第27話 怒れる鬼の本気
「あちちっ。」
あまりの熱さに、ベージュが下がる。
燃え盛る炎は、鬼鳥竜を焼いていく。
それにより、もがく鬼鳥竜。
「随分と派手に燃えてんじゃねぇか。」
「当然だ。商人の目利きをなめんじゃねぇよ!」
複数あった酒の中から、一番燃えやすい酒を選んだのだ。
その選別は、商人にとって難しいものではない。
ともあれ、上手く鬼鳥竜を焼くことが出来た。
「おら、苦しめ苦しめ!」
「このままくだばってくれてもいいんだぞ?」
もがく鬼鳥竜を煽るハンター達。
すると、鬼鳥竜が走り出して建物へと突っ込む。
「おっと。どうした? 頭が狂ったか?」
建物に突っ込んだ鬼鳥竜は、また走って他の建物に突っ込んだ。
それを繰り返して、辺りの建物を破壊していく。
「思ったより効いているようだね。」
「よし。ならば、このまま落としてしまおう。」
「賛成だな。」
次で決着をつけるようだ。
リーダーの男の指示で、ハンター達が武器を構える。
「かかれーーーーー!」
鬼鳥竜が次の建物に突っ込むと同時にリーダーの男が叫ぶ。
その声でチームの仲間と共に駆け出す。
「相手は弱っている。今のうちに!」
「任せな! 容赦はしねぇ!」
ハンター達が武器を振り上げた。
その直前、鬼鳥竜の炎が消える。
苦しみから解放される。
「喰らえっ!」
振り上げた武器を叩き込もうとハンター達が迫る。
次の瞬間、鬼鳥竜が翼を振るう。
「なっ。」
それにより、激しい風が発生しハンター達を襲う。
それを受けたハンター達は吹き飛ばされてしまう。
「「「「ぐあっ。」」」」
たった一振りだ。
それだけで、ハンター達を払いのけた。
そして、大きな翼を広げた。
クエエエエエェェェェェェェェェ!
鬼鳥竜が大きく咆哮した。
それは、殺気がこもった叫び。
自身をこんな目に合わせた相手への怒り。
目の前の人間達を睨み付ける。
「なんだっ、全然元気じゃねぇか!」
あの炎に焼かれたのにも関わらずだ。
それどころか、力強く翼を振るう。
「ぐうっ。まだ、これほどの余力を残しているとは。」
激しい風がハンター達を襲う。
鬼鳥竜の風は、弱まる事はない。
すると、鬼鳥竜が突っ込んできた。
「来るぞ! 武器を構えろ!」
今までのように、風に紛れての攻撃だろうか。
しかし、突っ込む瞬間に空へと飛んだ。
「逃げるきか!」
「待ちやがれ!」
攻撃が当たらない空へと逃げたのか。
翼を羽ばたかせて、高くへと飛んでいく。
すると、一気に急降下した。
そのまま、村の上へと滑空する。
「違うっ、何をするつもりだ。」
逃げるなら、そのまま飛び去るだろう。
しかし、村の上空を旋回しながら飛び回っている。
翼を振る度に、強い風が村を襲う。
「吹き飛ばされるっ!」
「まずい、伏せろ!」
村を襲う風が強くなる。
それにより、建物が吹き飛んでいく。
そして、鬼鳥竜が旋回しながら上へと向かう。
その度に、吹き飛んだ建物が舞い上がる。
「このままだと、やばくないか?」
「というより、避難民を放っとけねぇだろ。」
「仕方ない。この中を進むのはきついが救出を優先させる。」
「あぁ、そうした方がいい。」
村全体への攻撃だ。
そんな場所に避難民達を置いておくわけにはいかない。
伏せるのをやめて立ち上がる。
「おい、あんたらも協力してくれ!」
「お、おう。」
ベージュとポットにも声をかけて歩き出す。
しかし、風がさらに強くなる。
もはや、歩く事さえ困難な程だ。
「歩けないっ。これを鳥竜が発生させたものだと言うのか。」
「ふ、ふざけんなよ。そんなの聞いた事もねぇっ!」
鳥竜という生き物は、モンスターの中でも弱い方だ。
決して、このような風を発生させられるような存在ではない。
その鬼鳥竜は、風の真ん中で回り出す。
それに合わせて、周りの風も回り出す。
「急ぐぞ! もたもたしてると避難民が!」
「分かってるけどよっ!」
荒れる風が、歩行を妨げる。
すると、風が渦巻き出す。
それにより、吹き飛んだ建物が舞い上がる。
「まるで竜巻だなっ。」
「おかしいだろっ。なんで、たかが鳥竜にこんな事が出来るんだよ。」
現実離れした力に、受け入れる事しか出来ない。
その間にも、風が強くなる。
その力で全てを舞い上げる。
渦の中央に近い人の死体やモンスターの死体までもが舞い上がる。
「ははっ。もう笑いしかでねぇ。」
「これが鬼。大陸を脅かす厄災か。我々は、奴を見誤った。」
これが鬼という生き物だ。
全てを破壊する存在。
それは、建物を吹き飛ばした程度で収まる訳がないのだ。
その風に耐えていると、何かが近づいてくるのをベージュが発見する。
「おい見ろ! 避難民だ!」
「良かった。来てくれたんだな。」
その何かとは、別の場所に逃げた避難民達だ。
護衛の為か、手に農具を持っている。
向こうから来てくれたようだ。
これで、すぐに脱出する事が出来る。
「おーい、こっちだ! 早く!」
「とっとと、こんなとこから離れようぜ。ほら、行くぞ!」
ハンターと合流する避難民達。
それを確認したハンター達が、渦の外へと歩き出す。
次の瞬間、避難民の一人がスコップでハンターの頭を叩く。
「があっ!」
「な、どうした!」
叩かれたハンターは、頭から血を流して倒れこむ。
そして、そこに向かってスコップを振り下ろす。
「なっ、何してやがる!」
そのスコップは、他のハンターが受け止めた。
そして、無理矢理に奪い取る。
「おい! こっちは味方だぞ!」
「そうよ! どうしてこんなっ。」
そう言い切る前に、またスコップで頭を叩かれる。
すると、そのハンターも同じように倒れこむ。
「な、何してっ。」
そう言って、スコップも奪い取ろうと迫る。
しかし、そのハンターも他の避難民から叩かれる。
「ふざけんなよ。どうして!」
仲間が倒れるのを見てリーダーの男が迫る。
それに対してスコップを振るうも、武器で受け止める。
「おい! 何とか言ったらどうだ!」
避難民達へ怒鳴るリーダーの男。
しかし、黙ったままで返事はない。
埒が明かないので、スコップを取り上げようとした時だった。
「あ、はは、ひひゃひゃ。あひゃひゃひゃひゃひゃ。」
「なっ。」
急に避難民が笑い出す。
すると、リーダーの男が急いで身を引いた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。」
それでも、笑い続ける避難民。
すると、他の避難民達も笑い出す。
「「「あひゃはひゃひゃははひゃひゃ。」」」
不気味に笑い出す避難民達。
口からは、泡が溢れている。
「な、なんだよ。これ。」
そのおぞましい光景に、見ている事しか出来ない。
すると、ポットがある事に気づく。
「そうだ。俺の部下の死因は喉じゃねぇ。打撲だ。そうだ、これとおんなじだ。」
目の前のハンター達と、同じく頭から血を流していた。
目の前の光景を見て、気づいたようだ。
それから分かる事は一つ。
「あいつをやったのは人間? でも、どうして。」
「どうしてって。まさか、奴の粉のせいか?」
「粉だと? それなら俺達が一番受けたはずだぞ! でも、俺達は。」
実際に、一番近くにいたハンター達が粉を浴びているはずだ。
しかし、リーダーの男には異変がない。
「多分だが、雨で粉が落ちていたからかもな。」
「それなら避難民だって。いや。まさか、最初の突風か?」
一番最初に行った突風の攻撃。
あれで、雨すらも弾き飛ばした。
そのせいで、粉を含んだ風が避難民を襲ったのだろう。
「だからって、そんな事は。」
「あぁ、全て憶測だ。実際は分からねぇ。ただ、こいつらが狂ったのは事実だ。」
何が起こったのかは分からない。
しかし、こうして味方であるはずのハンターを襲っている。
「あひゃは。ハンターさん、助けて。」
「そうだ、助けて。」
そう言って、倒れたハンター達に近づいていく。
そして、その上にのしかかっていく。
「やめろ。やめろ!」
リーダーの男が駆け寄る。
しかし、それをベージュが羽交い締めにして止める。
「おい、離せ! 仲間達が!」
「なに言ってんだ! 奥を見ろ!」
避難民達の奥には、激しい竜巻がある。
しかも、その大きさが増えている。
避難民達の相手をしている内に、威力を増したのだろう。
「竜巻が育ってる。このままだと、ここも危険だ!」
「なら、なおさら仲間達を!」
それでも助けようとするリーダーの男。
しかし、ベージュが抑えているので動けない。
そうしている間に、竜巻が避難民達を巻き込んだ。
「「「あはひゃひゃひゃはひゃひゃは。」」」
笑いながら飛んでいく避難民達。
そして、ハンター達も飛んでいく。
それでも、渦の大きさは増えていく。
「逃げるぞ!」
「へい!」
リーダーの男を担いだベージュが走り出す。
その後ろを、ポットが着いてくる。
「みんなが! 仲間達が!」
「諦めろ! もう無理だ!」
仲間のハンター達は、笑い声と風の音を奏でる狂気の竜巻の中だ。
もう、どうする事も出来ないだろう。
しかし、危険なのは逃げられた三人も同じ。
「というか、俺達も危ないけどなっ。」
「だが、それでも逃げるしかねぇ! 踏ん張れ!」
竜巻から逃げているからと言っても安全ではない。
激しい風が、走るのを妨害しているのだ。
少しでも止まると、巻き込まれてしまうだろう。
すると、目の前に二匹の小竜が現れた。
「竜車の竜か。助けに来たのか?」
「人間思いの良い奴じゃねぇか。丁度良い、乗らせて貰おうぜ。」
どうやら、人間の窮地を察して来たようだ。
小竜に駆け寄ったベージュが、リーダーの男を放り投げる。
「おい、俺はここに残る!」
「ほざけ! 自分の使命を捨てんのか? ここで死ぬためにハンターになったのか?」
「そ、それは。」
リーダーの男が言いよどむ。
頭では理解している。
しかし、気持ちが追い付いていないのだ。
「まぁ、俺も人の事は言えねぇけどな。それを探さずに死ぬのは違うだろ。」
そう言って、小竜に乗っかるベージュ。
ベージュもまた悩んでいるのだ。
ハイグルに言われた意味を。
でも、悩んでいるからこそ見つけずに死にたくは無いのだ。
「マスター、準備出来たぜ。」
もう一匹の小竜に乗ったポットが、小竜に付いた紐を握る。
そして、それに頷いたベージュも紐を握る。
「急いで逃げるぞ。」
そうして小竜を走らせる。
いまだ威力を上げる竜巻から逃げる。
その小竜の足には容易い事だ。
その代わり、今度は建物が降ってくる。
「くそっ、こんなのを受けたら終わりだぞ!」
「頼む。頑張ってくれよ。」
逃げる三人に、建物が落ちてくる。
そして、人やウルフの死体も落ちてくる。
血のような、赤いものも落ちてくる。
それらを避けながら逃げていく。
「しかし、結構離れただろ。」
「あぁ、このまま行けばっ。」
竜巻からは逃げ切れる。
しかし、これで終わらない。
終わる訳がない。
何故ならば・・・。
ずごごごごごごごご。
激しい地鳴りと揺れが起こる。
その原因は、考えるまでもない。
「まさかっ!」
「もう来やがったのか!」
何度も経験した揺れだ。
大地が割れる揺れて沈んでいく音。
そして・・・。
すどーーーーん!
その現況が現れた。
竜巻を目指して奴らが来る。
鬼に引かれて鬼が来る。
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