第14話 コングの王の逆襲

 動かぬコングの王にボウガンの矢が突き刺さっていく。

 矢が無くなったら、他の職員が補充する。

 その様子を、ハンター達が見守る。


「何だよ、全然対した事ねぇじゃねぇか。」


「だな。ギルドも人騒がせな。」

 

 聞いてた話と違って、あっさりと狩りが終わった。

 すんなり事が運んだ事に呆れているようだ。


「そもそも、これで死んだら報酬はどうなるんだ?」


「そう言えばそうだ。職員が倒したら、手柄を全部持ってかれちゃうぜ?」


「もしかして、それが狙いとか。思ったより対した事が無かったから、こうやって職員達に仕留めさせてるとかな。」


「そんなまさか・・・まじで?」


 勿論、そんな事はありえない。

 しかし、手応えのなさに疑心暗鬼になっているようだ。

 その疑問が火種となり、広がっていく。


「倒したのはハンターじゃないから報酬はなしってか。」


「もしそうなら、洒落になってないぞ。」


 報酬が無くなるのは死活問題なのだ。

 疑問が不安に代わり、あらぬ事実を肯定させていく。

 しかし、否定するハンターもいる。

 

「お前ら、ハイグルさんがそんな事をする訳がないだろっ!」


「そんな事を言われても。そういえばお前、ハイグルさんと仲が良かったよな。まさか、かばってんのか?」


「ありえる。どうせ、俺達を押さえるための監視だろ。」


「なっ。ち、違うっ!」


 仲が良い奴が庇うならそうなのだろう。

 そんな感情が、不安を更に駆り立てる。

 すると、ハンター達が納めた武器を抜いた。


「俺が倒す!」


「いいや、俺が!」


 そして、一斉に駆け出した。

 動かぬコングの王に、とどめをさすために。


「おい待てっ!」


「お前の言葉なんか聞かねぇよ!」


 止めた男の声は、もう届く事はない。

 これ以上言っても逆効果だろう。

 そんなハンター達に、職員達が気づく。


「や、やめっ。撃つのを止めろっ! 何をしている! 作戦の通りに動きなさい!」


「うるせぇ! 俺達は行くぜ!」


 ハンター達の怒りは、職員達へ向かう。

 もう、職員達の声すら届かない。

 コングの王に群がっていくハンター達。


「おい、離れろ! 危険だ!」


「うるせぇ! どうせこいつはもう動けないんだ。俺達がやっても同じだろ!」


 コングの王は、虫の息だ。

 今更、どうする事も出来ない。

 だから、ハンター達は止まらない。


「いいから下がりなさい!」


「おら、やっちまえ!」


 もう、返事も返ってこない。

 コングの王に斬りかかるハンター達。

 その様子を、気球からも見えていた。


「た、大変です!」


『どうしました?』


「ハンター達が妨害をっ。自走船の攻撃が中止されました!」


『な、なんですって!』


 ハイグルが驚くのも無理はない。

 成功すると思っていた作戦が中止されたからだ。

 しかも、よりによって仲間のハンター達によってだ。


「今、ハンター達がコングの王を攻撃しています!」


『や、止めさせなさい!』


「もちろん止めてます! しかし、こちらの言葉を無視しています!」


『な、なんて事だ。』


 あまりの事態に、ハイグルが動揺する。

 しかし、町からではどうする事も出来ない。

 そして、悔しそうに呟いた。


『くそっ、人の手でどうにかなる相手ではないのにっ!』


 そう怒鳴ったのと同じタイミングだった。

 コングの王の目が開く。


「ははっ、どうだ! 抵抗できるならしてみやがれ!」


「おらおら!」


 コングの王に武器を叩き込んでいくハンター達。

 相手は動かないと信じているようだ。


「もう一丁! ん? なんだ?」


 攻撃を与えようとしたハンターが異変に気づく。

 そちらを見ると、コングの王が動き出す。


グオアアアアアアッ!


 体を揺さぶって暴れだす。

 しかし、ロープで固定されている為に動かない。


「ははっ、無駄無駄っ! お前ら、続けろ!」


 気にせずに、攻撃を与えていくハンター達。

 背中にも乗って、しがみつきながら斬っていく。

 次の瞬間、地面が割れ始める。


「おい。危ねぇぞ!」


「はっ、びびってんならそこで見てな。」


 先程から止めていたハンターが呼びかけるも応じない。

 コングの王への攻撃で、気づいていないようだ。

 そして、更にひびが大きくなっていく。


「おい、離れろ!」


「構わねぇ! 続けろ!」


 攻撃を止めないハンター達。

 割れが広がる地面。

 ついに、コングの王が力強く腕を振り上げた。


「なっ!」


 その勢いで、樹が引っこ抜かれる。

 気づいたところでもう遅い。

 樹ごと振り上げた腕を振り下ろす。


「嘘だろっ。」


「に、逃げろーーーーっ!」


 突然の事で、ハンター達は対処が出来ない。

 そのハンター達の上に拳が落ちる。


ずどーーーーん!


 地面が叩かれ、割れた地面が更に割れる。

 そして、逃げるハンターごと跳ね上がる。


「「「わあああああっ!」」」


 もはや、叫ぶ事しか出来ない。

 そんなハンターを押し潰すように砂が襲いかかる。

 その砂は、向かわなかったハンターや自走船を襲う。


「ほら見ろ! 言わんこっちゃねぇ!」


 腕で砂を守りながら、砂の奥を見る。

 すると、そこにあるはずのコングの王の影が見当たらない。


「上だーーーーーーー!」


「っ! 後退だ! 急げーーーーーー!」


 空からの声に、その場にいたもの達が後ろへと下がる。

 コングの王は、砂に紛れて空高く跳んでいたのだ。

 しかし、近くにいたハンター達は逃げられない。


「た、助けっ・・・。」


 手を伸ばすハンター達。

 直後、コングの王の拳が地面に落ちる。

 その衝撃は、地面深くに向かい地面を押し上げる。 


「止まるなーーーーっ!」


 逃げるハンター達を追いかけるように、浮いた地面が迫る。

 そして、それが来る直前にハンター達が飛んだ。


「うおおおおおおっ!」


 後ろからの突風がその距離を伸ばす。

 そのお陰で、最後の浮き上がる岩から逃れる事が出来た。

 そのまま地面に叩きつけられるハンター達。


「ぐあっ!」


 浮き上がる地面は、無事に止まったようだ。

 代わりに、激しい突風が吹き荒れる。

 

「くそっ、ふざけやがって。」


「でも、何とか助かった。」


「助かっただぁ? どこがだよ!」


 怒鳴るように叫ぶハンター。

 助かったのは、浮き上がる地面からなだけだ。

 それをして見せた現況がまだいる。

 すると、後ろから物音がする。


「ちいっ、休ませてくれねぇのかよ!」


 急いで立ち上がって後ろを見る。

 そこには、大きな花のように浮き上がった地面。


「さっき見たやつか。ハイグルさんが警戒するのも無理はねぇ。」


 一目でやばいと分かる惨状。

 こんな事をしでかす相手を警戒するのは当然だろう。


「あっ、あれを見なっ!」


 一人のハンターが指をさす。

 そこは、浮き上がった地面の上。

 そこで何かが動いている。


「おい、あっちにもいるぞ。」


 その何かは、他の場所にもいる。

 更に、その何かが増えていく。


「まさか、子供か?」


 その正体は、コングの王の子供だ。

 沢山現れたそれらは、浮き上がった地面からこちらを見下ろしている。

 さらに、真ん中にある地面の奥から大きな音が聞こえてくる。


「親玉が来るぞ!」


 そう叫んだ直後、その地面の奥から大きな腕が現れた。

 そして、前にある物を払いのけるように腕を振るう。

 そうして、コングの王が現れる。


グオオオオオオオッ!


 一番高い場所で、力強く吠えるコングの王。

 殺気の込もったその声で。

 怒りをぶつけるようなその声で。

 辺りにそれが響き渡る。

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