第28話 集う鬼達

「いくらなんでも早すぎる。一体、どうしてだっ。」


 三匹の鬼は、町と共に沈んだはずだ。

 それで倒せたとは思わないが、ここまで来るのが早すぎる。


「地震に雨だ。地面が脆くなっててても仕方ねぇが。」


「だからって、こんなにすぐに来るもんかよ。くそっ、まだ避難民は逃げ切っていないってのに。」


 避難民が避難する速度を超えている。

 しかも、雨で地面に車輪が取られて遅れているだろう。

 このままでは、避難民に追い付いてしまう。


「とにかく急ぐぞ。早く防衛線に知らせねぇと。」


 早急に知らせて対策を取らないと間に合わない。

 小竜に指示して速度を上げる。

 その直後、大きな影が近くに落ちる。


ずごーーーーーーーん。


「な、なんだ!」


 走る小竜を、激しい音と揺れが襲いかかる。

 しかし、それだけではない。

 地面に割れ目が出来て別れると、それぞれが空へと跳ね上がる。


「来やがった!」


「奴だ! くそっ、地面がっ!」


 ひび割れは、小竜が走る道にまで及ぶ。

 跳ね上がりはしないものの、段差が出来上がっていく。


「なんて力だ。こんな奴がいるなんて。」


 降り注ぐ地面の瓦礫。

 その奥には、コングの鬼がしらが立っている。

 しかも、進路の先に現れたのだ。


「し、進路変更だっ! 急げ!」


「へいっ!」


 小竜の進路を変えて、鬼がしらを避ける。

 その存在に、ハンターの男の目が見開く。


「コングの鬼がしら。鬼鳥竜と肩を並べるものか。」


「そうだ。破壊力なら奴以上だ。気を付けろよ。」


 鬼がしらの破壊力もまた、大地を崩す程のものだ。

 その鬼がしらから逃げるように、小竜が段差を越えながら走り続ける。

 すると、その頭上を大きな塊が通過する。


「今度はなんだ!」


「砕けた地面だ。宙に浮かんだのをつかんで投げやがった!」


「目的は、後ろの竜巻か!」


 飛んだ瓦礫は、村を襲う竜巻に直撃し砕け散る。

 それを、ハンターの男が見届ける。

 鬼がしらの狙いは竜巻か。

 いや、狙いはその中にいるものだ。


「あいつっ、鬼鳥竜に喧嘩を売りやがった!」


「冗談じゃねぇ! 鬼の戦いに巻き込まれちまうぞ!」


 小竜は、二匹の鬼がいる真ん中を走っている。

 戦闘が起これば、間違いなく巻き込まれてしまうだろう。


「急げ!」


「つっても、地面が浮いて速度は出せねぇぞ!」


 段差を乗り越える時に、速度が落ちてしまう。

 そのせいで、まともに逃げる事が出来ない。

 すると、また頭上を瓦礫が通過する。


「またか!」


「頼む、出ないでくれ!」


 再び瓦礫が竜巻に直撃する。

 鬼がしらは、完全に戦闘する気のようだ。

 こうなると、鬼鳥竜が出ない事を祈るばかりだが。


クエエエエエエエエエエエエッ!


 竜巻から鬼鳥竜が飛び出した。

 ちょっかいをかけられ、黙っている相手ではない。

 しかも、飛び出した際に竜巻の中の物も降ってくる。


「鬼鳥竜が出たぞ! なんか降ってくるっ!」


「進路を戻せ! 全力で避けろ!」


 竜巻から出たものが、大地へと降り注ぐ。

 中には先程砕いた瓦礫もあり、逃げる小竜を襲う。

 それから逃げるように、進路を戻して避けていく。

 そして、その横で鬼がしらと鬼鳥竜が衝突する。

 

「ちっ、始めやがったかっ!」


 鬼鳥竜が足から突っ込んだ。

 それを、鬼鳥竜が腕で防ぐ。

 そして、腕を振って鬼鳥竜を吹き飛ばす。

 地面を削りながら吹き飛ぶ鬼鳥竜は、小竜の横を滑っていく。


「危ねぇっ!」


「おいっ、こっちに飛ばしてんじゃねぇ!」


 そう叫ぶも、言葉が通じる訳がない。

 鬼がしらが飛び上がると、鬼鳥竜へと拳を振りおろす。

 それを、鬼鳥竜が風を吹かせて逸らす。

 その結果、鬼鳥竜の横に拳が落ちて地面を更に浮き上げる。

 その破片は、近くを走る小竜にも向かう。


「ぐわっ。」


「ぐうっ。」


「うおっ。」


 何とか直撃はせずにすんだ。

 しかし、鬼の戦いは続く。

 鬼鳥竜が、鬼がしらを蹴飛ばし起き上がる。


クエエエエエェェェッ!


 そして、叫びながら尻尾を叩きつける。

 それに対して、今度は鬼がしらが鬼鳥竜を蹴り飛ばす。


グオオオオオオォォォォッ!


 更に、叫びながら拳を下から振り上げ鬼鳥竜を吹き飛ばす。

 それを受けた鬼鳥竜は、地面へと叩きつけられる。


「なんて戦いをしてやがる。ポット、ついて来てるかっ!」


「何とかっ! しかし、もう持たないぜっ。」


 地面がもう崩れかけているのだ。

 このままここにいるのは危険だろう。

 しかし、二匹との距離が離れていく。


「大丈夫だ。もう少しで抜けるぞ!」


「良かった。このまま行っちまおう。」


 必死に走ったお陰だろう。

 どうやら、鬼の戦いから逃げ切れるようだ。

 そのまま真っ直ぐに進んでいく。

 その時、地面の割れ目から火柱が吹き上がる。


「なっ。進路を変えろっ!」


「へい!」


 行く手を防ぐ火柱から逃げるように進路を変える。

 幸いにも、距離が離れていたので突っ込まずにすんだが。


ずどーーーーーーーん!


 突然、爆発したように火柱が激しく吹き荒れる。


「「うわああああああああっ!」」


 ベージュとポットが叫ぶ。

 いきなり地面の下から噴火したのだ。

 驚くのも無理はない。

 しかし、ハンターの男はその向こうの音を聞いていた。


「なにか来ている!」


「何ってなんだよ!」


 ハンターの男が聞いていたのは、大きな足音だ。

 しかも、こちらに向かって来ている。

 そして、火柱からそいつが現れる。


グルオオオオオオォォォォッ。


 赤い体液と黒い塊をまとった竜。

 そいつもまた、鬼の一匹。

 草食鬼竜が、火柱を突き破って飛び出した。


「もう一匹かっ!」


 逃げ道を塞ぐように現れた草食鬼竜。

 争う二匹の鬼へと突っ込んでいく。

 そして、草食鬼竜が混ざっての戦いが始まった。


「どうするよっ。あいつら止まんねぇぞ!」


「それでもやる事は変わんねぇ。このまま全力で逃げ切る。それだけだ!」


 鬼が増えた所で、やるべき事は変わらない。

 今はただ、一刻も早くここから逃げないといけない。

 その為にも、全力で小竜を走らせるだけだ。

 それでもまだ終わらない。

 どこからか、水の音が聞こえてくる。


「この音はブレス? まずいっ!」


 咄嗟に、ハンターの男が小竜に繋がれた紐を引っ張る。

 そのせいで、進路が変わってしまう。


「おまっ、何してっ・・・!」


 急な進路の変更にベージュが慌てる。

 そして、進路を戻そうとしたときだった。


しゅごーーーーーっ!


 激しい水の柱が大地を走る。

 その際、小竜の横を通過する。

 避けなければ、当たっていただろう。


「おわっ、なんだっ!」


「ブレスだ。どうやら、残りの一匹も来たようだ。」


 先程のブレスで、地面が一直線に割れている。

 すると、そこから大量の水が飛び出した。

 そして、ブレスの主が飛び出した。


キシャアアアアアオオオオオン!


 最後の一匹の鬼、水鬼竜。

 大地を割る一撃を放てるのは鬼しかいない。

 その水鬼竜もまた、戦いに混ざる。


「最後の一匹。」


「揃った。揃っちまいやがった!」


 あまりの出来事にポットが叫ぶ。

 そこにいるのは、四匹の鬼。

 ついに、全ての鬼が揃ってしまったのだ。


キシャアアアアアアアアッ。


 まず動いたのは水鬼竜。

 渦巻くブレスを、三匹に向けて撃つ。

 しかし、避けられてしまう。

 そのブレスは、地面を割っていく。


グオオオオオオォォォォッ!


 次に動いたのは鬼がしら。

 水鬼竜に向かって飛びかかり拳を振るう。

 それに対して、水鬼竜が尻尾で逸らす。

 それでも、鬼がしらがもう片方の拳を振るうが。


グルアアアアアアア!


 草食鬼竜が、そこに向かって突っ込んだ。

 二匹まとめて突き飛ばす。

 そのまま、尻尾を振り上げるが。


クエエエエエエエエッ!


 そこに、鬼鳥竜が突っ込んだ。

 足で草食鬼竜を押し込むも、耐えられてしまう。

 そして、草食鬼竜が鬼鳥竜を尻尾で吹き飛ばす。

 すると、そこに高く跳んだ鬼がしらが降ってくる。


ずごーーーーーーん!


 そこを中心に浮いた大地が花となる。

 それにより、鬼達は分散する。

 すると、そこに草食鬼竜が突っ込んだ。

 その一撃で、大地の花が砕け散る。


「なんて戦いだ。」


「よく目に焼き付けとけよ。あれが俺達の敵だ。」


 驚きを隠せないハンターの男。

 大地が軽々と破壊される光景に、相手の異常さを知る。

 奴らこそが、今回の元凶にして人類の敵だ。


「あんなのに勝てるのか?」


「その為の、さっきの資料だ。なんとしても、本部に届けないといけねぇんだよ。」


「そうか、希望はあるんだな。」


 全てを破壊する圧倒的な力。

 普通ならば、諦めるしかないだろう。

 だが、諦められない理由がある。


「ならば、俺も協力しよう。」


「え?」


「護衛として着いていく。戦える者が着いた方が良いだろう。」


「それはそうだが・・・。」


 二人はハンターではないが、少しなら戦える。

 しかし、先程のウルフのような相手に囲まれてはどうにもならない。

 これから先、戦える者がいた方が良いだろう。


「あんた、名前は?」


「ユグリスだ。」


「そうか。なら、頼んだ。」


 たった一言で了承するベージュ。

 断るつもりは無いようだ。


「良いのか?」


「俺達が戦えないのは確かだしな。それに、迷うのを止めた奴をほっとけまい。」


 一度、生きるのを止めたユグリス。

 しかし、こうしてまたハンターとして生きようとしている。


「一緒に答えを探しに行こうじゃねぇか。」


 自分の役目を見直す為に。

 これからすべき事を確かめる為に。


「そうだな。では、命をかけて二人を守ろう。」


「おう。頼りにさせて貰うぜ。」


 こうして、新たな仲間と共に進んでいく。

 すると、ついに地面が崩れ始めていく。


「ここもやばいかっ。」


 崩れ行く地面を小竜が駆ける。

 生きる為に突っ走る。

 すると、鬼達も安全な地面へと飛び込んだ。


「潰される!」


「構わん! 突っ走れ!」


 それでも小竜達は、止まる事がない。

 乗り手の気持ちが伝わったかのように速度を上げていく。

 すると、前方からの光が視界を覆う。


「おい、誰か来てるぞ!」


「避難民かっ。こっちだ! 急げ!」


 その光は、自走船の光だ。

 その上から、人間が手を振っている。


「防衛線だ!」


「おっしゃ、急ぐぞ!」


 鬼の対策として作られた防衛線。

 そこまでもう少しだ。

 すると、鬼達も後ろから追ってくる。


「間に合わないぞ!」


「ならば、止めるまでだ! 全車発進!」


 動き出す自走船。

 小竜を抜いて鬼へと向かう。

 こうして、小竜達が防衛線へと到達する。

 そして、人と鬼の戦いが始まるのだった。

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