第39話 怒りの鬼がしら
「反撃って言いますけど、どうなるんですか。取り敢えず、コングの王が来たから攻撃してますけど。」
「見ての通り、異常事態発生よ。そのまま続けて。」
「えぇっ、まぁ、撃ちますけどっ。」
驚きつつも、自走船の上からボウガンの矢を撃ち込んでいく職員。
そんな彼らは、本部から来た新たな援軍だ。
「第二陣の援軍。予想通りの到着ね。時間からしてそろそろだと思ったのよ。」
さきほど空を見たのは、月を見て時間を確認する為だ。
それを見て新たな援軍が来ると予想し、コングの鬼がしらにぶつける為に誘導したのだ。
「責任者として命令するわ。いきなりで悪いけど作戦変更よ。この第二陣で鬼がしらを止めるわ。」
「こうなっては仕方ないですね。ハンターの皆さん、頼みます。」
戦うしかないと察したのだろう。
後ろに向かって呼びかける職員。
すると、複数の人達が飛び降りてきた。
「どうなったかは知んねぇが、俺達はいつでもいいぜっ!」
「あぁ、戦えるのならどこでもなあっ!」
飛び降りてすぐに駆け出すハンター達。
戦うのなら場所を選ばない、それがハンターなのだ。
武器を握って、鬼がしらへと突っ込んでいくが…。
ウガアアアアアアアアッ!
「えっ…。」
鬼がしらに迫る直前、雄叫びを上げた鬼がしらが両手を振り降ろし地面に落とす。
その勢いで砂埃が発生し、ハンター達を襲う。
「ぐうっ!」
あまりの事に対処が出来ない。
さらに、ハンター達の地面が傾いていく。
「じ、地面がっ!」
気づけば、足元に大きな山が出来上がっていた。
それにより、滑り落ちていくハンター達。
次の瞬間…。
「「「ああああああああああっ」」」
山ごとハンター達が空へと投げ飛ばされてしまった。
そして、吹き飛んだ山が自走船へと落ちてくる。
「た、退避!」
まずいと判断し、自走船へと叫ぶジェネル。
すると、落ちてくる影から逃げるように自走船が逃げていく。
そんな中、ジェネルの乗る小竜も逃げる。
その背後からは、大きな土の塊と砂埃が悲鳴と共に降り注ぐ。
「急げ!」
少しでも止まると、押しつぶされるほどの量だ。
それから、全速力で逃げていく自走船。
しかし、砂埃から現れた大岩が自走船の一つに落ちる。
「ふ、船がっ!」
大きな岩に固定されている為、自走船は動かない。
その岩の正体は、鬼がしらの手だ。
その手が、自走船を握りつぶして砂埃へと引っ張り込む。
「うわああああああっ。た、助けてええええええっ!」
引き込まれた自走船は、落ちる砂に潰される。
一瞬の事で、抵抗すら出来ない。
それでもと、ジェネルが叫ぶ。
「もっと飛ばしなさい! 同じ目に合いたくないでしょっ!」
全速力で逃げる自走船。
左右に避ける余裕もない。
しかし、再び現れた手が自走船を引きずり込む。
「うわああああっ!」
「に、逃げて! もっと早く!」
飲み込まれないようにと逃げ続ける。
それがこうじてか、落ちる土の音が止む。
どうやら、全て落ちきったようだ。
「た、助かったの?」
少し離れた所で、小竜と自走船が止まる。
そして、後ろを振り向いて確認する。
そこでは、落ちてくる土は無く砂埃が広がっているだけだった。
逃げ切る事が出来た。
ただし、落ちてくる土からは。
ぐうおおおおおおお。
「来るっ!」
砂埃の中から雄叫びが聞こえてくる。
その直後、その中から鬼がしらが飛び出した。
そして、ジェネル達の前にズシンと音を立て着地する。
グウウウウウウウウッ!
その口からは大きな歯が見えており、唸るような声が漏れ出ている。
さらに、血走った眼でジェネル達を捉えている。
殺意を剥き出しにした姿そのものだ。
「完全に人間を敵と捉えている。理由は、考えるまでもないわよね。」
その理由は、人間につがいを殺されたから。
それ以外に考えられない。
そのせいで、殺す標的に人間が加えられたのだ。
その鬼がしらは、今にも飛び掛かろうと力を溜めている。
「どうすればいいんですかっ!」
「落ち着きなさい! 避ける準備を!」
攻撃に備えるしか、出来る事はない。
そんな自走船に向かって、鬼がしらが拳を振り上げた。
グウウウウウオオオオオウウウウウッ!
何度目かの咆哮。
怒りをぶつけるように空へと吠える。
そして、拳を振り上げる。
「どこに逃げれば。」
そうは言っても、考える時間はない。
振り上げた拳が振り降ろされる。
その時だった。
「間に合った!」
どこからかの叫びと共に、ボウガンの矢が鬼がしらへと刺さる。
それに反応した鬼がしらは、飛んできた方へと拳を振り下ろす。
「残念。届かねぇよ!」
「っ! あ、あなた達はっ!」
そこにいたのは、鬼がしらと戦っていた班だ。
追いかけて来たのが間に合ったようだ。
それを見たジェネルが叫ぶ。
「全隻、鬼がしらを方位っ! 一斉に砲撃よ!」
すぐに頭を切り替えたジェネルが指示を飛ばす。
絶好のチャンスを見逃すつもりはない。
そのジェネルの指示で、全ての自走船からボウガンの矢が飛び出していく。
「今の内に!」
「おうっ!」
ジェネルの指示でハンター達が駆け出す。
すると、鬼がしらが逃げ出す。
「逃さねぇ!」
「自走船も追いかけて、方位は維持したままで。」
ハンター達が鬼がしらを追う。
その後を、鬼がしらを囲んだまま自走船も追いかける。
すると、いきなり鬼がしらが止まる。
それと同時に、地面の土を掴む。
その手からは、砂が溢れる。
「馬鹿ね。貴方が砕いたばかりでしょう。」
その土は、先程飛ばしたものだ。
その勢いで、細かく砕けているようだ。
そうなると、掴む事は出来ない。
「構わないわ。攻撃を続けて!」
土が掴めないなら恐れるものはない。
そのはずだった。
鬼がしらが手の土を手放し、地面に指を差し込む。
グウウウウウオオオオオオオッ!
雄叫びと共に、手を振り上げる鬼がしら。
すると、砂埃が再び舞いあがる。
「っ、なにをっ。」
視界を砂埃が覆う。
そのせいで、鬼がしらが見えなくなってしまう。
「どこだっ。」
自走船の職員が叫んだ時だった。
その職員が乗る自走船が叩き潰されてしまう。
「どうなってっ…。」
「何が…。」
声を上げる度に、自走船が叩き潰されていく。
しかし、砂埃で何が起きているのかが分からない。
この為に砂埃を起こしたようだ。
潰される音に焦るジェネル。
(焦るな。落ち着いて。)
そう自分に言い聞かせながら耳を澄ます。
聞こえてくるのは、悲鳴と足音。
「行ける!」
小竜に指示を出して走らせる。
何かに気づいたのだろう。
「こっちよ!」
大きな声で叫んで、鬼がしらをおびき寄せるジェネル。
すると、前か後ろから足音が近づいてくる。
まんまとかかったようだ。
「足音を狙いなさい!」
逃げながら指示を出すジェネル。
すると、鬼がしらの足音がする方に矢が飛んでいく。
その直後、何かが刺さるような音の後に激しい音が聞こえてくる。
そして、砂埃が晴れる。
「かかったわね。」
そこには、上半身を地面に突っ込んでいる鬼がしらの姿があった。
そうとう深く突っ込んだのか、暴れても抜け出せない。
「残念ね、柔らかくしたのはあなたよ。さて、ハンターのみんな、とどめをお願い。」
「おう。散々仲間を殺しやがってよう。」
鬼がしらの姿を見て安心したのか、ハンター達が集まってくる。
今までの分を返すためにと、武器を構える。
その時だった。
ぐごごごごごごごご。
地面が激しく揺れ始めたのだった。
「なんだ?」
「鬼がしら…違う、地震だわ!」
その揺れは、本物の地震の揺れだ。
それが、ダメージを追っている地面を揺らす。
そして、鬼の戦場をも揺らす。
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