第47話 最高のコンビ
「トーパ? 忙しいから後にして。」
近づいてくる少女に気づくレベリアラ。
どうやら知り合いのようだ。
しかし、構っている余裕はない。
それでも、トーパと呼ばれた少女がレベリアラに話しかける。
「聞きましたよ、国王が戦場に向かったと。」
「えぇ、さっき出た所よ。」
「やっぱり。エル…姫様達が泣いていましたよ。」
「そう、やっぱり向こうも一悶着あったのね。」
「えぇ、本当なら私も見送りたかったのですが。」
目を伏せ元国王を思うトーパ。
彼女もまた、元国王の知り合いのようだ。
見送れなかった事を後悔している。
「それと、貴方の父親も向かったと。どうして私を呼んでくれなかったんです?」
「なんでって、トーパはもうすぐ受験でしょ。私達の問題の為だけに呼べる訳がないわよ。」
トーパはトーパで事情がある。
それなのに、一個人の家族の事情で呼びつける事は出来ない。
だから、トーパを呼ぶ事はしなかったのだ。
「あなた、アルカルンの学園に通うのが夢だったわよね? だったらこんな所にいないで勉強なさい。…あれ?」
大事な時期にここにいるトーパに呆れるレベリアラ。
こんな所にいる場合では無いはずだ。
しかし、ふと何かを閃いた様に顔をあげる。
「そういえば貴方って、モンスターについて詳しかったわよね?」
「えぇ。親の仕事を継ぐために勉強しています。それがどうしたのですか。」
トーパの親の仕事は、モンスターに関する仕事をしている。
レベリアラと同じく、親の影響で詳しくなったのだ。
それを思い出したレベリアラは、嬉しそうに両手の掌を打ち付け合う。
「そうよ。適任がいたじゃない。」
「えっ?」
「ちょっと協力しなさいよ。良いわね?」
「え、ええっ…。」
突然の事に動揺するトーパ。
何が起こっているのか分からないのだから仕方がない。
そんなトーパを無視して設計図の紙を見せつける。
「良いかしら?」
「よく無いです。せめて説明を…。」
「相手に使う罠にいれる部品の容量が知りたいのよ。」
「無視ですね。はい。」
困惑するトーパに説明を続けるレベリアラ。
こうなっては止まらない事を知っている。
なので、仕方なく押し付けられた紙を見る。
「珍しい罠ですね。レベが作ったんです?」
「そうよ。想定はドラゴン以上。」
「ドラゴン以上…。それなら、かなりの量が必要になりますね。」
「そんなの無いから困ってるのよ。だから、代わりのものを用意しようとしたんだけど。」
ダメージを与えるには、普通の量では意味がない。
しかし、そんな量を補えるほどの数はない。
だから、最低限の量を用意したいのだが。
「なるほど。では、相手の特徴を教えて下さい。」
「あぁ、それなら私が。」
職員の一人が、伝えられた鬼の情報を伝えていく。
しかし、教えられる情報は少ない。
取り敢えず、どのような行動をしてきたかを断片的に伝えていく。
それを聞いたトーパは、頬に手を当てる。
「山や地面を砕く程の力を持つ体、それはぜひ頬ずりしたくなりま…あいたっ。」
当然、トーパの頭をレベリアラが強めに叩く。
それにより、パシンという音が施設に響く。
「後にしなさい変態。続けて頂戴。」
「えぇ、…はい。」
突然のやり取りに戸惑いつつも、説明を続ける職員。
どのような物を破壊したとか曖昧な説明が続く。
それを、トーパが痛む頭を抑えながら聞く。
「抽象的な説明ですね。体質による計算は厳しそうです。」
「すみません。」
「いえ。そもそも、相手の体に影響を与えるのは無理でしょうから。そうなると。」
ペンを持ったトーパが、設計図に修正を加えていく。
罠に入れる備品そのものの変更だ。
それを、設計図を書いたレベリアラが興味深そうに見ている。
「なるほど、影響を与えた物に作用させるのね。そうなると、用意するものも変わってくるわね。」
「えぇ、これなら量も用意できるでしょう。分量は憶測になりますが。」
「いいわ。好きにしなさい。」
与えられた情報を元に計算していくトーパ。
紙の空いた部分に部品の名称と量が書かれていく。
その様子を、職員が不思議そうに見る。
「いいんですか?」
「この子はやる子よ。頭の方が少しぶっ飛んでる変態だけど。いえ、少しじゃ無いわね。」
「聞こえてますよ。レベ。」
ツッコミを入れつつ、ペンを走らせるトーパ。
それからしばらくして書き上げる。
そして、書いた部分を破って職員に渡す。
「ここにある物を貰ってきてください。」
「分かりました。」
紙を受け取った職員が施設の外へと走っていく。
これで、ようやく罠づくりが進むだろう。
ただ、不安そうにレベリアラが荷物を見る。
「そうなると余るわね。全部使い切りたいのに。」
このままだと、使わなくなった部品が余ってしまう。
部品を残す余力があるほどの相手では無いのにだ。
だから、全て使い切って挑みたいと思っているのだが。
「何かに使えないかしら。」
「これは薬品ですか。あっても相手には効きませんよ。」
「分かってるわよ。いや、効くかも。」
「え?」
突然にレベリアラがペンを走らせる。
そして、紙の空いた部分に新たな設計図を書いていく。
そうして、別の何かの設計図を書き上げる。
「出来たわ。早速作りましょう。」
「い、いえ。もう新しい罠を作る時間がありませんよ。」
罠を作り始めてから、かなりの時間が経っている。
このままでは、間に合うのかは分からない。
それでも、レベリアラは構わない。
「大丈夫よ、罠じゃないから。それに、作るのは私達。」
「達?」
疑問に思ったトーパが聞く。
しかし、それを無視してレベリアラは続ける。
「貴方達は、向かうときにでも組み立てると良いわ。」
「はぁ、そうですか。」
疑問はあるが、罠づくりが再開される。
取りに行った部品も届き、罠を仕上げていく。
その間に、レベリアラ達が部品を持って何処かに行く。
それから罠が出来上がったのはしばらくの事だ。
「出来ましたよ、レベリアラ嬢。」
「いいわ。自走船に乗せて頂戴。」
「今、乗せているところです。」
何かあったとき用に残してある自走船に、職員達が罠を乗せていく。
それからすぐに、レベリアラ達も大きな箱を持って現れる。
そこには、レベリアラの母もいる。
「まさか、手伝わされるとはね。」
「暇そうにしてたんだからいいでしょ。」
「だからっていきなりすぎるのよ。」
どうやら、むりやり作業を手伝わされていたようだ。
そんな母と共に、箱を自走船へと持っていく。
そして、それを職員に押し付ける。
「これは?」
「見れば分かるわよ。一応、説明書きも付けておいたわ。」
「そうですか。」
疑問に思いつつも、受け取った箱を自走船に乗せていく。
これで、罠を届ける準備は完了した。
「これで終わりね。」
「えぇ、終わりですね。後は任せましょう。」
出来る事は、全てやりきったはずだ。
これ以上、レベリアラ達に出来る事は無い。
後は、職員達がどうにかしてくれるだろう。
「これで、終わり…。これで。」
そう呟きながら自走船を見上げるレベリアラ。
しかし、その顔は不安そうだ。
それからしばらく見ていると、何かを決心したように頷いた。
そんなレベリアラをよそに、自走船が動き出す。
「では、行ってくる。」
「了解した。」
残った職員と言葉を交わして自走船の速度を上げる。
そして、あっという間に走り去った。
それを見送るトーパ達。
「今度こそね。」
「えぇ。さぁ、レベ。帰りに姫様達を励ましに、あれ? レベ?」
トーパが見渡すも、レベリアラの姿がどこにも無い。
母親も見渡すが、同じく見つける事が出来ない。
そして、ある可能性の一つに行き当たる。
「もしかして、レベ、自走船に乗った?」
「ええっ!?」
この短期間で、いなくなるのは不可能だ。
そうとしか考えられないだろう。
それを聞いたレベリアラの母親がうろたえだした。
「ど、どうしましょう! あ、あの子が! 今すぐに呼び止めてっ!」
「む、無理です! あの自走船には通信機を乗せてません!」
レベリアラの母親が職員を問い詰めるもどうする事も出来ない。
そんな母親を、トーパが宥める。
「お、落ち着いて下さい! あの自走船は罠を届けるだけですからっ! で、ですよね?」
「え、えぇ、そうです。だから、大丈夫ですよ!」
そうは言っても、二人もまたレベリアラの母と同じく動揺している。
そんな心配をよそに、自走船は街を出て突き進む。
その上で、職員が渡された箱を開けていた。
「これは、瓶?」
「だなぁ。」
職員達が、箱の中を覗き込んでいる。
そこにあったのは、粉のような物を詰めた瓶が沢山入っていた。
その上に置いてある紙を、職員の一人が取る。
「えぇと、ボウガンの矢に繋げて使えって。」
「確かに、瓶に紐が付いているな。」
よく見ると、全ての瓶一つ一つに紐のような物が付いている。
長さは丁度、何かに括り付けられるほどだ。
その紐を、職員の一人が引っ張る。
「これをボウガンの矢に付ければいいんだな。」
「そうよ。それを付けた矢をぶつけるの。」
「了解。早速、付け…て…。え?」
思いがけない声に、一斉にそちらを振り向く。
そこには、いるはずもないレベリアラが立っていた。
「レ、レベリアラ嬢! どうしてここに!」
「き、危険です! お戻りを!」
「戻る? どうやって?」
既に自走船は、街を出て戦場へと向かっている。
ここで降ろせば、弱いながらもモンスター蔓延る場所に放り出される事になる。
若い少女一人には危険な事だ。
「私のことはいいから早く。さ、始めなさい。」
「は、はぁ。」
「これ、俺達怒られないか?」
今更言ってもどうしようもない事だ。
諦めて、ボウガンの矢を取り出していく職員達。
その横で、レベリアラが進む道の先を見る。
(待っててね、お父様。今から行くから。)
覚悟を決めたレベリアラを乗せて、自走船は進んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます