第38話 最悪の事態
大きな地響きが大陸に響き渡る。
それは、一度では無く何度も起こる。
その中を、ジェネルを乗せた小竜が向かう。
「冷静に、落ち着きなさい。」
焦る気持ちを、自分に言い聞かせながら抑える。
歯を食いしばりながら耐えるが、それも限界に近いだろう。
先で何が起きているのかを考えると無理はない。
「お願い、間に合って。」
そう願いつつ、現場へと急ぐジェネル。
それからしばらく進むと、前方に複数の壁が立っているのが見えてくる。
「資料にあったやつ。じゃあ、奴はこの先。」
その壁の正体は、浮き上がった地面だ。
それらは、まるで波打つように地面が浮いている。
さらに、所々に大きな岩が落ちているのが見える。
「岩? いえ、土ね。」
岩のように見えるが、土が固まったもの。
その下には、赤い液体と馬車の破片が覗いている。
「避難民…くっ、最悪だわ。」
避難民が乗っていた馬車だろう。
見渡すと、似たような物がそこら中にある。
それらが、ジェネルに間に合わなかった事を伝える。
「…急ぎましょう。まだ生き残った者がいるはず。」
間に合わなかった事を悔いている場合ではない。
今は、生きている人達を救う事が最優先。
その為に、先を急ぐと大きな影が見えてくる。
グウオオオオオウオォォォオオオオオオォォォ!
コングの鬼がしらだ。
狂ったように、何度も地面に拳を打ち付けている。
「見つけた。速度を落として。隠れるように。」
ジェネルが指示を出すと、その通りに小竜が従う。
音を立てないように、浮き上がった地面に隠れながら進んでいく。
すると、膝を抱えている一人のハンターが見えた。
「近くに。」
小竜に指示を出し、そのハンターの近くへと向かう。
そして、その側で降りるとハンターの横へとしゃがみ肩を揺する。
「何があったの?」
「…。」
質問をするも答えない。
それからしばらく待つと、震える口を開いた。
「…奴が来たと思ったら、…倒した鬼がしらの…死体を見て…暴れ出した。」
「死体を見て怒った…まさかつがい?」
倒したはずの鬼がしらの死体はつがいのものだった。
それを見たから怒って暴れていると考えると頷ける。
「資料にはいなかった。でも、考えたら分かってたはず。失態だわ。」
資料には、つがいの事は載っていなかった。
しかし、群れの長にはつがいがいるのは良くあるのだ。
今回の事は、資料任せに動いた事で起きた事だ。
「生き残りは?」
「分からない。分かりたくない。ここから動きたくない。」
震える声で否定する。
恐怖で精神が限界のようだ。
その肩を揺するジェネル。
「しっかりしなさい。」
「無理だ。」
「ねぇ、聞いてる?」
「無理だ。無理だ。無理だ。」
もう、同じ言葉の繰り返ししか喋らない。
限界を超えて、精神が崩壊したようだ。
直後、地面の欠片が飛んでくる。
「ひいっ。」
どこからか、小さな悲鳴が聞こえてくる。
眼の前のハンターでは無い。
すると、近くの影から一人のハンターが飛び出した。
「だ、駄目っ!。」
ジェネルが呼びかけるがもう遅い。
グウオオオオオオッ!
雄叫びを上げながら拳を振り下ろす鬼がしら。
その拳で、ハンターを肉塊へと姿を変えてしまう。
「ひっ。」
「静かに。」
声を上げかけるハンターの口をジェネルが塞ぐ。
なんとか音を出さずにすんだが。
「ひあっ!」
ずどーーーーーーん!
鬼がしらが、声がした方の浮いた地面を拳で叩き潰す。
おそらく、恐怖で声を上げた誰かが叩き潰されたのだろう。
さらに、ズシンズシンと足音が近づいてくる。
そちらを覗くと、鬼がしらが浮いた地面を覗いているのが見える。
(他にいないか探しているのね。)
まだ他にも人間がかくれているかもしれない。
そう思い、一つ一つ覗き込んでいるようだ。
その鬼がしらが、ジェネル達の近くに来る。
「…っ。」
息を潜んで耐えるジェネル。
すると、鬼がしらが離れていく。
(ここも危ない。どうすれば。)
今は助かったが、見つかってしまうのも時間の問題だろう。
それに、まだ人がいるかもしれない。
辺りを見渡し打開策が無いかを探す。
さらに、上を見上げる。
「そろそろかしら。」
空を見て呟くジェネル。
早速、小竜に戻ると乗り上げる。
「行くわよ。少しばかり付き合ってね。」
小竜に指示を出して走らせる。
向かう先は、鬼がしらの下へ。
乗り込む際に掴んでいた岩を投げつける。
「こっちよ!」
叫びながら投げた岩が直撃する。
当然、鬼がしらがジェネルに気づく。
グウオオオオオオオオオオオッ!
当然の如く、雄叫びを上げながら拳を振り上げる鬼がしら。
このまま、他と同じように叩き潰す気だろう。
それでも、小竜は止まらない。
「命がけの大勝負。やってやるわ。」
ジェネルに向けて拳を振り下ろす鬼がしら。
その下を、小竜が潜り抜ける。
「資料通りならっ。」
小竜が鬼がしらの背後に回り込む。
そのまま、鬼がしらの周りを回るように走る。
それを、鬼がしらの拳が追いかける。
「そもそも、鬼がしらが地面を利用するには訳がある。それは。」
鬼がしらの拳が小竜に迫る。
次の瞬間、鬼がしらがすっ転ぶ。
「機動力が無いからよっ!」
鬼がしらは、地面を砕くほどの強い力を持っている。
しかしながら、それと引き換えに自由に動く事は出来ないのだ。
「今よ!」
鬼がしらが立ち上がろうとするも、自身が壊した地面のせいで上手く立ち上がれない。
その隙を見て、小竜が鬼がしらから離れていく。
「そんな重いものをぶら下げてたら無理もないわよね。」
機動力を奪っている主な要因はあの大きな腕だ。
それでも、鬼がしらが無理に立ち上がって飛び上がる。
グウオオオオオオオオオオオオッ!
小竜に向かって鬼がしらが落ちてくる。
しかし、小竜が横に避けて回避する。
「原因さえ分かれば、軌道の計算も余裕よねっ。」
基本的には、真っすぐにしか跳べないはずだ。
それさえ分かれば、跳んでくる軌道など簡単に分かる。
そうなると、後は避けるだけだ。
グウオアッ!
それでもと鬼がしらが、再び跳んでくる。
それを、軽々と小竜が避ける。
「いくら来ても同じっ!」
何度も跳んでくるが、必ず避ける。
すると、今度は眼の前に落ちてくる。
無理な事を繰り返すほど、相手は馬鹿ではない。
それでも、振り返った時の背中に合わせて駆け抜ける。
「無駄よっ!」
違った事をされてもやる事は同じ事。
軌道さえ分かれば、避けることは容易いのだ。
それを繰り返しながら逃げ続ける。
変わらず鬼がしらが飛び込んでくる。
そして、変わらずそれを避ける。
そのまま、鬼がしらが地面に突っ込んだ時だった。
複数のボウガンの矢が鬼がしらに突き刺さる。
「やっぱりね。」
暗闇の先には無数の影。
それらは、自走船の列だ。
そのまま駆けた小竜が、その前で止まる。
「さぁ、反撃返しよ。」
その言葉と共に、さらなる矢が鬼がしらへと飛んでいく。
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