第25話 鬼の実力
しばらく雄叫びを上げた後、モンスター達が静かになる。
そして、再び雨の音が鮮明になる。
「はぁ、耳が潰れるかと思った。」
「全くだな。それにしても、こいつら動かねぇが。」
モンスターを見ると、いつしか震えも収まっている。
しかし、小刻みに体が震えている。
「見てくる。警戒はそのままで。」
リーダーがモンスターにゆっくりと近づく。
もう暴れないとは限らないからだ。
そうして近づくと、モンスターの体に触れてみる。
「生きてはいるが・・・。」
生きてはいるが、動く気配がない。
今度は、モンスターの顔を見てみる。
どうやら、白目を向いて口から泡を吐いているようだ。
よく聞くと、ひゅーと息をする音が口から聞こえる。
「まるで病気の症状だな。」
「病気? でも、こいつら一辺におかしくなってるけど。」
横で倒れているモンスターを見る。
すると、今触れている奴と同じ症状が出ている。
病気だとして、こんなに一度に起こる事なのか。
「考えられるとしたら、毒だろうな。」
「だよな。同じタイミングで毒を食べた。そうとしか考えられん。」
同じタイミングで同じ物を搾取した。
そう考えると、同時に発生した事が理解出来る。
「でも、その毒ってなに? キノコかなにか?」
「いや、こいつらは肉食だ。そんなの食べないだろ。」
ここにいるのは、全てが肉食だ。
肉以外を食べる事は基本ない。
それに、この考えには不可能な点が一つある。
「そもそも、同じタイミングで食べないとこうはならない。」
「確かにな。でも、仲良く食事しましたなんてがらじゃねぇだろ。」
肉食同士が群れる事はない。
何故なら、肉食同士もまた獲物同士なのだから。
「つまり、食事の線はなし。」
「原因は不明か。」
証拠になつ物は何もない。
なので、答えなど見つからない。
それでも、原因を考えるハンター達。
その時だった。
シャオーーーーーン!
建物に突っ込んだままの大蛇が暴れだした。
「大蛇が。大蛇が動き出した!」
「なにっ!」
大蛇を見て悲鳴を上げる避難民達。
その大蛇は、もがくように体をくねらせ暴れている。
それを見たハンターが武器を構えて前に出る。
「こいつ、動けるのかっ。」
「大蛇には毒に耐性がある奴がいる。やはり、毒で間違いない!」
毒にやられている中でも、耐性のある大蛇だけが動いている。
それでも、もがき苦しんでいる。
そこから、毒が原因だと推測するのは難しくない。
「こいつらは捨て置く。全員で大蛇の対処だ。」
「あいよ。」
動けない奴より動ける奴が優先だ。
倒れた奴らを警戒していた二人も前に出て、チーム全員で立ち向かう。
「来る前にやるっ。行くぞ!」
「「「おう!」」」
被害を押さえる為には、もがく間に攻めるのがいい。
そう判断し、もがき続ける大蛇にハンターが迫る。
そして、それと同時に黒い影が大蛇に突っ込んだ。
「うわっ、危ねぇ!」
「くそっ、今度はなんだっ!」
急な出来事にハンター達が立ち止まる。
そして、前を見ると大蛇がいなくなっていた。
「奴はどこにっ。」
「あそこだ!」
ハンターの一人が、残された尻尾を辿った先を指差す。
そこでは、大きな翼を持った何かが大蛇の顔に乗っかっていた。
そいつは、こちらを見て首を傾げる。
「あれは、鳥竜か。」
「はっ、とうとう竜までお出ましか。冗談も程ほどにしてくれや。」
呆れて悪態をつくハンター達。
しかし、ベージュとポットは青ざめていた。
何故なら、そいつを知っているからだ。
「なぁ、あいつ。」
「間違いねぇ。」
それは、最近資料で見たからだ。
所々に毛が生えた、大きな鳥竜。
まさに、鞄にある大事な資料の中で。
それと全く同じ姿のものがそこにいた。
「に、にに、逃げろーーーーっ!」
突然叫ぶベージュ。
その声に、周りの視線が集まる。
「そいつだ! 大陸を破壊している四匹のモンスター! その一匹だっ!」
「な、なんだって!」
それは、エリアから抜け出たモンスターの一匹。
破壊を繰り返す奴らに並ぶもの。
そして、鬼の称号を与えられた存在。
その名は、鬼鳥竜。
「な、なんでそんな奴がここに。」
「そんな事はどうでもいいっ。早く逃げろ!」
ベージュの声に、避難民達が走り出す。
すると、鬼鳥竜が大きな翼を広げた。
クエーーーーーーッ!
そして、大きく咆哮した。
それは、完全にこちらを敵と認めた合図だ。
「避難民逃げてるぜ。どうするよ。」
「他に驚異はいないだろうから構わん。むしろ、足手まといだ。」
「同感ね。それに、ここで倒さないと守る所じゃなくなるしねぇ。」
大陸を脅かす存在の一匹。
そんな相手から守りきるのは不可能だ。
ならば、避難民は逃げさせて全力で叩こうと決めたのだろう。
「行くぞ!」
ターゲットを変えて武器を握るハンター達。
それを見た鬼鳥竜が動き出す。
まずは、下から扇ぐように大きな翼を何度も動かす。
「警戒!」
鬼鳥竜の動きに備えるハンター達。
すると、扇ぎを止めて頭上が前に来るよう斜め横に一回転した。
直後、強烈な突風が巻き起こる。
「た、退避ーーー!」
それが当たる直前に、ハンター達が横に避けた。
しかし、突風はハンターの横を抜け避難民達へ向かう。
「お前ら避けろーーー!」
気づいたベージュが、避けると共に叫んだ。
その声で、避難民達が横に跳ぶ。
しかし、数人の避難民が巻き込まれてしまう。
「うわーーー!」
それでも、避難民を巻き込みながら突風は続く。
まるで、横に向かう竜巻だ。
更に、鬼鳥竜が回って突風の威力を上げていく。
「何て威力だ!」
横で伏せているハンター達も、余波で吹き飛ばされそうになるほどだ。
その突風は、建物さえも破壊して突き進む。
それでも進んで、建物を破壊していく。
そして、ついには村を貫いてしまった。
「嘘だろっ!」
「こんなの見たことねぇぞ!」
「洒落になってねぇ!」
その威力に、ハンター達が驚愕する。
今まで鳥竜と戦った事はあるだろう。
しかし、このような攻撃は見た事が無いはずだ。
「どうりで、九の地区が警戒する訳だ。ここで止めるぞ!」
でなければ、ただでは済まなくなるだろう。
そう思い、突風に耐えて立ち上がる。
すると、鬼鳥竜が回転を止める。
「今だ!」
回転が止まると、突風も止まる。
その隙に、ハンター達が駆け出す。
「これでも喰らっとけ!」
ハンターが斬りかかる。
すると、それに対して鬼鳥竜が翼を振る。
「翼だ!」
「分かってるっ!」
そのまま飛び込むように跳んだハンター達が迫る翼を避ける。
そして、体勢を直した所に尻尾が迫る。
「尻尾だ!」
「あいよ!」
二人のハンターが尻尾を受け止める。
そして、後ろの足に力を込めて尻尾を耐える。
「重いが、いけるっ!」
そのまま上に弾き飛ばす。
それらの攻撃は、よく見てきた動きだ。
今までの経験が、鬼鳥竜の攻撃をかわしていく。
「今のうちだっ!」
経験上、相手の攻撃は終わりだ。
それを信じて、総攻撃をかける。
しかし、そこに鬼鳥竜の足が迫る。
「しまっ・・・。」
鬼鳥竜の回し蹴りだ。
予想外の攻撃に、一人が避けられず受けてしまう。
「ぐあっ。」
「ちょっ!」
咄嗟にそちらを見てしまう。
その隙に、再び尻尾が迫る。
避ける事は出来ない。
「「「ぐあっ。」」」
三人まとめて吹き飛ばされてしまう。
地面に叩きつけられるハンター達。
そこに、鬼鳥竜がのしかかる。
「くそっ、こんなの聞いてねぇぞ!」
慌てて跳び退くハンター達。
寸前で避ける事が出来たのだが。
「来てるぞ!」
「なっ。」
リーダーの叫びに、一人のハンターが前を見る。
そこには、迫る翼があった。
「おっと。」
それを、後ろに倒れるように避ける。
その隙を狙って、そこにハンター達が駆け出す。
「今度こそ!」
「合わせろ!」
囲むように迫ると、改めての総攻撃。
ハンター達の攻撃が、今度こそ叩き込まれていく。
「おっしゃ。このまま押し倒せ!」
今度は、後ろに倒れたハンターも混ざっての総攻撃。
そのまま、押し込むように攻撃を叩き込む。
そして、鬼鳥竜を押し倒す。
「よし。このまま狩るぞ!」
更に、攻撃を叩き込む。
これで、普通の鳥竜なら倒せている。
しかし、相手は普通ではない。
ハンターに向けて尻尾を振る。
「尻尾だ!」
「くっ、引け!」
尻尾がハンター達に叩き込まれる。
今までにない攻撃に、ハンター達が対処を出来ない。
しかし、尻尾は攻撃ではない。
尻尾を振る勢いを利用して立ち上がる。
「なっ。」
更に翼を振って横に回る。
そして、続けて先程の一回転。
先程ではないが、軽い突風がハンター達を吹き飛ばす。
「くそがっ!」
それでもハンター達が迫る。
しかし、新たな風で近づけない。
その風に耐えている所に、鬼鳥竜の尻尾が迫る。
「「「「ぐわっ!」」」」
直撃して吹き飛ばされるハンター達。
しかし、鬼鳥竜が新たな風を産む。
「これじゃ近づけねぇぞ!」
近づけば風に阻まれる。
そして、そこに攻撃が来るだろう。
まさに、難攻不落の要塞だ。
「どうする!」
「無理だ。隙を作らないと近づけん。」
突風をどうにかするしかない。
その為には、風が無い時に攻める必要があるのだが。
「あいつ。いつでも風をついかしてやがる。」
鬼鳥竜は、風が途切れぬように翼を動かし続けている。
風が無いときなんて一時も無い。
「どうしたものか。」
このままでは、こちらが一方的にやられるだけだ。
どうにかしようと、考えを巡らせるハンター達。
すると、後ろから声が聞こえてきた。
「喰らえ!」
そして、声と共に何かが放り込まれた。
それは、鬼鳥竜の前で爆発すると煙を撒き散らす。
その勢いで、怯む鬼鳥竜。
「今だ!」
「あんたらっ。」
そこにいたのはベージュとポットだ。
ハンター達に向かって手を振っている。
「吹き飛ばされる前にこっちへ!」
どうやら助けに来たようだ。
頷き合ったハンター達が、二人の元へと退避する。
それと同時に、羽ばたきで煙が吹き飛ばされる。
しかし、鬼鳥竜の視界には誰もいなかった。
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