第37話 事態急展

 駆け出した鬼がしらは、脇目も振らず飛び跳ねる。

 その先は、避難民が避難をしている途中の場所。

 鬼がしらによる被害は考えるまでもない。


「まずい、止めなきゃ。」


 ジェネルの顔から血の気が引く。

 被害の大きさを考えれば、焦ってしまうのも仕方ない。

 急いでテントから出たジェネルは、近くの小竜へと向かう。


「マスター、支持はどうするんですかっ。」


「優先すべきは民の命。大丈夫、戦っているみんなもまたハンターよ。」


 同じハンターギルドの仲間なら、何を優先させるべきか分かるはず。

 ジェネルの行動を止める事はないだろう。

 そう信じ、小竜に乗ろうとするジェネルだが。


ずどーーーーーん!


 近い場所から、何かが落ちる音がする。

 そして、音と衝撃と共に大きな砂埃がジェネル達を襲う。


「ぐっ、な、何っ!?」


 驚いて声をあげるも、その正体は考えるまでもない。

 すぐに砂が晴れて、砂の波を起こした本人が現れる。


「鬼がしら!」


 そこにいたのは、コングの鬼がしら。

 その視線は、遥か遠くへと向いている。

 そして、すぐに腕を振り上げまた跳んだ。


「ま、待ちなさい!」


 声を上げて、コングの鬼がしらを止めるジェネル。

 しかし、こちらを見る素振りも無く姿を消す。

 代わりに、砂の波を再び起こす。


「ぐうっ。追いかけなきゃ。」


 砂に耐えたジェネルは、急いで小竜に乗り上がる。

 そして、すぐに小竜を走らせる。


「ごめん、急いでね。」


 小竜に呼びかけると、進む速度が上がっていく。

 そのまま、鬼がしらを追いかけ突き進む。



 そのはるか先の事だ。

 血塗れのコングの鬼がしらと呼ばれるものと向かい合うハンター達。

 その周りには、子供達が守るように囲んでいる。


「一体こいつら何をしやがった。」


 先程の雄叫びの事を警戒しているのだ。

 戦っている間に、急に雄叫びをあげた。

 それらの行為が、何の意味も持たないとは思えない。


「急いで倒すべきか?」


 いや、様子を見たほうがいい。何か仕掛けているかもしれないからな。

 罠ではないかとの気持ちが、ハンター達を警戒させる。

 それに、こいつはたくさんの被害を生んだ例の鬼。

 そのような気持ちが、ハンターの動きを止める。


「くるぞっ!」


「どうせ子供だけだ。払っとけ!」


 時々攻めてくる子供を、ハンターがいなす。

 いなされた子供が引っ込んでいく。

 それを繰り返しながら、お互いが様子を見合う。


「じれったいなぁ。」


「全くだな。急に現れたと思ったらこれだ。一体こいつは何をしたいんだか。」


 動くのは子供だけだ。

 当の鬼は、何も行動を起こさない。

 なので、鬼の目的が読めない。



 そもそも、なぜこうなったかは少し前に遡る。

 ハンターが、避難民を守っているときの事だ。


「て、敵だ!助けてくれ!」


 どこからか、悲鳴が聞こえてくる。

 声がしたのは、離れた所を走る馬車からだ。

 運転手の職員が声を上げたようだ。


「どうした!」


 当然ながら、護衛のハンターが駆けつける。

 すると、何かの影が食べ物の乗った荷台を引く馬車を囲んでいるのが見える。


「くそっ、ついに出やがったな。」


「って、おい。こいつら、コングじゃねぇか。」


「なっ、どうしてっ。ここはエリアじゃないのに。」


 目の前にいるのは、このような場所に出ない相手だ。

 そのような相手の出没に動揺が広がる。


「もしかして、今の騒動のやつか?」


「たぶん。でも、戦場はもっと先でしょ? なんでここにいるの?」


 どちらにしても、ここにいるはずのない相手だ。

 しかし、実際に眼の前にいる馬車を襲っているのは事実。


「どっちにしても、俺達がする事はかわらん。」


「だな。いくぞ。」


 何が起こっているのかはどうあれ、襲われているのなら助けるまでだ。

 ハンター達がコングの群れに攻撃を与えていく。

 その間に、馬車が逃げていく。

 そうして、コングの群れを払っている時だった。


「親玉だ!」


 ハンターの一人が叫んだ。

 その視線の先を追うと、一際大きなコングが現れる。

 そして、ハンター達を見るなり雄叫びを上げる。


「こいつが鬼って奴か。」


「だろうな。どうする?」


 ハンターの額に汗が流れる。

 ハンター達は、鬼について詳しくは知らされていない。

 それでも、このタイミングで現れるのは鬼しかいないだろう。


「どうしようたって、やるしかないだろっ。」


 そう言ったハンターが前に飛び出した。

 そのまま武器を取り斬りかかる。

 すると、コングの王が拳で反撃する。

 それを、他のハンターが剣で逸らす。


「でも、沢山のハンター達を殺した奴だろ? 勝てるのか?」


「やらなきゃ避難民が死ぬ。行くぞ!」


 避難民を守る為、ハンター達が戦う。

 戦闘は、ハンター達の一方的な攻撃だ。

 コングの鬼がしらに傷がついていく。

 その結果、コングの鬼がしらは血塗れで片肘をつく。


「なんだ、全然対した事ねぇな。」


「むしろ弱すぎる。本当にこんな奴にやられたの?」


 手応えのなさに、疑問が広がる。

 しかし、攻撃を緩める事はしない。

 その度に、コングの鬼がしらの傷が増えていく。


「このまま倒しちまうぞ!」


「おう!」


 そうして、とどめを刺そうと一斉に飛び出した時だった。


ぐおおおおおおおおおおっ。


 コングの群れが大きく雄叫びを上げた。


「何だ?」


 突然の事で、ハンター達の攻撃が止まる。

 すると、その隙にコングの鬼がしらが立ち上がる。

 そして…。


ぐおおおおおおおおおっ。


 子供達と共に大きく雄叫びを上げた。

 その声が、七の地区を駆け巡る。

 そうして、今に至る。



 ハンター達と、コングの鬼がしらの睨み合いが続く。

 しかし、それ以外何も起こらない。


「もしかして、何もない?」


「だな。馬鹿にしやがって。一斉にかかるぞ!」


 何もないと判断し、ハンター達が動き出す。

 まずは、数人が子供達を押さえる。


「おらっ、今のうちだっ!」


「おうっ!」


 子供達を取り押さえた事により、開いた道をハンター達が駆ける。

 そして、コングの鬼がしらに武器を振り下ろしていく。

 それから、鬼がしらの息が絶えるのに時間はかからなかった。


「討伐かんりょーっと。」


「なんだよ。やっぱ弱いじゃねぇかよ。」


「おっしゃ、このまま雑魚どもを狩るぞ。」


 親玉を倒しても子供たちがいる。

 ならば、倒し切るのがハンターの仕事だ。

 しかし、倒すのに時間はかからない。


「もしかして、大陸を救っちまったか?」


「だな、がっぽり報奨を要求しないとだ。」


 鬼を倒した事によってお金が入る。

 そう考えると、楽しくてたまらない。

 子供達を狩るのも、軽やかになっていく。

 その時だった。


ずどーーーーーん!


「な、何だ!」


 砂埃と地響きと共に、本物が現れた。

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