第26話 ハンターの覚悟と商人の意地
鬼鳥竜から逃げたハンター達は、建物の後ろに隠れていた。
額に流れる雨の雫を手で払う。
「はぁ。やばいな、ありゃ。」
「でも、なんとかなったな。助かった。ありがとな。」
「いや、それはいいんだが。」
建物の後ろから覗き込んで鬼鳥竜の様子を伺う。
すると、辺りを見渡す鬼鳥竜が見える。
どうやら、こちらを探しているようだ。
「こちらを探しているか。見つからないように先手を打ちたいが。」
「だね。あんな強い風をまた出されたら厄介だよ。」
風を出されては、攻撃するのは不可能だ。
なので、その前に攻めないと攻撃は通らない。
「そういえば、さっきの爆発は効いてたな。どうやったんだ?」
「そういえば。風で守られているあいつに、どうやって攻撃を与えたの?」
「さぁ、倉庫の中から見つけたのを投げただけだ。驚かせればそれで良いと思ったんだが。」
攻撃が当たらないのは、二人とも確認していた。
だから、気を引ければそれで良いと思っての事だった。
しかし、それは風を貫通して攻撃を与えて見せたのだ。
「なにか、その辺に理由があ・・・。」
ハンターの一人が何かを言おうとした時だった。
急に膝をついて座り込んでしまう。
「どうした?」
「いや、ちょっとふらついただけだ。」
「ふらついたって、戦闘中に勘弁してくれよ?」
「分かってる。心配すんなって。」
そのハンターは、不思議がるように頭を押さえている。
そして、何かを振り払うように首を振ると立ち上がる。
次の瞬間、建物の向こうから破壊音がする。
「な、なんだ!」
「奴だ。風を起こして建物を壊してやがる。」
ポットの視線の先で、鬼鳥竜が風を起こして建物にぶつけている。
その風を受けた建物は、一瞬の内に吹き飛んでしまう。
「相変わらずな破壊力だな。」
「あぁ、風を起こして建物を壊すなんて聞いた事が無い。」
「そもそも、そんな風を起こせる鳥竜を見た事が無いがな。」
その破壊力も、鬼鳥竜ゆえのものだ。
普通の鳥竜には、不可能だろう。
見た事が無いのも当然だ。
すると、鬼鳥竜がこちらに来るのをベージュが見る。
「来てるぞ。」
「くっ、逃げるぞ!」
すぐさま、慌てて逃げ出す一同。
その直後、隠れていた建物が吹き飛んでしまう。
「見つかったら終わりだぞ。」
「こりゃあ、先手を取る所じゃ無いなっ。」
もう、先手どころではないようだ。
見つからないように走り続ける。
すると、目の前にある建物が吹き飛んでしまう。
「なっ、こっちを狙ってやがるのか? どうやって?」
「恐らくだが、聴力が発達してるんだろうな。」
「分析している場合? 来てるわよ!」
壊れた建物から足音が聞こえてくる。
どうやら先回りされたようだ。
ベージュが慌てて周りを見る。
すると、他のよりも大きめの建物を見つける。
「あそこだ。逃げるぞ!」
「逃げるったって、吹き飛ばされたら同じだろ。」
「このまま見つかるよりましだろう。運にかけるしかねぇ!」
運任せだが、隠れてやり過ごした方が良い。
それで逃げ切れるかは分からないが、戦闘に入るよりましだろう。
そう思い、急いで建物の中へと逃げ込む一同。
しかし、その中の光景に入り口でその足が止まってしまう。
「な、なんだよこりゃ。」
「この村の村人か?」
その建物の中には、村人だったものが無数に転がっている。
しかも、どれも首元を噛み千切られている。
「ここに逃げ込んだのか?」
「だろうな。それで、中に入り込まれて一網打尽か。」
よく見ると、あちこちの窓が破られている。
逃げ込んだ所を襲われたのだろうか。
しかし、のんびりと見ている時間はない。
外から破壊音が何度もしているのをポットが聞く。
「奴がそこまで来てる! 手当たり次第に破壊していやがるぞ!」
「なっ、無茶苦茶にもほどがあんだろ。俺達はどうすればいい?」
どうやら、こちらの場所までは特定出来ていないようだ。
それならば、全て破壊すれば出てくるだろうと考えているのだろう。
すると、鬼鳥竜がこっちに歩いているのをポットが見る。
「こっち来てる!」
「風が来るぞ!」
「どうする? 戦うか?」
鬼鳥竜はすぐそこまで来ている。
考えている時間はない。
すると、リーダーの男が村人の死体を見る。
「いや、この場所を利用出来るかもしれん。」
「利用って?」
「説明している時間はないっ。伏せろ!」
外から大きな羽ばたきの音。
そして、風が発生する音が聞こえる。
「えぇい。どうにでもなりやがれ!」
前に跳んで伏せる一同。
直後、激しい風が吹き一同がいる建物を吹き飛ばす。
そして、鬼鳥竜が現れる。
「ひいっ。」
「静かに。」
ぼそりと、リーダーの男が呟く。
その上から、吹き飛ばした建物の後を眺める鬼鳥竜。
そして、何度か首を振って見回してから立ち去っていく。
それを確認した一同が起きあがる。
「ふぅ。なんとかなったな。」
「なんとかなるもんだ。」
「あぁ。上手く死体に紛れ込む事が出来た。」
鬼鳥竜は、死体には目もくれなかった。
ハンター達を、動いている相手としか認識してなかったのだろう。
死体として認識されたお陰で助かったようだ。
「しかしどうする。避難民の所にいかねぇか?」
「それは大丈夫だ。離れた所に避難させてある。」
「そうか。なら、しばらくの猶予が出来た。対策をねろう。」
鬼鳥竜は、人のいない方へと向かった。
これで、話し合えるだけの時間が出来たであろう。
「でも、対策ったってどうすんだ。」
「そうだよ。相手の事なんてなんにも知らないのに。」
話し合うには情報が必要だ。
しかし、そのようなものはない。
すると、リーダーの男がベージュとポットを見る。
「そういえば、あんたら随分と詳しかったよな。」
「そういえばだ。あんたらだったな、奴の正体を指摘したの。」
確かに、事件の元凶と指摘したのはベージュだ。
どうやら、それが気になるらしい。
「あぁ。実はな、九の地区のギルドマスターに頼まれてんだ。奴の攻略が書かれた資料を、ギルドの本部まで届けてくれって。」
「そうだったのか。それ、見せてくれないか?」
「あぁ、構わない。屋根の所に移動しよう。」
ここで見ると、雨で資料が駄目になる。
なので、辛うじて残った屋根の残骸の下に移動する。
そこで鞄から取り出したファイルを、リーダーの男に渡す。
「これがそうか。では、見てみようか。」
ファイルから取り出した資料を見る。
そこには、四匹の写真が張られた資料があった。
その中の一枚に、先程の一匹が写っている。
「鬼鳥竜か、こいつで間違いない。」
「鬼鳥竜?」
「四匹の鬼と書かれている。ギルドマスターが着けた名前だろう。」
「あぁ、他のとは違うもんな。個別の名前を着けた訳か。」
それは、他の個体と区別する為の名前だ。
その必要性に、力を直接見たハンター達からの異論はない。
リーダーの男が他の資料を見ていく。
すると、とある資料で捲る指が止まる。
「これは?」
「どうした?」
「いや、気になるのがあってな。」
そう言って、資料のとある部分を見る。
そこには、メモ書きのような物が書かれている。
「何が書かれているんだ?」
「メモ資料の端に、メモのようなものがある。鬼の内の一匹に、可燃物を扱うものあり。草食の大竜の体液と書かれた上に、斜めの線が引かれている。」
「つまり、気づいたけど違ったって事か。」
「だな。そして、その下に鳥竜の何かと書かれている。」
斜線が引かれた文字の下に、鳥竜の文字がある。
それは、ハイグルが考えぬいて導き出した答えだ。
「鬼鳥竜が可燃物のある攻撃を仕掛けるって事か?」
「だと思うがな。」
でなければ、わざわざ書くことはないだろう。
しかし、手元の資料にしっかりと書かれている。
すると、ハンターの一人がある事に気づく。
「あっ、さっきの爆発?」
「そうか。風を貫通したのは、風そのものが可燃物だからか。」
風そのものが可燃物。
それならば、風で防ぐ事は不可能なのも理解出来る。
「でも、風が可燃物って・・・そんな事があるのか? あいつの体から出てる訳じゃ無いだろ。」
「それはそうだが。」
鬼鳥竜が作る風は、自然から生んだもの。
その風に、何かの効能が生まれるとは思えない。
「なら、風に何かが混ざっているとか。」
「そうか、粉だ!」
「粉?」
突然、話を聞いていたポットが声をあげる。
なぜなら、それについて詳しく知っているからだ。
「あいつからは、人を狂わすやべぇ粉が出てんだ。それが可燃物だろ。」
「人を狂わすったって、それなら近くにいた俺達は喰らってるはずだが平気だぞ?」
「なら、へんな気分とかしないか? 頭の中が混ざるような。」
「んー。そういえば。」
ハンター達が自分の頭を触って体調を確かめる。
何かが引っかかっているのだろうか。
「確かにくらっとするな。」
「うん。なんか、吐きそう。」
「少しだけどな。」
頭の次に口を押さえる。
何かをこらえているようだ。
他のハンター達も同意する。
「やっぱり、粉だ。粉が燃えたんだよ。間違いねぇ。」
「なるほど。そうと決まれば話は早い。もう一度、さっきのを奴にぶつける。」
「でも、火力が足りないぞ?」
「では、火力を上げるまでだ。倉庫で燃えそうなのはあったか?」
「それなら酒があった。火を着けりゃあ、さっきのより燃えるだろう。」
アルコールなら燃えやすい。
商人としての常識だ。
それがあれば、激しい炎が上がるだろう。
「じゃあ、決まりだな。すまないが、持って来てくれないか?」
「良いぜ。運ぶのなら任せな。」
「よし。その間に、俺達は足止めと誘導だ。行くぞ!」
「「「おう!」」」
そうと決まればと、動き出す一同。
資料を戻したファイルを返して道へと出る。
倉庫へ向かったベージュとポットを見送ったハンター達が周りを見渡す。
そこには、破壊の限りを尽くされた変わり果てた姿があった。
「はっ、好き勝手しやがって。」
「鬼。厄災の象徴か。これ以上の名前はないな。」
まさに、厄災そのものの光景だ。
これから戦う相手を改めて認識する。
しかし、それで逃げる事は決してない。
「おい、鬼。出てこい!」
村に響くように叫ぶリーダー。
相手をおびき寄せるつもりだろう。
「俺達はここだ! 出てきやがれ!
他のチームのメンバーも叫び出す。
そして、村の中心に向かって走り出す。
すると、すぐに奴が現れる。
鬼鳥竜が空へと飛び上がった。
「来やがったぞ!」
「おし、そのまま走れ!」
そのままハンター達へと突っ込んでくる。
それを、横に走って回避する。
すると、鬼鳥竜が追ってくる。
「来てるぜ! そのまま誘導だ!」
走るハンター達。
そこに、突風が迫る。
「避けろ!」
すぐさま横に跳んで避ける。
しかし、その隙に鬼鳥竜の尻尾がハンター達を襲う。
「ぐうっ。」「があっ。」
二人に直撃し、吹き飛んでしまう。
それでも、立ち上がって走り出す。
「負けるかぁっ!」
足に力を込めて、速度をあげる。
すると、鬼鳥竜が一回転。
鬼鳥竜を中心に、風が広まる。
「やばっ。」
受けたハンター達が宙に浮く。
そこに翼が迫り、ハンター達を叩き落とす。
「ぐうっ。」
「なんでもありかよ。」
「それでも走れ! 止まるんじゃない!」
再び立ち上がって走り出す。
そして、同じように飛ばされては攻撃を受ける。
それでも、ハンター達は走り続ける。
「おらっ、そんなもんかっ!」
「こっちは打たれ慣れてんだっ!」
「もっと、力を込めても良いんだよっ!」
攻撃を受けても立ち上がる。
なんど倒れても立ち上がる。
その度に、気分が盛り上がっていく。
「こっちはなぁ。とっくに覚悟を決めてんだよぉーーーっ!」
それは、初めて武器を握ったあの日から。
痛い事も苦しい事も受ける覚悟をしているのだ。
それは、ハンターとしての覚悟。
この程度で怯えるようなものでは無い。
それから攻防を繰り返していた時、酒樽を担いだベージュと玉を持ったポットが現れる。
「もって来たぜ! とびっきりの度数の奴をな!」
「いいぞ! 各自、戦闘体勢に移れ!」
「「「おう!」」」
逃げるのをやめて武器を取る。
そして、鬼鳥竜へと飛びかかる。
すると、鬼鳥竜が羽ばたいて風の壁を作り上げる。
でも、それでいい。
「行くぜ、ポット!」
「あいよ!」
酒樽を担いだベージュが駆け出した。
その後を、ポットが風の外から追いかける。
しかし、それを見た鬼鳥竜が風を強める。
「ぐあっ。」
「大丈夫かっ。」
「当然だ。」
必死に耐えるベージュとポット。
風は強くなるばかりだ。
それでも、踏ん張って前に出る。
「ギルドマスターとは何かまだ分かんねぇ。ハイグルさん程の覚悟はねぇからな。」
「マスター。」
どうして命を張れたのか。
どうして真っ直ぐな目が出来たのか。
「それでもなぁ、すべき事なら分かったぜ。商人として、こいつを届ける事だっ!」
何としても、届けて見せる。
それは、商人としての意地だ。
樽を両手で持ちあげるベージュ。
そして、力強く地面を踏んで一回転。
「商人舐めんなぁ!」
そのままの勢いで、酒樽を上に向けて放り投げた。
すると、風から抜けた酒樽が放物線を描いて鬼鳥竜へと落ちる。
鬼鳥竜の体を酒が濡らす。
「いまだ!」
「あいよ!」
ポットが手に持った玉を放り投げる。
それが風の中に入った瞬間に爆発。
そのまま、風に混ざった粉に引火して燃え広がる。
そして、酒に濡れた鬼鳥竜へと燃え移る。
直後、鬼鳥竜を中心に大きな炎が巻き起こる。
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