第49話 戦場崩壊

 戦場に複数の影が現れる。


ウキキッ。


ウキャ。


 鬼がしらが仲間にした子供達だ。

 割れた地面や傾いた樹の上から。

 あらゆる場所から姿を表していく。


「ここの子分か。丁度いい。こいつらも。」


 鬼にぶつけて優位に立つ。

 だが、こいつらはもう鬼がしらの子分だ。

 鬼がしらを襲う者達へと飛びかかる。


「な、なんだ! どういう事だよ!」


「くそっ! 邪魔だ!」


 襲いかかるコングを払いのけるハンター達。

 その群れの数は多数。

 鬼がしらの相手をするどころでは無い。


「こいつらはここのコングだろ!」


「もしかしたら、ドラゴンとの戦いで何かあったのかもしれん。」


「そんな馬鹿な。」


 あの場所で何があったのかは、詳しくは分からない。

 だが、実際に違う群れのコングが鬼がしらを助けているのは事実。

 今は襲いかかる群れに対処するしかないのだが…。


「おい、雑魚どもが!」

 

「くっ、俺達はともかくこいつらは不味いっ。」


 コングが鬼がしらに噛み付く小物に飛び乗っていく。

 そして、首を羽交い締めにして締め上げる。

 それにより、小物が鬼がしらから離れていく。

 鬼がしらが開放されてしまう。

 その結果、鬼がしらが高く跳びあがる。


「鬼がしらが跳んだぞーーーー!」


「引け! 引くんだ!」


 ギルド長の叫びに、ハンター達が全力で駆け出す。

 その直後、コングの鬼がしらが落下し拳を地面に叩きつける。


ずごーーーーーーん!


 地面が盛り上がり、エリアの入り口に花が咲く。

 そして、盛り上がっていく地面にハンターや群れが吹き飛んでいく。

 更に、離れたところにいる者たちもまた吹き飛ばされる。


「「「わあああああああっ!」」」


 吹きとんだもの達が地面へと叩きつけられていく。

 鬼も小物も他の鬼もまとめて地面を転がる。

 なんとか起き上がったガルシアが、エリアに出来た花を見上げる。


「なんて威力だ。無事か皆!」


「何とかの。老いた体には、ちと効いたが。」


 ルーベンシャに答えたガルシアが、腰に手を当てながら起き上がる。

 それ以外の者達も、何とか起き上がろうとしている。

 受けた被害は甚大。

 だが、事前に逃げたのが幸いしたのか命を落としたものはいないようだ。


「ひっくり返されたか。しかも、思ったより規模が大きい。」


「繰り返しているうちにコツを掴んだんじゃないか?」


「迷惑な話だな。」


 これまで何度も行ってきた攻撃だ。

 その度に、上手くいくやり方を見つけたのだろう。

 それをしでかした本人は、花の上で吠えている。

 その周りには、上手く着地したコングの群れ。


「ギルド長、ご無事ですか!」


「ストロークか。状況はどうだ?」


「自走船は無事です。投げ出されたものがいますが、動けないものはいません。」


「そうか。なら、まだ立て直せるか。」


 駆け寄ったストロークが情報を伝える。

 ダメージを負った者はいるが動けるとのこと。

 だが、人が動けるなら奴等だと尚更だ。


「大変です! 鬼達が!」


 吹き飛んだ鬼達が起き上がっていく。

 人が無事な攻撃でやられるような存在ではない。

 そんな鬼達は、元凶の鬼がしらを見上げる。

 そして、鬼がしらへと攻撃を飛ばしていく。

 それを避けた鬼がしらは、鬼達の背後に着地。

 そのまま鬼達で争い出す。


「どうします? ギルド長。」


「止めねばこの地が沈むっ。割り込むぞ!」


 鬼が争えば地面が沈む。

 ここで争わせ続ける訳にはいかないのだ。

 だが、その間にコングの群れが現れる。


「なっ、いつの間に降りてきたんだ!」


「違う、よく見ろ。鬼がしらの子分だ!」


 元国王の呼びかけで、辺りを見渡す。

 それらのコングは、鬼がしらと同じ毛並みをしている。

 元々いた、鬼がしらの子分だろう。

 その子分らが、鬼がしらと戦う鬼達に襲いかかる。


「くそっ、邪魔だ! 鬼達を止められん!」


 止めようにも、群がる子分で近づけない。

 その上、子分では鬼の戦いを止められない。

 飛びついた瞬間に吹き飛ばされてしまう。

 そして、吹き飛んだのがまた邪魔をする。

 その結果、地面が崩れ始める。


「くっ、遅かったか。急いで船へ! 距離を置く!」


 ガルシアの指示で、ハンター達が自走船へと乗り込んでいく。

 その間にも、地面の崩壊は続く。

 ハンター達が乗り込んだ自走船から走り出す。

 そして、その横を鬼が飛び出した。


「しまった!」


 鬼達が横を抜けていく。

 だが、止める余裕などない。

 崩れる地面から逃げる事に必死なのだ。


「くそっ、追え! 追うんだ!」


 ガルシアとルーベンシャが乗り込んだ自走船が走り出す。

 ストロークもまた、別の自走船に乗り込み逃げる。

 そのまま自走船は、駆ける鬼達を追う。


「ギルド長、まんまと出し抜かれたな。」


「くっ、動くのが早すぎる。早く崩れる事を知ってたのか。」


「向こうは何度も乗り越えてきたからな。知識も相当なものだろうさ。」


 ルーベンシャの言葉通り、崩れる地面から何度も逃げている。

 どんなふうに崩れるかは、向こうの方が熟知しているのだ。

 それ故に、出し抜かれてしまったのだ。


「急いで向かわないと。」


 遅れを取り戻すべく自走船が全力で駆ける。

 鬼達の姿はまだ見える。

 そして、その先にあるものも。


「ギルド長! 避難民だ!」


「なんだと!」


 気づいたストロークの言葉にガルシアが叫ぶ。

 鬼達の先には避難民達が大勢歩いている。

 その避難民達が鬼達に気づく。


「何か来てるぞ?」


「ん? なっ、モンスターだ!」


「なんでっ。ハンターはどうしたの!」


 気づいた避難民達が逃げ出す。

 しかし、もう逃げるには遅い。

 そのまま鬼達が避難民達へと迫る。


「来てる! 早く!」


「押すなよ!」


 お互いに押し合って、逃げ出す事が出来ない。

 むしろ、詰まってしまって身動き一つ取れない。


「突っ込んでくるぞーーー!」


 そこへ、先頭の鬼がしらが突っ込んだ。


「「「わあああああああっ!」」」


 鬼達に弾き飛ばされた者達が、衝撃で吹き飛んでいく。

 中には押し潰された者もいる。

 さらに、邪魔な避難民を跳ね除けようと鬼がしらが拳を振るう。


「助けてくれーーーー!」


 空へと吹き飛ぶ避難民達。

 悲鳴を上げながら、他の避難民の上へと落ちていく。

 それでもまだ、鬼がしらが反対の拳を振るうが…。


「やめろーーーー!」


 拳を振り下ろされる直前に、ガルシアが乗る自走船が突っ込んだ。

 自走船に突撃された鬼がしらは、前に向かって転倒する。

 そして、背中に乗り上げた自走船から武器を取ったガルシアが背中に乗り込む。


「それ以上の攻撃は許さん!」


 そうして、鬼がしらの首へと剣を振り下ろす。

 その間にも、避難民達が逃げていく。

 足止めに、成功したようだ。

 だが、逃げる避難民達の中に鬼鳥竜が降り立つ。


「逃げろ! そいつに近づくな!」


 ガルシアが叫ぶと、避難民が逃げ始める。

 鬼鳥竜の周りには、人を狂わす粉が舞う。

 近づくだけで危険なのだが。


「なんだっ、地面が!」


 逃げ道を塞ぐように地面が割れだす。

 その時、草食鬼竜が爆発で避難民を吹き飛ばしながら現れる。

 更に、水鬼竜が地面の下へ避難民を落としながら現れる。


「ぐっ。待てっ!」


 それを見た鬼がしらも動き出す。

 上に乗っていたものは、弾かれて地面へと落ちていく。

 こうして、避難民の中で鬼が集まる。

 逃げまどう避難民を無視して睨み合う。

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