第6話 孤独な脱出
「追ってこない?」
「見たいですね。一先ずは、安心でしょう。」
「一先ずは、だけどな。」
どうやら、追ってきてはいないようだ。
しかし、ずっとここにいる訳にはいかない。
ほんの一時の安心なのだ。
外の様子を確認すると、座らせたトーマンに集まる。
「大丈夫? 怪我は無い?」
「・・・はい。」
怪我はない。
しかし、気力もない。
「良かったぁ。探したんだよ? 部屋にいないからって。」
「そうそう。諦めようとした時に悲鳴だもんな。でも、無事で良かったぞ。」
「そうですね。無事、合流出来た事を喜びましょう。」
どうやら、探してくれていたようだ。
とにかく、これで合流する事が出来た。
心強い仲間達と。
「それで、これからどうするの?」
「一応、外への通信機を目指してはいたんですが。」
ホークがトーマンを見る。
すると、トーマンが首を横に振って答える。
通信をする前に、瓦礫の下に埋もれてしまったのだ。
「ですよね。では、ここから逃げるしかありません。」
「じゃあ、自走船だね。」
「はい。それで、ここの状況を本部に伝えるのです。」
ホークが資料を取り出して見せる。
その資料は、トーマンも見た四匹の情報が乗った資料だ。
「やっぱり、今回のはそいつらのせい?」
「間違いないでしょう。迂闊でしたね、大陸を揺らす大物なんていないなんて。」
「そんなのがいれば、だな。あいつらがエリアから出たら、ただじゃすまない。」
それは、朝にした会話だ。
大陸を揺らす奴なんている訳がない。
もしいたら、大陸はただではすまない。
そんな話をしていたのだ。
「だから、その前に情報を伝えて、対策を講じる必要があります。」
「その為には、ここから脱出しなきゃだな。」
「えぇ、なんとしても生きて帰らなければならないのです。」
でなければ、大陸の被害は大きくなるだろう。
それほどの相手が、このエリアに住んでいる。
だから、必ず情報を届ける必要があるのだ。
「でも、倉庫までいけるか?」
「それは信じるしかありませんね。」
「そうなるわね。トーマン君、行けそう?」
「えぇ、はい。」
外には狂った人達がいる。
邪魔を受けるのは当然だろう。
そこにいない事を祈るばかりだ。
「では、時間もありません。今すぐに行きましょう。」
扉を開けて外へと出る。
目的は、自走船がある倉庫だ。
しかし、部屋を出た直後にまた揺れる。
「うわっと。だんだん激しくなってるな。」
「急ぎましょう。嫌な予感がします。」
ただことではない事が起きているのは明らかだ。
もたついている余裕はない。
急いで倉庫に向けて走り出すが。
ずどーーーーーん。
激しい爆炎が施設を襲う。
「うわーーーっ!」
「何がっ!」
「伏せて下さいっ!」
ホークの指示で、頭を下げる。
直後、瓦礫が爆発と共に通り過ぎた。
そして、外から大きな足音が近づいてくる。
「何かいる、大きい。」
「奴等の中の誰かでしょう。」
「なっ、こっちには来ないんじゃ無いのかよ!」
四匹の大物は、こっちに来ないとの話だったはずだ。
しかし、奴等以外にはいないであろう。
「この揺れといい、本来寝ている時間に動いている事といい、何が起きて・・・まさか、巣が無くなった?」
「んじゃあ、エリアが沈んでるとでも言いたいのか?」
「憶測ですがね。」
巣が無くなり、立つ場所も無くなった。
そのせいで、大陸の内側へと向かっている。
そう考えるのが自然だろうか。
すると・・・。
グオオオオオオオオオ。
何かの唸り声だろうか。
夜のエリアに響き渡る。
そして・・・。
ずどーーーーーん。
何かが衝突しあう音が聞こえて来る。
何かが外で争っているようだ。
その正体は、言うまでもない。
「ちいっ、こんな所でおっぱじまいやがった。」
「ねぇ、こんな所で止まってるじゃないんじゃ。」
「その通りです。急ぎましょう。」
立ち上がると、再び走り出す。
その度に、爆炎が施設の通路を襲う。
それでも、立ち止まらない。
「止まるな!」
「言われなくても!」
「トーマンさん。着いてきてますか?」
「はい!」
爆炎や度重なる地震に襲われながらも走り続ける。
そのおかげか、何とか倉庫にたどり着くことが出来た。
どうやら、倉庫の中は無事なようだ。
「自走船は、無事のようですね。急いで乗りましょう。」
「おし、倉庫を開けるぞ! 手伝えトーマン。」
自走船を出すために、ナイルとトーマンが倉庫のシャッターを開ける。
その間に、ルイナとホークが自走船を起動する。
「よし、動きますね。早く乗って下さいっ!」
「おし。行くぞ、トーマン。」
「はい。」
ついに脱出の準備が整った。
ナイルが自走船に乗り込む。
その時だった。
しゅごーーーーっ。
「ん? なんだ?」
水が勢いよく吹き出すような音が聞こえて来る。
どこからか渦巻く水柱が現れ、空を駆けたのだ。
それは、施設の横の岩壁に着弾してからそのまま貫く。
ずがーーーん、がらがらがらっ。
それにより、吹き飛んだ岩の瓦礫が施設へと落ちる。
それが施設へと降り注ぐ。
勿論、倉庫の上にも降り注ぐ。
がしゃーーーん。
その岩は、倉庫にある物を容赦なく押し潰す。
乗り込んだばかりの自走船もただ事ではない。
乗り遅れたトーマンを除いては。
「ぐう、何がっ。あっ、みんなっ!」
吹き飛ばされたトーマンが倉庫を見る。
もはや、原型はない。
更に、施設のあちこちから炎が出ている。
「みんなあああっ! ぐっ、足がっ!」
駆けつけようにも、片足が動かない。
感覚がないのだ。
それでも、倉庫へと足を引きずりながら向かう。
「みんなっ、無事ですかっ。」
瓦礫の中を覗く。
そこには、岩の下敷きになった仲間達がいた。
「みんなっ、皆さん。大丈夫ですかっ。」
返事はない。
気を失っているのだろうか。
「皆さん!」
それでも呼び掛ける。
すると、ごそりと音がした。
「トーマン・・・か。」
「無事で・・・良かったよ。」
「そんなことっ。今、引っ張り出しますね。」
トーマンが仲間達に向けて手を伸ばす。
しかし、届かない。
「あぁ、どかさなきゃ。」
上に乗っかる岩を押してみる。
しかし、動かない。
「どけっ、どけよっ!」
それでも動かない。
建物を押し潰す程の岩だ。
たかが人間に押せる訳がない。
「くそっ、くそっ。」
悔しさに、トーマンが涙を流す。
それでも、諦めずに押し続ける。
「トーマン、あなただけでもっ・・・行きなさい。」
「なっ、何をっ。」
「後ろを見なさい。一隻だけ、無事なのがあります。」
トーマンが振り向くと、一隻の自走船がそこにあった。
一部がひしゃげているが、動けるだろう。
どうやら、端にあったのが押し出されたようだ。
「でも、みんなは。」
「残念ながら無理そうですね。だから、あなただけでも。」
「でもっ、皆を置いていくなんてっ。」
出来るわけがない。
当然の事だろう。
しかし、そうしている間にも地面が沈んでいく。
「自分は、みんなとっ。」
「行けっ!」
「っ!」
トーマンにナイルが叫んだ。
その声で、トーマンの動きが止まる。
「いいか? 俺達の仕事はエリアの監視だ。」
「何かあったら知らせないといけないの。」
「だから、必ず伝えないといけないんです。」
それが、この施設の役割だから。
ここで働く者達の役目だから。
「だから、お前に託す。」
「お願い、届けて。私達の分まで。」
「さぁ、これを。」
ホークが書類を持った手を伸ばす。
それを、トーマンが受け取る。
「頼み、ましたよ。」
「・・・はい。」
この書類は、仲間達の仕事への誇りなのだ。
それを知ったトーマンに、拒む事は出来ない。
書類を抱えると後ろを振り向く。
「ごめんな。もっと色々教えてやりたかったけどな。」
「もっと、一緒に話したかったよ。」
「えぇ。短い間ですが、あなたは大事な仲間です。」
会ったばかりで思い出というものはない。
それでも、一緒にいた時間は確かにあったのだ。
トーマンは、再び仲間達を見て敬礼をする。
「ご指導のほどっ、ありがとう、ございましたっ!」
仲間として、後輩として。
今までの分と、これからあったであろう分まで。
全てをまとめての一言だ。
そして、敬礼を止めて自走船へと歩き出す。
「足が、でもっ。」
足が思うように動かない。
それでも、引きずってても向かっていく。
しかし、それを拒むように地面が割れ始めた。
「もうもたない。急がなきゃ。」
地面が限界に来ているのだろう。
脱出出来なければ意味がない。
なので、速度を上げて自走船へとたどり着く。
その直前、脚の感覚が無くなっても関係無し。
そのまま、運転席へと飛び込んだ。
「ぐうっ。動いてくれっ。」
席に座るとエンジンを起動する。
すると、船から音がし始めた。
どうやら、かかったようだ。
その際、横から倉庫を見る。
「皆さん、任せて下さいっ。」
そう言うと、トーマンが船を前進させる。
施設があっという間に離れていく。
しかし、地面の亀裂が船を追いかける。
「もっと早く!」
自走船の速度を上げる。
それでも、亀裂は容赦なく広がっていく。
ついには、地面が崩れていく。
施設も、その中へと沈んでいく。
「もっと、もっと!」
しかし、地面が崩れるのが早い。
土埃が舞い、視界を埋める。
それでも、フルスロットルで自走船は行く。
そして、ついに崩落がない場所へと飛び出した。
勢いよく地面に着くと、そのまま走り続ける。
崩れ去るエリアを残して、暗闇を突き進む。
それからしばらくして、砂埃からいくつかの大きな影が現れた。
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