第31話 こうして一日が終わる

「ギルド長? まさか、お偉いさん直々とはな。」


『大陸の脅威だ。私が直々に動くのは当然だろう。』


「まぁ、そりゃそうか。」


 事態の重要性を考えれば、下っ端に出来る範疇を越えている。

 なので、ギルド長が直々に動いているという事だ。


『だが、そう言ったものの情報がない。集めに向かった者からの連絡は一つも来ないからな。』


「そうだろうな。全員死んじまってるだろうし。」


『やはり、そうだったか。』


 動き出したのは朝からだろう。

 あれから時間が経ったのに、連絡が来ないのはおかしい。

 そうなると、何かが起きたのは簡単に想像が出来る。


『それで、君は一体誰なんだ? 我々に用があるらしいが。』


「俺はベージュ。九の地区の商業ギルドのギルドマスターだ。同じ地区のギルドマスターから、とあるファイルを本部に届けて欲しいと依頼された。」


『とあるファイル?』


「エリアから持ち込まれた資料が入っててな、例のやつらの情報が書かれてある。」


 ハイグルに託された資料だ。

 それを届けるために、ここまで来た。

 その為に、生き延びて来た。


「しかも、ハイグルさんが考えた攻略法付きだぜ。」


『ハイグルの・・・そうか、それは確かに必要な物だ。今すぐ見てみたいが。』


 ここから本部までは、距離がある。

 今すぐ見せるなんて事は出来ない。


「ま、無理だろうな。だが、何とかそっちまで届けてやるから待っててくれ。元々、面会の許可を貰うために連絡したような物だからな。」


 問題なのは、取り合って貰えるかだ。

 しかし、こうして知らせる事で達成は出来た。

 後は、ファイルを届けるだけなのだが。


『いや、これから本部も動くつもりだ。途中で合流しよう。』


「動くって、あんたがか? 危険だぞ?」


『危険だから向かうのだろう。ここで動かずして何が長だ。』


 危険に立ち向かってこそのハンターだ。

 その長が動かずして、ハンターギルドと呼べるのか。


『すでに準備を始めている。ジェネル、聞こえてるか!』


「え、は、はい!」


 ギルド長が、少し離れているジェネルを呼ぶ。

 呼ばれたジェネルは、慌てて受話器を受け取る。


『ジェネル。これから、我々はそちらに向かう。それまでに、避難民の誘導。そして、奴らの動きを把握しておいてくれ。』


「しかし、戦力が。」


『戦わずともよい。場所の把握だけしてくれればそれでいい。』


「・・・それだけなら。」


 言葉を詰まらせながら言うジェネル。

 今動ける職員の数を考えているのだろう。


『頼むぞ。』


「了解しました。残りの全てを使って、必ず把握して見せます。」


『では、作戦にかかろうか。健闘を祈る。』


 そうして、本部との通信が切れる。

 すると、ジェネルが再びどこかに繋げる。


「こちら、ジェネルよ。一度、皆を呼び戻して頂戴。お願いね。」


 外で見回りをしている職員に呼びかける。

 そして、受話器を置く。


「まずは気球を飛ばさないと。」


「何か、手伝おうか?」


「いえ、その必要はないわ。それに、あなた相当疲れてるでしょ。」


「これぐらい、商人なら平気っ・・・。」


 心配させまいと、足に力を入れた時だった。

 急に、ベージュの膝が折れた。

 どうやら、疲労が蓄積しているようだ。


「あれ、おかしいな。これぐらい何ともねぇのによ。」


「恐らく、精神的な疲労のせいね。いつもより、肉体の疲労を感じやすくなってるのよ。」


 精神的な疲労が、肉体の疲労に繋がっているのだ。

 ここまで来るのに、色々な事があった。

 疲労ぐらい、溜まって当然だろう。


「大丈夫、私達に任せなさい。必ず、あなた達を守ります。」


 そう断言するジェネル。

 その顔つきは、先程と違って凛々しい。


「それは、ギルドマスターとしての役目か?」


「そうよ。」


「それで死んでもか?」


「そうよ。」


 迷いのない返事が返ってくる。

 その目は、ハイグルの時と同じ目だ。

 彼女もまたギルドマスターなのだ。


「だから、あなたは少しでも休んで疲労を取りなさい。それが、あなたがする事です。」


「俺がする事か。」


 商人としてすべき事。

 それは、書類を届ける事。

 果たす為には、必要な事なのだ。


「休む場所を用意させるわ。何かあったら呼びます。」


「そうだな。その前に、紙を貰えるか?」


「え? えぇ、職員に言うわ。案内する時に渡させるわね。」


 そう言って、ジェネルが部屋を出ていった。

 これから、職員を呼んで作戦を始めるのだろう。

 それを見送ったベージュが、窓から外を見る。


「夜か。もうこんなに経ったんだな。」


 外は暗くなり始めているようだ。

 それは、太陽が沈んだ事を示す。

 あれから、一日の半分が経っていたのだ。


「鬼の奴らの動きがないのが心配だが。」


 かなりの速度で崩壊が進んできた。

 ここに来るのも時間の問題なのだが、来る気配が無さそうだ。

 そんな考えをしながら外を見ていると、部屋の扉が開く。


「あの、マスターに言われて来ました。」


「あぁ、今行く。」


 部屋を出ると、他の部屋に案内される。

 そこは、地べたに寝れるように藁が敷かれてあった。


「それと、紙です。」


「ありがとよ。」


 紙を受け取って、部屋へと入るベージュ。

 早速、部屋に置いてある机の前に座る。

 そこに紙を置くと、自前のペンを取り出す。


「俺の役目・・・。」


 そう呟いて、ペンの先を紙の上に走らせる。

 そこに書かれるのは、資料に無かった鬼の情報。

 今までに体験した、鬼鳥竜についての情報だ。

 それを書いている間に、ギルドの施設が動き出す。


「あくまで、この辺りの偵察よ。では、出て頂戴。」


 町から気球が飛んでいく。

 町の住人達も、逃げる準備を始める。

 皆が、生きる為に動き出す。



 動き出すのは、町だけではない。

 町から上に向かった先にある大きな都市。

 王都と呼ばれる場所にあるハンターギルド本部。


「第一陣。出発!」


 台の上から叫んだ男の指示で、数台の自走船が出発する。

 それらは、大陸の下に向かって走り出す。

 それを見送った男が、部屋の扉を開ける。


「ギルド長、第一陣出ました。あれ、通信中ですか?」


「ストロークか。大丈夫、終わったところだ。」


 ギルド長と呼ばれた男が通信機を置く。

 それを見たストロークと呼ばれた男が部屋に入る。


「首尾の方は?」


「今までに来たハンターは送りました。これから、新たに来るハンターを送る準備を始めます。」


 本部に集まったハンターが動き始めたようだ。

 しかも、これからも増えていくようだ。


「そうか。星を持つハンターはいるか?」


「これから来るようです。これなら、第一陣と第二陣で終わるかと。」


 星持ちとは、沢山の星を持ったものを指す。

 凄腕の上をいくハンターだ。

 それらが動くという事で、期待が高まるのは当然だ。


「油断は禁物だ。金に物を言わすな。大陸中の星持ちを集めろ。」


「了解しました。叩くなら徹底的にですね。」


「その通りだ。奴らが大陸を沈めるなら、こちらは大陸の全戦力をぶつける。」


 相手は、大陸を破壊するような相手だ。

 戦力の出し惜しみは必要ない。

 過剰なんてものは必要ない。


「一応、罠の方も準備させておけ。」


「それなら、アルハークにさせています。」


「うむ。相変わらず、仕事が早いな。」


 集めているのは人だけではない。

 戦うのなら、罠も必要になるだろう。

 すると、一人の男が部屋に入ってくる。


「アルハークです。ただ今、罠を積み終えました。今すぐに送れます。」


「全部か?」


「いえ、壊れているものもあり修理に出しています。」


「無理かもしれないが、明日までに仕上げてくれ。頼む。」


「あ、明日までですか? やってみます。」


 アルハークが急いで部屋を出る。

 これから、罠の修理に追われるだろう。

 しかし、それも必要な事なのだ。


「罠は、第二陣と共に送る。」


「了解しました。」


「本当なら、私もすぐに向かいたいんだが。」


「駄目です。指示を出し終えるまで出れませんよ。」


「分かっている。」


 今すぐにでも、現場へと向かいたい。

 しかし、準備の指示を出す者がいなくてはいけないのだ。

 動けぬもどかしさに、唇を噛むギルド長。


「今はとにかく戦力の確保だ。急いでくれ。」


「了解しました。」


 ストロークが部屋を出る。

 そして、新たなハンター達が集結する。

 慌ただしく動く者達。

 時間は深夜になる。

 そうして、一日目が終わる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る