第46話 レベリアラ
「行ってしまったわね。」
「えぇ。」
自走船が去った方を見続ける。
見知った者達。
そして、大事な父親が乗る船を。
「大丈夫よね?」
「えぇ、あの人達なら大丈夫よ。きっと。」
それでも、母と繋ぐ手に力が入る。
勝つ為に向かったハンター達は皆死んでしまった。
そんな場所に向かう父親が無事とは思えない。
もう父親と会えないかもしれないとの気持ちが娘を襲っているのだ。
「でも、もし無理だっ…いえ、何でもないわ。」
口から零れそうになった言葉を押し止める。
戦場に向かった彼らは、勝つ為に向かったのだ。
それを否定するのは、彼らの冒涜になってしまうから。
「さぁ、私達は帰りましょう。ここにいると邪魔になってしまうわ。」
「えぇ。」
全ての職員が向かった訳ではない。
残った職員は、忙しそうに走り回っている。
その邪魔にならないよう立ち去ろうとするが。
「あれっ、乗せ忘れの罠があるけど。」
「あぁ。それなら、壊れて使えないやつだよ。」
積まれた荷物の方から聞こえる声に足を止める娘。
そちらを見ると、職員達が荷物の前で話し合っていた。
それを見た娘が、その場所へと向かう。
「レベリアラ? どうしたの?」
母の声にも耳をかさずに向かう。
そして、職員達の横を抜けて荷物の前に止まる。
その場所に向かうと、荷物の一つを掴み上げる。
「壊れてる? まだ使えそうだけど。」
「君は、アルハイクさんとこのレベリアラ嬢? だったか。」
職員い話しかけられるも、無視をして荷物を見るレベリアラ。
どうやら、積まれた荷物が気になったようだ。
実際にレベリアラの言う通り、荷物の中には新しいのも含まれている。
「ねぇ、この部品新品よね? どうして父様は使わなかったの?」
「その部品はね。ただ、それと組み合わせる物が壊れてたんだ。」
「ふうん。」
罠とは、複数の部品を組み合わせて作る物。
その一部が駄目でも、他が駄目なら意味がない。
だから、使えなかった物は新品でも置いていくしかないのだ。
「まぁ、どうせ、罠自体奴らに壊されるから意味がないんだろうけどね。」
「壊される? 罠ごと? 弱いドラゴンの個体なら捕まえられるのよね?」
「普通ならそうだけど、今回の敵はそれ以上らしいからね。」
どうせ罠を作れても、通じなければ意味がない。
鬼達からすれば、意味のない話だろう。
それでもと、部品を漁るレベリアラの肩に母親が手を置く。
「それ以上は邪魔になるわ。早く、帰りましょう。」
「ちょっと待って、もう少しだけ。」
母親の言葉を無視し、部品と睨み合うレベリアラ。
荷物の中にある部品を、一つ一つ見ていく。
周りの言葉は、耳に入らないようだ。
「ごめんなさい。一度こうなると止まらなくて。」
「いいえ。アルハイクさんもそんなものですよ。こういう所は父に似て…って、ちょっ。」
いきなり手に持っていた紙と板を奪われ、声を詰まらせる職員。
奪った犯人はレベリアラだ。
奪った紙をひっくり返すと、板に付いていたペンで何かを書き出す。
「ちょ、ちょっ。レベリアラ嬢!?」
「レベリアラ!?」
驚く職員と母をよそに、紙に何かを書き上げていくレベリアラ。
それは、図形のような物をしていた。
それを見た職員が、その正体に気づく。
「まさか、罠の設計図?」
「でも、こんなの知らないぞ? まさか、今考えているのか?」
紙を覗き込みながら考える職員。
職員は、ギルドにある罠を知り尽くしているプロだ。
そんな職員が見たこともない罠の設計図が書かれていく。
だが、驚く所は別にある。
「凄いな。この年で設計図を描けるなんて。」
「レベリアラは、父の資料を読み漁っていたのでその影響でしょう。将来は父の仕事を継ぐとも言ってましたし。」
「…気が散るから黙ってて。」
恥ずかしそうに顔を赤らめるレベリアラ。
流石に自身の事を話されるのは、嫌でも耳に入ってしまうようだ。
それでも、ペンを動かし続ける。
そして、複数の似た物を書いてペンを置く。
「出来たわっ。」
「レベリアラ嬢、これは一体。」
「罠よ。壊させるためのね。」
「壊させる?」
壊れた罠は発動しない。
それなのに壊させるというのだ。
職員に疑問が増える。
「それって、どういう事なんだい?」
「罠は壊されるのよね? だったら、壊されて発動する罠を作ればいいのよ。」
壊されるのなら、壊される前提の罠を作ればいい。
それならば、壊されて発動しないという問題は解決する。
ただ、それが作れればという事だ。
「即席の罠。上手く作動するのかい? そもそも、今すぐ作るなんて。」
「それに。部品だって無いんだし。」
「部品ならここにあるじゃない。使えるもので設計したから大丈夫。時間は、皆が手伝ってくれるかね。」
部品はあるが時間はない。
罠とは、すぐに作れる物ではないのだ。
レベリアラ一人では作れない。
「言っておくけど、私は罠を設計しただけ。どうするかは任せるわ。」
言葉通り、レベリアラは罠を考えて紙に書いただけ。
これを作れとは一言も言っていない。
しかし、職員がどうするかは考えるまでもない。
「うん、よし。皆を集めよう、今すぐにこの罠を作るぞ。」
「分かった。こうなったらやるしかないなっ。」
職員達が動き出す。
レベリアラの案に乗っかる事にしたようだ。
それからしばらくして職員達が集まってくる。
「こんなに多く集まるなんて…。レベリアラ、もしかして何かしたの?」
「何もしてないわ。する必要もないわね。ほら。」
レベリアラが母親に、職員達を見るように促す。
その職員達は、皆が嬉しそうにしている。
「ギルド長を助けられる方法があるって本当なのか?」
「らしいぞ、早く届けなくちゃな。」
彼らの口から出るのはギルド長の名前だ。
どの職員も、ギルド長の為に罠を作ろうとしている。
「皆も同じで、ギルド長が心配なのよ。」
皆が動くのは、それだけの事なのだ。
ここにいる職員が、ギルド長を助けたい。
なのに、助ける事が出来ない。
そんな彼らに、その方法を与えただけ。
「皆も同じ…。」
「そうよ、皆にも大事な人がいる。ただ、それだけよ。」
ずっと、現場に向かう班から外された事にモヤモヤしていたのだ。
そして、こうしたチャンスを探していた。
だからこそ、こうして思いを一つに動けるのだ。
「レベリアラ嬢。皆、集まったよ。それで、俺達はどうすればいい?」
「いいわ、私の指示に従って頂戴。絶対に間に合わせるわ。」
真剣な顔で答えるレベリアラ。
彼女もまた同じ。
父親を助けたいと願う心が、彼女を突き動かす。
こうして、職員達による罠づくりが始まったのだった。
「まずはこれとこれを…。」
「あのう、私は…。」
「お母様は近くで見てて頂戴。」
レベリアラの主導で罠づくりが進められる。
それに従い、本来組み合わされる物とは違う物とが組み合わされていく。
作業は順調に進む。
はずだった。
「あのう。ここの罠に使う部品ですが、足りますかね?」
「そうね。もっとあっても良いかしら。」
「ですが、そうなると材料が。」
「別のを加えて威力を増しましょう。確か、商業ギルドが近くにあったはずよね。」
「えぇ、それなら私が貰いに行きますよ。」
即席なので、変更する所も出てくる。
しかし、レベリアラが直ぐに対処をするので問題はない。
研究所へと向かう職員だったが、ふとその足が止まる。
「それで、どれ位必要なんですか?」
「え?」
ここで、問題が発生する。
確かに、レベリアラは罠には詳しい。
ただ、それだけなのだ。
「えっと、取り敢えず、罠に詰められる分だけ。いえ、流石にそんなには足りないわね。」
数には限りがある。
用意できる分にも限界はある。
なので、適切な分量が求められるのだが。
「モンスターについてはそこまでなのよね。」
モンスターの生体には詳しくないのだ。
ただ、どういう生き物がいるかだけ。
それこそ、学者にしか分からない分野だ。
だが、ここに詳しく知る学者はいない。
「仕方ないわね。全ての罠に均等にいれるしか。」
現状では、それが誠意一杯だろう。
学者を呼ぶにも時間がかかる。
その時、一人の少女が施設に入る。
「レベ、ここにいたんですか? 探しましたよ。」
その少女は、レベリアラを見るなり駆け寄った。
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