第24話 モンスターの強襲
「下がってろ。」
ハンターの男が避難民達を下げて前に出る。
そして、倒れている人間を確かめる。
「だめだ。死んでやがる。」
「そ、そんなっ!」
悲鳴を上げる避難民達。
無数に転がった死体を見れば、驚くのも無理はない。
「おい。ここは安全だと聞いて来たんだぞ。」
「どうすりゃいいんだ。俺はこんな風になりたくねぇっ。」
避難民達の動揺が広まっていく。
元々、安全な場所だと聞いて来たのだ。
しかし、何もない所に死体は転がらない。
「落ち着け。まずは原因を調べないと。」
「調べてる場合かっ。急いで離れないとっ!」
いつ何が起こるか分からない。
そんな場所に居続けるのは、普通の人間には不可能だ。
「アホか! こんな所を闇雲に動く方が危険だろ!」
「そりゃそうだけど・・・。」
ポットが叫ぶと、避難民が動揺する。
一度経験しているから分かるのだ。
すると、動揺する避難民の後ろに見慣れた男がいるのが見える。
「おい、まさか。どいてくれ!」
避難民を押しのけて、その男の元に近づく。
そして、建物にもたれかかるように座る男を確認する。
「まさか、嘘だろ。」
その男は、ポットの部下の男だ。
頭と口から血を流している
「おい、おい!」
肩を揺すって見る。
すると、腕がピクリと動いた。
「お、生きてるのかっ。おい、何があった!」
部下の男に叫び続けるポット。
すると、その男が虚ろげな目でポットを見る。
「ひへて。ほほはひへん。」
舌が痛くて上手く喋れないのだろう。
それでも、必死に口を動かす。
「もんふたー・・・もんふたーを・・・。」
しかし、その途中で命を落とす。
だらしなく舌を出しうつむく。
脈を測るも動いていない。
「おい、おい! 駄目だ、死んじまった。」
「嘘っ、もうやだっ!」
避難民達の動揺が、更に広がる。
そして、部下を失ったポットもまた動揺する。
よく見ると、部下の男の腕にペンが刺さっている。
「これは自分で刺したのか?」
「だろうな。さっきのを伝えるために痛みで死を伸ばしたんだろう。」
ベージュが横に座り、部下の男を寝かせてやる。
そして、ポットが腕のペンを抜いてポケットにいれる。
「こんな事をする為にくれてやったんじゃ無いんだけどな。」
そのペンもまた、ポットがあげた物だ。
何かを伝えるために、死なないために、腕に刺して痛みを作ったのだ。
「それにしても、もんふたー・・・モンスターって事か?」
「モンスター・・・まさか。」
それを聞いて、ハンターの男が死体の横に座る。
そして、その死体の首元を調べる。
「やはり、貫かれている。」
「貫かれている? それって、肉食の獲物の取り方じゃねぇか。」
ベージュもまたその傷を確かめる。
確かに、そこには牙のようなものに貫かれた後があった。
「じゃあ、あいつが言いたかったのは、モンスターに襲われたって事か?」
「間違いない。しかし、取った獲物を放棄するなんてあり得るのか?」
肉食が襲うのは、餌を取るためだ。
しかし、ここにある死体はほったらかしだ。
「それに、その本人はどこに行ったんだよ。まったく見当たらないが。」
辺りを見渡しても、モンスターらしきものはいない。
やはり、殺したまま放棄したのだろうか。
しかし、そこでハンターが気づく。
「そうか。人間を襲った奴は襲われた。」
「どういう事だ?」
「経験上、獲った獲物を放棄するなんてあり得ない。しかし、その襲った獲物がいなくなったと考えれば辻褄が合う。」
襲ったモンスターが、狩られていなくなった。
ならば、獲った獲物が放棄されている事に説明がつく。
「しかし、一体どいつが。」
「それは分からない。とにかく、ここからは気をつけて進もう。」
結局、何が襲って襲われたのかは分からない。
しかし、間違いなく何かがここにいる。
「さぁ、行こう。」
ハンターの男が避難民に呼びかける。
しかし、避難民は俯いて答えない。
「どうした?」
「どうしたって・・・。要するに、ここは危険って事だろ? じゃあ、気を付けてる場合じゃないだろ!」
避難民が叫んだ。
いつまでも、ここにいては危ない。
それが、避難民をせっつかせる。
「そうだ! 早く出よう!」
「こんな所にいられるか!」
避難民が来た道を戻り出す。
それが伝染していき、逃げる人が増えていく。
「おい、待て!」
避難民へと叫ぶポット。
何故なら、この光景を見た事があるからだ。
それが、どの様に危険なのかを知っているからだ。
「お、俺も!」
「私も逃げる!」
そして、一度動き出した人が止まらないのも知っている。
それが危険だとしても、止まる事はない。
その騒ぎに、奴らが気づく。
「このまま逃げっ・・・。」
ずどーーーーーん!
先頭の男性の横の建物が、男性に向かって吹き飛んだ。
そして、その建物を突き破った何かが飛び出した。
「えっ・・・。」
それを判断した時には、すでに手遅れだ。
一瞬で、その何かに潰された。
「と、止まれっ!」
後に続いていた避難民達が急いで止まった。
そして、襲ってきたそれを確かめる。
それは、全身が毛に包まれたモンスター。
「お、大熊っ。」
大きな熊のモンスター。
それが、潰した避難民を押さえつける。
その口からは、大量の涎が垂れている。
「た、助けてくれーーー!」
その大熊が避難民達を見ると、襲いかかってきた。
それを見た避難民が、急いで戻って来る。
そして、その中からハンターの男が飛び出した。
「いわんこっちゃないっ!」
咄嗟に剣を抜いて、大熊の顔に叩きつける。
すると、大熊が方向を変えて建物へと突っ込んだ。
「今のうちに!」
その叫びに、動かなかった避難民達も慌てて駆け出した。
しかし、その前に何かが飛び出した。
それは、毛に覆われた四足歩行の生き物。
「お、大虎、大虎だっ!」
新たなモンスターに、避難民達が止まる。
そいつもまた、口からよだれを垂らしている。
しかし、一瞬の内に飛び込まれ一人の首が噛み千切られる。
「止まるなっ。逃げろーーーー!」
ポットの叫びに、避難民達が大虎の横を抜けて走り出す。
それを見た大虎が追いかけるが。
「させん!」
後ろからハンターの男が、大虎の足を斬る。
そして、そのまま避難民達を追う。
「離れては危険か。狩るより護衛が優先だな。」
離れてしまうと守れない。
なので、常に着いて守るとの選択を取る。
それでも、その騒ぎで集まってくる。
今度は、建物の間から大きなウルフが避難民に飛びかかる。
「親玉かっ。左右に避けろ!」
真っ直ぐに飛びかかるウルフの親玉に対して、避難民が左右に別れる。
そして、その間からハンターの男が斬りつける。
「貫き傷の大きさから、ウルフがいるとは思ったが。まさか、親玉までいるとはな。」
ここにいるのは、全員が肉食だ。
しかし、ここのもの達の仕業だと首など残らない。
なので、小さいのがいると踏んでたがまさかの親玉だ。
「じゃあ、人を襲ったのはっ!」
「こいつの子供って事かっ!」
ベージュとポットがウルフの親玉に体当たりしてよろめかす。
そして、ハンターの男が足を斬って親玉を転ばせる。
「間違いない。そして、そいつらがあいつらに襲われたんだ。」
あいつらとは、奥から来ている大虎と大熊だ。
体勢を直してこちらに来ている。
それを見た三人が逃げ出す。
「それにしても、どうしてこっちを狙うんだっ。」
「逃げてるからだろう。あいつらは逃げている相手を餌と見なして追いかける。逃げなくとも、動いた相手を餌と見なす。特に、血の味を覚えた相手はな。」
「どっちにしろ終わりじゃねぇかっ。」
それは、肉食の生き物の習性だ。
襲われた地点で、餌として見なされていたのだ。
それらから、必死になって逃げる。
しかし、目の前に大きく長いものが現れた。
「今度は大蛇だっ!」
「逃げれねぇ。挟まれた!」
前の道を塞ぐように大蛇が現れ、避難民の一人を食べる。
一瞬の事で、避ける事が出来なかったのだ。
「くそ、追いつかれたか。」
急いで止まる避難民達。
しかし、後ろから追う奴らに追いつかれてしまう。
「こっからどうするべきか。」
前にも後ろにもモンスター。
逃げ道などない。
ましてや、一人で守りきるのは不可能だ。
その時、後ろのモンスターが吹き飛んだ。
「随分と盛り上がってるな。」
「楽しみは一人じめするもんじゃねぇっ。」
「私らも混ぜてもらうよ。」
ハンターの仲間が駆けつけたのだ。
吹き飛んだモンスターを乗りこえ、避難民へと駆け寄る。
しかし、その避難民の背後から大蛇が襲いかかる。
「させねぇよ!」
「好き勝手させないわよ!」
それを見たハンターの二人が、そのまま駆けて顔を叩く。
それを受けた大蛇は、横の建物へと突っ込んだ。
「無事か? リーダー。」
「なんとかな。助かった。」
「良いって事よ。んじゃ、こっからは一緒に戦うぞ。」
避難民達を挟んだハンターが武器を構える。
これで形勢逆転だ。
それを見た避難民達が盛り上がる。
「頼んだ!」
「どうか、助けてくれっ。」
「分かったから、大人しくしてな。」
場をひっくり返したハンター達に信頼が集まる。
そして、それに応えるように倒れているモンスターに意識を向ける。
しかし、モンスターは起き上がらない。
「どうしたんだ? こいつら。」
「まさか倒した?」
「そんな訳ないでしょ。そんなに強く斬ってないもの。」
倒れたままのモンスター達を見続ける。
それでも、起き上がる様子はない。
「それでも警戒は解くなよ。」
「言われなくても。」
相手を倒した訳ではない。
プロのハンターとして、戦闘中に気を緩める事はしない。
そうして、相手の様子を見ていた時だった。
モンスターが一斉に震え出す。
「なんだ?」
異常な行動に驚くハンター達。。
そんな様子を見ていると、更に体が震え出す。
まるで、全身が痙攣しているように。
「なんだよ、気持ちわりぃなっ!」
「どうなってんだ?」
「知らん。とにかく警戒を続けろ。」
原因は分からない。
しかし、それでも気は緩めない。
警戒をして、相手の様子を見続ける。
その次の瞬間だった。
グオアーーーーァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァッ!
突然、モンスター達が雄叫びを上げる。
その雄叫びは、痙攣に合わせて震えている。
「うるせぇっ!」
「耳が割れるーーーっ!」
あまりの煩さに、耳を押さえる一同。
それは、収まる事なく辺りに響く。
雨の音さえ貫き広がっていく。
大空を大地を駆けて、更に広がっていく。
そして、全てをもたらせた元凶へと雄叫びが届く。
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