第9話 動き出すハンターギルド

 それからは、施設中の馬車を取り出した。

 いつでも逃げれるように並べていく。

 すると、馬よりもどっしりとした足音が複数近づいてくる。

 しかも、車輪の音も混ざっている。


「来たか。誰か、マスターを読んできてくれ。」


 部下の男が馬車を操り、施設へと戻っていく。

 それと入れ替わるように、音の正体がポットの前に現れる。

 それは、小竜と呼ばれる人になついたモンスター。

 そして、それに繋がれた豪華な乗り物。


「竜車か、間違い無さそうだな。」


 馬車よりも強い力で引っ張る乗り物だ。

 その乗り物から、複数の人が降りてくる。

 すると、その者達に誘導されるように一人の男が降りてくる。


「お忙しい所申し訳ない。本部に言われて来た者です。」


「ことづかっています。」


「そうか、良かったです。遅れてすみませんね。」


 生やした髭を弄ってほっと一息をつく。

 そして、服を直して姿勢を正す。


「ギルドマスターのハイクルと申す。調査の為に派遣された。以後、お見知りおきを。」


 礼儀正しい男性のようだ。

 頭を下げてお辞儀をする。

 どうやら、ハンターギルドの代表として来たようだ。


「うちのマスターは、今来ている所です。少しだけ、待っててください。」


「そうか。では、待つとしよう。」


 嫌な顔一つせずに頷くハイグル。

 ここで、待ってくれるようだ。

 その間に、自走船を見てから側のくるまれた布を見る。


「見てもよろしいかな?」


「えぇ、どうぞ。」


 布の正体に気づいているのだろうか。

 近くに寄ったハイグルは、祈るような仕草をしてから布を捲る。


「トーマン君か。先日、施設に配属された者だな。とても、優秀な人物だった。活躍を期待していたんだがな。」


 そっと布を戻したハイグルが立ち上がる。

 そんなハイグルに、ポットがファイルを差し出す。


「こいつが持っていた物だ。あんたらに知らせるためにな。」


「そうですか。では、こちらで預からせてもらいましょう。」


 ポットからファイルを受け取るハイグル。

 表に書かれてある文字を一通り見る。

 その文字に、ハイグルが目を細める。


「このような事が。」


 さらに、中の書類を取り出してから見る。

 そうしていると、施設の方から足音が近づいてくる。


「すまない、待たせたな。ここのギルドマスターのベージュだ。」


「ハンターギルドのハイグルです。事情は、今聞きました。」


 そう言って、書類をファイルに戻すハイグル。

 一通り、読み終えた所のようだ。

 ファイルを付き添いに渡して、ベージュと向き合う。


「それで、ハンターギルドはどのように動いているのだ?」


「優秀なハンターと共に、職員を向かわせている。なにかあれば、知らせが入るだろう。」


 既に動いているようだ。

 何が起きているかは、その知らせ次第だ。

 何も分からぬ現状に、ベージュが腕を組んで下を向いた。


「しかし、何でまたこんな事に。」


「分からぬ。昨日の知らせでは、いつものとおりだった。」


「俺もだ。昨日行った時は、何の変化も無かった。」


 昨日の段階では、施設に異常は無かった。

 いつもと変わらぬものだった。

 それが、たった一日で無くなったというのだ。


「報告は無かったのか?」


「無かった。」


「エリアが無くなるような事が起きたってのにか? おかしいだろ。」


 ハイグルを問い詰めるベージュ。

 実際、そのような事が起きたのなら知らせぐらいはあるはずだ。

 それでも、知らせは無かった。


「そう言われてもな。いや、まさか。」


 何かに気づいたハイグルが、書類の表紙を見る。

 そして、そこの一番始めに書かれている文字を読む。


「施設が狂った。ここに何かありそうですね。」


「崩れる前に、何か起きたと?」


「はい。それで、連絡が起きなかった。何が起きたかは分かりませんが。」


 知らせなかったのは、何かが起きたから。

 そう考えるのは自然だろう。

 そうでなければ、説明はつかない。


「なるほど、そこであの粉か。」


「粉?」


「ほら、そこにあるでしょう。この新人から出てきたらしい。」


 ポットが指をさした方を、他の二人が見る。

 地面に巻かれた粉の事だ。

 その粉には、人をおかしくさせる力があると試したばかりだ。


「言っておくけど、下手に近づかない方がいい。指につけたのだけでも、かなりきつい。」


「なるほど。誰か、この粉を集めて下さい。慎重に取り扱って下さいね。」


 ハイグルが指示を出すと、後ろに控えていた人達が動き出す。

 まずは、手袋をつけた人が救い上げる。

 そうして、他の人が用意した袋に入れていく。


「あの粉をどうすんだ?」


「一度、本部に送ります。そして、都市アルカルンで見てもらいます。」


「あの、大陸の知識が集まったって所だな。」


「えぇ、他の大陸にも負けないほどです。きっと、正体を突き止めてくれるでしょう。」


 ただでさえ、得体の知れない粉なのだ。

 然るべき所で、見てもらうのが一番だろう。

 そんな話をしていると、空から羽ばたきの音が聞こえてくる。


くるっぽう。


「おや、来ましたね。」


 鳴き声と共に、空から一羽の鳥が降りてくる。

 その鳥は、竜車の手すりに降りた。

 その鳥の足には、白いものが付いている。


「ギルドマスター。報告です。」


「見てください。」


「はい、直ちに。」


 職員の一人が、鳥の足から白いのを外す。

 そして、それを広げる。

 どうやら、紙のようだ。

 そこに書かれているのを、職員が見る。


「何て書いてあります?」


「遠くから見たところ、大物の姿はなし。これから、エリアの調査に入ると。」


「ほう、順調なようですね。このまま、結果を待ちましょうか。」


 調査に向かった職員からのメモのようだ。

 もし、何かがいれば鉢合わせているはずだ。

 それがないという事は、問題がないという事だろう。

 そのはずだった。


ずどーーーーん。


 施設の上の方から音がした。

 何か大きいものが落ちたような音だ。


「な、なんだ?」


 音のする方を見る。

 すると、何かが上から落ちてきた。


「これは、調査に向かった竜車です!」


「何でそんなものがっ。」


 落ちてきたのは、調査に向かったはずの竜車だ。

 しかし、強い力で潰されたかのようにグシャグシャだ。

 その中からは、赤い液体が溢れている。

 そして、そいつはやって来た。


ずしーーーーーん。


「今度はなんだ!」


 今度は、施設の外から音がした。

 そちらを向いた瞬間、大量の砂が襲いかかる。


「なんだこりゃあっ!」


「何かが落ちた事により舞い上がったのでしょう。気を付けて!」


 しばらく待つと、砂が収まった。

 しかし、舞い上がった砂が辺りを埋め尽くしている。

 その中を、何かがうごめく。


「何か・・・いやがる。」


ずしん、ずしん。

ずりっ、ずりっ。


 大きな足音と、何かを引きずるような音。

 ゆっくりと、じっくりと。

 施設に向かって近づいてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る