第5話 筋肉は全てを解決する!




「レナちゃん、来てたんだ」


「ロックンロールいいこと言うじゃん。自分を恥じることなんてないんだよ。虫属性だって、虫嫌いな人からしたら怖いでしょ?」


 でも可憐は微動だにしない。


「倒れる人はいたの?」


「それは……」


「私の異能はキモいだけじゃなくて、人を傷つけるんだよ。退学する」


「おい!」


 加賀が待ちきれずにジムに駆け込んできた。鈴音と穂村も。


「俺なんか池亀を毒殺しそうになったわ! 俺も退学しろってのか?」


「あたしだって人殴ったら死んじゃうと思うよ?」


「俺は火事になるよ。でもここにいる。危険じゃない異能なんてあんまりねえよ。だから法律で異能使用が規制されてて……」


 ベンチが倒れた。可憐が思い切り立ち上がったからだ。

 

「みんな対策できるでしょ! でも私は異能を使った時点で、人を怖がらせちゃうんだよ!」


 可憐は泣いていた。鈴音は手を口で覆っている。加賀と穂村も困っていた。


 私たちじゃ無理だ。ノイズ先生もダメだったし、今やロックンロールすら無理。じゃあどうやって慰めたら……。





 違う。慰めるんじゃない。背中を押さなきゃ。多少乱暴でもいいから。みたいに。


 場所は同じ。メンツも同じ。題材も大体似ている。足りないのは私の狂気だけだ。


 ごめんね可憐、もう1回だけ狂わせてもらうよ。私は思いっきり可憐の胸ぐらを掴み、慌てる3人を無視して怒鳴った。








「ウジウジするんじゃねえ! てめえはそれでも男か!」









「え? 男じゃないよ?」


 可憐は涙で濡れた顔を困惑させた。


「そ、そりゃそうだけども! ほら、あの、心意気の話だって!」


「今どき根性論かよ!」「論破されてんじゃねーか!」と常識的な意見が男子たちから飛んでくる。鈴音は無言で目をぱちくり。


「ここで可憐がやめちゃったら、未来の異能師が1人いなくなる。そのせいで誰かが死んじゃうかもしれない。

 それでいいの? 可憐の男気はその程度なの?」


「でも人を怖がらせた。迷惑かけてる」


「それがどうした! キモくてもグロくても、人助けできるならやらなきゃ!」


 加賀も加勢した。


「俺の毒だって、異能犯罪者相手なら有用だもんな」


 穂村と鈴音もだ。


「罪悪感持たなくていいよ。向こうが勝手に怖がってるんだからさ」


「遠距離攻撃できるの羨ましいけどなあ、あたし。血もダークヒーローみたいでかっこいいのに」


 私は胸ぐらを掴むのをやめた。


「弱さを知ってる可憐なら、本当に強いおとこになれるよ。人を助けるのが男気なんでしょ? だから諦めないで」


 すると可憐は涙を拭った。


「うん。ウジウジ落ち込んでちゃ男らしくないもんね! レナちゃんもみんなもありがと」


 よかった……と思ったら。


「今日からご飯4杯食べて、もっと強くなるよ!」


 可憐は雄叫びをあげ、ジャージを引きちぎってタンクトップ1枚に。そして決めポーズ。


「ウオオオオオオオーーーーーー!」










「心配して損したわ」


「池亀の狂気って便利だな」


「いい筋肉してる!」


 あらまあ。つい数分前まで誰かが泣いていたとは思えないくらい、ジムは明るくなっていた。私は手を叩く。


「よし、景気付けに乾布摩」


「「「「嫌だ!」」」」









 その後、倒れた女の子が寮まで謝りにきた。


「さっきはごめんね。どうしても血が怖くって……」


 すると可憐はにっこり。


「怖いのはしょうがないよ。大丈夫だった?」






*********






 いよいよオープンスクール。ちなみに虫属性の子はいなかった。なので可憐と一緒に異属性の子に話しかける。


「神谷可憐、異属性です!」「池亀レナ、虫属性です!」


 異属性の男の子は、緊張気味に自己紹介。 


「不動ミハイです! 異属性です! あ、学校では手芸部に入ってます!」


 手首には手作りらしきヘアゴムが。


「あ、俺、こがんことができます」


 ミハイくんの手首と首がちぎれ、ふわふわと漂う。


「すごく便利だね! 遠距離で急所殴れるし、首だけ浮かべればフィールド全体を俯瞰できるし……」


「ちょっとコピーさせてね」


 おお! 手首がすんなりとちぎれたぞ。ウェンズデーごっこできるじゃん。ミハイくんは目をキラキラさせた。


「本当ですか? 俺ずっとこん属性好かんかったんばい……なんか楽しゅうなってきました!」


「異属性は男気の属性だからねえ。男気の定義とはただ1つ、弱い人を守ることだからね!」


「ロックンロールの名言ですね。俺も頑張って異能バトル科受かります!」


 2人とも楽しそう。異属性は他の属性に当てはまらない異能が割り振られる。私には受験勉強で学んだ知識しかなかった。


 ロックンロールがなんであんなことを言ったのか。異属性には辛い現実があるからだ。言って欲しかった言葉がもらえないなら、自分が後身に言うしかないんだ。


 私はミハイくんに、可憐に、そして私に向かって親指を立てた。


「属性で人生決まらないよ。明るいかどうかでも決まらない。でも視界が狭かったら人生はそこまでだよ」


「その通り!」


 可憐はジャージをばさり。ミハイくんは唖然。だからなんでわざわざ脱ぐんだこの筋肉バカは!





*********





「100点中150点だな」


「いやー照れますねえ」


「異常性を効果的に使う池亀はプロの異常者だな」


「異常者に異常者って言われると恥ずかしいなー」


「「はーっはっはっはっは!」」


 自習室1にて、先生に報告。


「懸念する必要もなかったな。神谷はちゃんと強さというものを理解している。首藤しゅどうもいい仕事してくれたよ」


首藤しゅどう?」


首藤伸治しゅどうしんじ、ロックンロールの本名だ。昔同じクラスだったんだ。それはさておき」


 そういえば先生の高校時代ってどんな感じだったんだろ。聞かないけど。


「次の目標だが……貴様は自信をつけ、対人恐怖を克服し、誰かのために動けた。もう私が言うことはない。

 ところで異能師コードはどうする? コスチュームは考えたか? そろそろバトル学もその段階に入るぞ」


 そうだった。サマーノイズ然りロックンロール然り、異能師には固有のコードネームとコスチュームがある。


「うーん……先生は着ないんですか?」


 今日もタンクトップにヨガパンツ。でも入試の時はクノイチコスだった。


「貴様らがジャージを着ているうちは、こっちも着ないことにしている」


 でもさすが美人、なんだって似合う。となると私はどうするべきか……。






次回予告!


 マッチョ娘を狂気で救出したレナ。だが今度は異能師コードもコスチュームも自力で決められず悩んでしまう。


 そんな最中、女子恐怖症の男子・御霊麗夜みたまれいやと関わることに。御霊は女子にひどいことを言われ、自信をなくしていた。


 放っておけず、レナはある計画を立てるが……。

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