第35話 想定外な襲撃

「この鳴き声は、まさか。」


 ハンターをしていると、聞き慣れてしまう鳴き声。

 そう、鳥竜種の鳴き声だ。

 しかも、鳴き声がした方から羽ばたき音が聞こえてくる。


「まさか、やつか?」


「おいおいっ、寝てるんじゃねぇのかよ!」


「報告ではな。」


 本部から受けた情報では、確かに寝ているとの報告を受けた。

 でも、確かに聞こえたのは鳥竜の鳴き声だ。

 その鳥竜の羽ばたきが、大きくなっていく。


「こっちに来るぞ!」


「船がやばいか、戻れ!」


 一人のハンターの呼び掛けに、他のハンター達が従い戻っていく。

 今一番危ないのは、遮蔽物のない場所にある自走船だ。

 急いで戻ると、自走船にいる職員達へと叫ぶ。


「奴が来てる! 職員は急いで船の明かりを消せ。ハンターは、自走船を囲んで待機だ。」


 焦った職員やハンター達が指示通りに動いていく。

 自走船の明かりが消えて、辺りは真っ暗に。

 その間にも羽ばたきは上空に来る。


「上だ! こっちを狙ってやがる!」


「お前ら! 船から離れるなよ!」


 どこからきても良いように、船の周りのハンター達が武器を取る。

 その上空から、羽ばたきの音が聞こえてくる。

 どうやら上空を旋回しているようだ。

 しかし、暗闇では見えない。


「何処だ!」


「分からん。でも、こちらに突っ込んで来るはず。警戒を続けろ!」


 こちらを狙っているなら攻撃を仕掛けるはず。

 ならば、必ず接近するはずだ。

 しかし来ない。


「敵は?」


「上空を旋回。いや、止まった?」


 上空を回るように聞こえた羽ばたきが、今度は同じ場所から聞こえる。

 どうやら、旋回を止めて宙に留まっているようだ。

 それを聞いたハンターの男が叫んだ。


「来るぞ!」


 このまま何もしない訳がない。

 武器を構えて、音のする方に備える。

 その時だった。

 激しい突風が、一同に襲いかかる。


「何だっ!」


 本体ではなく風が落ちてきた。

 飛ばされそうになるのを堪える。

 すると、再び風が襲いかかる。


「なんだよこれ!」


「くそっ、なんて風だっ。」


 今まで何度も戦ってきたが、こんな事は初めての経験だ。

 初めての事に、対処できないでいる。


「くっ、撃ち落せ!」


「待てっ!」


「しかし!」


 職員が出した指示をハンターが止める。

 その間にも、三度の風が襲いかかる。

 もし砲撃をしても、風で届かなかっただろう。


「大事な弾だろうがっ。今はとにかく耐えろ!」


「ぐっ、分かりました。」


 自走船に設置されているボウガンの矢は、これから必要になる。

 このような場所で、無駄撃ちするべきではない。

 ハンターの指示に従い、風に耐える職員達。


「また来るぞ!」


 一度止んだと思ったら、さらなる風が襲いかかる。

 度重なる風に耐えていると、一際大きな羽ばたきが聞こえた。

 その音に、ハンターの一人が反応する。


「っ、避けろっ!」


 ハンターの男が叫ぶと、ハンター達が飛び退いた。

 その直後、その場所に大きな影が降ってきた。


どごーーーん!


 その大きな影が落ちてきた場所から、大きな音と土煙が起こる。

 そこからは、大きな生き物の気配。

 それに気づかぬハンター達ではない。


「今だ! 突っ込め!」


 その存在を確かめる暇もなく、被害を受けなかったハンター達が飛びかかる。

 そして、武器を抜いて叩き込んでいく。


「どうだ! てめぇとの戦いなんざ慣れてんだよ!」


 鬼鳥竜の襲撃と、ハンター達によるカウンター。

 どうやら、経験が上のハンターが勝ったようだ。

 そのはずだった。


「うわっ。」


 飛びかかったハンター達が吹き飛ばされていく。

 くっ、明かりを!

 ハンターの支持で、自走船の明かりがついていく。

 そして、それが襲撃者の姿を照らしていく。


クエエエエエエエエッ!


 その明かりを受けた襲撃者が翼を広げて大きく鳴いた。

 まるで、先程の攻撃を物ともしていないかのように力強く立つ姿がそこにあった。

 そして、明かりが照らされた事によって気球に状況が伝わる。


「あれは、例の鬼っ! 鬼鳥竜との戦闘が始まってます!」


 職員の一人が通信機へと叫んだ。

 それにより、その情報がジェネルのいるテントへと知らされる。


『くっ、早すぎるわ。他の班の準備は?』


「まだです!」


 予想外の襲撃の為か、他の準備が間に合っていない。

 その襲撃の主は、明かりに照らされながら翼を広げて威嚇している。


「でけぇ翼だな。他の鳥竜種よりもでかい。」


「つーか、攻撃は失敗だぜ。全く効いていねぇ。」


 確かに攻撃は与えたはずだ。

 しかし、傷一つすら付いていない。

 それどころか、地面を蹴って飛び込んでくる。


「っ、させねぇっ!」


 最初に飛び退いたハンター達が、異変に気付いて前に出た。

 そのおかげか、船に向かって突っ込む鬼鳥竜を抑え込む。


「おらっ! お前ら、踏ん張れ!」


 ハンターの叫びで、他のハンター達が力を込める。

 しかし、次第に押され始める。


「つえぇ。本当に鳥竜か。こいつっ!」


あまりの強さに歯が立たない。

ハンター達の限界が迫る。

それを見た気球の職員が通信機へと伝える。


「押されています。いかがしますか?」


『…信じましょう。もし無理なら避難の指示を。』


「了解しました。」


 彼らは、本部が送ったハンターだ。

 きっとどうにかしてくれるだろうと、ハンター達に託す事にしたようだ。

 そのハンター達は、押し合いを続けている。


「負けるかーーーっ!」


 何とか押し合えているようだが、それも一時の事だ。

 すぐに、ハンター達が吹き飛ばされてしまう。

 しかし、その時に職員達が動き出す。

 

「今だっ! 撃てっ!」


 ハンター達がどいた直後、ボウガンの矢が飛んでいく。

 どうやら、押し返される事を見越してボウガンの先を向けていたようだ。

 その結果、鬼鳥竜に複数の矢が突き刺さっていく。

 しかし…。


「浅いっ!」


 あまりの皮膚の硬さに、ボウガンの矢の先が食い込んだだけに留まる。

 それからすぐに、ボウガンの矢が落ちていく。


「無理かっ。」


「いや、効いている! 続けろ!」


 ハンターの目が、鬼鳥竜の様子に目を光らせた。

 そのハンターの指示で、効かなくてもボウガンの矢を撃ち続けていく。

 すると、少しずつ後ろへと鬼鳥竜が傾いていく。


「いいぞ! 続けろ!」


 沢山の矢の攻撃が続く。

 あまりの勢いに、鬼鳥竜は動けない。


「いけるぞ。気球に合図を!」


 光を照らして、気球に指示を伝える。

 その意味は、作戦の続行だ。

 それを読み取った職員が、通信機へと伝える。

 

「鬼鳥竜を抑えたようです。作戦に支障はありませんとの事。」


「良くやったわ! 他のチームは?」


「配置に着いたとの事です。」


「こちらもです。」


「同じく。」


 通信機の受話器をとる職員達が答えていく。

 それを聞いたジェネルが満足そうに頷いた。

 そして、地図が広げられた机の前に立つ。


「少し早いけど、始めましょうか。作戦開始の合図を。」


「了解。」


 ジェネルの指示が、通信機の向こうへと伝えられる。

 その指示に、現地のチームが返事をする。

 直後、全ての自走船からボウガンの矢が放たれる。

 すると、空で矢に括り付けられた爆薬が爆発。

 闇夜の空を一瞬の間、明るく照らす。

 そして、その爆発の音に奴らが反応する。


ウオオオオオオオオオオ!

グルオオオオオオオオオ!

キシャアアアアアアオン!


爆発に答えるように、怒号のような鳴き声がエリアに響く。

鬼が起きたのだ。


「起きたか。作戦開始だ。」


 それを見ていた、各地の茂みに潜むハンター達が動く。

 まずは、手持ち用のボウガンを持ったハンターが前に出る。


「喰らえ!」


 そのハンター達が、手に持ったボウガンを向けて発射する。

 それらから飛び出た矢が、鬼に突き刺さっていく。

 しかし、ダメージの低さか簡単に弾かれてしまう。

 でも、それでいい。


「こちらを見た。反応あり。


 鬼達が目の前のハンター達をにらみつける。

 目的は引きつけることで、ダメージを与える事ではないのだ。


「よし、ずらかるぞ!」


 鬼達に睨まれた直後、ハンター達が走り出す。

 すると、鬼達が叫びながらハンター達を追いかける。


「ひいっ。早いっ。」


「喋るな、噛むぞ!」


 相手の足音がだんだん迫ってくると、一際大きな音が聞こえてくる。

 どうやら、こちらに向けて攻撃を仕掛けてきたようだ。

 しかし、こちらは経験豊富のハンターだ。


「いよっと!」


 コングの鬼がしらのチームが、飛んでくる大岩を避ける。


「ばれてんぜ!」


 草食鬼竜のチームが、倒れてくる樹から飛び出す大きな影を避ける。


「来るぞ!」


 水鬼竜のチームが、後ろからの水の音を避ける。

 そして、そのまま直ぐに体勢を直して走り出す。

 今まで培ってきた経験がハンター達を突き動かす。

 そして、森を抜けて自走船へと辿り着く。


「船を出せ。」


 追いついてから動かすと追いつかれる。

 そう判断したハンターが叫んだのだ。

 その声を聞いた自走船が動き出す。


「飛び乗れ!」


 自走船が速度を出す直前に、ハンター達が自走船へと飛び着いた。

 そのまま自走船の一部を掴むと、自走船が加速する。


「引き上げて。」


「了解!」


 ハンター達が、職員によって船の上へと引き上げられていく。

 その頃には、自走船の速度が最高速に到達する。


「助かった。それで鬼達は?」


「来ています。」


 後ろを見ると、鬼が追いかけてきている。

 他のチームも、同じく鬼に追いかけられている。


「作戦成功。このまま引きつけます。」


「分かったわ。鬼鳥竜のチームも退避行動に移って頂戴。」


 職員がジェネルの指示を伝える。

 すると、ハンター達を乗せた自走船が攻撃を止めて走り出す。

 当然ながら、自走船を鬼鳥竜が追いかける。


「各チーム成功です。」


 そのまま追いつかれないように目的地へ。

 鬼を引き連れたまま、自走船が暗闇を駆け抜ける。

 時折追いつかれそうになるも、寸前で避ける。

 そして距離を取っての繰り返しだ。


「一番危険なのは、鬼同士が争い出すこと。そのまま、引き離してくれれば。」


 額を汗でぬらすジェネルが呟く。

 大陸の沈没は、鬼同士の破壊の力が合わさったものだ。

 ならば、お互いを引き離してやればいい。


「でも、これはついで。本命は。」


「チームより知らせが。目的地へと着くようです。」


「こちらもです。」


「こちらも。」


ジェネルの呟きに被せるように、職員が知らせを伝える。

それを聞いたジェネルがにやりと笑う。


「いいわ。そのまま戦闘体勢へ!」


「了解! 各チーム、戦闘体勢へ!」


 ジェネルが職員達へと指示を出す。

 それを、各チームを追う気球へと伝えていく。

 そして、気球から自走船へと明かりで知らされる。

 すると、それを見たハンターの一人が叫んだ。


「きたかっ! ようやくだっ!」


 ハンターの叫びと同時に自走船が停止していく。

 それと同時に、ハンター達が自走船から飛び出していく。


「戦ってこそハンターだ! 化け物共に見せつけてやれ!」


「「「おーーーーー!」」」


 自走船に追いついた鬼達に、ハンターが雄叫びを上げながら突っ込んでいく。

 お預けされ続けた戦闘を前に、気合が高まっていく。

 そして、その様子がジェネルへと知らされる。


「えぇ、見せてあげなさい。そして、思い知らせなさい。現地のハンターですら手こずる七の地区の環境の恐怖を。」


 ジェネル、職員、そして、ハンター達のテンションが上がっていく。

 それらは、誰にも止められる事は出来ない。

 その中で、ジェネルが高らかに宣言する。


「さぁ、戦闘開始よ!」


ついに、鬼達との戦闘が始まる。

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