第3話 予兆
翌日、トーマンはベッドの上で目を覚ます。
そして、外の明るさに気づく。
場所は、複数のベッドが並べられた場所だ。
まだ何人か、そこで寝ているようだ。
「朝か。起きなきゃな。」
今日から、本格的な仕事が始まる。
遅れては、申し訳が立たない。
早速着替えて外へと向かう。
すると、別室のケイルに出会う。
「おっ、トーマン。おはようさん。よく眠れたか?」
「おはようございます。よく眠れましたよ。」
「良かった。俺が初めて来た時は、緊張で眠れなかったからな。」
それが普通なのだろう。
でも、トーマンは問題なく眠りにつくことが出来た。
先輩達が緊張をほぐしてくれたお陰だろうか。
「これから食事を終えて、商業ギルドからの搬送を受けるんでしたよね。」
「そうだ。僕達の部署の全員でやるからな。そこまで一緒に行こうや。」
「はい。お供します。」
朝早くから、外から運ばれる物資を受け取らないといけない。
なので、その前に食事を済まさないといけないのだ。
ケインと共に食事を済ませて倉庫へと向かう。
そこには、既にホークがいた。
「おはようございます。ホークさん、早いですね。」
「おはようございます。早く来ても良いように待機をしているんですよ。」
「なるほどです。」
物資を運ぶ者達が時間通りに来るとは限らない。
なので、他の者達よりも早く来ているのだ。
ホークと挨拶を済ませていると、少し遅れてルイナが来る。
「ありゃ、私が最後か。新人君より遅れるなんてね。」
「物資が来るまでには時間があります。慌てなくても良いですよ。」
「そうなんだけど、先輩としてはちゃんとした所を見せないとね?」
新人のトーマンに良い格好をつけたいようだ。
そんな雑談をしながらも時間を潰す。
すると、外から車輪の音が聞こえて来る。
「来ましたね。トーマンさん、ケインさん。倉庫を開けて下さい。」
「「はい。」」
ケインが倉庫のシャッターを押し上げる。
そして、トーマンがそれに合わせて力をかける。
それにより、シャッターは難なく開く。
「では、迎え入れるので待機して下さい。」
三人を残してホークが外へと出ると、手を上げて近づく馬車を誘導する。
すると、その合図で馬車が倉庫の前で止まる。
その馬車には、商業ギルドの印が描かれている。
「よう。今日も良いのを持って来てやったぜ。」
「お疲れさまです。わざわざありがとうございます。では、皆さん運んで下さい。」
「「「はい。」」」
返事を返した三人が、馬車の後ろに回り込む。
そして、馬車の中の人と協力して荷物を降ろしていく。
かなりの数があり苦戦しそうだ。
「ん? 一人多くないか?」
「新人ですよ。昨日来ました。」
「そういや、内にも一人来たっけな。」
「そういう時期ですもんね。」
「んじゃっ、ちょっくら挨拶でもするかな。」
興味でも出たのだろうか。
馬車から降りた男が、トーマンに近づく。
そして、荷物を置いたばかりのトーマンに声をかける。
「よう、新人。」
「はい。何でしょう。」
「挨拶をと思ってな。商業ギルドのポットだ。よろしくな。」
「は、はい。昨日就任したトーマンです。よろしくお願いします。」
挨拶を受けたトーマンが姿勢を正す。
失礼にならないよう、しっかりと背筋を伸ばしている。
すると、それを見た男が笑う。
「いきの良い新人だ。俺達がこうして仕事が出来るのも、こうやって見張ってくれてるからだ。しっかりと働くんだぜ?」
「はい。期待に応えれるよう頑張ります。」
満足そうに頷いた男が、馬車へと戻る。
そして、トーマンもまた作業に戻る。
それからしばらくして、全ての荷物を降ろし終える。
「荷物降ろし完了です。」
「確かに届けたぜ。」
「はい。ありがとうございました。」
紙に名前を書いたホークが、商業ギルドの男に手渡す。
契約達成を確認する書類のようだ。
それを受け取った男が馬車に乗る。
「んじゃ、またよろしくな。お前ら、出るぞ。」
男が馬に指示を出して馬車を出す。
そして、来た道を戻っていく。
それを見送ると、四人が荷物を見る。
「さてと、本番はここからよ。」
「全部、施設に運ぶからな。大変だけど頑張ろう。」
「はい。頑張りましょう。」
そうして、降ろした荷物を施設の中に運んでいく。
降ろすのでも大変だったのだ。
それを運ぶのは、相当の労力だろう。
それでも、一つ一つを運んでいく。
「トーマン君、重いもの優先してるけど大丈夫?」
「えぇ、昨日も言いましたが自信があるんですよ。」
「へぇ、頼りになるぅ。」
それからしばらくの事。
トーマンの頑張りもあって、無事に運び終える事が出来た。
四人で座って疲れを取る。
「いやぁ。トーマン君のおかげで楽だったわね。」
「力になれて何よりです。」
「しかし、無理はいけませんよ。少し休んでて下さい。」
「まだ、書類整理が待ってるからな。」
自信があっても疲れない訳では無い。
この後の仕事の為にも、休息が必要だ。
そうして休んでいる時だった。
ゴゴゴゴゴゴ。
急に地面が揺れた。
その振動に、ホークを除いた三人が辺りを見渡す。
「なになになに!?」
「敵襲か?」
「いえ、ただの地震でしょう。大物が来たぐらいでは揺れないでしょうし。」
一人だけ冷静にしているホークが淡々と答える。
確かに、大陸を揺らすような大物の記録はない。
実際、何事もなく揺れが収まった。
「そういえばだね。そんなのがいたら、大陸なんてただじゃすまないだろし。」
「揺れるなんてどころじゃ無いからな。」
「そういう事です。」
揺れ以外は何もないのがその証拠だ。
安心した三人は、落ち着きを取り戻す。
「でも、何もなくて良かったです。」
「確かにね。こっちに来て直ぐなんて災難にもほどがあるわ。」
「はは、ほんとだな。」
トーマンとしては、たまったものではないだろう。
それからも、三人が笑いながら雑談する。
すると、整備員の二人が現れた。
「おーす。凄い地震だったな。」
「大丈夫? 棚とか倒れてないかしら。」
「えぇ、大丈夫ですよ。揺れも浅かったみたいですし。」
唐突な地震で、仕事場に影響がないか急いで見に来たようだ。
しかし、倉庫の中に変わりはない。
揺れも小さかったので、影響は無かったようだ。
「取り合えず、仕事の前に一通り点検しておくか。」
「そうね。一応見て回った方がいいわ。」
それでも万が一という事もある。
早速、仕事場の道具置き場へと引っ込んでいった。
それを見送ると、ホークが立ち上がる。
「では、邪魔になるかもしれないので、休息はこの辺にしましょう。各自、持ち場に戻って下さい。」
「「「はい。」」」
三人も起き上がると、部署の部屋へと戻っていく。
こうして、今日の仕事が始まるのだった。
「トーマンさん。今日は、一人でお願いします。大丈夫ですね?」
「はい。何とかやってみます。」
付き添いは昨日までのようだ。
ここからは、一人の職員としての仕事が始まるのだ。
トーマンは、手渡された紙を持って施設を回る。
その途中、施設の長に出会う。
「おう、トーマン。仕事の途中か?」
「はい。」
「どうだ? 仕事の方は。」
「とても働きやすい場所です。先輩の皆さんも親切ですし。」
この施設で出会った人達は、親切な人達ばかりだ。
それだけで、気が楽になるというものだ。
「だろ? ここにいる奴らは良い奴ばかりだからな。きがねなく話すと・・・。」
良いだろう、そう言いかけた時だった。
再び地面が揺れる。
しかも、先程よりも大きい。
「うおっと。」「うわっ。」
その振動で転びそうになるも、急いで手すりに掴まった。
その為、なんとか倒れる事は防げた。
「大丈夫か?」
「何とか。それにしても、またですか。」
「地震ってのはそんなもんだ。しかし、影響が出てないか調べねぇとな。」
地震が何度も起こるのは珍しい事ではない。
しかし、これほどの地震だ。
エリアに住むもの達に、影響が無いとは限らない。
すると、上の方から声が聞こえて来る。
「施設長、先程の地震で、展望台のガラスにひびが入っちゃって。」
「おう、今行くぞ。んじゃな、しっかりと働けよ。」
それだけ言うと、施設の長は階段を登っていく。
割れたガラスを見に行くのだろう。
なので、トーマンもまた自分の作業へと戻っていく。
この地震が、忠告とも知らずに。
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