第4話 施設の異変

 ずどーーーん。


 何かが近くに落ちる音がする。

 その後に、羽ばたく音がしてそのまま遠ざかっていく。

 その音で、トーマンが目覚める。

 辺りを見ると暗い。

 目を凝らすと、同室の人達も飛び起きている。


「なんだぁ? 寝たばっかなのによう。」


「どこの音だ?」


「外から聞こえたようにしましたが。」


 状況が読めない同室の人達に、トーマンが気づいた事を教える。

 すると、それを聞いた人達が起き上がる。


「外か、何かあったのか?」


「行ってみるか。教えてくれてありがとな。新人。」


「どういたしまして。」


 起きた人達は、部屋を出ていく。

 エリアの監視の部屋に向かい、事情を聞きに行くのだろう。


「自分も知りたいけど、行っても迷惑だろうな。」


 多くの人が押し寄せても迷惑だろう。

 上の事は、上の人達に任せてしまうのがいい。

 なので、トーマンは部屋で待機をして情報を待つ。

 それからしばらくの事。


「帰ってこないな。」


 先程、上に行った人達が帰ってこない。

 事情を聞きに行ったにしては遅すぎる。


「気が早いか。もう少し待ってみるか。」


 話が長くなっているだけだろう。

 そう思い、しばらく待つ。

 それでも帰ってこない。


「仕方ない、寝るか。何かあれば起こしてくれるだろうし。」


 緊急な事があれば、誰かが呼びにくるだろう。

 なので、寝てしまっても問題はない。

 トーマンは、再び布団を被る。

 その時だった。


がしゃ、がしゃっ、がしゃーーん。


 部屋の外から、小さいが騒々しい音が聞こえて来る。

 何かが争っているような音だ。


「なんだ?」


 しばらくの争うような音。

 そして、音がなくなり静かになる。


「行ってみるか。」


 部屋の外ぐらいなら問題ないだろう。

 布団から起き上がったトーマンは、扉を開けて覗きこむ。

 しかし、暗くて分からない。


「誰かいますか?」


 聞いても返事は返ってこない。

 なので、思いきって部屋を出る。


「確かこっちだっけ。」


 自分が寝ていた布団がある方角だ。

 壁を伝いながら歩いていく。


「誰か・・・あ、いた。」


 目の前に誰かが立っている。

 ピクリとも動かずに、奥の廊下を見ている。

 安心したトーマンは、その人物に近づくが。


「あの、何が・・・っ!?」


 近づく事によって見えた光景に、トーマンの思考が止まる。

 そこにあるのは、床一面の血だ。

 立っている男性を中心に、沢山の人が倒れている。


「何が・・・。」


 驚くのも無理は無いだろう。

 よく見ると、立っている男性は血の付いた棒を持っている。


「もしかして、あなたが?」


 返事はない。

 ただ、ぼうっと突っ立っている。


「あのっ!」


 トーマンがその男性の肩を掴む。

 すると、その男性が振り向いた。

 そして、血塗れの顔が現れる。


「ひいっ。」


 驚いたトーマンは尻餅をついてしまう。

 その姿を男性の瞳が捉える。


「あー・・・新人か。新人だな。」


 その顔に生気はない。

 感情というものが読み取れない。


「大丈夫。・・・大丈夫だ。」

「あ、あの。」


 ぼそりと呟くように言っている。

 こちらに言ってるかも分からない。

 そして・・・。


「大丈夫。俺が・・・殺して・・・あげるから。」


 そう言うと、男性がにやりと笑った。

 そして、棒を振り上げる。


「えっ。」


 そして、トーマンへと降り下ろす。


「ちょっ!」


 トーマンは、慌てて飛び退いた。

 その直後、地面に鉄が叩かれる音が廊下に響く。


「なにするんですか!」

「何って、先輩が新人を殺すのは当たり前だろう?」

「っ! 何言ってっ。」


 トーマンが言い終える前に男性が棒を振る。


「ごめんなさいっ。」


 それが当たる直前、トーマンが男性に突っ込んで吹き飛ばす。

 その結果、男性は棒を離して廊下に倒れた。


「あの、その。でも、あなたが悪いんですよ。」

「うん、大丈夫。大丈夫だよ。」


 言葉が通じていない。

 にやりと笑ってこちらを見上げている。


「だから、安心して・・・殺されろっ!」


 急に男性が飛び上がり、トーマンの首を絞める。

 咄嗟の事で避ける事は出来なかった。


「ぐっ、やめて・・・下さいっ。」

「拒まなくて良いんだよ? 先輩に任せなさい。」


 男性は、にやりとした口からよだれを流しながら手に力を込める。

 その力は、とても強い。


「ぐっ。どうして・・・こんな事を!」

「どうしてって。あれ、どうしてだ?」


 その瞬間、男性の手の力が弱まった。

 そして、驚いたような顔をしてトーマンを見ている。


「俺は、新人を。あれ、どうして殺すんだ?」


 自分のしている事に疑問を持ち始めているようだ。


「あ、そうか。俺は。」


 そして、完全に手の力が抜ける。

 ついに自分のしている事に気づいたのだろうか。

 その直後、男性が棒で顔を殴られた。


「なっ。」


 その勢いで男性が吹き飛ぶと、ピクリとも動かなくなる。

 そして、頭から血が流れていく。


「ごほっごほっ。がはっ。」

「大丈夫かい? 君。」


 男性を殴ったのは、先程倒れていたうちの一人だ。

 咳き込むトーマンに優しく声をかける。


「はあっ。大丈夫です。ありがとう、ございます。」


 息を整えるトーマン。

 どうやら、助けてくれたようだ。


「それは良かった。」


 新たな男性は、トーマンに優しく声をかける。


「じゃあ、俺が殺してあげるからね?」

「えっ?」


 その男性が、トーマンに棒を振る。


「なんでっ!」


 トーマンがそれを避ける。

 そして、その人物の顔が視界に映る。

 先程と同じ表情の顔が。


「狂ってる。この人達、まともじゃない!」


 トーマンは、急いで逃げ出した。

 相手に言葉は通じない。

 相手をすれば命がない。

 そう思い、全力で逃げ出した。


「何が起こってるんだっ。」


 叫んでみるも答えはない。

 しかし、何かが起こってるのは明らかだ。

 そのまま走り続けると、前から声が聞こえて来る。


「誰か、いるのかぁ?」

「っ!」


 にちゃりとした普通ではない声。

 先程の狂った人達と同じ声だ。

 どうやら、あの場所にいる訳では無いようだ。


「挟まれた。」


 トーマンがいるのは一本道だ。

 つまり、先程の男性と挟まれた形になる。


「どうしよう。」


 その上、前から棒を引きずる音が聞こえて来る。

 どうやら、こちらに来ているようだ。

 逃げ場はない。

 そして、ついに見つかってしまう。


「あぁ、新人君か。おいで、殺してあげるからね。」


 やはり、この人も狂っている。

 棒を振り上げると、トーマンに襲いかかってくる。

 すると、後ろからも音が近づいてくる。


「終わりだ。」


 二人相手に戦えるかは分からない。

 そんなトーマンに、男性が棒を振り下ろす。

 その時だった。


「おらぁ!」


 その男性は、いきなり吹き飛んだ。

 代わりに、大きな影が現れる。


「施設長!」


「着いてこい! 逃げるぞ!」


 その影の招待は、施設の長だった。

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