第20話 目指す場所は
激しい音と共に沈みゆく町。
そこから離れるように、避難民を乗せた馬車が走っていく。
その馬車に乗るベージュとポットが、沈む町を見ていた。
「・・・・・・。」
ただ静かに、あの下に沈むハイグルを思う。
しかし、その静寂を破るかのように馬車が騒がしくなる。
「おい、マスターは無事なんだろうな。」
「当たり前だろ。そこの商人も言ってたし。なぁ?」
静かに町を見ている二人に視線が集まる。
それでも、二人は無視をする。
「なんとか言ったらどうなんだ?」
「逃げると言ってた、そんだけだ。詳しい事なんざ知ったこっちゃねぇよ。」
腹が立ったベージュが吐き捨てるように言う。
そもそも、約束だから説明するつもりもない。
それを聞いた職員が、項垂れるように座った。
「マスターがいなくなったら、俺達はどうすれば。」
職員にとって、ハイグルは心の支えなのだ。
それを失う事は、何よりも恐ろしいのだ。
その姿を見たベージュが怒鳴る。
「勘違いしてんじゃねぇよ。ハイグルの為に、ハンターギルドに勤めてる訳じゃねぇだろうが。やるべき事ぐらいやったらどうだ?」
「それは・・・。」
ハンターギルドの職員達も分かってはいる。
でも、ハイグルへの心配でそれどころでは無いのだろう。
いつまでも落ち込んでいる職員に呆れるベージュ。
「勝手にやってろ。」
そう言って、再び沈む町を見る。
もはや、面影もない姿がそこにはある。
それだけでなく、モンスターの姿も見えない。
「マスター、モンスターの連中は来ないようだぜ。」
「町と一緒に埋まったんだろ。見たところ、下に空洞でもありそうな沈み方だからな。」
商業ギルドの施設で見た時と違って、地面が浮き上がっていない。
持ち上げる為の、地面の下の土が無いからなのだろう。
「空洞? わざわざ掘ってたのか?」
「だろうな。元々、あーやってモンスターを沈める為の構造なんだろ。つまり、町全体が罠として作られてんだ。」
エリアの近くの町なので、襲われる事も想定しているのだ。
そのための、手段の一つとして作られているのだろう。
「そう考えると、上手く機能したって訳か。」
「あぁ、誰かさんのお陰でな。」
獲物が町にいなければ、沈む事はない。
それが成功しているという事は、上手く誘導されたという事だ。
「でも、これでどうにかなるような相手じゃねぇんだろ?」
「当然だ。じゃなきゃ、とっくに沈んでんだろ。」
地面の崩落は、何度もあった事だ。
これでどうにか出来るなら、既に沈んでいるだろう。
しかし、奴等は何度も現れた。
「でも、時間稼ぎには充分だ。今の内に離れてしまえばいい。」
「だな。本部合流出来りゃあ助かる。その為にも、生き残らないとな。」
ベージュが肩から吊るした鞄に触れる。
その中には、ハイグルから託されたファイルがある。
それを届ける為には、必ず生き残らないとならない。
「必ず、届けてやりましょう。」
「あぁ、あいつの努力を無駄にはしないさ。」
そう覚悟を決める二人。
そんな二人を乗せた馬車が進んでいく。
先の見えない道を、ただひたすら走っていく。
それから暫く経った時の事だった。
「もうそろそろ合流地点です。馬を休ませる為に一時休息に入ります。」
指示席の人の声に、馬車の中の人達が前を見る。
その先には、人の集まりが見えた。
そして、並んで止めてある馬車の列。
その端に並ぶように、二人が乗る馬車が止まる。
「急いで行きたいが仕方ねぇ。馬に無理をさせるのは逆効果だからな。」
一息つくポット。
馬は生き物ゆえ限界がある。
商業人として、当然の知識だ。
「それに、ここまで離れたら問題は無いだろうしな。」
ベージュが来た道を見るが、町はもう見えない。
あれからかなり離れたようだ。
この道を一気に来る事は無いだろう。
そう一安心していると、職員らしき人が近づいて来る。
「食事です。昼がまだでしょう。」
「そうか、もう昼過ぎてんのか。日が見えねぇから分からんかったな。」
空には一面の雲。
太陽など見えるわけがない。
時間の感覚を狂わせるには充分だ。
「ありがたく貰っとくぜ。」
馬車の避難民にパンを配っていく。
具材はなく、軽く味付けがされただけだ。
それをかじったベージュが職員に聞く。
「なぁ、こっからどこに行くんだ?」
「このまま進むと、本部が展開を始めている防衛線が見えます。まずは、その奥まで向かいます。」
本部に派遣された組織だろう。
しかし、そこは本部ではない。
行っても、上層部の人はいないだろう。
「防衛線か。なるべく偉いやつに渡したいんだが。」
「何か言いました?」
「いんや、教えてくれてありがとな。」
「はい。気になる事があれば、いくらでも聞いてください。」
とにかく、大事な話は聞けた。
ベージュが礼を言うと、職員は去っていく。
それを見送ったベージュが、残りのパンを飲み込む。
「防衛線に偉いやつは・・・いねぇか。」
「だな。やっぱ本部に直接行くしかねぇ。」
「しかし、そこまでどうやって行くかだが。」
本部に行かなければ、ファイルは渡せない。
しかし、馬車はそこまで行く事はない。
つまり、本部に行く為の手段がないのだ。
「防衛線に行って頼んでみるか。」
「賛成だ。上に繋いでくれるかもだしな。」
防衛線となると、上への連絡手段があるだろう。
そこで取り次いで貰えば、本部への道筋が出来るだろう。
なので、まず目指すのはその防衛線だ。
「んじゃあ、このまま乗らせて貰うか。」
「まだ、出ねぇだろうけどな。」
そう決断するが、馬が回復するまで進めない。
なので、のんびりとその時まで待つのだった。
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