第29話 人と鬼の戦い
「もっとだ! もっと撃てーーー!」
自走船からボウガンの矢が飛んでいく。
それらは、鬼達の体に直撃していく。
しかし、効いていない。
「効果が薄い。体が固すぎるっ!」
「構わん。先程のやつらは通りすぎた。このまま攻め続ける!」
止まらぬ矢の雨が、鬼達へと突き刺さっていく。
すると、鬼達が自走船へと向かって来る。
「こっち来てるぞ!」
「その為の俺達だろ。援護は頼んだぜ!」
自走船から武器を掴んだ者達が飛び出していく。
どうやら、ハンター達のようだ。
臆する事なく鬼へと向かう。
「攻撃中止! 後は、ハンターの援護へ回れ!」
自走船からの矢が止まる。
それでも、ボウガンの先は向いたままだ。
いつでも援護に回れるように距離を取る。
「おし。前ら、かかれーーーー!」
「「「おおおおおおお!」」」
気合いを込めた叫びを上げながらハンター達。
それぞれが、武器を取って鬼へと迫る。
次の瞬間、鬼の一撃でハンター達が地面へと沈む。
その光景を見た職員達が、体を震わせた。
「撤退、撤退ーーーーっ!」
慌てて後退する自走船。
しかし、そこに鬼がしらが降ってくる。
地面と共に、一隻の船が空中へ放り出されてしまう。
ウガーーーーーーーッ!
それを鬼がしらが掴む。
そして、近くの自走船へと叩きつける。
「「「うわああああああああ。」」」
自走船から悲鳴が上がる。
それでも、鬼がしらは気にせずに自走船を放り投げる。
投げた自走船は、他の自走船に突っ込んだ。
「攻撃だ! 相手の動きを止めろ!」
鬼達の動きを止める為に、ボウガンの矢が飛んでいく。
それと同時に、自走船達が後退していく。
直後、地面が割れて光が漏れ出す。
「なんだっ。」
そう認識するのも束の間だった。
地面の下で、激しい爆発が起きる。
「なんだああああああっ。」
更に、激しい火柱が起きて自走船へと降り注ぐ。
「「「があああ・・・っ。」」」
全身が激しい高温に包まれた職員達が絶叫する。
しかし、一瞬でどろっとした火の下へと絶叫と共に潰されてしまう。
「駄目だ! 強すぎる!」
「距離は開いている! 諦めるな!」
「このまま攻撃を続けろ!」
後退し続ける自走船から、ボウガンの矢が放たれていく。
そのお陰か、鬼との距離は段々と開いていく。
これなら、攻撃は届かないだろう。
しかし、鬼達の向こうから水の柱が飛んでくる。
「うわああああああああっ。」
悲鳴が上がった自走船が、水の柱を受けて砕け散る。
中の人間と共に、跡形もなく消えてしまう。
更に横へと水の柱が移動して、大地ごと自走船を砕いていく。
「「「ああああああああああああああああっ!」」」
地面が砕け、爆発が起き、水の柱が大地を砕く。
各地で起こる破壊音と人間の悲鳴。
それが、各方面から聞こえてくる。
その音は、逃げる三人にも聞こえてくる。
「全滅だとっ!」
「ふざけてるにも程があるだろっ!」
「我々の敵は、本当にモンスターなのか? 我々と同じ生きているものなのかっ!」
あまりの衝撃に、驚きを隠せない。
鬼の力を知っている三人であるにも関わらずだ。
一度、想像を越えてはまた越える。
それに、限度などはない。
「ぐずぐずしてると、俺達もあぁなるぞ! マスター!」
「知っている! 頑張ってくれ、小竜!」
答えるように、小竜達の速度が上がる。
その驚異は、すぐそこまで迫っている。
追い付かれる事など一瞬だろう。
それでも、逃げるしかない
すると、後ろを見ていたユグリスがある事に気づく。
「三匹・・・三匹しかいないぞっ!」
「なんだとぉっ!」
後ろで暴れている鬼は三匹だ。
暴れていた鬼は四匹。
一匹足りない。
「誰がいねぇっ!」
「鬼鳥竜だ! 見当たらん!」
「くそっ、あいつ、逃げやがったのか!」
どこを見ても、鬼鳥竜の姿はない。
どさくさに紛れて姿を消したようだ。
「地面に沈んだ可能性は?」
「あるかもしれんが、そんなに簡単に沈む奴じゃねぇだろ。」
「同感だ。あいつは空を飛べる。沈む前に逃げる事など容易いだろう。」
しかも、ただ飛べる訳ではない。
突風を作るほどの力を持っているのだ。
そんなのが沈む訳が無いだろう。
「相手が相手だ。先に避難した避難民に向かったら事だぞ。」
「そうならないように祈るしかねぇ。とにかく、今はここを離れよう。」
鬼なら、後ろでも暴れている。
危険なのは、三人も同じなのだ。
滅び行く防衛線を残して、鬼達から離れていく。
それからしばらく走り続けた。
「どうだ? 鬼は来てるか?」
「いや、いない。まいたようだ。」
「そうか。小竜、速度を落としてくれ。体力を温存して欲しい。」
そうベージュが呼びかけると、小竜の速度が落ちる。
小竜がへばったら、走るどころではない。
急ぐときこそ、ゆっくりするのも大切なのだ。
「しかしどうする。頼みの防衛線が滅んじまった。」
「あぁ、本部との繋がりが無くなってしまった。」
元々は、防衛線に本部との架け橋になって貰いたかったのだ。
しかし、防衛線は滅んでしまっている。
「それなら、近くのハンターギルドの施設に行くのはどうだ?」
「近くにあるのか?」
ユグリスの提案にベージュが聞き返す。
本部との連絡手段があるのは防衛線だけではない。
「この先に、俺達の拠点がある。そこなら、本部と連絡が出来るだろう。」
「なるほど。あんたもハンターだもんな。拠点ぐらいはあるか。」
ユグリスもまたハンターだ。
ならば、活動の拠点があるのは当然だ。
「しかし、話を聞いてくれるか?」
「それならば、私が伝えよう。そこのマスターとは顔馴染みだ。」
「そりゃあ心強い。頼んだぜ。」
顔馴染みがいるなら話は早い。
本部との連絡も間違いないだろう。
次の目的地へと進路を変える。
すると、目の前に沢山の人影が見えてくる。
「なんだ? 避難民か?」
「歩いているのか? 馬車はどうしたよ。」
避難民なら馬車で逃げているはずだ。
しかし、目の前の人達は雨にうたれながら地面に立っている。
だが、遠くて何が起こっているのかは分からない。
そこへ近づいた時だった。
「あは、あはは。」
「っ!」
近づくと同時に笑い声が聞こえてくる。
その笑い声は、目の前の者達から聞こえてくる。
そして、次第に何が起きているのかが見えてくる。
「止まれ! これ以上進むな!」
そうベージュが叫ぶ。
何故なら・・・。
「あは、あははははっ!」
人々が、笑いながら殴りあっている。
中には、倒れた者の首を絞めている者もいる。
「まさか。ここまで来たってのか?」
先程、見た光景だ。
何が起きたのかは考えるまでもない。
「まさか、大陸の中まで来たってのか?」
「やべぇ、やべぇよ。よりにもよって奴がかよ!」
どこかに消えた鬼鳥竜が通ったという事だ。
そのやばさは、三人が一番知っている。
すると、どこかから悲鳴が聞こえてくる。
「誰かっ、助けてっ!」
「声だ。狂ってない奴がいるのか?」
「つまり、粉はもう落ちてるんだな。行ってみよう。」
粉を浴びた者は狂ってしまう。
しかし、平気な人がいるようだ。
粉はもう雨によって落とされているのだろう。
覚悟を決め手、争う人の中へと入っていく。
「やめて、どうしてっ。」
「てめぇ、何すんだよっ!」
至る所から、平気な人達の声がする。
どうやら、狂っている人達に襲われているようだ。
「や、止めてよ。私よっ。やめてっ。誰かっ、誰かーーーーっ!」
「今助けるぞ!」
小竜から飛び降りたベージュが、女性に乗っかった男を蹴飛ばす。
すると、解放された女性が咳をしながら起き上がる。
「無事か!」
「無事? どこがよ! どこが無事なの!」
周りを指さした女性が叫ぶ。
この状況を見て、無事とは言えないだろう。
それでも、ベージュが諭すように声をかける。
「何があったんだ?」
「鳥竜よ。あいつが通ってからこうなったのよ!」
「ここを通ったのか。それで奴は?」
「森の方へと消えたわ。それからは知らないわ。」
横の方を見ると大きな森が見える。
恐らく、あそこに逃げたのだろう。
「どうしてよ。ハンターは何してるのよっ! なんでこんなっ、友達に殺されかけなきゃなんないの?」
倒れた男性を見る。
どうやら、友達のようだ。
大事なはずの友達に殺されかけたのだ。
「ハンターのせいよ! 全部!」
「お、おい。悪いのはモンスターだろ? それにハンターは、命をかけて戦ってるんだ。お前達を守るために。」
「守れてないじゃない! 私は・・・私達は・・・。」
鬼を倒そうと、多くのハンターが散っている。
それでも、こうして命を奪われている者達もいる。
その人達からすれば、ハンターがどうなろうが知った事ではない。
すると、女性にユグリスが手を差し出す。
「すまない。でも、まだ生きている者もいる。もうすぐ町だ。そこまで守るから・・・。」
「もう遅いわよ! 全部、もう終わりなのよ! もう・・・もう終わりなのよっ! あなたちのせいで!」
女性がユグリスの手を払いのける。
全てハンターが悪い。
そう思っているようだ。
すると、辺りから声が上がる。
「ハンターがいるのかっ! お前のせいで!」
「どうして守ってくれないんだ!」
「どうして! どうしてっ!」
襲われながら、ハンターへの怒りを叫ぶ。
ここにいるもの達は、ハンターへの怒りを持っている。
助けてくれないハンターを憎んでいる。
この光景を見て、ハイグルの最後の姿が思い浮かぶ。
「違うだろう、悪いのはモンスターだろうっ。ハイグルさん、こんな事を言われても守るってのか? こんな奴らの為に、命をかけたってのか? こんな事を言われても守ったのか?」
命をかけてまで守る者達への暴言。
それは、命が散ったもの達への侮辱だ。
しかも、守るべき相手から放たれているのだ。
「あんたの言う誇りってなんなんだよ。分かんねぇ、分かんねぇよ。」
この光景を見る度に、迷いが生まれていく。
これを見ても誇りだと言うのか。
こんな事を言われても、逃げずに守るのか。
段々と分からなくなっていく。
「そうよ。ハンターのせい。ハンターが悪い。あはは。全部ハンターのせい。全部、全部。あははははははっ。」
女性が笑い出す。
自暴自棄になったのか狂ったように笑い出す。
「あははは。あひゃひゃはひゃ。あひゃひゃはひゃはひゃ!」
笑いは次第に大きくなる。
そして、体が震え出す。
すると、周りの者達も笑い出す。
「あ、あはは、ひゃひゃははは!」
「あひゃひゃはひゃはひゃ!」
怒りの声から笑い声に変わっていく。
それが、伝染していくように広がっている。
「あひゃひゃ。あぁ、憎らしい。憎らしいから・・・。」
女性が静かに笑い出す。
そして、体を震わせながら立ち上がる。
「だから、私が。殺してあげるね?」
そう言って、ユグリスに襲いかかる。
やり返せずに、押し潰されてしまうユグリス。
「殺すぅ。殺して、助けて、殺して殺すううううっ!」
「ぐっ、私はっ。」
相手は民間人だ。
下手に押し返す訳にはいかない。
すると、ベージュが女性を蹴り飛ばす。
「何やってんだ! ぼけっとしてる場合かっ!」
「しかし、私は。」
「ぐずぐずすんな! ほらっ! 立てっ!」
なかなか動かないユグリスをベージュが引っ張り起こす。
すると、沢山の人がこちらに来ている。
「マスター! ここはやばい!」
「分かってる! 早く逃げるぞ! 小竜!」
ベージュが呼ぶと、小竜が来る。
そして、急いで背中に乗る。
「ほら、あんたも。」
「あ、あぁ。」
狼狽えながらも、ユグリスも小竜に乗る。
そうしている間にも、囲まれようしている。
「出るぞ!」
「へい!」
小竜に指示を出して走らせる。
そのお陰で、囲まれるまでに脱出する。
「あひゃひゃ!」
「殺すうううう! あははは!」
そうして、笑い声が飛び交う地獄の中を駆けていく。
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