第5話 狂った施設
それからは、施設の長と共に施設を出る。
幸いにも、誰とも会わない。
そのまま、別の入り口へと目指す。
「一体どちらへ?」
「俺の部屋だ。あそこにだけ外との連絡手段がある。」
「助けを呼ぶんですね?」
「そうだ。そして、朝まで耐える。それしかねぇ。」
施設の長にも、どうにも出来ないようだ。
そのまま別の場所から入り、施設の長の部屋へと入る。
「はぁっ、何とか着いた。一体どうなってやがんだ。」
「施設長にも分からないんですか?」
「あぁ、夜番の奴に聞かねぇとだが。あのざまだ。」
「そんなっ。」
情報を持っているのは、夜に担当をしている人達だ。
しかし、その本人達こそが狂っている人達らしい。
「しかも、気持ちわりい。頭ん中が掻き回されてるみたいだぜ。」
「そういえば、施設長程では無いですが。」
二人が気持ち悪そうに頭を押さえる。
まるで、自分の中の全てが同時に出てくるような。
自分が自分じゃ無くなるような感覚だ。
「急いで助けを呼ばねぇとな。ほっといたら、俺達までどうにかなってしまう。。」
そう言って、施設の長が部屋の通信機を手に取る。
そして、番号をいれようとした時だった。
激しく地面が揺れる。
「またかっ。今度はでかいっ!」
あまりの揺れに二人とも倒れてしまう。
しかも、部屋の隅が大きくひび割れていく。
「そうか、そういう事か。こいつはただの地震じゃねぇ。早く本部に知らせねぇと。」
施設の長が何かに気づいたようだ。
しばらくして揺れが収まる。
それと同時に、施設の長が通信機の番号を打とうと立ち上がる。
その時、壁が崩れ落ちた。
「があっ。」
「施設長!」
施設の長が、壁の下敷きになってしまった。
下半分が瓦礫に埋まっている。
「足が埋まっちまった。」
「引き上げます。」
トーマンが施設の長を引っ張りあげる。
そのお陰で、施設の長は瓦礫から抜け出る事が出来た。
「助かった。ありがとっ・・・。」
お礼を言おうとした時だった。
施設の長の頭が、背後から棒で殴られた。
そのまま地面へと倒れ込む。
「施設長!」
動かない施設の長。
代わりに、棒を持った人達が現れる。
「施設長、助けてくれ。」
「助けて、殺して、助けて、あぁ。」
「俺達を、施設長を殺せて、して、あ、あはははは。」
「「「アヒャハヒャハハ。」」」
どうやら、助けを求めているようだ。
それなのに、笑いながら棒を施設長に振り降ろしていく。
そして、笑いが伝染していき施設のあちこちから聞こえて来る。
「あ、あぁ。」
その異様な光景に、トーマンは動けない。
動く事すら出来ない。
そして・・・。
「あ、あぁ、あ、うあああああああ!!!」
全力で叫んだ。
全てを吐き出すように。
そして、再び地面が揺れる。
その揺れで、何人かがトーマンの前に倒れる。
「あぁ、新人だ。君も一緒に・・・。」
「殺そう。助けて、殺して、助けて、殺しちゃおう。」
「さぁ、一緒に。アハハハハっ。」
「や、やめ。あぁっ。」
揺れが止まると、その人達が立ち上がる。
トーマンには、抗う余裕すらない。
ただ、自分に向かって棒を振り上げる姿を見る事しか出来ない。
「あぁ、俺も。」
暴れる意識に身を委ねる。
そうすれば、楽になれるであろう。
そう思い、そっと目を閉じる。
「いた、いたよ! トーマン君!」
急に聞こえた声が、渦に飲み込まれる意識を引きずり戻す。
「でかしました! トーマンさん、無事ですか?」
「助けに来たぞ!」
その声は、聞き覚えのある声だ。
頼もしさを感じる温かい声。
同じ部署の仲間の声だ。
「襲われてるっ。」
「仕方ないです。突き飛ばしましょう!」
「おっしゃあ、ぶっとばすぜ!」
トーマンに迫る人達が吹き飛んだ。
誰かが突っ込んで飛ばしたようだ。
その音に、他の者達が気づく。
「あはははっ、殺さなきゃ。一緒に・・・殺す。殺させて。」
「急ぎましょう。早く、トーマンさんをっ。」
「分かってる。トーマン君、動ける?」
「えぇ、はい。」
立ち上がったトーマンは、おぼつかない足で歩きだす。
それを支えるように、仲間が支える。
そのまま部屋を出ると、自分達の仕事場へと逃げ込んだ。
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