第42話 命がけの誘導

「本部から作戦の変更、直ちに配置につけ。」


 本部から伝えられたギルド長の指示が行き渡る。

 それを受けた職員が、自走船の行き先を変える。


「我々の役目はおびき寄せること。幸いにも、鬼共はちょっかいをかければ着いてくる。」


 撃退から誘導へ。

 相手がこちらに反応するからこそ出来る事だ。

 上空の気球を見上げ指示を待つ職員達。


「このまま前方。」


 真っ直ぐと、目的の場所へと向かう自走船。

 そこは、これから鬼が通るであろう場所。

 その場所で、待機の指示を受けた自走船が停止していく。


「そのまま待機の指示を自走船に。こちらに向かって来ているな。」


 気球の職員の視界に、吹き飛ぶ森が目に入る。

 それが、こちらに向かって来ているようだ。

 それ以外にも、大地が吹き飛ぶ様子が複数箇所から見える。

 それらから立ち塞がるように、自走船が待ち構えている。


「異常なし。そのまま待機を続けよ。」


 その場で鬼を待つ自走船。

 そちらに向けて、鬼が迫っている。

 それから離れた場所では、避難民への誘導が始まっている。


「強力なモンスターを大陸の反対側に集めています。」


「それを避けるように誘導するので、我々の指示に従って避難をお願いします。」


 竜車から避難民へと説明をする職員。

 指示に従ってもらう為に、素直に情報を伝える事にしたようだ。

 大体の避難民は、その誘導に従ってくれるのだが。


「本当に大丈夫なんだろうな?」


「えぇ、そのはずです。」


「本当に来ないんでしょうね?」


「はい。ここが一番安全なはずですから。」


 このように、不安を持つ避難民は少なくない。

 状況を考えれば無理もないが、従ってもらうしかない。

 実際に、ここ以外は鬼と接触する可能性があるのだから。

 そんな避難民をなだめつつ避難をしている時だった。


ずどーーーーーん!


 後ろの方から激しい音が聞こえてきた。

 遠い場所であるこちらにも届いてしまう程の轟音。

 その音に、避難民達が怯えだす。


「ひいっ。」


「もう始まったのかっ。大丈夫です。落ち着いて。」


 怯える避難民達へと、必死に声をかけていく。

 その遥か後方の場所では、鬼と自走船が戦っていた。

 先程の音は、自走船を見つけた鬼が襲いかかった音だ。


「撃て撃てーーーーー!」


 自走船から飛び出たボウガンの矢が、鬼達を襲っていく。

 しかし、効くはずも無く鬼が自走船に襲いかかる。


「避けろーーーーー!」


 コングの鬼がしらの拳を自走船が避ける。

 それでもと、コングの鬼がしらが自走船を掴んでぶん投げた。


「わああああああああっ。」


 投げられた自走船が他の一隻に直撃し、大破してしまう。

 そこに、コングの鬼がしらが拳を振り下ろす。

 同じように、離れた場所で草食鬼竜に飛ばされた自走船が爆散する。


「と、止まるなーーーーっ!」


 出合い頭の襲撃に動揺が広がる。

 それでも、立ち止まっている余裕はない。

 何故なら、他の自走船を襲うべく動き出しているからだ。


「来てるぞ! そのまま引けーーーーーっ!」


 鬼達から逃げるように、ボウガンの矢を撃ちながら走り出す。

 当然ながら、二匹の鬼が自走船を追いかける。

 それから遅れるように、水鬼竜や鬼鳥竜も誘導に入る。

 そこに向かって、自走船の上のハンター達が爆発物を投げ込んでいく。


「おらおら、来やがれっ!」


 自走船から投げ込まれたそれは鬼へと命中する。

 そうして、追いつかれそうになった自走船から引き離していく。

 そうしながら、鬼と一定距離を保ちながら逃げ続ける。


「このまま行けばっ。」


 追いつかれる事は無いだろう。

 この誘導は、順調に進む。

 それから少し進んだ時だった。


「あれ? 何かが。」


 運転手の職員が目を凝らして前方を見る。

 そこには、何かが前を埋め尽くすように並んでいた。


「あれは、避難民っ!」


「何だとっ!」


 その正体は避難民。

 逃げたはずの避難民達がそこにいた。

 それらが、自走船の進路を塞ぐように立っている。


「な、と、止まれっ!」


 これ以上進む事は出来ない。

 なので、自走船がその前で止まる。


「お、おい、何止めてっ。な、なんだこりゃ。」


 急に止まった事により、ハンターもまたそちらを見る。

 そして、その様子に言葉が詰まる。

 しかし、避難民達は自走船に構わず歩き続けている。


「こいつら逃げたんじゃねぇのかよっ。」


「そのはずですがっ。」


「そのはずって…、おい! 何してやがる!」


 予定では、鬼を誘導する方へと避難したはずだ。

 しかし、眼の前にいる。

 それどころか、ハンターの呼びかけにも答えない。

 そうしている間にも鬼が迫る。


「き、来てるぞっ。」


「し、仕方ねぇ。突っ込むぞ。」


「し、しかし。」


「しかしもねぇだろがっ。」


 ハンターが無理矢理に、自走船を発進させる。

 しかし、自走船は動かず発進しない。


「なんでだっ。」


「お、おい、見ろ!」


「なんだあっ。」


 下を見ると、避難民が自走船へと群がっていた。

 それのせいで動かない

 よく見ると、避難民の目に生気がない。


「あ…ああ…あ…。」


「これは、情報にあった鬼鳥竜の粉。うっ。」


 いきなり、職員の男が口を抑えた。

 当然の嘔吐感に襲われたようだ。

 それを見た他の職員も抑えていく。

 よく見ると、他の自走船でも同じ事が起きているようだ。


「ど、どうしたっ」


「こ、粉だっ。鬼鳥竜の!」


「はあっ!? だってやつはっ。」


 後ろにいるはずだ

 そう言おうとした時だった。

 自走船の一つが吹き飛んだ。


「追いつかれたっ。」


 追い付いた鬼がしらが、自走船を吹き飛ばしたのだ。

 そして、そのまま避難民へと突っ込んだ。

 そうしている間にも、ハンター達も口を抑えていく。


「ぐうっ。これがかっ。でもなんでここに。」


「恐らくですが、今まで放った粉が風にのって広まっているのかも。」


「おいおい。なんだよそりゃ。」


 後ろにいる鬼鳥竜の粉が届く事はない。

 ならば、すでに放ったのが風にのって大陸中に広がったと考えるのが自然だ。

 そうでもないと、説明がつかない。

 そうしている間にも、鬼がしらが暴れだす。


「早く…逃げ…ねぇと。」


「でも…どうやって。おえっ。」


 避難民に掴まれて動かない。

 このままでは動かない。

 その時、爆炎が襲いかかる。


「鬼がしら…避難民っ!? どうなってるんだっ!」


 他の班の自走船だ。

 ぐずぐずしている間に、合流してしまった様だ。

 すると、鬼がしらと草食鬼竜が衝突する。


「ま、まずいっ。」


 直後、激しい爆発が辺りに広がる。

 その衝撃に、避難民もろとも自走船が吹き飛ぶ。

 地面も割れて断層がずれていく。

 しかし、その衝撃で避難民から開放される。


「よし。って、喜んでいる場合じゃない。」


「何が起きてるのか分からないが鬼を引き離すっ!」


戦いの衝撃で、どんどん地面が割れていく。

このままにしておくと、大地が沈んでしまうだろう。

それを止める為に、争う二匹の鬼にボウガンの矢を放っていく。

それから何度も打ち込んでいくと、鬼達が自走船を見る。


「こ、来いっ!」


 避難民を弾き飛ばしながら自走船が走り出す

 その後を、避難民を潰しながら鬼が追い掛ける


「ひ、避難民が!」


「もう手遅れだ! 諦めろ!」


 迫る鬼に、沈みゆく地面。

 助ける時間も余裕もない。

 それらから、必死になって逃げ続ける自走船。

 それでも追いつかれた自走船が吹き飛んでいく。

 そのまま、避難民の群れを抜ける。


「抜けた!」


 横を見ると何台かが現れる。

 どうやら、同じく上手く抜ける事が出来たようだ

 そのまま逃げながら突っ走る。


「上手くいったが、おえっ。」


「このままでは私達も。ぐうっ。」


 吐き気に耐えながら自走船を走らせる。

 このままでは、粉でやられてしまうかもしれない。

 それでも、目的を果たす為に逃げ続ける。

 その時、水の柱が走った。


「おわっ。」


 水の柱が大地を割る。

 その勢いで、地面が崩れていく。

 更に、強烈な津波が自走船を襲う。

 その崩壊に、逃げ遅れた人達が巻き込まれていく。


「水鬼竜かっ。」


「す、すまないっ。思ったより速すぎてっ、うおっ。」


 横から新たな水の柱があがり、合流する二つの班の間を走る。

 それから更に放たれた水の柱が、周りの大地を砕いていく。

 それにより、自走船の足場もまた無くなっていく。


「陸地だっ。陸地に逃げろっ!」


 このままでは、逃げ道を潰されてしまうだろう。

 それから逃れるように、進路を変える。

 その間にも、水の柱が上がっていく。

 時には、自走船の横をかすめる。


「ブレスがっ!」


「それよりも陸地がっ!」


 水場から逃げるように、崩れゆく地面を走る。

 すると、地面のそこから爆炎の壁が上がる。


「草食鬼竜っ。」


「に、逃げ場がっ。」


 横からは水の柱。

 反対からは爆炎の壁。

 それらが吹き荒れる中を進んでいく。

 しかし、それだけでは終わらない。

 地面が浮いて自走船ごと宙へと放り投げる。


「鬼がしらだっ。」


 鬼がしらが地面を叩いた衝撃で割れた地面が飛んだのだ。

 そのまま先の地面に叩きつけられるが、それでも走り続ける。

 止まっている余裕などあるはずがない。


「進めーーーーっ。」


 それでも走り続ける。

 とにかく走り続ける。

 止まったら終わりだ。

 だから、止まることなど絶対にしない。

 それなのに…。


「は、ははっ。楽しくなってきやがった。」


 逃げる者達は笑っている。

 まるで、この状況を楽しんでいるかのように。


「粉のせい…ですかねっ。思考もぼんやりとしてきました。」


「どっちでも構わねぇよっ! このまま突っこめっ!」


 粉のせいか、それとも状況のせいか。

 とにかく楽しくて仕方がない。

 各船から、楽しそうな雄叫びが上がっていく。

 それを楽しみながら進んでいくと、前方に高い山脈が見えてくる。


「エリアを囲う山脈。見えたぞ!」


「このままエリアの入り口にゆうど…。」


 職員が言い切る直前に、全てが吹き飛んだ。

 何もかもが空へと舞い上がる。

 その先に見える空には、一つの影があった。


「鬼鳥竜っ。」


 鬼鳥竜が起こした突風が、全てを吹き飛ばしたのだ。

 地面の破片と共に、自走船が空を舞う。

 その先には、エリア端の山脈がある。


「は、ははっ。人類にっ、栄光あれーーーーーっ!」


 雄叫び、そして瓦礫が落ちていく音。

 それらと共に、今まで駆け抜けた地面が沈んでいく。

 その直後、山脈の一部が吹き飛んだ。

 その開いた場所から、地面の崩壊を免れた鬼達が現れる。

 そこは、モンスターが蔓延るエリア。

 その中へと、鬼達が進んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る