない者は違う。


「俺はっ…まだっ…生きてるぞーーーー!」


 一人のハンターが、覆い被さる砂から這い出て叫ぶ。


「あたいも…だっ!」


 また一人。


「あぁ、俺もっ…!」


 また一人と這い出してくる。

 そして、鬼達へと再び立ち向かう。


「生きているなら戦える! 行くぞーーー!」


 ガルシアもまた、砂から這い出て鬼達へと向かう。

 生きている限り武器を握りしめる。


「おら、煙だーーーっ!」


 ベージュ達もまた、煙を投げて応戦する。

 それにより、対処しようとした鬼を止める。

 誰も動きを止めようとはしない。


「なんなのよ、これ。」


 その様子を見て呟くレベリアラ。

 命を惜しまぬ者達の姿が目に焼き付く。

 すると、横の自走船から矢が飛んでいく。


「これがハンターだ。」


「え?」


 声がする方を見ると、アルハイクがいた。

 矢を取り出し、ボウガンへと設置する。


「よく見とけ、これがハンターの姿だ。」


 そう言って、ボウガンの矢を撃つ。


「ハンター…。」


 それは、命をかけて戦う者達の事。

 今もなお、目の前で命つきるまで戦っている。

 すると、その中から鬼がしらが飛び出した。


「逃げたぞー! 追えー!」


 どうやら、地面の限界を感じて逃げ出したようだ。

 あらぬ方向へと走り去っていく。


「避難民の方! 行かなくては!」


「待って!」


「え?」


 鬼がしらが向かう先には、避難民が通る道がある。

 それを止めようと、アルハイクの自走船が動き出した時だった。

 その前に、レベリアラが乗る自動船が動く。


「私が追うわ! お父様は、ここでサポートを!」


「レベリアラ!」


 鬼がしらが逃げると同時に、運転席の職員に目線で指示を送っていたのだ。

 そのまま自走船が方向転換すると、鬼がしらを追いかける。

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