二日目後半 大激戦の果てに

第45話 集う者達

 自走船の下へ向かうギルド長とストローク。

 自走船では、職員が最後の確認をしている。

 その側で紙を見ている男に、ギルド長が声をかける。


「アルハイク、首尾はどうだ?」


「あぁ、ギルド長、来たんですね。罠の方はだいたい出来ましたが、全てという訳にはいきませんでした。あっても効くとは限りませんが。」


「構わない。弱まれば可能性が出てくるかもしれないからな。」


 ギルド自慢の罠は、簡単に壊されてしまった。

 しかし、相手は生き物だ。

 疲れてしまえば、罠を砕く事は無いだろう。

 再び、アルハイクが紙に目を落とした時だった。


「お父様!」


「ん?」


 突然の声に、アルハイクが声がした方を向く。

 すると、一人の女の子が飛び込んで来る。


「お父様、本当に行くの?」


「あぁ、仕事だからな。」


「そう…なのね。」


「レベリアラも、母さんのいう事を聞くんだぞ?」


 どうやら娘のようだ。

 離れると、頭を優しく撫でる。

 そこに女性が近づくと、同じように抱き合う。


「後は頼んだぞ?」


「えぇ。だから、あなたも。」


「分かっているさ。」


 しばらく抱き合った後に、二人は離れる。

 母親らしき人と娘は悲しそうに、手を繋ぎ合う。

 その時、アルハイクにギルド長が近づく。


「すまないな、アルハーク。本当なら、家族を持つお前を連れていきたくは無いのだが。」


「いいえ。上層部の皆は全員出ているのに、私だけと言う訳には行きません。」


 ギルドの皆が、現場へと向かっている。

 そんな中、一人だけいかないなんて選択肢はない。

 彼もまた、ハンターギルドの一人なのだから。


「それで、戦況の方は?」


「残念ながら上手く行っていない。ただ、奴等は五の地区のエリアで暴れている。上手くいけば、奴等を包囲出来るかもしれん。」


 エリアに鬼がいるのなら、そこを包囲してしまえば封じ込める事が出来る。

 鬼を止めるには、そこしかないだろう。


「なるほど。では、罠もそこで使うんですね?」


「あぁ、少しでも止められればそれでいい。奴らの体力次第だがな。」


 エリアで暴れてるのなら、疲れてもおかしくは無い。

 それにかけるしかないだろう。

 しかし、それさえ出来れば時間を稼ぐ事は容易になる。


「その為の準備だが…。ストローク、他の大陸からの報告は来たか?」


「いえ、まだで…。「それなら、断られたぞ。」


「え?」


 ストロークの声を遮るように、どこからか声が聞こえてきた。

 そちらを見ると、長い髭を生やした老人が立っていた。


「国王!」


「「「国王っ!?」」」


「はははっ、どうやら間に合ったようだな。」


 国王と呼ばれた男は、気軽に手を上げて返事をする。

 しかも、国王とは思えない程の質素な格好をしている。

 一般人にまぎれても分からない程だろう。


「ふむ。出発の直前といった所か。おや? そこにいるのは、レベリアラ嬢か。久しいな。」


「御機嫌よう、国王。ご無沙汰しております。」


「うむ。孫が世話になっているよ。」


 国王に話しかられたアルハイクの娘が上品に挨拶を返す。

 それを見て、満足そうに頷く国王。

 そんな国王に、ギルド長が話しかける。


「まさか、国王直々に来られるとは。それで、断られたとは?」


「援軍には来てくれないようだな。まぁ、無理もない。こんな有様じゃあな。ワシだって頼まれたら断るさ。」


 こちらの事情は、向こうに伝わっているのだろう。

 援軍を送るとなると、大事な国民を沢山失ってしまうかもしれない。

 そんな場所に、大事な国民を送るという選択を選べないのは当然だ。

 同じ国を守る者として、国王も分かっているのだ。


「…仕方ないか。それよりも、その格好はなんでしょう?」


「ん? いつものゴテゴテした服では、戦場に行けまいて。」


「…まさか、来るつもりですか?」


「そうだが?」


 その国王の一言で、辺りを静寂が包む。

 まさかの返答に、開いた口が塞がらない。

 何事もないようにしているのは国王だけだ。

 そんな中、焦ったようにギルド長が国王へと詰め寄る。


「ば、馬鹿じゃないのかっ。国政はどうするっ!」


「馬鹿とはなんだ。んなもん、息子に押し付けてきたさ。」


「なっ! まじか。」


 国王としての役職は降りている。

 全ての準備は、既に済ませているらしい。

 最初から死ぬつもりで来ているようだ。


「そもそも、大陸の危機に王国が動かない訳には行くまい。」


「だからって、爺さん一人で何が出来る?」


「年はお前もだろ。」


「あんたの半分だ。このやろうっ。」


「このやろうって、国王に向かって何を言うか。」


「いや、あんた国王辞めただろうが。」


 ギルド長と元国王のやり取りが続く。

 喧嘩に見えるが、争うつもりはない。

 むしろ、楽しそうに見える。

 そんな二人を不思議そうに見ていたアルハイクの娘が声をかける。


「知り合いなんですか?」


「あぁ、昔からの知り合いだ。そもそも、俺をギルド長に推薦したのは国王だからな。」


 アルハイクの娘の疑問をギルド長が答える。

 この二人は、昔からの付き合いのようだ

 そんな関係だからこそのやり取りだ。


「そういう訳だ。お前さんをこんな目に合わせたワシが命を張らないのも、無責任な話だからな。」


「受けたのは俺の勝手だ。気にしなくてもいいんだがな。」


 元国王が戦場に立つのは、彼をギルド長に選んだ事による負い目のようだ。

 自分のせいで、ギルド長をこんな目に合わせているのだから。

 だが、命を張る理由はそれだけではない。


「長い付き合いだ。国の為に共に散ろうではないか。ガルシア。」


「…全く、相変わらず強情だな。ルーベンシャ。」


 長い付き合いの二人だ。

 片方が死ねば、片方が残される。

 どうせ死ぬなら、共に死にたいのだろう。

 古き友として。


「分かった、連れて行く。ただ一つ言っておく。」


「なんだ?」


「俺達は死ぬつもりはない。勝つ為に行くんだ。」


 死ぬ想定などするはずがない。

 例え、相手がどのような強敵だとしても。

 それらと戦うギルドの長のガルシアとしても尚更だ。


「相手は最強のハンターですらも歯が立たないような相手だぞ?」


「当然だ。希望を願う心に不可能はない。」


「その口癖、久し振りに聞いたよ。強情なのはお前さんもだな。分かった、ワシも願うとしようかな。」


 頷きあうギルド長と元国王。

 こうして、元国王が来ることが決まった。

 そんな元国王に、アルハイクの娘が駆け寄る。


「国王っ! 国王も行かれるのですか?」


「もう国王ではないよ。…孫達を頼んだぞ。」


「えぇ、はい。」


 ルーベンシャがアルハークの娘の頭を撫でる。

 しかし、アルハイクの娘は不安そうに俯いている。

 理解は出来ても、納得はいっていないようだ。

 そんな彼女を心配させまいと、元国王は陽気に笑う。


「どうせなら、一杯交わしたいんだがな。」


「確かにな。」


「却下です。これからすぐに戦場ですよ?」


「分かってるさ。終わってからの楽しみにしておくよ。」


 ギルド長と元国王の二人は、笑いながら軽口を叩き合う。

 それに呆れながらも、ストロークが口を挟む。

 その時、三人の元へ職員が駆け寄ってくる。


「ギルド長、いつでも出れます。」


「そうか。じゃあ皆、乗ってくれ。」


 ギルド長、元国王、ストローク。

 さらに、職員達が自走船へと乗り込んでいく。

 その横で、アルハイクが家族と抱き合う。


「じゃあ、行ってくるよ。」


「…ご無事で。」


「あぁ。」


 家族と別れを済ませたアルハイクも、自走船へと乗り込む。

 これで、全ての準備は完了した。

 確認したガルシアが、一番前にある自走船の船首に立つ。


「お前達にも言っておく! 死にに行くような考えを持っているなら捨ててしまえ! では、出発!」


 ギルド長の合図に自走船が走り出す。

 その後を、他の自走船が続く。

 残された者達に見送られながら、自走船が戦場に向かう。

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