第48話 作戦開始

 五の地区にあるエリアの入り口。

 海と山脈の端に挟まれたそこに、職員とハンター達が集まっていた。

 エリアの施設と援軍で来た者達だ。

 時折、地響きがエリアの奥から聞こえてくる。


「もうそこまで来てます。急げますか。」


「おう。お前ら、時間はないぞ。とっとと並べーっ!」


 一人のハンターの指示で、大きな板を持ったハンターが並んでいく。

 そして、大きな板を前に構えていく。

 どうやらその板は、盾のようだ。


「いいぞ。前列のハンターはそのまま待機。それ以外は、後ろで武器を持って待機だ!」


 盾を持って並ぶハンター達の後ろに、武器を持ったハンター達が集まる。

 見たところ、体格が良いのが前でそれ以外が後ろといった所だ。

 それを見た一人のハンターが満足そうに頷いた。


「よし、間に合った。これで良いか?」


「えぇ、完璧です。では、その時が来たらよろしくお願いしますね。」


「あぁ、任せな。だからあんたらも、きっちりサポートよろしくな。」


「勿論です。共に頑張りましょう。」


 職員とハンターが結束を確認する。

 双方の連携が必要となる作戦だ。

 どちらが欠けても許されない。


「では、早速仕事に取り掛かりましょうか。見張りの方はどうですかね?」


 ハンターと話していた職員が旗を振る。

 すると、山脈の横腹に足をかけていた職員が持っていた旗を振り返す。

 高い所からエリアを見張っているようだ。


「問題なしと。何か起きたら知らせてくれるでしょう。」


「そいつは頼りになるな。頼んだぜ。」


 戦いにおいて情報は大事だ。

 いつ敵が来るかを知っているかで優位性も取れる。

 そういう事もあって、しばらくエリアを見張っていた時だった。


「雑魚だ! 雑魚の群れが来てるぞー!」


 職員が叫びながら旗を振る。

 前方を見ると、複数の影がこちらに来ていた。

 しかも、大群だ。

 だが、それを見たハンター達は笑った。


「待ってたぜっ! 来るなら来やがれっ!」


 群れの正体は、複数の小物のモンスター達だ。

 突然の襲撃に慌てると思いきや、待ち受けていたかのように迎えるハンター達。

 まるで、こうなる事を予測していたかのようだ。

 まずは、盾を構えたハンター達が群れの先頭を防いでいく。


「雑魚にひよるヘタレはいねぇよなぁ!」


「当然だっ。」


 盾を構えたハンター達の一人が発破をかける。

 すると、他の盾を構えたハンター達が応えるように前に出る。

 そして、盾で雑魚を吹き飛ばしていく。

 それでも、数匹が横を通り抜ける。


「行ったぞ!」


 流石に、群れの全てを抑えるのは無理のようだ。

 だが、後ろに控えていたハンター達が漏れた小物を斬って飛ばす。

 しかし、命は取らない。

 それでも、抜け出そうとする小物には…。


「サポートします!」


 職員が自走船の上から煙のような物をばら撒いていく。

 その臭いを嗅いだ小物が止まる。

 そして、追いついたハンターが斬り飛ばす。


「おらっ。逃げてんじゃねぇよ!」


 そうして、逃げてきた小物を押し止める。

 押されて押し返しての繰り返しだ。

 しばらく続けていると、複数の自走船が近づいてくる。


「やっているな。」


 その上にいるガルシアが呟く。

 エリアの入り口で行われている状況を満足そうに見ている。

 すると、ルーベンシャがギルド長の横に並ぶ。


「変な光景だが、お前さんの仕業か?」


「そうだ。ここに来る前に指示を出しておいた。」


 殺しもせずただ押し止める光景が繰り広げられている。

 それは、知らないものからすれば不思議に思うだろう。

 だが、全てはガルシアの作戦だ。


「鬼が暴れれば、小物共が追いやられるだろう。そうなると、対処せざるをえまい。」


「だな。弱いとはいえ、避難民からすれば脅威だ。」


 このまま小物を放っておけば、避難民へと向かってしまう。

 そうなると、ハンター達が対処しないといけない。

 だが、そんな余裕はない。


「だから、こいつらを利用する事にした。」


「利用?」


「こいつらを鬼に…っと、着いたか。話は後だ。」


 ギルド長達が乗る自走船が、戦場の後ろに止まっていく。

 すると、それを確認したガルシアが自走船から降りる。

 そのまま戦場へ向かうガルシアに、戦っている職員の一人が気づき向かう。


「ギルド長!」


「順調のようだな。」


「えぇ。ただ、煙に数がありません。」


「そうか。」


 小物を押し止める煙にも数はある。

 無くなってしまえば、この作戦は終わりだ。

 それでもと、気にせずエリアを見るガルシア。


「だが、問題あるまい。そろそろの筈だからな。」


「え?」


 職員が聞き返した時だった。


「鬼だーーーー!」


 山脈の横腹にいた職員が叫んだ。

 すると、大きな影が戦場に落ちる。

 その直後…。


ずごごごごごーーーーん!


 影が再びエリアへ。

 その代わりに、大きな砂の波と衝撃が戦場へ襲いかかる。


「ぐわーーーーっ。」


「耐えろ! 耐えるんだっ!」


 衝撃による突風に耐える人とモンスター。

 そうしていると、エリアの方から大地が沈む音がする。

 その音と共に、奴が現れる。


ウゴオオオアアアアアアアアッ!


 エリアにある樹の奥から、コングの鬼がしらが飛び出してきた。

 そして、戦場を見るなり力強く吠えた。


「鬼がしらがっ! 一番手は貴様かっ。作戦開始!」


「了解! 作戦開始!」


「「「作戦開始!」」」


 ギルド長の指示が職員へと伝わる。

 すると、数少ない煙を戦場全体へとばら撒いた。

 それにより、小物達が戦場へと戻っていく。


「くせーーーーっ! だがっ。」


「雑魚どもが戻っていく。」


「おっしゃあ! 続け!」


 煙の被害はハンター達にも及ぶ。

 それでも、その煙の臭いに耐えるハンター達が小物の後を追う。

 

「私達も行きましょう! 続に続け!」


 さらに、その後を自走船が追う。

 そのままエリアに入ると、立ち尽くす鬼がしらへと突っ込む。

 鬼がしらと小物の衝突。

 迫る小物に拳を落として吹き飛ばす鬼がしら。

 吹き飛ぶ小物に紛れて、ハンター達が襲いかかる。


「よし。我々もだ!」


 それを見たガルシアもまた、自身が乗ってきた自走船へと乗り込む。

 それと同時に、横の列に並んだ自走船が発進していく。

 移った戦場を追いかけエリアの中へ。


「なるほど。こいつらを鬼へとぶつけるのか。考えたな。」


「こいつらなら、いくら死んでも気にはせん。囮にはうけつけだ。」


 ハンター達が命を奪われるよりマシだろう。

 しかも、囮になってくれるのでハンター達が攻めやすい。


「隙だらけだぜ!」


「おらおら攻めろ!」


 鬼がしらに対処する小物達。

 それに紛れて、ハンター達が斬っていく。

 だが、弾かれてしまう。


「かてぇ! 効かねぇ!」


「それでも斬れ! とにかく斬れ!」


 鬼がしらの丈夫な体に武器が弾かれてしまう。

 だが、ダメージが無いとは限らない。

 少しでもダメージを与えようと、ハンター達が攻撃を与える。

 更に、支援すべく自走船から矢が飛んでいく。


「ターゲットを分散させろ!」


 矢が飛んでくる方を見るが、すぐに下からの攻撃が来る。

 どっちつかずの攻撃で、力が入らない鬼がしら。

 鬼がしらへと、一方的な攻撃が続く。

 はずだったが…。


「他の鬼が来ているぞ!」


 樹の奥から、新たな地響きが聞こえてくる。

 そして、マグマの壁に水の柱。

 更には、上空からは舞い上がった土と樹が降ってくる。


「三匹同時か!」


「なっ。」


 エリアの地面が割れていくと、そこに樹が飲み込まれていく。

 そこから現れるのは、残りの三匹の鬼。


「不味いなっ。雑魚が足りんっ!」


「どうする? 引くか?」


 対処しようにも、ほとんどの小物は吹き飛んでいる。

 三匹の鬼にぶつける数は揃っていない。

 そんな時、後ろの方から叫ぶ声が聞こえてくる。


「後ろへ誘導! 自走船は左右に引け!」


 叫んだのはギルド長だ。

 ギルド長の指示に従い、自走船が左右に別れる。

 その間に、ハンター達が三匹の鬼を誘導する。


「こっちだ!」


「おらっ。」


 石を投げて、鬼を引きつける。

 迫る攻撃を避けると同時に石を投げる。

 それにより、鬼達がまんまとハンター達を追っていく。


「こっちだ!」


 そのまま鬼達を、叫ぶ職員の場所へ。

 その直前に到達した時だった。

 鬼の攻撃を、ハンター達が回避する。

 すると、鬼達へとロープが巻かれていく。


「かかった!」


「いや、待て!」


 ロープが絡まったまま、鬼達が動き出す。

 罠ごと動いているようだ。

 そのままロープを出す罠が砕け、鬼達が解き放たれる。


「無理かっ。」


「いやっ、充分だっ。」


「何っ。」


 罠にかかっていたのは十数秒。

 普通に考えれば、意味のない時間だ。

 だが、その間に沈む樹の奥から複数の影が現れる。


「群れの追加だ! しかも、群れのボスもいるぞ!」


「ひゃっほう! 鬼どもにぶつけるぞ!」


 新たな小物の群れが現れたのだ。

 その中には、一回り大きいボスも混ざっている。

 沈むエリアから逃げてきたのだろう。


「予想通りだ! 盾を持ったものは誘導にかかれ!」 


 ギルド長の指示で、盾を持ったハンター達が動き出す。

 逃げようとする小物を押し返して鬼の方へと向かわせる。

 当然、それに鬼達が襲いかかるが…。


「ボスが向かったぞ!」


「道を開けろ!」


 仲間の群れを襲われては、ボスが動かざるをえない。

 小物共を蹴散らす鬼へと、ボスが突っ込んだ。

 そこに、ハンター達も迫る。


「おらおら! どんどんやり合え!」


 ボスが突っ込むが吹き飛ばされてしまう。

 しかし、群れを守るべく立ち上がる。

 そうして再びぶつかり合う。


「良いぞ! 攻めろ!」


「このままなら!」


 戦いは順調だ。

 鬼たちへと優位を取れている。

 負ける要素など無いだろう。

 そう思いが一つになった時、奴らが現れる。

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