第11話 虐殺の跡
瓦礫をあさり終えたコングの王は、倉庫へと戻る。
「ひいっ。」
「こっちに来たぞ。」
「大丈夫です。落ち着いて。」
倉庫についたコングの王は、そこの中を見る。
すると、何もせずに離れた。
食い尽くして、何も残って無かったのだろう。
「騒がないで下さいね。幸いにも、建物で隠れてこちらは見えていません。」
コングの王は、施設の反対側にいる。
そのお陰か、砂埃がない状態でもこちらを認識できていない。
「もう、止めてくれ。」
「これ以上の被害は勘弁だ。」
必死に祈るベージュとポット。
その祈りが通じたのか、コングの王は高く飛んでいなくなる。
元いた所に戻ったのか。
そちらを見て確認するハイグル。
「いなくなりましたね。一先ずは、大丈夫でしょう。」
「いや、大丈夫っつったってよう。」
コングの王が荒らした施設を見る。
今にも崩れそうな倉庫。
割れて崩れ落ちそうな地面。
そして、人々の死体。
「はははっ、もう終わりだよ。」
「こんなの、どうしろってんだ。」
どうしようもない程に崩壊をしている。
もう施設としての機能は果たせないだろう。
「ここは、もう捨てるしかありませんね。」
「気楽に言ってくれるなぁっ。そもそも、ハンターギルドが動いてどうしてこんなことになってんだ。」
ベージュがハイグルに詰め寄る。
本来、こうならないようにハンターギルドがある。
それなのに、この惨劇は起こってしまった。
すると、ハイグルが頭を下げる。
「言い返す言葉もない。今回の件はこちらの不始末。謝罪致します。」
「あ、いや。そんなつもりじゃ。すまねぇ、一人にしてくれ。」
ベージュが建物の影に向かって座り込む。
ベージュ自身、自分が何を考えているかが分からないのだろう。
そうなるのも無理はない。
たった一瞬で、全てを失ったのだから。
「すみませんね。誰よりも、このギルドを思いやってたんですよ。許してやって下さい。」
「いえ、彼は何も悪くありませんよ。悪いのは、モンスターです。いつだってね。」
元はといえば、コングの王が原因だ。
その被害者が責められる道理はない。
おちこんでいるベージュを見ていると、人影が近づいてくる。
「マスター! 無事でしたか。」
「そちらもご無事のようで。」
ハイグルの付き添いの職員のようだ。
ハンターギルドの竜車を引き連れている。
その中の一人が、ハイグルの下へ。
「これからどうします?」
「町に戻りましょう。そして、ハンターを指揮しボウガンを設置した自走船も配備。集まった後に、一斉に叩きます。」
「了解。では、経路の確認に向かいます。」
指示を受けたギルドの職員が引っ込む。
辺りの土地は、割れてしまっている。
その中から、安全に通れる通路を探すのだ。
「そういう訳です。商業ギルドの皆さんにも同行して頂きます。」
「おう。生き残った奴らをかき集めておくぜ。」
「お願いします。時間がありません。迅速に動きましょう。通信機借りますね。」
「あぁ、いいと思うぜ。」
それからは、各自別れて動き出す。
施設の周りを歩いて生き残りを探すポット。
すると、端の方で震えている職員達がいた。
その中に、部下の男がいた。
「おい、逃げるぞ。準備しろ。」
「逃げるってどこにっ。あんなのがいたら、どこにいても同じですよ。」
「だったら、大陸の外にでも逃げたらいい。とにかく生きるんだよ!」
動かぬ職員達に怒鳴るポット。
それでも、動く気配がない。
完全に心が折れているようだ。
「無理だ。どこにいても同じでしょう。貴方だって見たでしょ?」
「あぁ、お前たちよりもしっかりとな。その俺が言ってんだ。折角拾った命。最後まで、生き残ってやろうじゃねぇか。」
近くでコングの王を見たからこそ、誰よりも死を感じた。
だからこそ、こうして生きている事を一番実感しているのだ。
「そうですね。折角です。抗ってもみても良いかもですね。」
「そのいきだ。」
その職員が立ち上がる。
すると、他の職員が顔を上げる。
気持ちが揺さぶられているのだろう。
何だかんだ言って、死ぬのは誰だって嫌なのだから。
「でも、脱出はどうするんすか? 馬車は全部あの中ですよ。」
「そりゃあ。」
ポットが言葉に詰まる。
言われてみれば、辺りに馬車はない。
一つ残らず、潰されてしまっているのだ。
すると、エンジンの音が近づいてくる。
「自走船を使いましょう。」
「自走船?」
「えぇ。トーマン君が残してくれたものです。」
ハイグルの後ろで止まったボロボロの自走船。
それは、トーマンがここまで持ってきた物だ。
「速度もありますし、急いでいる今に適任かと。」
「ですね、お前ら乗り込め。」
ポットの指示で、職員達が自走船に乗り込んでいく。
すると、ハンターギルドの職員に支えられたベージュも来た。
「マスター、無事か?」
「あぁ。」
ベージュは、憔悴しきっているようだ。
それだけ、この施設の様子に心を痛めているのだろう。
「そんじゃ、マスターも早く乗ってくれ。って、一人で乗れるか?」
「あ、あぁ。」
ベージュは、少し悩んだ後に乗り込んだ。
その後を、ポットが続く。
他に人はいないようだ。
「では、行きましょうか。こっちの職員は、後から竜車で追いかけて下さい。」
「了解しました。」
ハイグルが自走船に乗り、職員が横の竜車に乗り込む。
これで、出発の準備は万端だ。
「では、向かって下さい。」
ハイグルが運転席の男に指示を出すと、自走船が動き出す。
そして、その後を竜車が追いかける。
自走船は、一度割れ目が大きい場所を迂回して町へと向き直す。
「それにしても、ひでぇな。」
「そうですね。」
コングの王が砕いた場所の事だろう。
真ん中を中心に地面がせり上がっている。
まるで、大きな花のように見える。
「全く、恐れ入るぜ。ん? あれは。」
それから目を離したポットは、船の隅にある布が視界に映る。
トーマンの死体を包んだ布だ。
「連れて来たんですか。」
「えぇ。コングの王に張り合うのが後三匹いる。そう考えると、それらも異常発達しているのでしょう。彼の死体には、正体を暴くヒントがある。そう思いまして。」
エリアから出たのはコングの王だけでない。
そう考えると、少しの情報も逃したくないのだ。
「ずいぶんと、しっかりしている事で。」
「仕事ですから。まぁ、まずは無事に帰れる事を祈りましょう。」
結局は、町に戻れたらの話だ。
途中で襲われたら意味がない。
そう祈りつつ、町に向かって進んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます