第10話 コングの王、襲来

 段々と施設に近づく音。

 しかし、砂埃で影しか見えない。

 それが目の前に来たとき、音が止まる。


「止まった?」


 そう油断した時だった。

 砂埃の中から、二つの巨大な岩が降ってくる。


ずしーーーーーん。


「「うわっ。」」


 それが地面に落ちると、激しい揺れと音が施設に響く。

 それにより、近くにいたベージュとポットが尻餅をつく。


「なんだよっ。」


 よく見ると、地面が少し砕けている。

 それほどの衝撃だ。

 そして、砂埃の中からそいつが現れた。


「コングの王。では、あれは腕? 写真で見たよりも更に大きくなっている。」


 ただのコングの王。

 しかし、その腕は異常なまでに肥大化をしている。

 更には、あちこちから骨のようなものも飛び出している。

 その巨大な腕を引き寄せ、上体を前に突き出している。


「あ、ああ。」


「あ・・・。」


 その姿に、ベージュとポットが硬直している。

 恐怖に思考が支配されているのだ。

 相手は、人を軽く捻り潰せるほどの相手だ。

 そうなるのも無理はない。

 そのコングの王は、辺りの匂いを嗅いでいる。


「まずいですね。」


 その中でも、ハイグルは冷静に動く。

 急いで、倒れた二人に覆い被さる。


「良いですか。動かないで下さいね。」


 ベージュとポットが震えながらも頷いた。

 ばれてしまえば、一瞬で殺されてしまうだろう。

 その間にも一通り匂いを嗅いだコングの王は、建物へと視線を向ける。

 すると、コングの王は砂埃の中へと消えていった。


「立ち去った?」


「いえ、まだです。」


 それでも、コングの王の影は消えない。

 静かに様子を見ていると、再び岩のような腕が飛び出した。

 そして、それが施設の建物を吹き飛ばした。


ずごーーーーーーん。


 その勢いで、建物の半分が吹き飛んだ。

 その部分は、遠い先へと吹き飛んだ。

 遥か先から、落下の音が聞こえてくる。

 圧倒的な力だ。


「あ、ああ、あ。」


「ここまで、強大になっていたとは。」


 その力に、恐れを抱く者達。

 しかし、それに構わずにコングの王が建物へと近づいた。

 そして、その建物に手を突っ込んだ。


「あ、あそこは。」


「うちの倉庫。」


 その建物とは、大事な商品を保管している倉庫だ。

 そこにある物を掴んで持ち上げるコングの王。

 それを口まで運んで口に入れる。


「だ、大事な商品が。」


「諦めて下さい。」


 ギルドにとって大事な商品だ。

 しかし、命に変わる程の物ではない。

 コングの王は、倉庫の中の物を食べていく。


「死にたくない。死にたくない!」


 それを見た一人の職員が動き出した。

 馬車に乗り込み走らせる。


「ま、待ちなさい!」


 ハイグルが叫ぶ。

 それでも、他の職員も乗り込んでいく。

 恐怖に支配された者達に、その声は届かない。


「お、俺も!」


「助けてくれ!」


 逃げた職員に感化されたのだろうか。

 次から次へと馬車に乗り込んでいく。


「こんなところにいられるか!」


「お、俺も乗せろ!」


 段々とその思考が広がっていく。

 それが、逃げる事を正当化していく。

 もう止まらない。

 そうなると、当然コングの王も気づいてしまう。


「やめなさい!」


 それでも、馬車が砂埃から抜けていく。

 その騒ぎを聞いたコングの王が、倉庫の壁を掴んだ。

 そのまま握りつぶすと、瓦礫を前に放り投げる。

 それが、複数の馬車へと降り注ぐ。


「ぎゃああああああああっ!」


 無慈悲にも、落ちた瓦礫が中の職員ごと馬車を潰す。

 砂埃の向こうから悲鳴が聞こえてくる。


「何て事だ。」


「俺の、仲間達が!」


「ありえねぇ、ありえねぇよ!」


 止まらぬ悲鳴から、その先で地獄が広がっている事は想像できる。

 大事な仲間達の苦しむ姿が想像できる。

 しかし、地獄は終わらない。

 腕を振り上げたコングの王が、高く飛び上がる。


「なんという跳躍力っ。」


 そのまま砂埃を抜けるコングの王。

 そのまま落下し、腕を地面に叩きつける。


ずがーーーーーん。


 激しい音が響き渡る。

 それにより、地面が揺れる。


「なっ、地面を揺らしただと!」


 さらに、コングの王の腕を中心に地面がせり上がる。

 それでも衝撃は収まらない。

 大地の奥底から返ってきた力が、せり上がった地面を押し上げる。

 それだけでなく、周りの地面にも広がり割れ目が生じていく。

 そして、そこから漏れた力が突風となり全てを吹き飛ばす。


「「ぐわーーーー!」」


「ぐうっ。」


 その突風は、当然三人にも襲いかかる。

 ベージュとポットは、叫ぶ事しか出来ない。

 ハイグルは、じっと堪え忍ぶ。


「耐えて下さい!」


「い、言われなくともっ。」


 飛ばされないように、地面にしがみつく。

 それからしばらくして、突風が止む。

 そして、明らかになる。

 大地そのものがひっくり返ったような悲惨な光景が。


「なんて事だ。普通のコングの王の力を遥かに凌駕している。野放しにしてはならない。伝えたかったのは、これの事でしたか。」


 こんな攻撃を連発されては大陸が滅ぶ。

 そこにいる者達も、ただではすまない。

 滅んでしまったエリアのように。


グウオオオオオオオウ。


 コングの王は、空へと吠えた。

 そして、瓦礫の中から馬車を掴むと頭上へと掲げる。

 それを握り潰して出た液体を、口の中に流し込む。

 逃げる際にかき集めた果物のと、人の血が混ざった物だ。


「くそっ、俺の仲間達をっ!」


「人の命を何だと思ってる!」


 コングの王にかかれば、人の命など容易いものだ。

 これが、人とモンスターの違い。

 その圧倒的な差に、人は抗う事が出来ないのだ。

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